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「メンバーに主体性がない」と嘆く上司はマネジャーの仕事がわかっていない

プレジデントオンライン / 2021年4月3日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

創業以来ほぼ全員リモートワークという会社「キャスター」を経営する石倉秀明氏の下には、コロナ禍で企業・マネジャーから続々相談が寄せられるようになったという。葛藤する企業の姿から見えてきたのが、そもそも「多様な働き方をする人たち」のチームでパフォーマンスを上げることができない日本企業の現実だった。具体的に何が問題なのか、「マネジメント・シフト」をどう進めるべきなのか。近著『これからのマネジャーは邪魔をしない。』から特別公開する──。(第1回/全2回)

*本稿は、石倉秀明『これからのマネジャーは邪魔をしない。』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

■自分の「仕事」が分からない日本企業のマネジャーたち

「マネジャーの仕事とは何ですか?」と問われた時、あなたならどのように答えるでしょうか。

上手に部下を動かすこと、一体感を作ること、メンバーを成長させること、できる人材を育てること……多くの人は明確に答えられないのではないかと思います。実際、私がそのように質問しても、ふわっとした意見が返ってくることが多いと感じています。

部長・課長クラス向けのセミナーなどで、参加者に個人的なミッションを尋ねると、明確に答えられる人はほとんどいません。出てくる答えも、「組織マネジメントです」「部下を管理して動かすことです」などと紋切り型の答えばかり。

マネジャー自身が、何ができたら成功かがよくわかっていないため、結果として、始終指示を出す、会議で突っ込みを入れるといった行動に終始してしまうのです。

■最高のマネジャーは「邪魔をしない」

私の考えているマネジャーの仕事はシンプルです。チームに与えられたミッションを、チームで達成すること。これだけです。

ところが、マネジャーやリーダーになると突然、「あれもできなければいけない」「これもできなければいけない」と、まるでスーパーマンのような働きを考えてしまいます。

石倉秀明『これからのマネジャーは邪魔をしない。』(フォレスト出版)
石倉秀明『これからのマネジャーは邪魔をしない。』(フォレスト出版)

メンバーをまとめて、モチベーションを上げて、部下を動かし、成果が出なければ叱咤激励(しったげきれい)して、評価もしっかりできて、人を育てる……。昨日まで自分がやるべき仕事をしていて評価された人が、マネジャーやリーダーになったからといって急に全部できるはずがありません。

もちろん、チームのミッションの達成のためには、メンバーが育っている必要がありますし、仕組みも整えないといけません。やるべきことも多いでしょう。ただ、マネジャーやリーダーがまずやるべきは、本当の仕事をしっかりと因数分解して、明確にすることではないでしょうか。

その意味で、本質的には、「ミッションの達成だけがマネジャーやリーダーの責任であり、その実現に向けてメンバーへの働きかけをする」ということがマネジャーの仕事なのです。

極端に言えば、最初からミッションが実現できるチームであれば、これといってメンバーに働きかける必要はありません。邪魔をせずに、チームの動きを見守っていればいいのです。

■たかが会社…

マネジャーやリーダーのポジションにあって苦しんでいる人の多くは、「過剰な理想」とのギャップに苦しんでいます。

会社とは、事業や目的があり、それを達成するために人々が集まっている集団にすぎません。それなのに、「自己実現の場が必要ではないか」「家族的な集団が理想なのではないか」などと余計なことを考え、いろいろな意味づけを与えすぎている……。

私がよく言うのは「たかが会社」です。

「会社とはこうあるべき」「組織とはこうあるべき」という“べき論”を時折耳にしますが、組織は「組織」という人がいるわけではなく、「今いる人の集まり」でしかありません。「今いる人」が変われば、当然組織も変わる。それなのに、なぜあるべき理想像が限定されるのでしょうか。

私はとても不自然に感じます。

■好かれる<成果:マネジャーがやるべき「4つ」のこと

多くのマネジャーやリーダーが、メンバー全員ときちんと打ち解けないといけないという幻想にとらわれているように思います。もちろん、打ち解けられたほうがいいですが、それは本質ではありません。

