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田端信太郎「見込みのない部下は育てるより、取り替えたほうがいい」

プレジデントオンライン / 2021年4月12日 9時15分

「田端大学」塾長の田端信太郎さん - 撮影=榊智朗

部下が育たない時には、どうすればいいのか。LINE執行役員、ZOZOコミュニケーション室長などを務めた田端信太郎氏は「部下全員が育つわけがない。芽の出そうな部下を選別して育てたほうがいい」という――。

※本稿は、田端信太郎『部下を育ててはいけない』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■長期雇用・年功序列・緊密な職場関係は崩れた

現代のリーダーは、さまざまな仕事を抱えて本当に忙しい。

なかでも悩ましいのが「部下が育たない」ことだ。上からは「部下を育てろ」と言われるが、なかなかうまくいかないことも多い。

このような状況に対して、「自分の教え方に問題があるのだろうか? リーダーに向いていないのかもしれない」と自分を責める人がいるかもしれない。しかし今や、「若い部下が育たない」のは職場環境の変化によるところが大きい、という見方が一般的である。

その背景にあるのが、「長期雇用」「年功序列」「緊密な職場関係」の3つが崩れたことだ。

長期雇用であれば、人はすぐに結果が出なくとも長い目で見てもらうことができるし、多少の失敗なら許される。年功序列なら上司の背中を見て、上司と同じような生き方をすれは自然と出世できる。人間関係が緊密な職場なら、上司と先輩が部下と長い時間を一緒に過ごすことになる。

これだけの環境が整っていれば、わざわざ時間と労力をかけて育てなくても、人は自然と育っていくものだ。今やほぼ何の役にも立たない人事部主催の研修がかつては機能しているように見えたのも、それが役に立っていたわけではなく、人が勝手に育っていたからだ。もちろんその人たちが全員、どんな会社でもずば抜けた結果を出せる超優秀な人材に育つかというとそうではないが、少なくともその企業が必要とする人材は育っていた。

■「部下を育てる」=「組織の目標達成」ではない

ところが、今では「長期雇用」「年功序列」「緊密な場関係」の3点セットは絵にかいた餅になってしまった。企業に人を長期間雇用する余裕がなくなれば、人を育てる余裕がなくなるのも当然のことだ。

ましてや人材が多様化し、かつての日本企業にあった「正社員の育て方」「男性社員、女性社員の育て方」などといった杓子定規のマニュアル的な手法が通用するはずもない。このような状況下では、いくら上から「人を育てろ」と言われたところで、「部下が育つ」ことはあり得ない。

そしてそもそも、「部下を育てる」ことと、「組織の目標を達成する」ことは短期的にはトレードオフの関係にあり、両立しにくい。

「部下を育てる」のには時間も手間もかかる。にもかかわらず、リーダーが上の指示に従って「部下を育てる」ことに多くの時間を割く。その結果として、部下は多少育ったかもしれないけれど、組織目標は達成できなかったとしたら、会社が「君は目標は未達だったが、部下を育てたのでよしとしよう」と言うかと言えば、それはもちろんNOである。

こうした状況におけるリーダーとしての正しい選択は、「自分の限りある時間をある程度割いてでも指導する価値がある人間か否かを選別して、その価値のある人間だけを育てる」ことだと私は考える。

■意欲のない部下を育てるのは時間の無駄

日本語で「学習」を示す単語、「エデュケーション」と「ラーニング」の違いは、「エデュケーション」は教える方が主語になるのに対し、「ラーニング」は教わる方の生徒が主体になる。ビジネスにおいて、「導管モデル」(学習とは「有能な人」から「有能でない人」に対する情報の「伝達」によって起こされる)という言い方があるように「エデュケーション」も全否定はしないが、リーダーが限りある時間を使って「育てる」とすれば、指示待ち型の人間ではなく、主体的に学ぼうという姿勢を持った人間だけを選別して育てる方が、はるかに効率的だ。

ソフトバンクホークス監督の工藤公康さんが「教えることなんてできない。本人にその気がなければ何を言っても同じです」と言っていたが、これはビジネスパーソンも同様だ。自ら学ぶ意欲のない部下を育てようというのははっきり言って時間の無駄。リーダーに求められているのは部下を育てること以上に、チームで成果を出すことだ。そのための「手段の1つ」として「部下を育てる」という方法があり、どうしても育てなければならないとしたら、主体的に学ぶ意欲のある部下だけを選別して、集中的に指導する方がいい。

