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金価格は最高水準「金ピカ仏具で節税する」供養心のかけらもない人の罰当たり

プレジデントオンライン / 2021年3月26日 9時15分

黄金の輝きを放つ鹿苑寺金閣 - 撮影=鵜飼秀徳

1000万円超の仏像、数百万円のお鈴……金や宝石などを扱う貴金属専門店の一部には「金の仏具コーナー」がある。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「仏具が相続税非課税なのは、『ご先祖さまを祀り続けたい』といった日本人に深い供養心があるからで、極楽浄土に似せて仏壇や仏具を黄金に飾るのは貴い行為です。しかし中には、明らかな課税逃れ、節税目的で購入する人もいる」という――。

■1グラムあたりの金の価格は20年前の約3.9倍

コロナ禍を背景にして金の価格が、過去最高水準を維持している。金は有事の際には、安定的な資産として買い求められる傾向にある。

貴金属大手の田中貴金属工業の、2021年2月の参考小売価格(税抜き)は1グラム当たり平均6199円。昨年8月に平均値でピークを記録した6757円から比べると、やや下落しているものの、20年前の1991年2月の1574円と比べれば、約3.9倍の高水準だ。10年前の2011年2月の3673円と比較しても、約1.7倍となっている。

実は、金と仏教信仰との関係は深い。

歴史的に、全国各地の寺院では、随所に金が使われてきている。仏像はもちろんのこと、本堂内陣(儀式を実施する聖域)は金ぴかである。これは、寺院空間を極楽に見立てて荘厳にする意味がある。

その最たる例として、京都の鹿苑寺金閣や、岩手県平泉の中尊寺金色堂、栃木県日光の輪王寺大猷院などの黄金建築がある。東京・芝の増上寺の内陣も黄金に包まれている。

■貴金属専門店内に「金の仏具コーナー」があるワケ

家庭における仏教空間も同様である。それは、仏壇まわりだ。東京都心などではマンション住まいが増え、仏壇を置く家庭が少なくなっているが、それでも現在、全国の世帯の5割ほどで仏壇を保有(出所:國學院大學「日本人の宗教団体に対する関与・認知・評価に関する世論調査」では48%、2009年)している。

特に浄土真宗の門徒を対象にした仏壇には、金箔をふんだんにあしらったものが少なくない。仏像や厨子、お鈴、具足類(花立て、燭台、香炉など)に金が使われている。

仏壇用の仏像、仏具はさほど買い替えるものでもないと思われがちだが、さにあらず。金の需要の高まりは、仏具にも多少なりとも影響するのだ。

実際、金地金やジュエリーを扱う貴金属専門店内には、なぜか金の仏具コーナーがある。1000万円を超える仏像のほか、数百万円もする純金製のお鈴や、蝋燭立てなど。確かに純金のお鈴は、なんとも言えない柔らかい響きが特徴だ。

■相続税非課税「金の仏具で節税」しようとする思惑が見え隠れ

仏具はご先祖様を供養するための大切なアイテムである。コロナ禍においては各地の寺院では、「祈り」や「癒やし」を求めて墓参りなどの参詣者が増える傾向にある。これは「巣ごもり供養」なるニーズが仏具業界にも表れているということかもしれない。だが、必ずしも純金製である必然性はなさそうだ。

その実、金の仏具にはからくりがある。そこには、供養心にあいまって、「節税」に対する思惑が見え隠れする。金地金業者もそこに商機を見いだしている。

あまり知られていないが、宗教儀式の道具である仏具や祭具は相続税法第12条によって、非課税扱いになっているのだ。現在、相続税率はたとえば遺産額1億円以下で30%、6億円以下で50%(控除額を除く)と高率だ。

「だったら非課税の上、後世まで継承できる仏具に変えておこう」という心理が働く。断っておくが純金のお鈴をいくつも保有するなど、明らかに課税逃れを目的とすると、課税対象になる可能性はゼロではないのでご注意いただきたい。もっとも、金の仏具は伝統工芸品なので、同じ重さの金地金と比べてかなり割高なので、節税効果がいかほどかは疑問である。

ゴールドバー
写真=iStock.com/farakos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/farakos

■そもそも、なぜ仏具が非課税なのか

ここで述べたいのは、仏具を使った節税法ではない。そもそもなぜ、仏具が非課税なのか、という点を考えていきたい。

それは「ご先祖さまを祀り続けたい」「心の拠りどころとしたい」とする宗教感情や慣習を日本人が大事にしてきたからに他ならない。だから極楽浄土に似せて仏壇や仏具を黄金に飾る。それは大変、貴い行為なのである。

わが国で仏壇・仏具文化が花開いたのは江戸時代。浄土真宗の門徒衆は京都の本願寺門主から阿弥陀仏を譲り受け、位牌とともに厨子に入れて祀るという習慣があった。

幕府によって檀家制度が整えられると、宗派を超えて自宅に仏壇を置くようになる。つまり、庶民はキリシタンでないことを証明するため、自宅に仏壇を置いて仏教徒であることを証明したのだ。もちろん、「自己防衛」のためだけではなく、日本人の深い供養心があったからこそ仏壇仏具産業が今日まで続いてきている。

■仏壇の扉を開けた瞬時、この世とあの世がつながる

仏壇は最初、京都の熟練した職人のみが手がけることができた。金工、漆工、蒔絵など、工芸技術の粋を極めた京仏壇・京仏具は全国庶民の憧れの的であった。次第に地方都市でも製造が始まり、特に浄土真宗の勢力が強い富山の高岡地方や、漆塗りに適した気候の長野・飯山地方などで仏壇文化が華開いた。こうした地域では先祖供養に対する意識が高く、仏壇はより豪壮になる傾向にある。

金を使った厨子と仏像
金を使った厨子と仏像(撮影=鵜飼秀徳)

私も、お盆の時期には仏壇供養(「棚経」という)をしに檀家さんの家を一軒一軒回る。戦前の古い仏壇の技には目を見張るものがある。

だが、一つ屋根の下に3世代が同居し、隣近所の「見栄」もあって競うように立派な仏壇を買っていた時代は、バブル期まで。先述のように近年では核家族化・都市化が進み、都会のマンション家庭では仏壇を設置することを敬遠する傾向にある。今どきの新築分譲マンションで仏間を備える物件はほぼ皆無である。都市化と同時に家庭から、信仰や供養の機会が失われてきているのだ。

しかし、仏壇にはすごい機能が備わっているのだ。扉を開けると瞬時にチャネルがつながり、故人と対話することができる。それはこの世とあの世とをつなぐインターネットのようなものだ。否、ネットよりもはるかに味わい深く、有益なものだと信じたい。

先日、春のお彼岸が終わった。多くの日本人が、ご先祖様の供養とコロナ終息を願い、仏壇に向かって手を合わせたに違いない。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版)。浄土宗正覚寺住職、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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