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「日本円暴落の前触れだ」空前の株高に金融のプロが抱く"強烈な違和感"

プレジデントオンライン / 2021年4月4日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pleasureofart

空前の株高が続いている。これは喜ばしいことなのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「コロナ収束を織り込んでいるのだろう。だが、いまの日銀には景気の過熱を抑える手段がない。米長期金利が上昇を続ければ『日本売り』が始まる。株高を喜んではいられない」という――。

■すでに米長期金利の上昇が始まっている

私が昨年書いた本3冊(3冊目は今年になってから発売)すべてに「日本のXデー(=日本売り)を見極めるためには、米長期金利の動向に注意せよ」と書いてきた。そしてこの1~2カ月、まだ穏やかであるものの、その米長期金利の上昇が始まっている。ゆえに私は身構えている。

ワクチン接種が進み、経済回復が見込まれるのが米長期金利上昇の最大の理由だ。市場の人間の常識からすれば、景気が良くなれば、長期金利が上昇(=国債価格は下落)する。景気が良くなると、事業が成功する可能性は高くなる。だから人々は安い金利のお金を借りて事業を行おうとする。

好景気はインフレをもたらす。モノの需要が供給より大きくなりがちだからだ。インフレ下では借金をしていると有利。返済する元利金は名目では同額でも、実質で考えると負担減となるからでもある。借金をする人が増えれば金利は上昇する。

さらにコロナ禍で各国が財政出動を推し進め、その原資である国債を中央銀行が買いまくっている。この行為により世の中にお金がジャブジャブになっているのだから、単なる景気回復以上の金利上昇圧力を市場が織り込んでいくのも納得だ。このインフレ予兆は長期債市場だけでなく貴金属、石油、銅等の原材料、半導体やコンテナ料金の市場からも読み取れることができる。

要はワクチン接種による景気回復を予知し、財政出動でお金ジャブジャブの状態をも反映しての長期金利上昇なのだ。この兆しは、ワクチン接種が順調に進み、かつ更なる財政出動で財政肥大化が懸念される米国で顕著に表れている。他国にとっては経済にとってマイナス要因の石油価格上昇も、世界最大のエネルギー輸出国の米国にとっては景気押し上げ要因として働こう。

■「史上最高の株価」と「史上最低の金利」は両立しない

現在、景気回復と、お金がジャブジャブな状況を反映して、世界中で株価が史上最高値圏にある。それなら低金利しか得られない長期国債投資には魅力がないはずだ。だから債券価格は史上最低レベルであってもおかしくない。価格と金利はコインの裏表の関係であるから、長期金利は史上最高圏でもおかしくないということだ。

ところが現在の米国の10年もの金利はたったの1.7%。シミのようだ。1980年の20%超え、リーマン・ショック直前の2008年8月の11%と比べてもあまりにも低い。まだかなりの上昇余地があると思われる。

「史上最高圏の株価」と「市場最高圏の国債価格(=史上最低の金利レベル)」は市場原理が働いていれば具現するはずはない。現在の珍現象は世界の中央銀行が長期国債市場に介入したがゆえに起きている。現在の市場には、市場原理が働いていないのだ。

かつての中央銀行は長期国債など購入していなかった。中央銀行の責務の最大のものは通貨の安定だ。30万円の給料をもらっても通貨価値の下落で、1万円分しかモノやサービスが買えなくなったら国民生活がなりたたない。

このため中央銀行は、財務状況の劣化を引き起こし通貨の信用を失墜させかねない金融商品、すなわち価格が大きく上下する株や長期債を購入しなかったのだ。それが鉄則だった。

株価と長期国債価格のいびつな関係は、その鉄則を中央銀行が破ったがゆえに生じた。そして、中央銀行にとって幸いなことは、(日本を中心として)「中央銀行が国債価格をコントロールできる」との幻想に惑わされている経験不足の投資家が存在したことにより、何とか今まで持続してきた。

日本銀行
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

■景気が回復していけば、いつか長期金利は上がっていく

私が銀行員だった1990年代までは「短期金利は中央銀行、長期金利はマーケットが決める」が市場人間の常識だった。ビジネススクールでもそう習った。建前はともかく、本音ベースでは、今でも世界の中央銀行マンの認識だと思う。

