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東大教授の提言「飲食店一律6万円の"協力金バブル"をうまく終わらせる方法」

プレジデントオンライン / 2021年3月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ryosei Watanabe

時短要請に応じた飲食店は国から協力金を受け取れる。その金額は「一律6万円」のため、小さい店は恩恵を受けるが、大規模店はコストに見合わない。どうすれば不公平を解消できるのか。東京大学大学院の肥後雅博教授は「1店舗1日当たりの『付加価値額』でみればいい」という。ネット危機管理コンサルタントの田淵義朗さんが取材した――。

■時短協力金一律6万円が生んだ不公平感

1都3県に出されていた新型コロナウイルス感染対策の緊急事態宣言が、3月21日に一斉解除となった。午後8時までの飲食店などへの営業時間短縮の要請は「午後9時閉店」に緩和されたものの、3月末までの期限は4月21日までに延長されることになった。

そこで注目を集めているのが、時短営業協力金の今後だ。

一律6万円(店舗の規模にかかわらず)と定められたことで、「協力金バブル」で潤う店と、時短で赤字になる店で不公平感が生まれた(※)

※宣言解除を受けて一律4万円に引き下げられたが、継続される見込みだ。

従業員を雇わず一人で営業しているスナックやバーでも、月に180万円近い協力金が出るのだ。一方、従業員を数十人単位で雇っている大型飲食店では月180万円では焼け石に水となる。批判の声があがるのは当然だろう。

■協力金6万円はどうして決まったのか

昨年11月時点での協力金は1店舗あたり最大2万円だった。ところが「それでは営業補償にならない」といった声があがり、協力金は4万円に。さらに今年1月に再び緊急事態宣言が出ると、6万円に引き上げられた。当初の3倍だ。

なぜ6万円に引き上げたのか。内閣官房の新型コロナウイルス対策室に聞いたところ、こうした説明だった。

「そもそもこの協力金は時短要請に対するもので、経済補償ではありません」

どういうことか。担当者は「あくまで感染防止が目的であり、苦境の飲食店を救済するための支援ではないからです」と説明する。飲食店での会話、酒席が感染を広げている可能性が高いので、その協力に対する一種の奨励金という理屈だ。つまり協力の「ご褒美」なので、「補償」「補助金」ではないというのだ。

それでは、なぜ6万円なのか。担当者は「ひとつの考え方」として東京都の例を持ち出してきた。

「東京都の飲食店の場合だが、約8万事業所がある。その売上高の一日平均は約15万円となっています。家賃や光熱費などで約3割、4.5万円程度です。差し引き10.5万円。そこから従業員の人件費、食材の仕入れ代金を差し引く。それに店の利益も見込んで出てきた数字です」

つまり東京都の飲食店全体の平均売上とコストを元に、机上の計算で一律最大6万円が決まったことになる。そして東京都をモデルとして他県もすべて6万円になっているのだ。

東京大学大学院経済学研究科の肥後雅博教授は「この金額、国の『経済センサス』の『付加価値額』とほぼ一致している」と指摘する。

■飲食店の実態は「付加価値額」で把握できる

経済センサスとは、2009年から始まった比較的新しい調査で、全産業分野の売上(収入)金額や費用などの経理項目を同一時点で網羅的に把握し、我が国における事業所・企業の経済活動を全国的及び地域別に明らかにすることを目的とした調査である。

飲食店に掲示された時短営業を伝える張り紙。この日から福岡県内で飲食店への営業時間短縮の要請が始まった=2021年1月16日夜、福岡市中央区
写真=時事通信フォト
飲食店に掲示された時短営業を伝える張り紙。この日から福岡県内で飲食店への営業時間短縮の要請が始まった=2021年1月16日夜、福岡市中央区 - 写真=時事通信フォト

対象は工場や飲食店、個人事務所まですべて網羅して行われる。全国的及び地域別に経済実態が明らかになるのだが、この統計の中に「付加価値額」という項目がある。

付加価値額とは、企業等の生産活動によって新たに生み出された価値のことで、GNP(国内総生産)の元になっているものだ。生産額から原材料等の中間投入額を差し引くことによって算出される。

飲食店の「付加価値」とは、飲食というサービスを提供することによって新たに作り出される価値のことをいう。売上高から、原材料費や販売管理費から構成される費用総額を差し引いて算出される数字だ(人件費、税金除く)。

付加価値額=売上高-費用総額+給与総額+租税公課

この指標をもとに、都道府県別の飲食店の1店舗1日当たりの付加価値額を算出すると、次のようになる。

1店舗1日当たりの付加価値額
東京都 5.9万円
神奈川県 4.8万円
大阪府 3.7万円
兵庫県 3.4万円
岐阜県 2.7万円

(協力:肥後雅博:東京大学大学院経済学研究科教授)

■東京以外は貰いすぎ……協力金をめぐるモラルハザードの芽

東京都の付加価値額は約6万円だが、ほかの都道府県は東京都を下回っている。岐阜県は東京の半分以下であり、一律協力金6万円は「貰いすぎ」ともいえる。

営業時間の短縮に応じる飲食店への協力金は、都道府県が出している。このうち8割は国の負担分とされていたが、それでも地方自治体の負担が大きくなっているため、過去にさかのぼって、地方2割の部分も国が負担するように、この3月に仕組みを変えた。第3次補正予算に計上された「地方創生臨時交付金」という枠組みだ。

つまり知事の判断で実施する協力金を、国が全面的に負担してくれるのだ。知事たちは人気取りで協力金のバラマキをさらに進めるかもしれない。時短命令違反に過料を科すことができる知事の権限拡大と合わせ、協力金の額の決め方について注視する必要がある。

