養生を始めるなら「まずは山芋」と薬学博士がオススメする理由
プレジデントオンライン / 2021年4月12日 9時15分
■中国最古の医学書「男は8歳ごとに、女は7歳ごとに老ける」
中国最古とされる医学書の『素問』に、〈男は8歳ごとに、女は7歳ごとに老ける〉とある。
男性の場合は、40歳をすぎると衰えが見られ、48歳、56歳と階段を一段ずつ下りるように年を取っていく。女性の場合は35歳が曲がり角で、42歳、49歳のタイミングで加齢が進みやすい、とある。
日本漢方連盟理事長で漢方平和堂薬局店主、横浜薬科大学特任教授の根本幸夫氏はこう話す。
「中国では不老不死を求めて漢方薬が発達しました。老ける、老けないというのは、女性にとっては見た目、男性の場合は強精が重要とされる。男性が自分で『年を取ったなぁ』と思うのは、髪の毛や陰毛が白くなったときや、実際に役に立たなくなったときが多い。性的なものはいくら筋トレに励んでも、それで復活するわけではありません」
そこで強壮強精作用のある食べもの、例えば山芋やニラ、少量のニンニク、クルミなどで補うことが重要と考えられたという。
日本の漢方には、薬物療法(漢方薬)と鍼灸、そして養生の3つがある。養生には食事指導が含まれ、現在では「薬膳」と呼ばれる。薬膳レシピを数多く考案した医学博士で薬剤師、慶應義塾大学医学部漢方医学センター共同研究員の宗形佳織氏によると、「薬膳では、ビタミンCなどといった単独の成分ではなく、食べものの丸ごとの味や性質が、体のどの臓腑にどのように働くかという考え方をする」という。
■漢方的な視点──「気・血・水」という物差し
漢方的な視点──「気・血・水」という物差しを使って自分の体質を大まかにつかむと、薬膳の基本素材を上手に選べるようになる。
元気、やる気、気力などという言葉があるが、“気”は生命力そのもの。
「漢方では生まれるときに両親から“先天の気”をもらうと考えます。年とともにだんだんと先天の気が減っていきますが、食べものや呼吸で“後天の気”を補えば、生き永らえます。気が尽き、食べられなくなると、死に至ります」(宗形氏)
先天の気は生まれ持った遺伝的エネルギーのため増やすことはできないが、後天の気が満たされれば全体の気の減少をゆるやかにできるというわけだ。
疲れが抜けない、だるい状態が続いているときは、“気”が不足しているサイン。うるち米や芋類、豆類などのほか、鶏むね肉やサワラ、タイなどの淡い味のものを中心に胃腸に優しい温かい食事を心がけたい。
「気が上がりやすい、カッカしやすい人は気を下げる貝類やシナモンを取るといい。反対に緑茶などは沈みがちな気を上げ、高揚させるような働きがあります」(根本氏)
■髪は“血の余り”、頭皮は血の状態を表す
“血”は体に栄養を与える赤色の液体を指し、不足すると乾燥肌になったり髪がパサつく症状が起きるとされる。
血を補う食材はニンジンや牡蠣、レバー、卵など。乾燥肌の改善にはキクラゲやサフラン。白キクラゲは古くから男性の強壮、女性の美肌に効果があるといわれる。
髪は“血の余り”といわれ、頭皮は血の状態を表すと考えられている。抜け毛が増えるのは「血の質や血行が悪いため」と根本氏が言う。
「自分の頭頂部を触って、温かく、ぶよぶよしていたら、汚れた血が上に上がって髪の毛が抜けやすい状態といえるでしょう。血を汚すような甘い菓子類、粘膜を充血させる香辛料は避けたほうがいいですね。頭皮の血流増加を促すのはクルミですが、大量に食べると血が汚れると考えられているので、1日3粒までにしてください」
美髪の作用があるのはごま。黒、白、茶の3種類のうち、最も優れた作用があるのは黒ごまという。
「ごまは古くから滋養強壮食品として知られています。実際にセサミンやセレンなど老化を防ぐ抗酸化物質が豊富で、タンパク質や脂質、ミネラル、ビタミン、食物繊維など、体に必要な栄養素をほとんど含む食品です。日々のメニューにどんどん取り入れてください。末梢の血行障害を改善します」(同)
目の充血をとるなら、菊花茶やスイカズラ茶。中国では古くから健康のために花茶を飲む習慣がある。
■数ある食材の中から「山芋」が勧められる理由
気、血ときて、“水”は体を潤す液体(汗や尿、リンパ液など)を表す。尿の出が悪かったり、耳鳴り、めまいが起きやすい人は、利尿作用が高い食べものを取るといいという。再び宗形氏の話。
「ハトムギや小豆、とうもろこし(特にヒゲ)、冬瓜などが水の偏りを直します。一方で便秘がちで口が乾きやすい人は水不足。不足した水を補うものはアスパラガスやいちじく、レモン、キクラゲがいいでしょう」
特別に今、困った症状はないものの養生したいと思うなら、「山芋」がお勧めだ。根本氏が「山芋は漢方薬を構成する生薬『山薬』として使われることが多く、消化酵素などの酵素をたくさん含んでいる」と説明する。
「昔から『ヤマノイモを食べると精がつく』といわれますね。『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』にも気力を増して体を丈夫にするとあります。すりおろしてとろろにしてたくさん食べれば、滋養強壮や肌荒れによい効果があるでしょう」
■薬膳では“味”も体に影響を与える
さて薬膳では「冷え」が気・血・水のめぐりを悪くするという考えがある。
「加齢とともに腎の機能が弱まると体が冷えやすくなります。そういったときはやはり体を温める食材を取ることが必要」と宗形氏。そう薬膳には、体を冷やす食品、温める食品など、熱、温、平、涼、寒の5つの性格がある。
「どんなときも体を温める食材がいいというわけではありません。冷え症の人は温める食材を、熱がこもっているようなときは冷やす食材を選んでいい。基本的にはその時々の自分の感覚を信じてOKです。体を冷やしたくないけれど、冷やす食材を食べたいときは、加熱して温かい状態で食べる、天気のよい昼に食すといった工夫をしてください」(宗形氏)
薬膳では“味”も体に影響を与えるという。
「『酸っぱいもの』は筋肉を引き締め、汗や尿の出すぎを止める。『苦いもの』は余分な熱や水分を除き、乾燥を止める。『辛いもの』は滞っているものを発散し、気血をめぐらせ、『塩からいもの』は固まりを柔らかくし、便通を整える。『甘いもの』は滋養強壮や痛み止め、毒消しの作用があります」(同)
体質や現在の環境、その日の天候などによって、今の自分にベストな食材は刻々と変わっていく。気・血・水のうち、あなたはどこに滞りが起きやすいだろうか。また、今の自分はどこか不足しているところはないだろうかと、一度自分の体に問いかけてほしい。
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ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)など。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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