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「女性に席を譲る気はない」初の女性副会長を登用した経団連のホンネ

プレジデントオンライン / 2021年4月1日 9時15分

オーナー会議後にオンラインで会見する議長の南場智子DeNAオーナー=2020年11月18日 - 写真=時事通信フォト

■「経団連史上初の女性副会長の誕生」は喜ばしいが…

企業に例えるなら、採用内定した新卒が入社と同時にいきなり取締役に就き、屋台骨を支えてきた筆頭副社長が顧問に退く。あたかもスタートアップ企業と見まがう、異例ずくめの人事が何と経団連の副会長人事で現実になった。前者は経団連史上初の女性副会長の誕生であり、後者は会長、副会長を輩出し続けてきた最強企業のトヨタ自動車が副会長ポストから外れるという一大事だ。

異例の人事は旧態依然で硬直化したままの経団連の人事構造を切り崩す一穴となるか注目もされているが、一方でこの異例人事こそ、地盤沈下が指摘されて久しい経団連のさらなる弱体化につながりかねない危うさも漂う。

経団連は3月8日の会長・副会長会議で、6月1日に開催する定時総会で選任される新任の副会長人事を内定した。新任7人のうち中西宏明会長(日立製作所会長)の肝いりの人事は、これまで経団連で一切活動実績がなかったディー・エヌ・エー(DeNA)の南場智子会長の登用だ。戦後発足した旧経団連(経済団体連合会)までさかのぼっても会長はおろか、副会長も男性ばかりで、南場氏の登用で初の女性副会長が誕生する。

■DeNAの正式加盟は、副会長人事発表の1週間前

安倍晋三前政権が掲げる女性活躍促進の政策に沿い、経団連は2030年までに企業の女性役員比率を30%以上にする目標を掲げてきた以上、建前としても首脳陣への女性起用を課題としてきた。

しかし、経団連の最高意思決定機関である会長・副会長会議の座を射止めるには経団連の活動で実績を積み上げなければならないのが大前提だ。しかも伝統的に「経団連銘柄」と揶揄される有力企業が指定席化しており、これらを押しのけて新参者が副会長ポストに座るのは至難の業という以前に、あり得ない話だった。

まして、DeNAは経団連に加盟しておらず、副会長に登用される資格はなかった。

それを可能としたのは、中西会長が南場氏を説得し、副会長人事の内定を発表する3月8日の直前の3月1日にDeNAが経団連に正式加盟するという「裏技」を使って初の女性副会長の誕生にこぎ着けた。

■南場氏の就任に伴い、副会長は18人から20人に増員

南場氏については榊原定征前会長当時から白羽の矢を立て、副会長就任を打診してきたとされる。しかし、南場氏はIT企業などの存在感が薄い現状に「経団連は本当に経済界を代表する気があるのか」との疑問を呈し、再三の要請を断ってきた経緯があった。

経団連ビル
写真=iStock.com/JHVEPhoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JHVEPhoto

それだけに南場氏の副会長起用は、新卒の入社内定者を入社と同時に取締役に起用したとの例えがまさに当てはまる。経団連はこれに併せて、定時総会で副会長枠を18人から20人への増員を決める。

初の女性副会長の誕生は、ジェンダー・アンバランス(男女格差)を是正する潮流が世界的に広がる中で、一見すると女性が超えられそうで超えられない「ガラスの天井」を打ち破ったと捉える向きもいるだろう。

しかし、経団連の首脳陣は大企業の社長、会長が就く不文律から、これまで男性オンリーの選択肢しかなく、そもそもジェンダー・アンバランスの改善とは無縁な世界だった。それに今回決まった副会長の増枠を併せて考えれば、ジェンダー・アンバランスを是正するなどと、そんな高い次元で捉えることはできない。

■女性活躍促進に応える「特別枠」にしか見えない

中西会長は南場氏の起用について「アイデアや発信力には感銘している。副会長になってもらえることは誠に幸いだ」と自らの人選を自画自賛する。しかし、ジェンダー・バランスで最後進国に位置する日本の現状を踏まえれば、女性副会長は経団連としては女性活躍促進、ダイバーシティ・アンド・インクルージョン(多様性と受容性)の要請に応える「特別枠」としか見えない。

この点について、中西会長は新任副会長を内定した後の3月8日のオンラインによる定例記者会見で、「ダイバーシティ・アンド・インクルージョンを実現するには社会の仕組みを変えることにまでさかのぼって、相当強く意識して取り組まなければならない。経団連の会長・副会長についてもこれは課題と認識している」と語っており、この点を意識した人事であることは疑いようがない。

しかし、硬直化したままの会長・副会長ら首脳陣の構成に関しては、中西会長は決して伝統を破ることに前向きとは言えない。だから、結局は、「広く経済界の声を経団連活動に反映させていく必要があり、各業界を代表するような企業のトップが就任することは維持しつつ、その上で何ができるか引き続き検討したい」と言葉を濁らせるしかなかった。

