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「これは若さの搾取だ」時給555円の底辺ホストはコロナ禍で歌舞伎町から消えた

プレジデントオンライン / 2021年4月8日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ParfonovaIuliia

男性従業員が女性客を接待する「ホストクラブ」。そこで働く男性=ホストは、さまざまなメディアで「大金が稼げる」というイメージが強調される。しかし、それは一面にすぎない。歌舞伎町で幅広い人脈を持つ大学生の佐々木チワワ(@chiwawa_sasaki)さんが、「底辺ホスト」の懐事情を取材した――。

■下位のホストは普通のサラリーマン以下の収入

豪華な店内で繰り広げられる、派手なシャンパンコール。数百万、数千万円単位で貢がれることもある「ホスト」とはどのような存在なのか。

年間2億円超を売り上げるなど、年収が億レベルのホストがいる一方、大半のホストの売り上げは月100万円に満たない。収入は歩合制のため、下位のホストは普通の会社員以下の収入で暮らすことになる。

昨年の2月、筆者が歌舞伎町で取材相手のホストを探している時、ツイッターに一通のDMが届いた。

「僕、歌舞伎町で一番貧乏なホストの自信があります」

Aさんは、ホストとしての営業を終えた後、路上で弾き語りをするという。興味を持った私は、深夜営業の珈琲店で話を聞くことにした。

Aさんは茨城県出身の23歳。高校を卒業後、4年間地元のパチンコ店に正社員として勤務。「音楽を演奏できるバーを開業したい」という夢を諦められず、接客業を勉強しながら資金作りをできるという理由でホストに転身。上京してホストを始めて4カ月になる。

最初の面接先としてなんとなく選んだ店舗でそのまま入店を決めた。オフの日は歌舞伎町の路上で弾き語りもする。それも、歌舞伎町で自分のネームバリューを作るためだ。歌舞伎町の顔になれば、ホストでの売り上げがついてくると考えた。「今はブランディング重視で活動している」と話す。

■手取りはたったの10万円

4カ月間の勤務で客を呼べた回数はわずか3回。1カ月に1本あるかないかだ。そのうち1人は弾き語りをしていたら知り合い、来店してくれた客である。

売り上げはほぼゼロなので、給料は基本給だけだ。2020年1月の給与明細を見せてもらった。基本給与は17万円ほど。そこから4万円の寮費と、5000円の交際費(グループのレクリエーション時の積立金)と厚生費、遅刻罰金を引かれ、手取りは10万円ほど。後述するように、ホストの契約は「個人事業主」であるため、ここから所得税と社会保険を支払わなければいけない。

ホストクラブにおける「厚生費」とは何なのか。疑問に思って聞くと、「僕も具体的には知らないです。気にならないと言えばうそになるんですけど。気にしなくなるほど稼げばいいんじゃないか! っていう発想転換してます」と言う。細かいことは気にしない性格のようだ。

指名をもらえないホストは店の掃除をすることになっている。だいたいの日が掃除組のAさんは17時半から店に出勤し、店の掃除をする。店が終わるのは25時。単純計算で営業日の24日間7.5時間労働すると、180時間は月に働いていることとなる。時給換算で555円。東京都の最低賃金の約半分しかもらっていないのだ。

「やっぱり、ホストをする上で身なりには気を使います。それは上司にも言われました。なので、毎月1万円ほどは服や靴に使っています。そこから家の借金返済に月5万円。アフターといって、お客の女の子に店の外でご飯をおごる分が月に2万円。残りを生活費に回しているので、貯金はほとんどありません。たまに弾き語りをしていると数百円~千円ほどのチップをくれる人もいるので、それを含めてなんとか生活しています」

■給料日前は小麦粉を水でこねて焼いたものを食べる

主食は2kg800円の格安米。給料日前はほとんどお金がなく、小麦粉を水でこねて焼いて食べたり、白米にソースをかけたりしているという。

Aさんのある日の食事。たまのぜいたくはフレンチトーストや目玉焼きだ。
Aさんのある日の食事。たまのぜいたくはフレンチトーストや目玉焼きだ。

「ホストの先輩にご飯に連れて行ってもらうのも苦手で。結果も出してないし、元をたどればお客の女の子が頑張ってつぎ込んだお金なので、僕に使ってもらっていいのかって……。」

これほど貧乏にもかかわらず、なぜ積極的に営業活動をしないのか。Aさんは、「ホスト=貢がせるみたいなイメージが強いじゃないですか。それが嫌で。来たいときにふらっと来てほしいんです。懐に余裕があるけど心に余裕がない。そんな人のストレス発散の1つとして使ってもらえればと思っています」と言う。

私はホスト遊びが好きだ。ホストクラブに通うのは、キラキラしている担当ホストの姿を見たいからである。彼のような、路上で簡単に会えてしまうホストには、「会うためのお金」は必要ない。ホストクラブの箱という特殊な環境で、よほど工夫を凝らしてお金を使う楽しさを提供しないと、彼は「無料で会えるラッキーなホスト」として認識されるだけにとどまるのではないかなと感じた。

■疑問の残るホストクラブのさまざまな「引かれ物」

前述の通り、Aさんは毎月ホストクラブに「厚生費」を払っている。その他のホストクラブでも、「雑費」「旅行積立金」などのさまざまな名目で給料から一定額が引かれることが多いようだ。