もちろん、丁寧にコミュニケーションを取ったり、仕事のしやすい関係を築くために意識的に雑談を多くしたりするなどの配慮は必要でしょう。しかし、無理に「うまくチームをまとめよう」「皆に好かれよう」とする必要はないのです。

マネジャーやリーダーの本質的な仕事は「成果のマネジメント」です。チームのミッションや成果に責任を持つ立場ですので、その達成が第一義です。メンバーからどれだけ好かれていても、目標の未達が続いていれば、会社からすると意味がありません。

あくまで目標の達成のために、メンバーと円滑(えんかつ)コミュニケーションを取れたほうがいいですし、全員が働きやすいほうがいいというだけのことです。

そう考えると、マネジャー、リーダーの役割は、徹底的にシンプルでいい。具体的には次の4つだけです。

①目標を設定する
②各メンバーの権限を明確にする
③情報の透明性を高める
④「何を言っても大丈夫」という雰囲気を作る

業種などに関係なく、マネジャー・リーダーが考えるべきすべてのポイントはこれに集約されていると言っていいと思います。

■目標設定が力量のすべて

マネジャーのミッションは、あくまで「チームに与えられたミッションを、チームで達成すること」。そのために各人に与えられている役割を、全員が全うできるようにサポートすることです。

その実現には具体的かつ適切な目標を設定しなければなりません。結果の評価にばかり目が行きがちですが、マネジャーにとって「目標設定のスキル」のほうが何倍も大切です。

目標が明確でないのに、結果を評価することはできません。その人に合わせた適切な目標を設定できるかどうかはマネジャーの力量にかかっています。

たとえば、普通にやれば余裕で達成できる目標を設定し続けても成長しません。逆に高すぎても、未達が続き、メンバーのモチベーションが下がるだけです。

その人が頑張れる方向で、実際に頑張ったら手が届くくらいの目標を設定しないといけません。しかも、事業内容やチームの方針と紐(ひも)づいている絶妙な目標を設定する。つまり、「その人がやりたいこと」だけではなく、「会社としてやってもらわないといけないこと」もきちんと含めた目標です。

それをやっていないと、結果に対して「頑張った」「成長した」といった抽象的な評価になってしまいます。これが日本の会社における大きな問題点です。

■メンバーを自走させる仕組みを作る

リモートワークを導入すると、姿や仕事ぶりが見えないため「メンバーが主体的に動かなくなるのではないか」と心配される方が多いかもしれません。

オフィスで働いている時も「部下自身が主体性を持って、自分から動いてくれない」「指示待ちばかりで、自分で考えて仕事をしてくれない」などと嘆いている方がいます。それは主体性に対する勘違いです。

主体性というのは、個人ではなく組織に紐づいている、と私は考えます。

部下やメンバーが主体性を持って自発的に仕事をしてくれるかどうかは、その人個人の能力やモチベーションの問題というよりも、組織の仕組みの問題であることがほとんどです。つまり、会社組織やマネジメントする側が、部下やメンバーが主体的に動ける環境を作っているかのほうが重要なのです。

会議室のビジネスマンと同僚が歩く
写真=iStock.com/AzmanL
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanL

■メンバーが主体的に働き出すための条件

部下やメンバーに主体的に働いてもらうには、次の4条件が必要です。

①自走を可能にする情報が共有されていること
②自身の判断で動いていい権限を与えられていること
③自身が何をすべきか考える能力を備えていること
④失敗してもマイナス評価にならないこと

おわかりの通り、「自走する=主体性を持って仕事をする」ために必要なのは、ほとんどが組織側の問題なのです。本人に必要なのは、3つ目の考える能力のみ。

これにしても、本来は上司がきちんと教育できていればクリアできるので、やはり本人だけの問題ではないのです。

たとえば、新卒の社員に「企画を考えて」と言っても、基本的な考え方がわからないのに考えられるわけがありません。

ところが、「うちのメンバーは主体性がなくて……」という上司が必ずいます。それは社員やメンバーが主体性を持っていないのではなく、マネジャーやリーダーが主体性を発揮できないようにしていると考えるべきなのです。

