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「コロナ禍でも利益が2倍に」しまむらがアパレル業界で「勝ち組」になれた5つの理由

プレジデントオンライン / 2021年3月30日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chaay_Tee

新型コロナウイルスの影響でアパレル各社が苦境にあえぐ中、しまむらが快進撃を見せている。3月15日には決算の上方修正を発表。純利益は前年比の約2倍を見込んでいる。なぜしまむらは勝ち組になれたのか。流通科学大学商学部の白貞壬教授が解説する——。

■名門アパレルのレナウンは経営破綻へ

シーズンごとにトレンドを仕掛けて買い替えを促していたアパレル業界が、コロナ禍で行き詰まっている。

大手アパレルメーカーは、百貨店を主力販路として成長し続けてきた。だが、百貨店はネット通販の拡大により閉店が相次いでいる上、コロナ禍による長期臨時休業や外出自粛で売上げが激減した。

たとえばオンワードやワールド、三陽商会といった老舗総合アパレルメーカーは、コロナ禍の販売急減でさらなる大量の在庫を抱え、資金繰りにダメージを受けている。このため不採算の店舗や事業の整理、ブランドや人員のリストラを行っている。

2020年5月には名門アパレルのレナウンが民事再生法を申請して破綻した。レナウンにはリストラをするだけの猶予すらなかったということだ。

■外出や所得の減少で衣料品の消費行動が変化した

リモートワークが定着して、人々はあまり外出をしなくなり、コロナ以前のように仕事や社交の場で所得や個性の表現手段としての服装に力を入れる必要がなくなっている。そのため高額なブランド品やトレンディな衣類への出費は急減している。インバウンド需要の減少もあって、ユニクロのような機能性を重視するグローバルブランドの売上げにも影響が大きい。スーツやジャケットなど仕事着の売上げも急減した中、仕事着から普段着および室内着へと、衣類の購入品目も変わっている。

さらに、所得の減少や雇用不安が加わることで、これまで購入していたブランドからランクを落とした衣料品の消費行動が見られる。このような状況下で、ファッショントレンドにこだわる必要もなくなることから、トレンドに敏感なアパレルブランドやこだわりのブランド消費に無駄な金を使う必要はなくなっている。

一方で、アパレル業界でも売上げを伸ばしている企業がある。全国に1430店(2021年2月末現在、オンラインストアを含む)を展開する「しまむら」だ。

■コロナ禍でも純利益が前期比99.3%増

コロナ禍の影響を受けてほかのアパレルの業績が大幅マイナスの中、しまむらの2021年2月期連結業績予想(3月15日に上方修正)では、売上高が前期比3.9%増の5426億円(当初予想は5286億円)、営業利益が同65.4%増の380億円(同308億円)、純利益が同99.3%増の261億円(同192億円)だった。

なぜ、しまむらはコロナ時代の「勝ち組」となれたのか。私は5つの理由があると考えている。

1つ目は、主な販売先が郊外店であることだ。百貨店やファッションビルは長期休業で売上げを大幅に減らしたが、郊外の路面店がメインのしまむらはその影響を避けることができた。

2つ目は、日頃から使う普段着を中心に扱う点だ。外出自粛やリモートワークで消費者はファッション性より機能性を重視するようになり、比較的低価格な衣料品を多く購入するようになった。

3つ目は、本部集中のローコストオペレーション体制を基本としている点だ。すべての商品の発注が本部に集中し、在庫管理や店舗への配送まで本部一括で行われる「セントラルバイイング」によって、コストの削減およびリーズナブルな価格での販売を実現している。

しまむらでは、目利きのバイヤー約110人が世界中を飛び回ってさまざまなデザイン、素材、色彩の商品を返品なしの完全買取り方式で仕入れている。このような方式のため、仕入れ値は安く済み、販売価格も安くできる。

女性の服のセット
写真=iStock.com/Mkovalevskaya
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mkovalevskaya

■簡素化されたマニュアルで少人数でも店舗運営を可能に

商品を店舗に入荷してから売り切るまで、「コントローラー」と呼ばれる約80人の販売員が、商品の陳列による売場の演出や、商品動向の分析を行っている。

また、売れ行きの良くない商品を販売可能な店舗に回す店舗間移動、すなわち「移送」を行うことにより、最後の1枚まで売り切れるしまむらならではの在庫管理もこのコントローラーにより実現されている。当初計画と違って実際の売れ行きが良くない商品の売価変更、すなわち「値下」を行うこともコントローラーの権限の一つである。