■店舗の実態に合わせた協力金の額をどう決めるか

一律支給で一番の問題は、店舗の実態に合わせた協力金の額になっていないという点だ。

新宿
写真=iStock.com/takemax
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takemax

しかし営業実態を把握すると言っても、ことはそう簡単ではない。国会で野党が政府の一律支給を問題視し、売り上げや粗利、店の規模、従業員数で実態を把握せよというが、具体的な方法論を提示できていない。

東大大学院の肥後雅博教授は「経済センサスの『付加価値額』の考え方が、店舗の実態把握にも有効だ」という。肥後教授は元日銀マンであり、調査統計の専門家だ。

飲食店の「付加価値額」は、飲食というサービスを提供することによって新たに作り出す価値であり、先に書いた計算式の通り、売上高から原材料費や販売管理費(人件費を除く)を差し引いて算出する。

それによると、店舗ごとの従業者規模別にみた付加価値額(1日当たり)は、次の通りとなる。

従業員規模別にみた1店舗1日当たりの付加価値額
(従業者)
1~4人 0.9万円
5~9人 3.6万円

小規模な零細店舗では、協力金の6万円をはるかに下回る。
一方で、大規模店では全く足りない。

(従業者)
20~29人 13.5万円
30~49人 19万円
50人以上 36.5万円

全国には59万店の飲食店があるが、そのうち8割は、従業員が10人以下の店舗だ。統計上の一つの見方に過ぎないが、店舗の営業実態を把握する一つの方法に違いない。

問題は、従業員が居ない、一人営業の店舗は、計算上協力金が0円になることだ。その対策として、例えば一人店舗は日額1万円を支給する。従業員が20人を超える大規模店には、本来営業で得られたであろう逸失利益を、従業員の労働時間に比例して支払われる給与を参考に上乗せし支給すれば、およそ営業実態に近づけるのではないか。

■この方法なら不正に取得することは起きにくい

ただし、従業員数も不正に申告することは可能だ。従業員数のみならず、売上や粗利益、店舗面積にしても、申告ベースであり偽ろうと思えば可能だからだ。

税務署に提出する確定申告にしても年一回であり、今データを利用するとなると一昨年の数字になる。店によって売り上げが大きくても薄利の店もあれば、固定費(家賃、光熱費)の割合が高い店もある。店舗面積も出店場所により、10坪で毎月600万円を売り上げる店もあるから当てにならない。

よって従業員別に付加価値額を算出する方法が理に適っている。

ではどうするか。肥後教授は「飲食店が税務署に申告している「給与所得の源泉所得税納付書」に記載された「従業員に支給した給与総額」を利用すれば、付加価値額の大半を占める人件費をリアルタイムに近いかたちで把握できる」という。

飲食店は、毎月従業員の給与から所得税を天引きし、従業員が10人以上であれば毎月、10人未満では年に2回、天引きした所得税を「納付書」とともに税務署に申告・納付している。このやり方なら、従業員数や従業員に支給した給与総額を水増しして協力金を不正に取得することは起きにくいといえる。従業員数や給与総額を水増しすれば、税金の納付額が増えてしまうからだ。

■知事は責任を国に転嫁せず、第4波襲来に備えた準備をせよ

当面は、協力金の申請の際に、飲食店が持っている「給与所得の源泉所得税納付書」の控をエビデンスとして提出してもらうのが現実的である。

しかし、より効率的な給付を実現するには、税務署の持っている給与所得の源泉所得税納付書のデータを、協力金を支給する都道府県のデータベースにどうやってリンクするかが課題となるだろう。これが実現すれば、飲食店だけでなく、打撃を受けているすべての事業所に対して有効な方法となる。

とにかく今の協力金では、大規模店の逸失利益を補填できない。そこで働く従業員の就業機会も失われていく。全体の8割にのぼる約50万店舗の零細店舗の時短協力金を引き下げ、大規模店への支給額を上げることだ。

そして時短営業の在り方、飲食の仕方についてもガイドラインを徹底し、時短以外に感染対策で効果を上げる方法を見つけ出すべきだ。

「協力金バブル」を繰り返さないこと。それがコロナ禍の日本経済を立て直す第一歩になるはずだ。

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田淵 義朗(たぶち・よしろう)
ソーシャルメディアリスク研究所 代表取締役社長
1956年神戸市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業後、JICC(現宝島社)に入社。出版編集の経験を生かし、ソフトウェア・映画のメディア関連企業でコンテンツビジネスに従事する。ベンチャー企業経営を経て、誹謗中傷問題に取り組むネット情報セキュリティ研究会(NIS)を友人の弁護士と設立。ソーシャルメディア・リスクコンサルタント。著書に『スマートフォン術 情報漏えいから身を守れ』(朝日新聞出版)『間違いだらけの個人情報保護法対策』(ナツメ社)『ネット<攻撃・クレーム・中傷>の傾向と即決対策』(明日香出版社)『45分でわかる個人情報保護』(日経BP社)などがある。

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肥後 雅博(ひご・まさひこ)
東京大学大学院経済学研究科教授
1988年東京大学理学部地球物理学科卒業、90年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了(地球物理学)、97年ミシガン大学大学院修士課程修了(経済学)。90年日本銀行入行、総務省参与・統計委員会担当室次長、日本銀行京都支店長などを経て2020年より現職。著書に『統計 危機と改革 システム劣化からの復活』(日本経済新聞出版)がある。

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(ソーシャルメディアリスク研究所 代表取締役社長 田淵 義朗、東京大学大学院経済学研究科教授 肥後 雅博)

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