日本で「中東・アフリカ諸国レベル」の男女格差はいつまで続くのか
プレジデントオンライン / 2021年3月30日 11時15分
■ジェンダーギャップ指数「日本のレベル観」をイメージできるか
読者の皆さんは「世界経済フォーラム」(WEF:World Economic Forum)という国際機関の存在をご存じでしょうか。経済学者クラウス・シュワブ氏によって1971年に設立されたスイスに本部を置く国際機関(非営利財団)で、2021年でちょうど設立50年を迎えます。
この組織のミッションは「世界の現状の改善にむかって取り組む」となっており、最高意思決定機関には国連やIMFなどのトップ層や王族などが名を連ねています。
これまで日本ではそこまで大きく取り上げられてこなかったことが非常に不思議ですが、この世界経済フォーラムから、世界各国の男女格差の現状と改善レベル感についてのレポート「Global Gender Gap Report」(GGGR:世界ジェンダーギャップレポート)が毎年発表されています。
英語でレポートがWEB公開されてはいるのですが、国際的に見てあまり英語が得意とは言えない日本だからなのか、経済分野の人であってもGGGRについて初耳だという人もいまだ少なくない印象を受けます。
「そんなの知ってるよ。また順位が下がったんだろう?」という方であればそこそこいるとは思うのですが、その順位が示す「ニッポンのレベル観」を端的にイメージしている方はあまりいません。
そこで今回は、この世界ジェンダーギャップレポート2020に書かれている日本の世界から見た男女格差のレベル感を「日本と同等の評価をされている国々」という視点から解説してみたいと思います。
■総合順位でみた日本は「アフリカや中東諸国レベル」の男女格差
世界の男女格差を測るために、このレポートでは「Gender Gap Index」(ジェンダーギャップ指数、以下GGI)で各国の男女格差を指数化して比較しています。GGIが1であれば男女格差がない完全平等を表し、0であれば完全不平等を表します。
同レポートにおける日本のGGIは0.652で、採点された153カ国中121位です。順位でみると指数の高い国からカウントして79.1%のところにいますので、残念ながらほぼ下位5分の1の集団に入ってしまっているという状況です。これだけでも「日本は随分と男女格差のある国なのだな」と感じるところかと思いますが、さらにイメージを鮮明にしてくれるのが、121位の日本とほぼ同等とみなされているランキング121位前後の諸国の情報です(図表1)。
日本の上下に僅差の指数で並ぶ諸国は中東とアフリカの国々が中心であることがわかります。つまり、世界から総合的にみた日本の男女格差は「中東、アフリカ諸国レベル」です。「順位が121位です」と言われるよりも、はるかに日本の男女格差をイメージしやすい方が多いのではないでしょうか。日本のランキングの上下にある諸国をみれば、日本の男女格差の状況が「先進国」レベルの格差状況であるとは全く言えないことがわかります。日本より下位にある国を見ていくと、あまり日本ではなじみのないアフリカと中近東諸国の国が153位まで多く名を連ねています。
■先進国は上位3分の1以内にランクインしている
ちなみに多くの人に「先進国」としてなじみ深いと思われる国の順位がどのような状況となっているかをみてみると、10位ドイツ(0.787)、15位フランス(0.781)、21位イギリス(0.767)、53位アメリカ(0.724)、となっており、153カ国中上位3分の1以内にランキングされています。
また「日本よりずっと男女格差があるんじゃないの?」と日本でイメージされがちな国々についてもみてみると、81位ロシア共和国(0.706)、106位中国(0.676)、108位韓国(0.672)、112位インド(0.668)……となっており、「日本よりは男女格差がない国」という評価を受けています。
つまり、日本の男女格差は世界の下位5分の1に入る「先進国とはとても思えないレベルであり、中国やインドにも劣る状況」「中東・アフリカ諸国と同等レベル」であるとの評価をWEFから受けているのです。
■日本も改善はしているが、遅すぎる
このランキングについて、次のような良い質問を40代女性から頂きました。
「先生、私の周りでは私の若い頃よりジェンダーについて随分とよくなったなあと思うんですけど、それなのに日本のランキングが落ちちゃったと聞くんですが……」
確かに、同じ国の中でみればましになったのかもしれません。しかし、これは世界の基準から見た「完全平等」への到達度ですので、相対的な評価になります。日本以上に改善した国が多ければ順位は下がるのです。
例えば、あるメーカーの製品Aの改善点が1000個あったとします。そこで300個問題点を解消すれば、確かに前よりもましな製品Aにはなります。しかし、他の企業が同様の製品Bの問題点を500個改善してきたとすると、製品Aは製品改善を怠った、とみられるわけです。日本のGGIも2018年(GGIレポート2019)では149カ国中110位でしたが、2019年では153カ国中121位に下がっています。改善していないとは言わないが、世界のスピード感からみると遅々たる改善の歩みである、という評価です。
■経済部門は下位4分の1
