「総務相のNTT接待は氷山の一角」既得権益と族議員という"昭和の癒着"の残念さ
プレジデントオンライン / 2021年4月3日 11時15分
■週刊文春が会食の事実を報じると、あっさりと“自白”
放送事業会社「東北新社」に勤めていた菅義偉首相の長男が、総務省の幹部を接待していた問題は、総務省と通信・放送業界の“癒着”を浮き彫りにした。週刊文春が東北新社の次に「接待問題」を報じたのは、業界のガリバー・NTTだった。
ただ、問題は一段落したとの見方もある。NTTのある幹部はこう胸をなでおろす。
「現職の武田(良太)総務相も弊社の澤田(純)社長と会食していたことが明らかになった。これで社長のクビが飛ぶことはもうないだろう」
武田総務相は澤田氏との会食について、一貫して「個別の案件への発言は差し控える」としてきた。だが3月17日に『週刊文春』が会食の事実を報じると、3月18日の衆院総務委員会であっさり事実を認めた。
一方、NTTの澤田社長は、「上場企業の社長がどなたと会食したか否かを公開すると事業に影響がある」として、武田総務相をかばい続けた。武田氏が会食の事実を先に“自白”したことで、澤田氏は武田氏に結果的に“貸し”を作る結果となった。
■総務省は通信・放送各社に広範な許認可権を握っている
武田総務相は同じ自民党の麻生太郎副総理から「質問も答弁も全く同じ。いい加減にしろと言おうかと思った」と苦言を呈されるなど、与党内からも言動を問題視されている。自民党幹部はこう話す。
「早くこの問題を幕引きさせないと武田氏本人どころか、総務相時代の菅首相も追及されかねない。政権を守るためにも、このタイミングで問題を収束させないとまずい」
NTTとしては菅政権から澤田氏の社長解任を迫られるという最悪の事態は避けられそうだ。しかし、総務省ナンバー2で、次の次官候補と言われていた谷脇泰彦・総務審議官ら、同省幹部たちを大量に更迭しただけでは、この総務省と通信・放送業界の“癒着”の構図は解消しない。問題の根底には、総務省が通信・放送各社に広範な許認可権を握っている事実があるからだ。
■「NTT法の存在」はNTTにとって大きな足かせ
NTTは、国が株式の3分の1以上を持つことがNTT法で規定されている。NTT法の範囲は首脳の人事権にまで及ぶ。さらに普及中の5Gや次期6Gの周波数割り当ての許認可権も同省が一手に握っている。NTTは総務省を批判できる立場にはない。批判できないとすれば、接待を重ねて懐柔するしかない。
澤田社長は「『One NTT』として世界で戦う」「強いNTTを復活させる」と公言している。だが、現実には新たな事業を展開するたびに総務省にお伺いを立てなければいけない、このNTT法の存在は、海外の巨大IT企業に対抗するうえで大きな足かせになる。
澤田氏は社長就任後、総務省との折衝を重ね、強いNTTの復活に向けた動きを加速させている。例えば、地方の過疎地にも都市部と同様の通信サービスを提供する「ユニバーサルサービス」の問題がある。
携帯電話の普及で固定電話の契約者数は下がり続けているが、NTT東西会社は事業継続を義務付けられている。年間数百億円の赤字が出ているため、NTTは過疎地の固定電話を無線などで代用できるよう同サービスの規制緩和を求めた。
このNTTの求めに応じて総務省は全国で提供すべき同サービスの範囲の見直しを開始、19年10月には義務緩和を認める報告書をまとめ、昨年6月にはNTT法が改正された。
■料金引き下げと引き換えに、ドコモの完全子会社化を黙認か
さらに、大きな案件が「スマホ料金の値下げ」と「NTTドコモの買収」だ。
官房長官だった菅首相が18年8月の講演で「携帯料金は4割下げる余地があるのでは」と言及したのを機に、総務省は料金値下げの研究会を設置し、谷脇氏がその旗振り役になった。その結果、NTTドコモは料金引き下げを打ち出し、昨年末には従来水準より6割安い新プラン「アハモ」を発表した。
この時期にNTTはドコモの子会社化を水面下で進めた。昨年9月にNTTはドコモの完全子会社化を表明するが、『週刊文春』は谷脇審議官との接待があったのはその2カ月ほど前だったと報じている。
総務省は1985年のNTTの分割民営化以来、NTTの市場支配力の肥大化を抑えてきた。ドコモの完全子会社化は総務省の意向には沿わないが、「料金引き下げと引き換えに、ドコモの完全子会社化を総務省が黙認した」との見方が根強い。いずれにしろ、日本では行政に市場をコントロールする権限がある。
一方、米国の構造は異なる。
■オークションなら7兆円以上が「国庫」に入る計算
米国では無線免許の交付などは競売(オークション)で決まる。3月には5Gのミッドバンド(3.5GHz)の無線免許を巡り、米ベライゾン・コミュニケーションズとAT&Tが一騎打ちを演じた。この結果、22年から利用できるA枠をベライゾンが4兆8000億円で、23年まで待つB/C枠をAT&Tが2兆5000億円で買い取ることが決まった。こうした巨額の免許料は国庫に入り、さまざまな行政サービスに活用されることになる。
