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「うなぎ蒲焼き」の通販が大成功した岐阜の和食店が、タレと一緒に送る"ある付録"

プレジデントオンライン / 2021年3月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KPS

コロナ禍でも売上を伸ばす飲食店はどんな工夫をしているのか。マーケティングに詳しい小阪裕司氏は「料理のおいしさだけではなく、プラスアルファの価値を提供している飲食店が伸びている。テイクアウトでも工夫することで、顧客がもとめている『心の豊かな食卓』を提供することができる」という——。

※本稿は、小阪裕司『「顧客消滅」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)の内容を抜粋・編集したものです。

■創業当時から売れ続けている塩豆大福

コロナ禍によって改めて、「自分たちの提供すべき価値は何か」を問い直す必要に迫られ、今懸命に改革を行っている企業がある。伊豆を中心に約10店舗を展開するある和菓子店である。

同社は2020年4月の緊急事態宣言に際して店をすべて閉めたのだが、その後、5月中旬から各店の営業を順次再開した。そのとき、店によって売上の回復に大きな差があった。その違いは、フロー型(一見客中心)の店かストック型(既存客中心)の店かの違いにあった。さらに興味深いことは、この2種類の店では、売れるものも異なることが明確になったことである。

以前は、ストック型の店にも多くのフロー客が来ていたため、その違いはあまり浮き彫りにならなかった。しかし、ストック型の店では、フロー客が消滅し、ストック顧客だけが残った。そうしたところ、まるで池の水を抜いたら底からそれまで見えていなかったものが見えてきたように、ストック顧客が買うものが浮き彫りになってきたのだ。

それは、創業当時から売り続けている定番商品、あんこが自慢の「塩豆大福」だった。

この和菓子店のルーツは、戦後まもなく創業された小さな観光土産の卸菓子製造会社。その後、それまでに培った和菓子製造技術と知識をもとに同店が立ち上げられたのだが、その頃から作り続け、売り続けているのが「塩豆大福」だ。

■「本当の顧客」を気づかせてくれたコロナ禍

その後、伊豆への観光客の増加とともに売上は拡大、それに伴い商品ラインアップも増え、伊豆の柑橘を使用したチーズタルトなども今はある。

もちろんそれらも良い商品だし、コロナ以前の売れ筋でもあった。しかし、長年同社を支えてくれていたのは「塩豆大福」であり、それを買い続けてくれている地元の顧客、そう、この店のファンだったのだ。

同社の社長は反省を込めて「本当の顧客にまったく目がいっていなかった」と語る。

そこで、店舗を再開した6月、当初「初夏のスイーツフェア」を行おうとしていたところを、再開後の顧客の声をもとに急遽「あんこフェア」に変更。創業以来こだわり続けている自社のあんこの価値を再度語り直し、それを支持し続けてくれていたファンに向けアプローチしたところ大好評。ストック型の店では全体で前年比154%、中には前年比180%になった店もあった。

和菓子
写真=iStock.com/kazuhide isoe
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuhide isoe

コロナ禍によって「自分たちの提供する価値」と「本当の顧客」が改めて明確になったのだが、実際、歴史ある企業を支えているのはこうした長年のファンであることが多い。それに気づくことができたという意味では、コロナショックは絶好の機会だったと言っていい。

もちろん、そのベースにはこの会社が長年、地元の人に愛される品質の高い和菓子を作り続けてきたという実績があるのは、言うまでもない。我々は一見、派手なお客さんや新しいお客さんばかりに目を奪われてしまう。しかし、本当にそれは「我々が一生付き合っていきたい顧客なのか」をしっかりと見直す必要がある。

そして、その見直しと同時に明らかにせざるを得ないものは、自分たちはその顧客に、何を通じて、どんな価値が提供できるのかということなのである。

■「機能」ではなく、どんな「価値」を提供できるか考えるべき

自分たちの顧客に対する提供価値のことを、マーケティング用語で「カスタマー・バリュー・プロポジション」(Customer value proposition)という。これは近年、多くの企業で重視されているテーマだ。ここがあいまいでは、顧客に対して価値を提供できているのかどうかもあいまいになってしまう。

ここで勘違いしてほしくないのは、「自分たちの提供する価値とは何かを明確化すること」とは単に、「どんなモノを作るか」「どんなモノを売るか」ではない、ということだ。今の顧客が求めているのはモノではなく「その先にある価値」であり、その本質は「心の豊かさ」だ。提供しているのはモノだとしても、その価値はそのモノを使うことによって得られる幸福感だったり、そのサービスを利用することによって生まれた時間だったりする。

