「関東希望だったのに、大阪配属になってしまった人」にやってはいけない声がけ
プレジデントオンライン / 2021年4月5日 9時15分
※本稿は、大塚寿『自分で考えて動く部下が育つすごい質問30』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。
■ 「なぜ自分だけが」と、モチベーションが低下
できる人ほどつい出ちゃう残念な言い方
「ポジティブに考えよう!」
⇒「ポジティブになれない」から困っているのに……
希望と不安の双方の気持ちを抱いて新人は入社してくるものですが、その希望が損なわれた時、モチベーションは著しく低下してしまうものです。
その最初の関門が配属先の発表です。
希望していない地域への配属、希望していない部門への配属など、研修後の配属の発表では悲喜こもごものドラマが生まれます。
中でも多いのが配属される地域の問題。関東の生まれで、東京の大学を出ているのに関西支社(大阪)などに配属になってしまうケースです。
入社したのが自分一人で、関西の配属になった場合にはそれほどでもないのですが、問題はほとんどが東京本社に配属される場合です。
他との比較の中で「なんで自分だけが……」というやるせない思いが募ってモチベーションを下げてしまいます。
■明確な希望を持っている新人ほど落胆する
また、こうした配属される地域ではなく、部署に関しても同様のことが起こります。
たとえば、花形の企画部門を希望していたのに、営業部門の配属になってしまったり、インフラ部門を希望していたのに、アプリケーション開発の部門の配属になってしまったりする場合です。
明確な希望を持っていればいるほど、その希望がかなわなかった時、新人は落胆し、人によってはモチベーションを落としてしまいます。
実際、それが原因となって1年以内に会社を辞めてしまう新人は、昔からいましたが、年々漸増傾向にあります。
■「ポジティブに考えよう」では単純すぎる
こうした新人を先輩や上司として担当することになったら、まずは気持ちを切り替えてもらいたいはずです。
が、「ポジティブ考えよう」では単純すぎて、効果は出ません。
その時にお勧めなのが「陽転思考」です。
「陽転志向」とは、何か自分にとって良くないことが起こった時、そのネガティブな事態の前に「せっかく」という言葉をつけて、その後に続く言葉を考えさせる方法です。
たとえば、てっきり東京本社の配属と思っていたのに、関西支社の配属になってしまった場合は、「せっかく関西支社の配属になったのだから~」の「~」を考えさせるのです。
「せっかく」から始まりますから、ポジティブなことしか思い浮かばないはずです。
「前向きなことを考えてみようよ」と促すよりはるかに効果的です。
■「せっかく」の一言で、負の感情が一掃される
せっかく関西支社に配属になったのだから、「週末は京都を観光しつくそう」とか「大阪、神戸のB級グルメを食べつくそう」といったワクワクするポジティブなことが考えられると、負の感情は一掃されます。
「せっかくアプリケーション開発の部門に配属になったのだから、インフラもアプリケーションも両方分かる技術者になろう」
と思えればしめたものですが、このケースではアプリケーション開発で経験したことが将来インフラの分野でも活かせるということを具体的に語ってあげるのもいいでしょう。
「アプリ経験者がいると助かる」というのは、インフラ部門の生の声です。
最初に配属された部門で得られるメリットを具体的に伝えるのもいいし、本人に考えさせるのもいいし、ロールモデルになるような人がいれば、その人のエピソードを紹介するのも効果的です。
■「30年、40年スパン」で考えたメリットを伝える
もうひとつ自分にとってイヤなことが起こるとそのことばかりが気になって、視野を狭くしてしまうことが起こります。
その時の視野の広げさせ方ですが、「視野を広く持って考えてみよう」と声をかけるよりも、