■新任副会長は日本を代表する製造業大手トップがずらり

経団連の正式名称は日本経済団体連合会であり、文字通り加盟する業界団体からの代表者で首脳陣は構成される。重厚長大型の製造業を中心に組織された経済団体という経緯もあり、その枠はおのずと「指定席」で埋まる。

実際、6月の定時総会で選任される新任の副会長の顔ぶれをみれば、それは明らかだ。新任副会長に内定した南場氏と経団連の事務方トップである久保田政一事務総長を除く5人は、いずれも日本を代表する製造業大手のトップのオンパレードだ。

列挙すれば、三菱電機の棚山正樹会長、日立製作所の東原敏昭社長、日本製鉄の橋本英二社長、パナソニックの津賀一宏社長、住友化学の岩田圭一社長。このうち三菱電機、日本製鉄の両社は任期(2期・4年)を満了して退任する、同じ出身企業からの横滑り人事だ。

■新任副会長に中西会長と同じ日立の東原社長を起用

さらに、ここで気になるのは、新任副会長に中西会長の出身企業である日立の東原社長を起用した点で、「同一企業から正副会長を出すのはいかがなものか」(経団連関係者)といった指摘も挙がる。

3月9日付の日本経済新聞は、中西会長は「自身の補佐役としての活躍を期待する」としているものの、「自身の代行とすることは否定した」とわざわざ報じた。

新任副会長に内定した常連の三菱電機の棚山会長と、久々の復帰となるパナソニックの津賀社長は、日立と同じ電機業界の代表だ。病気療養を繰り返す中西会長は6月で任期(2期・4年)の第4コーナーに入るのを前に「あと1年強の任期を完遂したい」と語っており、この点で自らの支配力を固めたとの観測も広がる。

しかし、初の女性副会長の誕生、“身内”の電機業界で固めた副会長人事以上に、経団連にとって一大事なのはトヨタの存在とその処遇だ。

■自動車業界を代表する人物が座る副会長ポストは消滅

内定した人事に伴い副会長を務めているトヨタの早川茂副会長は6月の定時総会で退任し、会長への助言機関である審議員会の副議長に転じる。

中西会長自らが語っているように、通常なら各業界を代表する企業のトップが副会長のポストに就く。ところが早川氏が退任した後に、トヨタ、言い換えれば自動車業界を代表する人物が座る副会長ポストは消えてしまう。

自動車業界はコロナ禍に見舞われている今の日本経済にあって、名実ともに「ジャパン・ブランド」を代表する産業として牽引役を果たしている。日本経済を支える自動車業界の代表が経団連の意思決定から抜ける事態はまさに前代未聞といわざるを得ない。

早川氏が新たに就く審議員会の副議長のポストはこれまで、将来の副会長に向けた登竜門とされてきた。通常なら副会長からそんな格下に転じることはない。それでもあえてこのポストで「残留」させた早川氏のこの処遇は、経団連にとってトヨタという企業の存在の重みと自動車業界への配慮から取り繕った人事にも映る。

新しいトヨタの車両
写真=iStock.com/tomeng
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tomeng

■「トヨタが経団連に距離を置き始めたのでは」

トヨタはかたくなに中央財界での活動を拒んできたものの、1984年に豊田英二氏(当時・トヨタ自動車会長)が旧経団連の副会長に就いてから経団連での活動を本格化した。それ以降、トヨタは新旧経団連で最重要な地位を占めてきた。

1994年には豊田章一郎会長(当時)が経団連の会長に就任し、2002年に経団連と日経連が合併して誕生した現在の経団連の初代会長には奥田碩会長(同)が就き、経団連には「なんでもトヨタ」といったトヨタ頼みの時代は続いた。

その後も副会長ポストはトヨタの指定席であり続けた。

それが今回の副会長人事でトヨタは初めて経団連の会長・副会長ポストから外れた。これによって、「トヨタが経団連に距離を置き始めたのでは」との見方も広がる。

■「経団連の常識は日本の社会一般には通じない」との酷評も

経団連は早川氏の後任をトヨタ側に求めたものの、トヨタは副会長候補を出さなかったとされる。その意図は定かでないにしても、これによってトヨタの現職社長である豊田章男氏への経団連会長待望論も薄れざるを得ない。

良くも悪くも「財界総本山」とされてきた経団連の首脳人事は確かに民間経済、とりわけ「経団連銘柄」とされる大企業にとっては、いわば「名誉職」であり、今もって最大の関心事なのかもしれない。

しかし、「経団連の常識は日本の社会一般には通じない」との酷評は一向に拭えていない。内定した副会長人事にしても、いまや上場企業に強く求められるガバナンス(統治)の視点からすれば不透明極まりなく、ようやくたどり着けた初の女性副会長の誕生もくすむばかりだ。

(経済ジャーナリスト 水月 仁史)

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