■4条件なしに当事者意識は持てない

この4条件は、じつは「当事者意識を持つ」ための条件でもあります。

よく「仕事に対して、当事者意識を持とう」などと言われます。「意識」という言葉が入っているため、本人が主体的に備えないといけないもののように考えられがちですが、4条件がそろわないと「当事者」になどなれません。

たとえば、上司の中には「自分の仕事を奪いにこい」などと言う人がときどきいますが、少なくともその人と同じ権限と、知っている情報をすべて与えなければ不可能です。

当事者意識はマインドの問題と思われがちですが、会社の仕組みの問題です。メンバーが当事者になるための条件をしっかり整えなければなりません。自分が渡せる情報や権限はすべて渡して、各人の活動を見守ることが大切です。

それがうまくいけば、自分で考え、実行できる範囲も広がり、結果的に成果も出しやすくなりモチベーションが上がるような循環が生まれやすくなるかもしれません。

情報の透明性や明確な権限があれば、当事者として主体的に動く人も増えてくるはずです。ときにはメンバーが違う仕事のやり方を訴えてくる場合などもあるでしょう。その意見が真っ当であれば、本人のミッションは変わらないことを条件に任せてみるのもいいと思います。

■情報を透明にして不信感を防ぐ

次に透明性です。私が情報の透明性にこだわっている理由はいくつかあります。

ひとつには、チーム内に「疑心暗鬼」を生まないためです。とくにリモートワークの場合、上司やメンバーの物理的な姿が見えません。すると、自分がいないところで何かが相談されているのではないかなど、疑念を抱きやすくなります。簡単に言えば、会社の人間を信じられなくなるわけです。

それを避けるために、できる限りすべてをオープンにしていく必要があります。そのため、私たちキャスターは、個人情報と人事情報以外はすべてオープンにしています。全員の給与も、社員であれば自由に見られるようになっています。

参加したければ、役員会に参加することも自由です。役員会は基本的に月曜日に開いていますが、私のカレンダーがオープンになっているのでスケジュールを確認できますし、URLを記してあるので誰でも自由に入れます。

会社に対する余計な疑心暗鬼をなくし、メンバーが自走するために必要なすべての情報にアクセスできるようにしています。

■「いや、上が決めたから」は最悪

透明性にこだわるもうひとつの理由は、会社の方針やルールなどを定めた基準を明確にするためです。

社員が知りたいのは、役員が何らかの方針を決めたという事実ではなく、「なぜ」その方針にしたかです。

たとえば、役員が決めた内容を部長がメンバーに伝える時、「それはどうしてですか?」という質問に対して「いや、上が決めたから」という返答は最悪です。役員が会社の方針を決めた理由をきちんと伝えないと、部長は「自分は関係ない」というスタンスだと解釈され、メンバーもまたそうなります。

方針やルールに納得できていないと、どうしてもパフォーマンスに影響が出てしまうという社員は少なくないでしょう。給与にしても、金額に納得して働きたいはずです。

ですからキャスターでは、営業であれば標準給与はいくらで、目標を達成するといくら上がり、達成できないといくら下がるという給与のルールを明らかにしています。

そのルールを全員に公開し、納得したうえで働いてもらう。役員が好き勝手に会社を動かしているわけではないことを示し、余計な不信感を抱かせないためにも、情報の透明性は非常に重要なのです。

■「人」ではなく「役割」を育てる

私がよく言う考え方に「役割を育てる」というものがあります。新規採用をするにしても、今いるメンバーの部署配置を考えるにしても、人ありきではなく、役割ありきで考えます。