この中央集権型組織において欠かせないのが簡素化されたマニュアルに基づく標準化であり、しまむらのローコストオペレーションの基盤になっている。このマニュアルを急変する環境に適したものとするために、全社員から改善提案を提出してもらい、それらを一つ一つ検討・実験し、その結果をマニュアルとして更新し続けることで、合理的な店舗運営につなげている。

マニュアルによる仕事の簡素化および標準化は、少人数でも店舗運営を可能にさせ、専門分化が追求できる。それが店長1名とパート社員6~10名程度での店舗運営の効率化につながっている。

従業員の意見が積極的に吸い上げられ、それが品ぞろえに反映されるなど、創意工夫を重視するしまむらの現場では、店舗経験が豊富なパート社員出身の女性店長も多数存在する。競合他社に比べ、少人数による店舗運営でも生活感のある、総合型「ファッションセンターしまむら」の店舗オペレーションが構築されている。

■ソーシャルディスタンスを取りやすい郊外型店舗

4つ目は、郊外型店舗展開という点にある。立地は主にロードサイドで、当初は、地方の県道沿いの小規模店、近年は家電量販店やドラッグストアに隣接した大型店が多くなっている。2000年代前半より商業施設への出店を進めているが、グループ全体での出店形態をみると、オープンモール型商業施設への出店が約15%、ビルイン型商業施設への出店が約20%で、依然として高い比率を誇るのは郊外型の単独立地である(約65%)。

しまむらの郊外型店舗は1万5000世帯程度の小商圏を前提としており、自転車やマイカーで気軽に出掛けられる距離にある。さらに広い敷地が確保できるため、売場面積も通路幅も広く、ソーシャルディスタンスが取れて、顧客も比較的安心して買い物ができる。外出自粛で駅ビルやファッションビルに立地する同業他社とは好対照を見せている。

■流通加工工程を海外で行い、コストを大幅に削減

5つ目に、衣料に特化せず、生活必需品など品ぞろえの幅を広げていた点だ。

しまむらは、世界中のファッション生活雑貨メーカーから選定した約600社の優良工場から高品質で高機能な商品を仕入れて低価格で販売していた。その中でも毎期一定量の販売が見込めるベーシックな「コア商品」を計画的に開発・生産・管理することで顧客を満足させる商品を提供できた。

そのひとつが「裏地あったかパンツ」で、機能性とファッション性を同時に実現できた自社のオリジナルブランドのヒット商品でもあった。海外の生産工場から出荷された商品の仕分けや値札付けなどの流通加工工程を、コストの低い現地で行い、日本国内の自社物流センターに直接納品することで物流コストの大幅な削減につながっている。

自動化・省力化による高度な自社物流システムの開発は、荷物1箱当たりハガキ1枚程度の低コストでの配送を可能にしている。しまむらは常に「小売業の技術革新と多様性こそ、国民社会と消費生活の豊かさを作り上げる基盤である」との立場から、商品の企画から販売まで製・物・販一貫体制を構築している。その強みは、コロナ時代においてもサプライヤーへの交渉・調整が利き、しまむら水準の品質統制に生きている。

■変化に対応するべく社内体制を根底から見直した

独自の社内品質基準および品質検査態勢により、サプライヤーを管理し、サプライヤーとの品質改善会議の実施など一連の取り組みを通して日々品質改善・安全管理に努めている。

しまむらではグループ全体をあげて、「商業を通じ消費生活と生活文化の向上に貢献する」ことを共通の経営理念とし、商業の中でも衣料とファッション関連分野で先進的な事業を進めている。その過程で生まれたのがしまむら独自のビジネスモデルであり、それが時代の変化とともに強力なチェーンストアとして一層の発展を支える基盤となっている。

しまむらは自粛期間中にもできるだけベーシックでカジュアルな商品の構成比率を高め、子供、両親、祖父母の3代にわたる広い顧客層をターゲットに、商品とその見せ方を変えながら流行を追いかけている。

ブランド品から定番商品としての普段着へと、衣料品に対する消費行動変化に対し、しまむらはぶれない企業・経営理念を基軸として、「最先端の商業、流通技術の運用」による「適正な企業業績」の維持を行った。時代が変わってもしまむらの勢いは続くとみられる。

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白 貞壬(ベック・ジョンイム)
流通科学大学商学部マーケティング学科 教授
博士(商学)。大阪市立大学大学院経営学研究科後期博士課程修了。専攻分野は流通・マーケティング。著書に『小売業のグローバル・イノベーション』(中央経済社)がある。

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(流通科学大学商学部マーケティング学科 教授 白 貞壬)

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