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パナソニックの"7000億円買収"が市場から厳しく評価される2つの理由

プレジデントオンライン / 2021年3月27日 11時15分

次期社長への昇格が内定し、記者会見するパナソニックの楠見雄規常務執行役員(手前)。奥は会長に退く津賀一宏社長=2020年11月13日夜、大阪市中央区 - 写真=時事通信フォト

■「ブルーヨンダー」の買収報道に社内は沸いているが…

パナソニックがサプライチェーン(供給網)の効率化を手掛ける米ソフトウエア大手、ブルーヨンダーを買収する方針を固めたと、3月8日に日経新聞電子版が報じた。投資額は7000億円を軸に調整しているとされ、実現すれば同社にとって過去最大級のM&A(合併・買収)になる。

ブルーヨンダーは1985年にJDAソフトウエアとしてカナダで創業した。在庫管理や物流の効率化を手掛け、2018年に人工知能(AI)開発に強い同業の独ブルーヨンダーを買収。20年に現社名に社名変更した。米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や独DHL、米スターバックスなどが同社の業務改善ソフトを導入している。

世界に40以上の拠点を持ち、従業員は5000人超。19年度の売上高は前年度比8%増の約10億ドル(約1085億円)だった。売上高に対するEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)比率は24%と、パナソニックより一ケタ大きい。

液晶や太陽光パネル事業に次ぎ半導体事業を売却するなど身を縮める発表が相次いだ中での久々の「攻め」の施策と社内では沸く。

■「買収額が大きすぎる」と「競合が多すぎる」という2大要因

しかし、市場は今回の買収を必ずしも好感しているわけではないようだ。買収協議が報じられた翌日、3月9日のパナソニック株の終値は前日比7%の下落となった。その理由は大きく2つある。

ひとつは7000億円という「買収額の大きさ」だ。パナソニックは1兆4713億円(20年3月期)という多額の有利子負債を抱えており、今回の大型買収で財務のさらなる悪化が懸念されている。

もうひとつの理由は「競合の多さ」だ。パナソニックの狙いは「企業向けのソリューション・ビジネスの強化」だろう。ブルーヨンダーは人工知能(AI)を活用し製品の需要や納期を予測するソフトを手掛け、顧客企業のサプライチェーンを見直し、収益改善を支援する。

かつて米IBMもパソコンやサーバーなどハードウエアの販売がデルコンピュータなどライバルの台頭で消耗戦に陥った時に、ソフト・サービス路線に舵を切った。同時にコンサルティングなども手掛け、顧客企業との継続的な取引を目指す戦略に活路を見いだした。

■買収を主導したのは、“異例の出戻り役員”の樋口泰行専務か

欧州でも同じ電機大手の独シーメンスが強みだった工場の制御機器を基に、ソフト分野の企業買収を通じサービスを組み合わせて収益力を高めた。日本でも「すでに製造業ではない」(東原敏昭社長兼CEO)と言い放つ日立製作所が、独自のIoT基盤「ルマーダ」を軸に利用で稼ぐ継続課金ビジネスを手掛けている。世界の電機大手は「モノづくり」から「ソフト・サービス」の展開を急いでいる。

さらに「企業向け業務改善システム」の分野では、IBMや日立、米アクセンチュアなどコンサルティング企業のほか、最近では米アマゾン・ドット・コムのクラウドサービス部門「AWS」が参入するなど、競合がひしめいている。

今回の買収を主導したのは、新卒でパナソニックに入社したあと、アップルやマイクロソフトなどを渡り歩き、2017年に古巣のパナソニックの幹部として呼び戻された樋口泰行専務執行役員とみられている。樋口氏は企業向け取引を担うコネクティッドソリューションズ社を率いる立場にある。

■「ソフト」をやり続けたソニーとは時価総額で大差

しかし大手証券アナリストからはこんな声があがる。

「いまだに売り上げの4割が家電を占めるパナソニックがBtoB(企業向けビジネス)をできるのか。むしろ知見のあるBtoC(個人向けビジネス)を深掘りしたほうが復活を遂げやすいのではないか」

プレイステーション3でグランツーリスモをプレーする男性の手元
写真=iStock.com/tomos3
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tomos3

こうした見方の背景にあるのがソニーの復活だ。ソニーは今や時価総額ではパナソニックの4倍超となる14兆円と、大きく差をつけている。たが、1990年代にはハード事業に行き詰まり、パナソニックと同じく事業転換に悩んでいた。当時は、韓国・サムスン電子やLG、中国勢が台頭。日本の電機業界はハード主体のモノづくりから、ソフト・サービス路線への転換が模索されていた。

