「結婚退職しか道がない」佳子さまの歌に込められた"女性皇族"の苦しさ
プレジデントオンライン / 2021年3月31日 15時15分
■自由を詠んだ歌だが、同時に切なくもなった
皇室の恒例行事である「歌会始の儀」が3月26日、2カ月遅れで開かれた。お題は「実」。天皇陛下は「人々の願ひと努力が実を結び平らけき世の至るを祈る」、皇后雅子さまは「感染の収まりゆくをひた願ひ出で立つ園に梅の実あをし」。お二人とも、新型コロナウイルスの収束を願う気持ちを詠んだ。国民の気持ちと重なる歌なのだが、それよりも注目されたのが秋篠宮家の長女眞子さまの歌だった。
「良き便り」または「誠実」だという烏瓜の花言葉に「深まる秋」などを重ね、小室圭さんへの愛や結婚を読み解く。そんな記事が多かった。コロナ禍で国民と直接触れ合えない皇室にあって、小室さんだけが消費される。それが昨今の「国民と皇室」のリアルなのかもしれない。
他方で、秋篠宮家の次女佳子さまはこう詠んでいる。
歌については全くの素人だが、一読して、自由を詠んだ歌だと思った。そこに佳子さまの強さを見て、同時に切なくもなった。長く皇室をウオッチしてきたからだ。
■「幼い頃は手紙にスマイルの絵を描いてくれた」
歌から浮かぶのは、綿毛がフワフワと舞っている光景。が、単に舞っているのではない。「実を割りて」「空へと飛ばす」という行為の結果、舞っている。意思を持って行動する。それが佳子さまで、空とは自由の象徴。だから、この歌は自由を求める意思の表れ。そういう歌で「歌会始」の勝負に出る。佳子さま、なんて凛々しいんだ。私はそう受け止めた。
私の“佳子さま贔屓”の始まりは2014年12月、成年を迎えるにあたっての記者会見で、佳子さまが紀子さまをかばったのだ。質問は、「ご家族はそれぞれ、どのような存在ですか」。無難な答え方もあったはずだが、佳子さまはまず秋篠宮さまについて語り、それから紀子さまについてこう語った。
「母は、週刊誌などではさまざまな取り上げ方をされているようですが、娘の私から見ると、非常に優しく前向きで明るい人だと感じることが多くございます。幼い頃は手紙にスマイルの絵を描いてくれたことが、よく印象に残っています」。
■「姉の一個人としての希望がかなう形になってほしい」
秋篠宮家をめぐる報道がバッシング方向に傾いたのは、悠仁さまの誕生がきっかけだった。「天皇家の次男の家に、皇室で41年ぶりの男子誕生」という喜ばしくも複雑な事態にメディアが目をつけた。すっかりヒール役を背負わされていた紀子さまに対し、佳子さまは「報じられている母は違う」と反論した。それだけでなく、「スマイルの絵の描かれた手紙」という根拠も示した。論理的で強い、それが佳子さまだと心に刻んだ。
2019年3月、国際基督教大学を卒業するにあたっても、佳子さまは強さを存分に示した。記者からの質問への文書回答で、眞子さまの結婚について「私は、結婚においては当人の気持ちが重要であると考えています。ですので、姉の一個人としての希望がかなう形になってほしいと思っています」と言い切った。さすが、佳子さま。
もう一つ、強さがにじんだ回答がある。質問は「結婚の時期や、理想の男性像についてどのようにお考えでしょうか。お相手はいらっしゃいますか」。回答を全文紹介する。
ここで言う「以前」とは、2014年の会見のこと。「理想の男性のことは、前に答えました」と念を押した上で、「相手」についての質問は「今後も含め答えない」とした。これは佳子さまによる「プライバシーの権利宣言」。そうとらえたのは、佳子さまの伯母にあたる黒田清子さんの紀宮さま時代を知っているからだ。
■天皇家のイメージではない「フィギュアスケート」「ダンス」
紀宮さまは36歳で結婚したが、成人して最初の記者会見以来、ずっと「結婚」について聞かれた。具体的な言及はせず、ユーモアに包んだ回答をし続けた紀宮さまだが、結婚報道が加熱した時には苦情をにじませた。
それでも質問は続き、紀宮さまは律儀に答えた。記者には「内親王の結婚は、国民の知るべき情報」という思いがあり、紀宮さまもそれを否定しきれなかった。昭和生まれの紀宮さまと、平成生まれの佳子さま。時代の差を勘案しても「宣言」はすごいことだし、強い人だと再認識した。
佳子さまが「次男の次女」であることが大きいと思う。伸び伸びと育てられた「次男」を父に、「天皇の初孫」である姉の次に生まれた。その「特権」を十分にいかし、「天皇家らしく」という束縛をあまり感じずに大人になっていったのだろう。そもそも学習院初等科2年生で始めたフィギュアスケートも天皇家のイメージではないスポーツだし、そこから「ダンス」を選ぶのは自然なことだったろう。
![氷上のアイススケーター](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/0/670/img_c00d43afaa68d81bd68f5fd8a22a33c4192592.jpg)
■「皇族らしくない」だけでは、本当の自由は得られない
だが「次男の次女」の天然さだけでは、佳子さまは語れないと思う。いつからかはわからないが、自覚的に「自由」を志向した。背景にあるのが芯の強さで、その発露が二度にわたる記者への回答だったと思う。
そして2021年の歌会始、佳子さまは「空」を目指す綿毛を詠んだ。それは意志の表明であると同時に、コロナ禍で鬱屈とした国民の思いも重ねている。みんな、空へ飛びたいんだ。そんな深読みをしたのは、“佳子さま贔屓”の私だけだろうか。