「近視眼でなく、30年、40年というスパンで考えると、関西からキャリアをスタートさせるメリットがあるんじゃないかなぁ」
という示唆の方が、効果的かもしれません。
例えば、英語を母国語としない人がアメリカにMBA留学する時、英語でのコミュニケーションにまずは慣れるため、サマースクールとかプレMBAとかいわれる3カ月程度の英語の集中講座を受けてからビジネススクールに入学するケースが一般的です。
この時、西海岸のビジネススクールに入学する人は東海岸のサマースクールに参加し、逆に東海岸のビジネススクールに入学する人は西海岸のサマースクールに参加することが推奨されています。
アメリカは西海岸と東海岸では別な国と思えるくらいに全くカルチャーが異なるので、せっかく留学するならその双方を体験すべきというのがその理由です。
■「同質社会」にはない刺激を得られるチャンス
西海岸のビジネススクールに入学が決まった私も、そのことを聞いていたので、東海岸のニューヨークの大学でのサマースクールに3カ月参加しました。
東海岸は、とにかく英語が早口で聞き取りにくく、人種差別も激しく、「英語でコミュニケーションが取れないのはお前のせいだ」と言わんばかりに、拙い英語に合わせることはしないスタンスです。
一方、西海岸は元々移民も多く、英語が拙い人も多いので、こちらのレベルに合わせてゆっくり話したり、分かりやすく話してくれる配慮もあります。
同じ国なのにそれだけ違うことを体験できたのは、その後のキャリアや人生でものすごくプラスになりました。
そうした30年、40年の時間軸で考えてもらう他に、人との「出会い」で考えてもらう方法も「アリ」です。
実は私たちビジネスパーソンというのは、結構な同質社会に生きています。
同じような家庭に生まれ、同じような学校を出て、同じような企業に就職するといった似た者同士というわけです。そうした同質社会では刺激が少ないので、イノベーションが生まれにくいというデメリットがあります。
そういう意味では、関東に生まれ育って関西配属というのは新鮮な出会いが多く、「同質社会」にはなかった刺激を得られるはずです。
「せっかく関西支社の配属になったのだから~」
「せっかくアプリケーション開発部門に配属になったのだから~」
⇒起こった自分にとって歓迎しない事態の頭に「せっかく」をつけてその後に続くことを考えさせる
「近視眼でなく、30年、40年というスパンで考えると、関西からキャリアをスタートさせるメリットがあるんじゃないかなぁ」
⇒長期的な視点で考えさせる
■「意義が感じられない」新人の仕事
できる人ほどつい出ちゃう残念な言い方
「地道な作業をおろそかにしちゃダメだよ」
⇒「上っ面をなぞった言い方」の典型、ほとんど何も伝わらない
一見、単純作業や雑用に思えてしまうことが多い新人の仕事ですが、そこだけに注目してしまえば、そうした仕事に「意義が感じられない」と思ってしまうのは、ありがちなことです。
そう感じてしまうのは、「もっと価値のある仕事を」「やりがいのある仕事がしたい」というモチベーションからでしょうし、「こんな単純作業の繰り返しばかりじゃ成長できない」という焦りもあるでしょう。
もちろん、この場面で「もうひとつ上のランクのタスク、徐々に負荷の高いタスク」をアサインする手もありますし、遠からずそうすべきではあるのですが、やはり、その前に基本的な仕事、ルーティンにはどういう意味や意義があるのかということを、しっかりと本人に納得させるのが第一義となります。
■「部活と習い事」を例に話せば腹落ちする
相手に腹落ちさせるには、何かを例にして伝えるのがベストですが、よく用いられるのが学生時代の部活や子供の頃の習い事です。
中学、高校時代の部活は、スポーツでも音楽でも分かりやすいのですが、本番の試合や大会の時間などはごくわずかで、大部分の時間を練習に費やしてきませんでしたか?