日銀も2016年11月まで「教えて! にちぎん」という一般国民向けのホームページに「中央銀行は長期金利を思いのままに動かせない」と書いていた。それなのに、突然「長期金利はコントロールできる」と書き換えたのだ。異次元緩和で長期国債を爆買いし始めたこととの整合性を懸念したに過ぎないと思う。

たしかに日銀のように他の中央銀行とは桁違いの爆買いを行えば、長期金利をゼロ%に押さえ込むことがしばらくの期間出来る、しかしばら撒いた金を回収できず、後にハイパーインフレを引き起こした歴史から日銀以外の中央銀行はそこまでは踏み込まないし、今後も踏み込まないだろう。

そうであれば「景気回復&お金がジャブジャブ」というファンダメンタルによる金利上昇を中央銀行の国債爆買いという需要増で押さえ込むこむことなど無理だ。世界の中央銀行マンたちはそれがわかっている。だから国債購入増強などの施策は、口には出しても、実行はしないだろう。

たしかに今現在、米国ではパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長やイエレン財務長官の発言があるたびに長期金利上昇は一時的に止まる。彼らは、何かの施策を期待している国債保有者の期待に働きかけているのだ。

しかし為替介入と同様、長期金利を抑えようという施策は「抜かずの宝刀」にすぎない。一度抜いてしまえば、それ以降、効果が全くなくなるだろう。それがわかっているがゆえに中央銀行は何もしないと私は思う。

■日銀は引き締めができないから、株価はどんどん上がる

藤巻健史『藤巻健史の資産運用大全』(幻冬舎新書)
藤巻健史『藤巻健史の資産運用大全』(幻冬舎新書)

1985年から1990年のバブルとその崩壊に見るまでもなく、株価の暴落には中央銀行の金融引き締めへの転換が決定的な影響を与える。しかしながら、日銀は金融引き締めを未来永劫できない。前回の拙稿にも書いた通り、引き締めれば、国債価格の暴落により、保有国債に大きな評価損が生じ、日銀自身が債務超過に陥り、自身が存続の危機を迎えてしまうからだ。

他国では、ファンダメンタルズを反映して長期金利が上昇する一方、日本では、日銀が、自身の存亡をかけて長期金利を抑え込めば、日米長期金利差は拡大する。それを反映してドル/円は大幅に上昇するだろう。字数の関係で、その理由はまたの機会に譲りたい。または『藤巻健史の資産運用大全』(幻冬舎新書)をご参照いただきたい。

長期金利が日銀により抑え込まれ、かつ円安/ドル高が進むなら、米国長期金利が上昇したとしても、日経平均はそれなりに上昇を継続するのかもしれない。

■日銀にはインフレを抑え込む手段が残されていない

しかしながら、円安・ドル高が進行すれば、日本の景気は上昇し、インフレも加速していく。万が一、円安を反映して日本株が高いままで推移していけば、バブル期同様、資産効果(資産を持っている人が金持ちになったつもりで消費を増やす。それを見て株価がさらに上昇するという好循環)が景気をさらに押し上げるだろう。

そうなるといくら日銀が円の長期金利を抑え込もうとしても長期金利は上昇せざるを得ない。要は他国の長期金利が上昇しているとき、日本の金利だけが、その流れに逆らうことなど無理な話なのだ。日銀が日本国債の現物市場でモンスターであっても現物債より大きな先物市場が存在するからだ。

先物市場では現物を持っていなくても先物市場で売り込むことができる。また、いまだ発行済国債の半分は民間が保有している。国債村の住人は倒産が怖いから、そういう事態に陥れば、先を争って売却を図るだろう。

日銀は、たとえ長期金利の上昇を抑えこめたとしても、過熱してくる景気を鎮静化するために、短期政策金利を引き上げざるを得ない。長期債の爆買いを継続することによって日銀当座預金残高が膨れ上がる。日銀当座預金への付利金利引き上げが日銀に残された唯一の短期政策金利引きあげ策だが、そんなことをしたら、莫大なる損の垂れ流しだ。日銀は途端に債務超過に陥る。

黒田日銀総裁は、当時参院議員だった私の質問に対する答弁で、「一時的だが」との断りをつけたものの、「日銀が債務超過になる可能性がある」ことを認められた。ただ、私には一時的で終わる理由がまったくわからない。