佳子さまは、どんな自由を望んでいるのだろう。「皇族らしくない」ことを選ぶ強さは身に付けている。が、それだけでは、本当の自由は得られない。そう考えると切なくもなる。
■しかも父は「家全体を考えなければならない立場」
この歌には、眞子さまを取り巻く不自由が大いに関係しているだろうと思う。2020年11月、眞子さまは小室さんとの結婚を強く望む文書を改めて発表した。それを踏まえ、秋篠宮さまも同月の会見で「結婚を認める」と述べた。が、同時に「結婚と婚約は違いますから」とも述べた。
この言葉を名古屋大学の河西秀哉准教授(歴史学)は、朝日新聞デジタル(12月1日)の記事で「苦しいジレンマを感じた」とコメントしている。
「眞子さまの父親である秋篠宮は、皇太子として生まれ育ったわけではなく、次男として非常にのびのびと育てられました。自分自身の結婚を含めて自由闊達に生きてきたし、そうしてきたという強い自負があると思います」
「しかし、気楽な次男坊だったはずが、皇室典範特例法で定められた『皇嗣』になってしまいます。皇室という『家全体』を考えなければならない立場に立つと、権威や体面、保守層との関係といったことを考慮せざるを得なくなったのでしょう」
![お祝いで旗を振る人々](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/5/670/img_a5c532061a933a8a080ebb7602cace03293448.jpg)
天皇陛下も21年2月、誕生日にあたっての会見で眞子さまの結婚について述べた。両親との話し合いを求め、「多くの人が納得し喜んでくれる状況」になることを願うという内容だったが、「遠ざかる結婚」などと報じられた。
佳子さまが使った言葉にならって、眞子さまを「一個人」として見れば、誰と結婚するのかは当人の自由に決まっている。だが、皇族の1人であり、しかも父は「家全体を考えなければならない立場」。それゆえの不自由さに眞子さまは、苦しんでいる。そこに追い討ちをかけているというべきか、そもそもというべきか、女性皇族という存在の曖昧さがあると思う。
■「結婚退職」が前提の職場に、愛情が持てるだろうか
女性皇族も公務をする。外国を訪問したり、式典で挨拶をしたり。だが皇室典範は、「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」と定めている。「公務」を女性皇族の「仕事」と見れば、これは「結婚退職」の明文化だと折に触れて書いてきた。結婚退職が前提の職場に、愛情が持てるだろうか、と。
しかも皇室という職場は、転職ができない。「天皇及び皇族以外の者と婚姻」することでしか辞められない。そんな職場に勤めることが義務付けられているのが女性皇族で、「一個人」として見るならば、あまりにも理不尽だと思う。
私は、眞子さまが結婚を強く望むのは、皇室から自由になりたいという気持ちがあるからだと思っている。なのに「多くの人が納得し喜んでくれる状況」が見通せず、その道もふさがれている。その苦しさを佳子さまも共有し、だからこそ「自由」を歌に詠んだ。そうだとすれば、すごく切ない話だ。
■彼女たちの人生とは、彼女たちの自由とは
そもそも女性皇族は何をするのかについて、誰かが真剣に考えた節がないのだ。美智子さまの薫陶を受け、極めて勤勉だった紀宮さまは山階鳥類研究所の非常勤職員(のちに非常勤研究員)でもあった。その姿は女性皇族のモデルになっている。たとえば眞子さまは、現在、日本工芸会総裁、日本テニス協会名誉総裁、東京大学総合研究博物館特任研究員を務めている。これは紀宮さま型の踏襲だろう。だが、佳子さまは総裁職についておらず、研究員もしていない。まさに、曖昧さの中にいる。
ところで、と言っていいのかどうか、政府による「安定的な皇位継承策」の検討がやっと始まった。「男系男子による継承」にこだわる安倍晋三さんが首相でなくなったところに元首相の森喜朗さんがいろいろ発言したからだろう、男女3人ずつのメンバーによる「有識者会議」が3月23日、初会合を開いた。3月24日の毎日新聞は「皇位継承資格を女性皇族に広げるかや、女性皇族が結婚後も皇室に残る『女性宮家』を認めるかなどが主な論点となる」(朝刊1面)と報じていた。
皇室のメンバーがどんどん減っている。その対策として女性皇族をどう考えるか。それが検討の趣旨だろう。だが、それだけでいいのだろうか。彼女たちの人生とは、彼女たちの自由とは、そういう視点がそこにあるだろうか。佳子さまが飛ばした綿毛は「空」に届くのか。議論の行方が心配でならない。
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コラムニスト
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。著書に『笑顔の雅子さま 生きづらさを超えて』『美智子さまという奇跡』『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』がある。
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(コラムニスト 矢部 万紀子)
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