JTB、毎日新聞…コロナ減資による「大企業の中小企業化」は本当にアリなのか
プレジデントオンライン / 2021年4月2日 11時15分
■スカイマークの資本金は90億円から1億円に
著名企業が「減資」して「中小企業」になるというニュースが相次いでいる。格安航空会社のスカイマークが昨年12月に資本金を90億円から1億円に減らしたのに続き、毎日新聞社が3月末に、資本金を41億5000万円から1億円に減資、JTBも23億400万円から1億円に減資した。
通常、減資は業績悪化で繰越損失がたまった場合、資本金と相殺することで、その損失を消すために行われる。増資と組み合わせて「減増資」として行われることが多く、もともとの株主の持ち分を減らし、新規の株主が支配権を握って経営再建を進める手法としても使われる。
新型コロナウイルスの蔓延による経済停滞で、大打撃を被っているスカイマークやJTBは、大幅なリストラなどにも取り組んでおり、株主にも損失を負担してもらうという象徴的な意味もあるだろう。毎日新聞も長期低落傾向にあり、同社を傘下に持つ毎日新聞グループホールディングスの2020年3月期の最終損益は56億円の赤字だった。いずれも経営が大きくつまずいている状況にあるわけだ。
■資本金1億円以下なら「中小企業」になり節税できる
経営難に直面して「減資」する、というのは分かる。だが、なぜ「中小企業化」なのだろうか。
指摘されているのは、資本金が1億円以下になれば税法上の「中小企業」となり節税できる、というものだ。
税法上、中小企業扱いになるとさまざまな優遇措置が適用される。例えば、中小企業には、法人税の軽減税率が適用される。大企業の法人税率は一律23.2%だが、減資して中小企業になれば、800万円までの所得に対しては税率が15%に軽減される。もっとも800万円を超えた部分には23.2%の税率が適用されるから、収益規模の大きい企業には、それほど大きなメリットがあるわけではない。
一番大きいのは、中小企業化すると「外形標準課税」が適用されなくなることだろう。外形標準課税は、事業所の床面積や従業員数、資本金、付加価値などをベースに課税するもので、税引き前損益が赤字になったとしても、税金の支払いが生じる。つまり、一定の規模があれば、仮に損益が赤字でも、応分の負担をしてもらおうというのが外形標準課税なのだ。
つまり、減資によって中小企業化する企業は、大企業であるという体面を放り投げてでも、税金の支払いから逃れようとしている、と見られているのだ。
■シャープは1200億円の資本金を5億円に減資
こうした中小企業への優遇措置は、ベンチャー企業などの中小零細企業の税負担や税金の支払い事務を軽減することが狙いだ。本来、大企業が節税対策として1億円以下に減資することは想定していないのである。
かつて経営危機に直面したシャープが2015年に1200億円の資本金を1億円に減資しようと計画したことがあったが、世の中の強い批判を浴びて撤回、資本金を5億円にした例がある。今回は、新型コロナという突然の危機が企業社会全体を襲っていることもあってか、今のところ、あまり強い批判は起きていないように見える。
もともと株式を上場している企業ならば、1億円以下に減資すれば上場廃止になってしまう。そのため、そう簡単には減資に踏み切れない。
毎日新聞やJTBはもともと上場していない。しかし、社会的には大きな存在だ。JTBは大学生の人気就職先として常に上位を占めてきたし、毎日新聞は言論機関として、まさに「社会的存在」であることを自任してきた。それが仮に、税金を払わないために中小企業化するのだとしたら、許される話ではないだろう。
スカイマークは2020年春に再上場を申請していたが、それを取り下げていた。減資は、経営再建に向けて資本増強するためのステップと見ていいだろう。中小企業化は一時的なものということかもしれないが、将来、上場を目指す企業であり続けるならば「中小企業」になることが正しい道なのかは、議論があるだろう。
■企業規模の基準が「資本金だけ」というのはおかしい
株式会社は本来、社会的な存在として、大きな責任を負っている。ただ利益を上げるだけでなく、雇用を生み、社会に貢献する責務があるのだ。株主だけでなく、従業員や取引先、顧客など幅広いステークホルダーに貢献するのが社会的存在としての株式会社だ。当然、力に応じて税金を納めるのもその責任のひとつである。
個人会社ならともかく、税金を払わないためにルールの抜け道を使うというのは、それを選択した経営者も失格だろう。昨今は企業の社会的責任が改めて問われる世の中になっている。
![オフィス街](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/5/670/img_2552c4617e6aaee6971e2607ee218ba9457257.jpg)
もっとも、日本の税制や会社法制など制度にも問題がある。
まずは、税法が「中小企業」かどうかを判断する基準を資本金においていることだ。
いまやほとんどの人たちは会社の規模を考える時、資本金は見ていないに違いない。売り上げや従業員数などを判断基準にしているだろう。上場企業でも株式を時価で発行して資金調達する方法が当たり前になっており、資本金はあまり意味を持たなくなっている。
機関投資家なども、資本剰余金や利益剰余金を加えた「資本の部」全体がどれぐらいの規模かを注目する。日本企業は内部留保をため込み過ぎだ、と批判されるが、その際に内部留保として見られるのは利益剰余金のことだ。企業規模を測る際には、資本金ではなく、利益剰余金なども加えた資本全体で考えるべきだろう。
■株式会社の位置付けも、上場/非上場の区分も不明確な日本
ちなみに、欧州では資本の部がマイナスになる「債務超過」になると企業は倒産状態とみなされる。経営者は企業を存続させるために、必死に資本の出し手を探し、増資を引き受けてもらう。
ところが日本企業の場合、会社が倒産するかどうかは資本の多寡ではなく、銀行が資金を貸し続けるかどうかにかかっている。債務超過になっても金融機関などが支え続ければ、企業は倒産しない。
株式会社の位置付けも不明確だ。会社法の改正で資本金1円、株主1人でも株式会社を設立することができるようになったので、ごく小規模の個人会社も町の商店も、軒並み株式会社になった。
上場企業と非上場企業の法体系も明確に区分されていない。このため、大企業でも非公開会社のところが少なくなく、社債でも出さない限り、有価証券報告書など詳細な財務諸表を出す義務もない。つまり、社会的存在として重要性が増している企業にもかかわらず、あたかも個人企業のような法規制の下に安住している企業があるわけだ。
![夜の東京と一万円札](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/9/670/img_39917baf8c9e3ec4b8dc7c99c5a8e299536005.jpg)
■増資も同時に行い、経営再建に取り組むのが筋だ
今回、資本金だけを変えて中小企業になりすまし、社会的責任から逃れようとしていると疑われるような企業が相次いで出てきたことは、そうした法の不備を示しているわけだ。
さらに、企業は誰のものなのか、自分の会社はどんな責任を負っているのかを、経営者が真剣に考えていないことが、図らずも露呈した、ということだろう。
そうはいっても背に腹はかえられない、税金でも何でも社外流出を削らなければ会社が潰れてしまう、綺麗事は言っていられないのだ、と経営者は言うかもしれない。新型コロナの影響はそれほどに大きいのだ、と。
それならば、減資だけでなく、合わせて増資もきちんと行い、資本を増強して、経営再建に取り組むのが筋だろう。
万が一、誰も増資に応じてくれないのだとすれば、もはやその会社は社会的に存在意義を失っているということになるだろう。あるいは、経営を再建する方策を示し、自社の存在価値を社会に示すことができない経営者の能力欠如を示している、と言っても過言ではない。著名企業の減資・中小企業化問題は、会社の社会的責任とは何なのかという根本的な問いだといえる。
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経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)
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