ホストの契約は「個人事業主」であり、社会保障はない。しかし、店側は頻繁に旅行やレクリエーションを企画し、帰属意識を高めていく。あるホストクラブの代表は「従業員が慢性的に不足しているのがホスト業界。店側はホストが辞めないようにさまざまな工夫をしている」と述べていた。

コロナ禍でもそうした「工夫」は目についた。店の代表がホストにご飯の差し入れをしたり、寮費を無料にするなどの対策だ。

■「目先のお金よりも経験を買いたい」

「自分のインフルエンス力がついてきたら、『会ってみたい』だけじゃなくて、『飲んでみたい』と思ってもらえるんじゃないかなと思っています」

両親ともに水商売経験者。夜の世界で「簡単に稼げる」とは思っていなかったが、自信はあった。しかし予想よりも売り上げが伸び悩んでいるのが現状だ。店舗のナンバーワンの売り上げは月400万~500万円前後。対してAさんの売り上げは月1万円で、ナンバーワンへの道のりは遠い。

売れたホストは大手店舗に移籍してしまうケースが多い。しかし、たとえ売れてもAさんは今の店舗を離れる気はない。

「現実は見つつも、夢を追いたいタイプなんで。今の店を、他の大手ほどじゃないにしても自分の力で大きくしたい。ホスト=怖い人っていうイメージを払拭(ふっしょく)してくれて下から意見を言いやすい今の店舗が好きなので、ここで頑張りたいです」

なんとなくで選んだ今の店舗だが、働いていくうちに愛着がわき、今では自分が売れることで店舗を大きくしていきたいという目標を持つまでに至ったそうだ。

たとえ昼の仕事でもっとお金をもらえても、バーの開業資金が貯まるまではホストを続けたいとAさんは話す。

「長いスパンでキャリアを考えているんです。目先のお金よりも経験を買いたいと思ってホストをしています」

低賃金で働くインターン大学生と同じような理論だが、彼にとってホストで働くということは給料以上の価値があるようだ。

■コロナ禍で窮地に追い込まれたホスト

筆者がAさんを取材したのは昨年2月のことである。その後、4月に発出された緊急事態宣言でホストクラブはどうなったのか。ほとんどの店舗は2週間ほどの休業状態を余儀なくされた。その後の5月には、17~22時に営業時間を変更する店、SNSでの宣伝は一切行わず、初回の客を禁止して売り上げを上げる店など、さまざまな対策がみられた。

Aさんの働くホストクラブも例外ではなく、2週間営業停止となった。その間の日給保証は支払われず、7000円×12日(営業日は週6日)の8万4000円相当の給与がもらえないという計算だ。Aさんは当時、「副業を始めようか本気で悩む」「腎臓1つ売ってこようと思います。冗談です(笑)」とこぼしていた。

そして2021年3月現在、Aさんの名前はホストクラブのHPに存在しない。

営業用のLINEは連絡がとれなくなっており、ツイッターのアカウントは消えていた。彼が街にいた痕跡はどこにもない。

Aさんとは今も連絡がとれない。もしこの記事を見たら、筆者か編集部まで連絡してほしい。

■居場所をなくした元ホストは「職歴なし学歴なし一文無し」

ホストは一見きらびやかな世界に見えて、その実、売り上げ至上主義の弱肉強食の世界だ。

「簡単に稼げる」時代はもう存在しない。ローランドによるホストブーム、SNSやYouTubeによるブランディング合戦。それに加えて基礎となる店内での接客。寮の提供やまかないの完備があるため、辛うじて生きることはできる。その環境が居心地がいいと感じる人もいるだろう。ただし、自分で売り上げを上げない限り永遠に賃金は上がらず、年を重ねるごとに若い新人が入ってきて売れない中年のホストの居場所はなくなっていく。そうして歌舞伎町から去らざるを得なくなる時、職歴なし学歴なし一文無しである可能性は低くはない。

一定期間の目標を定め、見切りをつける時期をきちんと見極めて働く。それが、歌舞伎町という街に若さと労働力だけを搾取されて終わってしまうことを防ぐ有効な手段なのではないだろうか。

深夜の歌舞伎町で弾き語りをするAさんの様子。4カ月続けた結果、路上に集う若者のほとんどと知り合いになったそうだ。
深夜の歌舞伎町で弾き語りをするAさんの様子。4カ月続けた結果、路上に集う若者のほとんどと知り合いになったそうだ。

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佐々木 チワワ(ささき・ちわわ)
大学生、ライター
2000年、東京生まれ。小学校から高校までを都内の一貫校で過ごす。窮屈な毎日に嫌気が差し、高校1年生の大みそかに初めて歌舞伎町に足を踏み入れる。以来、歌舞伎町で働く夜職の人々に惹かれ、自身も一通りの職種と幅広い夜遊びを経験。歌舞伎町で幅広い人脈を持ち、大学では繁華街の社会学を専攻している。『週刊SPA!』(扶桑社)、『実話ナックルズ』(大洋図書)で夜の街に関する記事を執筆。

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(大学生、ライター 佐々木 チワワ)

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