たとえば、「ハーレーダビッドソン」のバイクを購入する人は、移動するという機能を欲しているのではない。それに乗ることによって得られる「心の豊かさ」のためである。あるいは高級トースターを買う人は、パンを焼くという機能ではなく、おいしいパン(それを焼くプロセスも含む)によって得られる豊かな食卓の時間を得るために高級トースターを買っている。

同様に、「そのモノやサービスを提供することで、顧客にどんな価値を提供できるか」を、今一度考え直し、具現化すべきなのだ。

■顧客から大絶賛された女将のひと工夫

これについても一つ、事例を紹介したい。「価値のパッケージ化」という取り組みだ。

岐阜県にある割烹料理店の例である。この店ではコロナで通常営業ができない中、店自慢の鰻料理を真空パックにしてテイクアウトと通販で売っていた。当初は真空パックにたれなど一般的なものだけを同封しており、お客さんには十分満足いただいていたのだが、同店の女将は何か足りないと感じていた。

この「足りない」感覚は、「自分たちの提供する価値は何か」の問いに通ずる。そこを改めて考えると、自店は料理を提供するだけでなく「心の豊かさ」を売る店。テイクアウトでも顧客の「心豊かな食卓」を提供する必要がある。それこそが、自分たちが提供すべき価値だと考えた。では、どうしたらその価値を具現化できるか。

そこで行ったことは、「笹」の同封だ。笹とは、普段お店で焼き物を出すときに盛り付けにあしらわれている熊笹。それにさらに店主手書きのメッセージなどを同封するようにしたところ、お客さんに大絶賛された。こういう取り組みを私たちは「価値のパッケージ化」と呼んでいる。

■テイクアウトだけで常連を増やした“イタリアン弁当”

さらに、千葉県にあるイタリアンレストランの例も紹介しよう。店主はコロナ対策の一つとして、顧客向けにテイクアウトの弁当を作り販売していた。そこに先の岐阜の割烹料理店の取り組みを知り、彼も同様に考えた。

そこで行ったのは、弁当に手書きのメニューを付けるとともに、フィレンツェの風景が描かれた特製ランチョンマットを同封。フォークやナイフ、エプロンも用意し、弁当もイタリアを思わせる色合いの巻紙で包むなど、「家でも仕事場のデスクでも会議室でも、イタリアンレストランが思い出せるように」にこだわった。

こうしてリニューアルされた「イタリアン伊勢海老弁当」はやはり大絶賛だったのだが、それだけではない効果があった。このセットを頼んだお客さんが、再びお店にも来店してくれるようになったのだ。コロナが怖くて行けなかったのだが、このセットで店の雰囲気を思い出し、いても立ってもいられなくなったというのである。

まさに「価値のパッケージ化」を通じて「自分たちの提供する価値」が伝わった、何よりの証拠だろう。

■いまこそ実店舗を充実させるべき

世の中に逆行するようなことを言うが、私は飲食・小売・サービス業は今こそ「実店舗を充実させるべき」だと考える。いくら宅配や通販に頼ったところで、そこで提供できる価値は限られているし、結局は「日銭を稼ぐ」だけになりかねない。

小阪裕司『「顧客消滅」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)
小阪裕司『「顧客消滅」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)

実店舗を充実させたうえで、席数の減少や、時に営業時間の短縮・自粛などで採算が取れなくなった分を、顧客リストを活用した宅配などの施策で利益を補填する。そして、顧客リストを温めることで、再度、店舗に来てもらう。こうして売上を作っていくという発想をしてほしい。

「実店舗を充実させる」といっても、改装をしなければならないとか、ディズニーランドのようなしつらえがいるというわけではない。都下のあるクリーニング店では、店内でかける音楽や照明を日によって変えているというが、そういう配慮も「実店舗の充実」だ。

愛知県にあるハンバーグレストランでは、店内に「常連の塩」というものがあり、そこにはハンバーグに合う数種類の塩が用意されている。それを使えばハンバーグの味わいが変わり、深まり、利用客にとっては興味津々。しかしそれは、2回目以降の来店客しか使えない。こういったものもまた「実店舗の充実」だ。

改めて言うが、今こそ、実店舗だからこそ提供できる価値を考え、それを磨くべきだろう。コロナ禍が永遠に続くわけではないのだ。

実はこのコロナ禍の中、前述のハンバーグレストランは新店舗を作り、移転した。流行っているから店を大きくし席数を増やしたのではない。むしろ席数は若干減り、ここでは詳細は省くが、代わりに顧客にとってはさまざまな新しい「楽しさ」が増えた。

まさに、先が見えているからこその行動だろう。

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小阪 裕司(こさか・ゆうじ)
オラクルひと・しくみ研究所 代表/博士(情報学)
山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県から約1500社が参加。2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。著書は『価値創造の思考法』など計39冊。 公式サイト

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(オラクルひと・しくみ研究所 代表/博士(情報学) 小阪 裕司)

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