「ふるさと納税は地方活性化に役立つ」そう考える人たちが地方を滅ぼしている
プレジデントオンライン / 2021年3月30日 11時15分
※本稿は、小飼弾『小飼弾の超訳「お金」理論』(光文社)の一部を再編集したものです。
■ふるさと納税の問題点は高額返礼品ではない
住民税に関しても、大きな問題があります。日本におけるバブル崩壊後の施策で、ワーストワンはここまで説明してきた消費税の導入ですが、その次にひどいのが「ふるさと納税」です。
ふるさと納税を実際にやってみたことがある人は、「すごくお得な制度だなあ」と感じたことでしょう。普通なら、問答無用で自分の住んでいる自治体に住民税を取られるのに、納税先を自分で選べて素敵な返礼品までもらえてしまう。
ふるさと納税は納税と言いつつ、個人住民税の寄付金制度が元になっています。寄付金が所得税・住民税の控除の対象になるのですが、寄付金に応じた「返礼品」を送る自治体が増えてきて、自治体間の高額返礼品合戦になってきました。
特産品とはまったく関係のない、電子機器やギフト券を返礼する自治体も出てきて、何でもありの状態になっています。お得だと感じつつ、「ギフト券を送るのはさすがに反則だよ」と思う人もいるでしょう。でも、ふるさと納税の問題点は、そういうことではないのです。そもそも論で考えてみましょう。
憲法にも書かれているように、なぜ私たちは納税しなければならないのか?
■まとまった大きなお金を分割してはいけない
税金の意味とは、みんなのお金をまとめて運用することにあるんですね。先にもお金持ちはバーゲニングパワーが強いと書きましたが、お金というのは集まれば集まるほど、強い力を持つようになり、大きなことができるようになります。
例えば、1万人がそれぞれ100万円持っていたとしましょう。各人が自分の好きなように100万円を使うことはできるけど、買えるのは100万円以内のモノだけです。だけど、1万人の100万円を1つに集めれば、100億円になります。道路を整備したり学校を作ったり、そんな大きなことができるんですね。
ふるさと納税というのは、まとめて大きくできるはずだったお金をわざわざ細かく分割してしまう行為なのです。以前、「総額1億円、100人に100万円をプレゼント」の企画をツイッター上で行ったアパレル企業の社長がいました。この企画は賛否両論を呼びましたが、企画の是非を云々するつもりはありません。
1億円をどうしようと個人の勝手です。しかし、1億円というお金を100万円にして配るのは、お金持ちの道楽だからよいのであって、普通はその逆をしなければいけません。
また、税金なのに返礼品という仕組みが認められているのはいったい何なのか。これははたして自治体の本来の業務と言えるのか疑問です。余計な仕事を増やしているわけですよね。
■中途半端なインフラ整備をしても意味がない
「地方にはインフラを整備するお金がないから、自分で集めなければしょうがない」という意見もあるでしょう。
けれど、どんなインフラをどこに作るのか、その配分をこれまで国も地方も真剣に考えてきたとは言えません。例えば空港にしても、隣の県に空港ができたら、どの県も「うちにも空港を!」と同じモノを欲しがりました。本来であれば、「空港は別の県に譲るから、その代わりに空港までの高速道路を整備して」といった具合に、トレードオフを行うべきだったんですね。
そうすれば、地域に大きな空港を1つ作り、高速道路その他のインフラもまとめて整備して、地域全体を活性化させることもできたでしょう。実際には、誰も使わない中途半端な小さな空港がたくさんできてしまいました。
「うちにはこのインフラはいりません」と言い切れる自治体は本当に少ない。それができた稀有な例の1つは、由布院温泉で有名な大分の由布市です。
『由布院の小さな奇跡』(木谷文弘著、新潮新書)によれば、「生活観光地」を目指す由布市では民間主導での「由布院温泉発展策」の施策に集中する代わり、戦後の電力不足に対応する電源開発のダム建設計画を断念しました。その結果、市の財政は健全化し、公共サービスに対する市民の満足度も上がりました。
「でも」と思われるかもしれません。地方では高齢化、人口流出が進んでいるのだから、インフラ整備や公共サービスにしても、地方だけではやっていけない。国の補助金やふるさと納税といった仕組みで、地方にお金を回さないといけないんじゃないの、と。ここでも、「そもそも論」に戻って考えましょう。
そもそも、地方にお金を割り振る必要があるのでしょうか?