チームワーク
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■「指示待ち部下」には異動してもらえばいい

「育てる価値がある部下を選別する」というと、「日本では簡単に社員をクビにすることはできない」と反論する人がいる。あるいは、「与えられた戦力を駆使してチームで成果を上げてこそ本物のリーダーである」という言い方をする人もいる。

たしかに、人材をクビにするにはある程度の制約がある。しかし一方で、「部署を異動させる」「転勤させる」などということは日本企業でも当たり前に行われている。育つ見込みが薄い人材を組織から退場させることは難しいとしても、組織内で人材を取り替えることは可能なのである。

それでは、「与えられた戦力を駆使してチームで成果を上げる」ことについてはどうだろうか。

企業が全社員を「自分で考えて動く人間」だけで揃えられるかというと、それは不可能だ。当然、社員の中にも1から10まで指示が必要な人種もいて、指示待ち社員を「自分で考えて動ける」ようにするまで指導する労力を考えたら、そんなことに貴重な時間を使うよりも選別して、できればさっさと出ていってもらって、リーダーがいちいち指示を出さなくとも自分で考えて動くことのできる人間を採用しなおした方がはるかにいいのではないだろうか。

「指示待ち部下」を「自分で考えて動く部下」にするというのは、それくらい難しい。そこに時間を割くくらいなら、指示待ち型人間でもやっていける部署に異動してもらう。あるいは、その人が自らの手で他社という新天地を探した方が本人のためにもなるし、ひいてはチームのためにもなる。

■社員の1/3をリストラしたNetflixの成功

動画配信大手のNetflix(ネットフリックス)がかつて社員数120人だった頃、ネットバブルがはじけ、同社もそこまで優秀ではない40人の社員にクビを言い渡したことがある。実に社員の1/3もの大リストラだ。これは創業者のリード・ヘイスティングスにとっても辛い経験だった。しかし数カ月後、ヘイスティングスは80人の社員が熱に浮かされたように仕事に熱中しており、自分自身も会社へ行くのが楽しくて仕方がなくなっていることに気づいた。

たしかに社員が大勢辞めて「能力の総和」は減った。しかしその一方で、やる気に満ち溢れた人材ばかりで構成された組織に生まれ変わったことで、「能力の密度」が高まった。こうして、優秀な社員にとって会社はワクワクするし、刺激を受けるし、最高に楽しい環境に変わったのだという。それ以来、「チームにたとえ1人でもやる気がない人間がいると、全員のパフォーマンスが落ちてしまう」というのが、ヘイスティングスの信条になった。

■育たない部下は、芽の出る人材と取り替えればいい

人にはそれぞれに相応しい場所がある。向かない人を手塩にかけて育てるよりは、芽の出そうな部下を選別して育てる方がいい。無能を並にするには、一流を超一流にするよりはるかに多くのエネルギーを要するが、それによって得られる果実は少ないのだ。

田端信太郎『部下を育ててはいけない』(SB新書)
田端信太郎『部下を育ててはいけない』(SB新書)

そもそも「部下を育てる」というのは、生まれたばかりの赤ん坊を育てるとか、植物を育てるのとはわけが違う。「育てる」というと、じっくり相手と向き合うイメージがあるが、指示待ち型の部下ならともかく、自分で考え動くことのできる部下であれば、教えるというよりも「育つ環境」を用意して「その人物の潜在能力を引き出す」ことが大事になる。

チームで目標達成するために、「部下」が成果を上げるうえでのボトルネックになっているなら、部下を育てることが必要だ。しかし、育てることが無理な部下がいるなら、選別して芽の出そうな人材と取り替えればいい。そのうえで見込みのある部下には「環境」を用意する。そうすれば自分で考え動くことのできる部下は自分で育つことになるのである。

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田端 信太郎(たばた・しんたろう)
オンラインサロン「田端大学」塾長
1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げる。2005年、ライブドア入社、livedoorニュースを統括。2010年からコンデナスト・デジタルでVOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年NHN Japan(現LINE)執行役員に就任。その後、上級執行役員として法人ビジネスを担当し、2018年2月末に同社を退社。その後株式会社ZOZO、コミュニケーションデザイン室長に就任。2019年12月退任を発表。著書に『これからの会社員の教科書』『これからのお金の教科書』(SBクリエイティブ)、『ブランド人になれ!』(幻冬舎)他。

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(オンラインサロン「田端大学」塾長 田端 信太郎)

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