■欧米金融機関には「日銀も倒産する」という前提がある

短期政策金利を引き上げて日銀が債務超過になった時はもちろん、長期金利の上昇で保有国債に巨大な評価損が生じ債務超過になった時も日銀と円の危機が発生する。それはさらなる債券の暴落と、それまで順調に上昇してきたとしても日本株が大暴落することを意味する。

株式市場の暴落を示すチャート
写真=iStock.com/_ultraforma_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/_ultraforma_

私の国会での質問に対し、黒田日銀総裁は「日銀は償却原価法という簿価会計を採用しているから、評価損の計上はない」と答弁された。また「債務超過は一時的だ」ともおっしゃった。後者に関して、黒田総裁の頭には政府の損失補填があるのだろう。

私が、邦銀からJPモルガンに転職したとき、驚いたことがある。邦銀では少なくとも先進7カ国(G7)の政府や中央銀行とは青天井で取引ができた。しかしJPモルガンでは「G7の政府や日銀といえども倒産する」との前提の下で取引枠が設けられていたのだ。

さらに転職直後、本店の審査部が「短資業者は財務基盤が弱い」との理由で取引枠の大幅削減を指示してきたのだ。当時は、短期の余剰資金は短資業者を介して他行に貸し出すという仕組みであり、短資業者との取引縮小、または廃止は日本からの撤退を意味する。「短資業者の信用が問題になるはずがない」との日本人の常識は欧米人の常識ではなかったのだ。

終身雇用制まっさかりの時に反対を押し切って米銀に移ったのに、撤退されたら路頭に迷うと必死で反論した。短資業者なくして日本では金融業は行えない。有事の時は政府・日銀が必ず短資業者を守る。守らなければ金融システムが即日、崩壊すると主張したのだが、本店審査部は聞く耳を持たなかった。彼らには審査のプロとしての矜持があり、自分の審査にミスがあれば審査マンとしてのキャリアが終わるからだ。

結局はすったもんだの挙句、何とか取引枠は維持されたが、私はこの時、本店審査部のシビアさを感じとったものだ。その後のJPモルガン勤務時代の15年間、株主を守るために取引相手の信用審査が極めて厳しいことを身をもって感じとった。

■そして日本円の価値暴落が起きる

そのシビアな審査部が、まさか前世紀の遺物である簿価会計で日銀を審査するとは思えない。日銀が「簿価会計で会計を行っている」といっても審査するほうは、自分自身の基準で審査をする。

ましてや債務超過に落ちた日銀を、日銀自身が国債購入で刷り出したお金で、政府が日銀に資金補填したところで、日銀に十分な信用力ありとの判断をするとは到底思えない。「なんじゃそれ?」の世界である。

約束手形というブツの交換は手形交換所で行われていても、その資金の決済は日銀当座預金を通じて行われる。国債取引の決済もドル円取引の円決済もすべてが日銀当座預金を通して行われる。この認識は重要だ。

外資が日銀との取引を辞める、すなわち日銀当座預金を廃するとは日本からの総撤退を意味する。

ドル/円でいえば、外資はドルを取引相手に渡しても、(日銀当座預金勘定がないのだから)円を受け取る手段がない。対価を受け取れないのにドルを売ってくれるはずがないのだ。日本はドルの調達手段を失う。それは円の地方通貨化を意味し、価値暴落(=ハイパーインフレ)を招く。

■自分自身で自分と家族を守れ

以上が「米国のさらなる長期金利上昇」が「日本売り」を誘発するメカニズムだ。

この危機を全く認識していないのか、認識していても打つ手がないから放置しているのか知らないが、政治は全くこの点に触れない。放漫財政でここまで赤字をため、かつ危機を先延ばしにしてきた政治の無策を被るのがまっぴらなら、自分で自分を守る術を考えねばならない。

国際通貨基金(IMF)によると、21年の一般政府債務残高の対国内総生産(GDP)比は日本258.7%、米国132.5%、ドイツ69.9%で、日本は世界ダントツの悪さだ。税収はほぼGDPに比例するから、日本はもはや税収で借金を返済することは無理なのだ。この数字が意味することは重い。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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