■地方に必要なのは振興ではなく撤退戦
ある地域から人がいなくなれば、税収は減り、寂れていく。その流れ自体はどうしようもないことだし、正しいことなんですよ。
人がいないのであれば、自治体やインフラの規模も縮小して、コンパクトにしていけばいい。もちろん、その地域が寂れていく過程において、人が傷ついたり、死んだりするような事態が起こるのは問題です。そのためには、きちんと「撤退戦」をしないといけない。華々しく新しいプロジェクトを進めるのとは違い、撤退戦の担当はあまり人気がありません。だからこそ、撤退戦がちゃんとできるのはすごいことです。
例えば、北海道の夕張市は多額の財政赤字を抱えて、2006年に財政破綻しました。その後、同市は経費削減を徹底し、財政の健全化を進めています。公共サービスは低下して、市民の負担も増えるのですから、人口流出は止まりません。しかし酷な言い方になりますが、夕張市はきちんと撤退戦を行っているのです。
ここで「地方振興」と言って、国が自治体にお金を回すのは愚策です。国が支援すべきは、自治体という仕組みではなく、あくまでも「人」なんですね。医療サービスが低下して苦しんでいる人がいるというのであれば、よりよいサービスを受けられる地域へ移れるように支援するなど、人にフォーカスした施策を採るべきでしょう。
ついでに言っておくと、トップダウンによる地方振興はまずうまくいかないものです。ある地域に人が集まり、都会になっていく。その過程は、国や自治体がどうにかしようとしてコントロールできるものではありません。
都会は、どうやって都会になっていくのでしょうか?
■トップダウンでお金を流し込んでも人は集まらない
地理的、歴史的な条件だったり、たまたまタイミングがよかったりと、理由は何だかんだと後付けできるでしょうが、まず人が自然と集まること。たくさんの人が集まって、好き勝手に商売を始めたりしているうちに、「何だかあそこには面白いことがあるぞ、面白いヤツらがいるぞ、お金も集まっているらしいぞ」という評判が高まってくる。
そうなると、さらにたくさんの人がその地域に引き寄せられることになり、都会が生まれるのです。トップダウンで地方に無理矢理お金を流し込んでも、うまくいくわけがない。むしろ、人が集まってきている都会の足を引っ張ることになってしまいます。この意味で、増田寛也元総務大臣が2007年に作った、地方交付税歳出特別枠はひどかった。
増田元総務大臣は、石原慎太郎元都知事を上回る金銭的被害を東京に与えた数少ない人と言えます。石原元都知事は銀行税を創設しようとし、逆に銀行に訴えられて敗訴。納付済みの税金に利子を付けて銀行に返す羽目になりました。その後、新銀行東京でも1500億円の損失を出しています。
しかし、増田元総務大臣はこの損害をはるかに上回ります。地方交付税特別枠によって、東京から他の県に流れてしまった税金は、7年で1兆円にも上ります。たくさんの人が東京に集まってきているのですから、その人たちにインフラやサービスを提供するためにお金を使うべきではないでしょうか?
一極集中はさすがに災害等のリスクを考えるとまずいですが、基本的に都市に人口を集中させるのはいいことなんですよ。
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投資家、プログラマー
株式会社オン・ザ・エッヂ(後のライブドア、現在の株式会社データホテル)の取締役最高技術責任者(CTO)を務め、同社の上場に貢献。著書に『新書がベスト』(ベスト新書)、『弾言』『決弾』(共著、ともにアスペクト)、『小飼弾の「仕組み」進化論』(日本実業出版社)、『「中卒」でもわかる科学入門』『未来予測を嗤え!』<共著>(ともに角川oneテーマ21)、『働かざる者、飢えるべからず』(サンガ新書)、『本を遊ぶ』(朝日文庫)などがある。
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(投資家、プログラマー 小飼 弾)
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