1988年、ソニーはCBSレコード(現:ソニー・ミュージックエンタテインメント=SME)を買収。さらに89年にはコロンビア・ピクチャーズ・インダストリーズ(現:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント=SPE)を買収した。

買収後、ソニーはCBSから乗り込んできた米幹部に「食い物」にされた。幹部らはプライベートジェット機や豪邸を買いあさり、ウォルト・ディズニーに対抗して「ソニーランド」の建設案まで持ち込むなど、やりたい放題だった。95年3月期には約3000億円の赤字に転落。狼藉を働いていた米幹部を追い出し、健全な経営状態に戻ったのは90年代後半になってからだ。

■「CBS買収」といった夢も社内抗争で潰えてしまった

その後、ソニーの「ソフト・サービス」は大きく花開く。2002年には映画『スパイダーマン』が興行収入8億ドルの大ヒットとなり、その後も映画やゲームが立て続けにあたった。それまで同社を牽引していた「ウォークマン」や「トリニトロン・テレビ」などのハード事業も、「ソフト・サービス」事業を補完する位置づけに変わっていった。その象徴がCMOSセンサーだ。

ソニーは世界で初めてリチウムイオン電池や有機ELの開発を手掛けるなど世界の先端を走っていた。だが、これらのデバイスがコモディティー化すると、さっさと撤退。ハード事業を「勝てる領域」に絞り込んだ。そこで選んだのが高精細な画像を作成するのに必要なCMOSセンサーだ。いまやiPhoneなどにも用いられ、応用の領域は映像機器やゲームのコンテンツ制作など、ソニーの手掛ける多くの事業にも広がっている。

一方、パナソニックも91年に米映画大手のMCAを7800億円で買収。ハリウッドへの進出を試みた。当初、MCAの事業は良好だったが、ソフト化路線を進めた谷井昭雄社長が不祥事で失脚すると、「ソフト・サービス」路線から身を引いてしまう。MCAには英ヴァージン・レコードの買収や、テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ」の建設、さらには米3大地上波放送局のCBSの買収案件もあったが、すべて却下してしまった。結局、95年には株式の8割をカナダのシーグラムに売却。メディア企業となる夢は潰えてしまう。

■強みだった電池事業は、世界トップの地位を追われた

その後、パナソニックはノキアのブラウン管工場の買収やプラズマテレビへの集中投資など、ハード回帰にのめりこみ、失敗を重ねることになる。

近年の課題は電池事業だ。電池に強い三洋電機を買収。米テスラとの大型投資を試みるが、国を挙げて電池産業を育成する中国勢に世界トップの地位を追われている。

2020年8月1日、上海のテスラ自動車工場
写真=iStock.com/Sky_Blue
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sky_Blue

かねてパナソニックは「マネシタ電器」と揶揄(やゆ)されるなど、ヒットした製品が世に出ると、その資本力・販売力を生かしてライバルを駆逐するスタイルをとってきた。その戦略は高度成長期に国内市場が拡大する中では功を奏した。しかし、国内市場が縮小し、世界でも中韓勢が台頭する中で通用しなくなった。

新興する中韓勢との競合をさけるために打ち出した「ソフト・サービス」路線も、まだ成果が出ているとはいえない。ブルーヨンダーの買収が現実となり、「ソリューション・ビジネス」に乗り込んだとしても、国内では日立、欧米では米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスといった競合が控えている。

■9年ぶりの社長交代を新展開の機会に変えられるか

パナソニックは34ある事業部を再編し、22年に持ち株会社化し、傘下に8つの事業会社を抱える体制に移行する。全社の成長をけん引する基幹事業と位置づける4社は白物家電や住宅設備の「パナソニック」、電池事業の「パナソニックエナジー」、電子・機械部品の「パナソニックインダストリー」、企業向けシステムの「パナソニックコネクト」になる。

6月には12年から9年間トップとして業績の立て直しに奔走してきた津賀一宏社長から常務執行役員の楠見雄規氏にバトンを渡す。

「マネシタ電器」から脱却し、新たな製品・サービスをどう生み出していくのか。新たなビジネスモデルをどう築くのか。持ち株会社化が「各事業会社の収支を見える化し、採算管理を徹底する」ということにとどまれば、パナソニックの前途は厳しい。市場の低評価をひっくり返すような次の一手が求められている。

(プレジデントオンライン編集部)

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