以上はGGIの総合得点による評価です。GGIはその内訳科目として政治、経済、教育、健康の4部門で構成されています。そこでこちらも「日本のランキングの上下にはどんな国が名を連ねているのか」という視点でみてみたいと思います。
まずは「経済」Economic Participation and Opportunity(経済への参加と参加機会)ですが、153カ国中115位です。日本より上位に75.2%の国が入っているため、下位4分の1にあるといえます(図表2)。
日本のランキングの上下を見ると、イタリア以外はアフリカ諸国もしくは中央アメリカ諸国となっており、経済先進国の国名は見えません。経済分野についてみても日本は「アフリカもしくは中央アメリカ諸国レベル」の評価であることが示されています。
■政治部門はワースト10入り
次に「政治」Political Empowerment(政治上の権限移譲)ですが、144位とワースト10に入る惨憺たる評価です(図表3)。
指数でみても限りなく0に近く、日本の政治について世界は「ほぼ男性のみが権限を持つ」という、「男性支配的な完全不平等な政治が行われている国」とみています。
やはり、日本のランキングの上下には先進国とされる国は全くなく、世界地理に詳しい人でなければ「聞いたことがない/聞いたことはあるけれど、どこにあるのか想像できない」人も少なくない国が名を連ねています。
歴史あるGGIがあまり日本でこれまで大きく取り上げられてきたように思えないのは、この政治分野での惨憺たる世界からの評価ゆえではないか、とも思えてしまうぐらいの低評価です。
日本において政治にかかわるメインプレーヤーの人々、すなわち「ほぼ男性」にとって、これほど都合の悪い情報はありません。政治という国家を支配する枠組での完全に近い不平等評価ですから、政治に関わる人々は自分自身の在り方の過去や今に対して、世界から疑義を呈されているともいえますし、自分の立場や権利を女性に移譲することを是とする潔さを持てない限りは、やはり大声で言いたくない話かもしれません。
■教育、健康の分野はジェンダーギャップがほとんどない状態
最後に日本の国際社会から見た「教育」Educational Attainment(教育獲得)と「健康」Health and Survival(健康と生存率)の評価ですが、こちらは世界から非常に高い評価を得ています(図表4)。
教育はランキングだけでみると91位と日本の上に59.5%もの国がランキングしているのですが、1位(1.000)が25カ国、同じく小数点以下の四捨五入で1.000の評価の国が26位から35位まで並んでいる状況です。指数でみても0.987ですので、男女格差なしの「完全平等」1にほぼ匹敵する値です。日本の女性の教育レベルは、もはや男性と変わらないレベルに置かれているのです。
健康は40位となっていますが、1位が39カ国ありますので、実質2位のレベルといえます。
以上から、日本の女性は男性と比較して教育も健康も完全一致に近い状況で過ごしている、という世界からの評価を受けているのです。
■「健康で学もある」女性たちの宝の持ち腐れ状態
以上の結果をまとめると、「日本の女性は男性と比べて教育レベルも健康も遜色がない状況にあるが、それにもかかわらず、日本の政治と経済はいまだ男性によって運営されている」という世界の評価が明確に示されています。
ある大企業の従業員向けダイバーシティ講演会でこの指標の話をしたのですが、講演後のアンケートに「世界的にみれば、日本の女性は学も健康も男性に匹敵するレベルなのに、政治・経済で活用されない『宝の持ち腐れ』という話をきき、胸に突き刺さるものがありました」と書かれた方がいました。
宝の持ち腐れ。
女性よりも体力任せが利く男性をメインに、先進国最低水準の時間当たり名目GDPを絞り出す日本のこの「宝の持ち腐れ」が見直されることがなければ、若い男女の「共働き理想」が調査ごとにその割合を増す日本において、経済成長も人口の未来もない、そう感じるのは筆者だけではないのではないでしょうか。
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ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー
東京大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。1995年日本生命保険相互会社入社、1999年から同社シンクタンクに出向。1児の母。専門分野は人口動態に関する諸問題(特に少子化対策・少子化に関する社会の諸問題)。内閣府少子化関連有識者委員、地方自治体・法人会等の人口関連施策アドバイザーを務める。エビデンスに基づく人口問題(少子化対策・人口動態・女性活躍・ライフデザイン)講演実績多数。著書に『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島社新書)等。
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(ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子)
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