しかも試合形式、本番形式の練習は最後で、最初は基本練習を繰り返してきたはずです。
テニス、バスケット、野球、サッカー、バレーボール、武道、ブラスバンド等々、全部基本練習をして基本動作を身につけた後、試合形式、本番形式の練習に進んだのではないでしょうか。
初めてテニスや野球を始めた時、まずは上級生や先輩のフォームを真似して、ラケットやバットの素振りから始めたのではないでしょうか。
もちろん、その前にウォーミングアップの準備体操やストレッチ、キャッチボールなどの基本練習がありましたが、いきなり試合や演奏が始まるケースなど皆無に違いありません。スポーツならケガをしてしまうでしょうし、練習なしの演奏など考えられません。
仕事もまったく同じであることを新人に伝えましょう。そもそもどんな仕事も95%は定型・反復業務の繰り返しで、残り5%程度が問題解決・創造業務という自己表現のチャンスといった割合なのではないでしょうか。
しかも、この5%は、95%が完璧にこなせた後にあるようなものです。「価値のある仕事」や「成長」を希望するなら、なおさら基本や日々のルーティンを完璧にこなせるようになるのが近道であることを伝えましょう。
■「質」は「量」からしか生まれない
その時に使って欲しい考え方が「量質転換」という概念です。これは文字通り「質」は「量」からしか生まれないという意味です。
この話をする時、例え話としてよく用いられるのが、日本人なら英会話の習得の方法。英語が母国語でない日本人がマスターするためには、英語に触れる延べ時間が1000時間必要と言われています。この1000時間を閾値(いきち)と読んだりしますが、英会話の教材などはこの閾値を目安に作られています。
経験された方もいるかもしれませんが、英語の習得というのは、その学習のために費やした延べ時間と上達が正比例しません。それが、閾値の1000時間を超えた瞬間にいきなり、英語がクリアに聞けるようになり、ベラベラと話せるようになるという話です。
スポーツや楽器の演奏も、ある一定のレベル(質)になるには閾値的な練習の量が不可欠という意味で同じではないでしょうか。
まさにこれは仕事も一緒ですので、こうした話で基本的な仕事やルーティンの重要さを諭すようにしましょう。
■「3人のレンガ職人」が教えてくれること
また、こうした新人や若手社員にはそもそも「仕事とはどういうものか」を伝えて欲しいと思います。その時、よく使われるのが「3人のレンガ職人(石工)」の話です。
簡単に紹介しておくと、旅人がある現場でレンガを積んでいる職人に声をかけるところから話が始まります。
「今、何をされているのですか?」
「何? 見りゃ分かるだろ、レンガを積んでるだよ。雨の日も風の日も。腰は痛いし、手はこんなになっちまったよ」
職人はひび割れて汚れた両手を開いて見せました。
旅人は簡単にお礼を言って歩き始め、角を曲がって、また同じ現場の別な人に声をかけました。
「今、何をされているのですか?」
「私ですか? 大きな壁をつくっているのです」
「大変ですね」
「いえいえ、この仕事で家族を養っていくことができるので、全然大変ではないですよ」
旅人は礼を言って、また歩き始めます。
そして、また別な職人に声をかけます。
「今、何をされているのですか?」
「これですか、今、私は教会の大聖堂を作っているのです」
■仕事のやりがいは、自ら発見・創造するもの
さて、この3人の職人、まったく同じ作業をしているにもかかわらず、
1人目は、単にレンガを積んでいる、
2人目は、家族のために働いている、
3人目は、200年後、300年後も地域の人の憩いの場となる教会の大聖堂を作っていると、バラバラな思いでレンガを積んでいました。
同じ仕事でもやりがいを感じてやる人とそうでない人が存在することを示しています。
同時に、このエピソードは仕事のやりがいは自ら発見・創造するものだということを教えてくれますが、そうした人に信頼が集まるということも部下や新人に伝えていって欲しいと思います。
「一番、バットの素振りをしているのがプロ野球のバッターだよね。イチローだってストレッチに1時間もかけたのと一緒で、自分たちの仕事も一見すると地味な基本的な作業、ルーティン業務の先に価値を生み出す仕事があるということを忘れないようにしよう」
⇒基本的な仕事、ルーティンの繰り返しには、どういう意味があるのかを説明する
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営業コンサルタント
1962年群馬県生まれ。リクルートを経て、サンダーバード国際経営大学院でMBA取得。現在、オーダーメイド型企業研修、営業研修を展開するエマメイコーポレーション代表取締役。オンライン営業研修「営業サプリ」において「売れる営業養成講座」の執筆・総合監修を務める。著書に『リクルート流』(PHP研究所)、『"惜しい部下"を動かす方法ベスト30』(KADOKAWA)、ベストセラー『40代を後悔しない50のリスト』(ダイヤモンド社)、『50代 後悔しない働き方』(青春新書インテリジェンス)などがある。
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(営業コンサルタント 大塚 寿)
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