多くの会社は、最初に人があり、何らかの役割を預けるというやり方になっているのではないでしょうか。

一方、キャスターではまったく逆で、まずは役割があり、それに対する報酬を設定し、最後に誰にやってもらうかを決めるという考え方をしています。

役割を起点に考えると、週3回の勤務でもいい、業務委託でもいい、リモートでもいいなど、働き方は柔軟に考えられるようになります。もちろん役割から考えてフルタイムである必要があるという結論になることもありますが、どちらにしても多様な人材を受け入れやすくなります。

■差別を乗り越えるための「ジョブ型」

この考え方は一般的には「ジョブ型」と呼ばれています。役割に着目した働き方で、人事コンサルティング会社の世界的大手であるヘイコンサルティンググループの創設者が提唱しました。

本社はアメリカにあり、もともとは人種差別の撤廃を目的にした考え方です。現在も黒人に対する差別が問題になっていますが、当時は採用においても人種による明確な差別があったそうです。特にメンバーシップ型の考え方、つまり「人を選ぶ」という発想だとどうしても不利になってしまう人が出てきてしまいます。

そこで、求められる役割を果たせる人材を選ぶようにする。すると、人種に関係なく役割に合った人を選ぶようになり、結果的に多様な人がそれぞれの役割を持って働ける社会になっていきますし、社会はそうならないといけない。そういう理念をもとにした考え方なのです。

ビジネスにおける人間関係のイメージ
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

ジョブ型の考え方を実現するには、会社が役割を育てないといけません。また、役割を育てていくためには、会社や事業そのものが成長していかないといけませんし、仕事の構成や業務フローなどを柔軟に変えていく必要があります。

そうして「任せたい役割」がどんどん増えていくと、多様な人材が集まる会社へと変貌(へんぼう)を遂(と)げていくのです。

■「会社に必要な役割は何か?」から始めよう

マネジメントとして着手すべきは、役割ごとの目標を明確に定めることです。何がミッションで、何をしてほしいのかを役割ごとに定めてください。

それがないと、誰をどこに配置すべきかわかりません。また、その配置が合っているのかもわからないでしょう。マネジメントとして何を求めるのか、その役割は社員でなければならないのか、フリーランスがいいのかなども決まりません。

人材の配置は「今いる人に何をしてもらうか?」から始まることが多いのですが、「会社に必要な役割は何か?」から始めるといいでしょう。「人ありき」ではなく、「必要な役割ありき」で考えるわけです。とくにいま漠然と何らかの役割を担っている人については、きちんと再定義してあげないといけません。

ただし、それぞれの役割を定義していった結果、人材が余っていることに気づく可能性があります。その場合は役割を分散したり、新しいことにチャレンジしたりするなど、臨機応変に対応してください。

メンバーの役割を決めるには、会社の事業や戦略の見直しが必要です。現在の事業でどのくらいの目標があり、今後はどう成長したいのか、どう事業を展開していくのかなどを明確にしないと、必要な役割も見えてきません。

逆に考えると、役割が見えてこないのは、会社の方向性や戦略など、会社にとって最も重要なところが決まっていないからです。当然ですが、それらは社員が考えるものではなく、経営者やリーダーが担うべき大切な仕事なのです。

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石倉 秀明(いしくら・ひであき)
キャスター取締役COO
1982年生まれ。群馬県出身。株式会社リクルートHRマーケティング、株式会社リブセンス事業責任者、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)EC事業本部営業責任者、新規事業・採用責任者を経て、現職。キャスターは、700人以上のメンバーがほぼ全員リモートワークで働く、日本では断トツNO.1、世界的にもほぼ最大級の会社。2019年7月より「bosyu」の新規事業責任者も兼任し、個人が誰でも自分の「しごと」を作り出し、自由に働ける社会を作ることにも挑戦している。著書には『コミュ力なんていらない──人間関係がラクになる空気を読まない仕事術』(マガジンハウス)、『会社には行かない──6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』(CCCメディアハウス)、『これからのマネジャーは邪魔をしない。──多様な働き方時代のマネジメント・シフト』(フォレスト出版)がある。

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(キャスター取締役COO 石倉 秀明)

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