![オークションに群がるバイヤーたち](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/c/670/img_6c9a08066666807ad82a0b109a22bbe1250734.jpg)
オークションが導入されて以降、免許料は高騰しており、米国内でも民間企業の経営を圧迫しすぎているとの批判はある。だが、こうしたやりとりは透明性が高い。日本のように通信業者の生命線となる無線免許が、不透明な行政手続きの中で恣意(しい)的に割り当てられることはない。
所管企業の生殺与奪の権利をもつ中央官庁は、総務省だけではない。国土交通省は「羽田空港の発着枠」という権限で航空業界をコントロールしている、また厚生労働省は「薬価」を決める権限で製薬業界を抑え込んでいる。
■国交省は「8.10ペーパー」でANAを側面支援
2010年に経営破綻し、民主党政権下で日本航空(JAL)は再建を果たした。その後、自由民主党が政権を奪取すると、自民党は全日本空輸(ANA)の経営を後押しする。
台頭する韓国やシンガポールなどの国際ハブ空港競争を勝ち取るために羽田空港は国際線を増やした。羽田からニューヨークやロンドンなどへの直行便は「いい時間帯に羽田枠を取れるか取れないかで1便につき年間10億円単位で収益が変わってくる」(航空関係者)と言われる。
![2012年12月4日、羽田空港に日本航空の飛行機とJALエクスプレスの飛行機が並ぶ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/c/670/img_2c3d419b7f47be9343e9c9a93863de43417696.jpg)
JALは3500億円もの公的資金の投入など国の支援を受けて再生したが、ANAに対して国交省は羽田空港の発着枠を多く割くことで支援した。たとえば2014年春に運用を開始した羽田国際線発着枠はANA11便に対して、JAL5便だった。さらに国交省は2012年に「日本航空の企業再生への対応について」と題する文書(いわゆる「8.10ペーパー」)を示し、JALの新規投資や路線の開設を抑制し、事実上ANAの側面支援を行ってきた。
■「自民党の票田である開業医を守るため、薬価が低い」
日本の薬価も不透明だとの指摘が多い。保険適用となる医療用医薬品については全国一律の公定価格である薬価が定められる。新薬の薬価設定には、「類似薬効比較方式」と「原価計算方式」の2つの方式があり、既存の新薬と類似性のある新薬を開発する場合は、前者の方式を、類似性がなければ後者の原価計算方式が採用される。
しかし、「画期性」「有用性」「市場性」という加算項目は不透明で、厚労省の恣意的な判断が影響する余地がある。製薬会社の原価構成など情報開示の程度に応じて、薬価も増減が決まるインセンティブも導入されたが、どの程度の情報開示をすべきかは製薬会社の判断にゆだねられている。
薬価を巡っては「自民党の票田である開業医を守るために、画期的な新薬を開発しても薬価が低くなり、価格が抑えられ、製薬会社の努力が報われない」(大手製薬会社幹部)という批判は根強い。
■「既得権益」を打破する制度設計を急げ
これらは一例にすぎない。総務省、国交省、厚労省に限らず、規制官庁にはさまざま「権益」があり、それは一部の「族議員」と結託することで既得権益化し、民間企業の新規事業や開発力をそいできた。こうした既得権益を打破し、企業のイノベーションを促進するには、オークションをはじめとする透明性確保の施策を導入するべきだ。
昨年、米スタンフォード大学のポール・ミルグロム教授とロバート・ウィルソン名誉教授は「オークション理論の発展」でノーベル経済学賞を受賞した。米国は1994年にいろいろな種類の周波数免許を売る周波数オークションを始めたが、これより前にニュージーランドで実施された周波数オークションは、設計に失敗し望ましい結果が得られなかった。そこで制度設計に携わったミルグロムとウィルソンの両氏は、すべての競り上げが止まるまではどのオークションも開きっぱなしにする「同時競り上げ式」という新方式を開発し、13年までに8兆円を超す収益を国庫にもたらした。
オークション設計の理論構築も進んできている。官民の不透明な関係を解消し、民間の活力を引き出すためにも総務省をはじめとした規制官庁の権益を打破する制度設計が急がれている。
(プレジデントオンライン編集部)
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