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「沖縄の基地問題は、私たち全員の問題だ」イェール大学に通う日本人学生の訴え

プレジデントオンライン / 2021年4月4日 11時15分

遺骨を探す具志堅隆松さん。小さな破片を見極めるため、75年間積もった腐葉土を素手で掘り起こす=2020年12月8日、沖縄県糸満市 - 写真=時事通信フォト

■なぜ沖縄では「基地問題」が連日報じられているのか

3月1日~6日、沖縄の遺骨収集家・具志堅隆松氏がハンガーストライキを決行した。戦没者の遺骨の混在が指摘される沖縄本島南部の土砂を辺野古新基地建設の埋め立てに用いる政府の方針に抗議をするためだ。

沖縄のメディアは具志堅氏周辺の動きを連日報道した。ハンガーストライキを開始したこと、戦争体験者が現場で激励したこと、具志堅氏が沖縄県庁で日本外国特派員協会のオンライン会見を受けたこと、最終日に玉城デニー県知事が現場を訪問したことなど、一挙手一投足が報じられた。

一方、ヤマト(※いわゆる日本「本土」のこと。植民地主義的な表現を避けるため、この記事では一貫して「ヤマト」という呼称を用いる)で生活するヤマトンチュ(ヤマトにルーツを持つ日本国民)は、このニュースを知らないのではないか。もしくは具志堅氏の訴えがこれほどまでに沖縄で注目を集めた理由がわからないのではないだろうか。

具志堅氏らの運動は、「沖縄という一地方の政治運動」として矮小化するべきものではない。もしそうなれば、沖縄とヤマトとの分断はますます深まる。私はそんな危機感に駆られ、沖縄県内外の知人に呼び掛けて「具志堅隆松さんのハンガーストライキに応答する若者緊急ステートメント」を出した。

本稿では私がこのステートメントを起草するに至った経緯をまとめつつ、特にヤマトで生活するヤマトンチュに向けて、具志堅氏のハンガーストライキの意味を解説したいと思う。

■60年間、遺骨・遺品収容を続けている人の言葉

私が沖縄に関する取り組みを始めたのは、2015年、高校の修学旅行で初めて沖縄を訪ねてからだ。恩師の紹介で、具志堅氏と同様に沖縄戦没者の遺骨・遺品を収容されている国吉勇氏の活動に出会った。国吉氏は6歳で沖縄戦を体験し、高校生の頃から60年間、遺骨・遺品収容を続けている。私が出会った時、国吉氏は現役で、毎日壕に入って収容活動をされていた。

これまで収容された推計十数万点の遺品を保管する私設の「戦争資料館」で、「戦後70年たっても、壕に入れば遺品は毎日出土し、遺骨も毎年数柱は出続ける」と話す国吉氏を前にして、私は沖縄戦の歴史に無知・無関心のまま、沖縄をリゾート地として消費する自分を恥じた。

筆者の小学校は広島に修学旅行に行ったが、その時はしっかり事前学習をし、「原爆の爪痕が残る場所に足を踏み入れるのだ」という心構えで現地に向かった。それなのに、なぜ高校生の私は、沖縄戦を看過して沖縄に行ってしまったのか。その反省から私は沖縄に繰り返し足を運び、国吉氏や他の戦争体験者からの聞き取りを行いつつ、国吉氏からお借りした遺品を全国で展示する活動を始めた。

■ヤマトのエゴによって沖縄が一方的に犠牲にされる

沖縄戦では、ヤマトが沖縄を「皇土防衛のための捨て石」として利用した。結果、大勢の沖縄住民が軍事動員された。地上戦が泥沼化すると、日本軍は住民虐殺・食糧強奪・壕追い出しに及び、住民の4人に1人が犠牲になった。

その後、「天皇メッセージ」によってヤマトの独立と引き換えに沖縄は米軍占領下に入り、沖縄への米軍基地の偏在が加速、現在も日本国内にある米軍専用施設の7割が沖縄に押しつけられている。その上、沖縄の民意に反した辺野古新基地建設が強行されている。

空から見る沖縄
写真=iStock.com/CatLane
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CatLane

沖縄の戦中・戦後史を通し、「ヤマトのエゴによって沖縄が一方的に犠牲にされる」という構造が温存されてきた。私はこの現象を「歴史的・構造的沖縄差別」と呼んでいる。

なぜヤマトは歴史的・構造的沖縄差別を現在まで続けてきたのか。戦争や基地の被害を直接作り出すのは軍や政府だが、私たちヤマトンチュの一人ひとりが歴史的・構造的沖縄差別の現実を避けているとはいえないか。「自分も沖縄に痛みを強いる構造の一端を担っているのではないか?」という当事者意識がないからこそ、現在も沖縄はヤマトの犠牲にされているのではないか――。

遺品展では、修学旅行時に私が自問自答した内容を観覧者にも問いかけながら、沖縄の戦中・戦後の歴史に無知・無関心であることの罪深さについて共に考え、議論するようにしている。それが歴史的・構造的沖縄差別の終焉に向けて、個人レベルでできる取り組みの第一歩だと考えるからだ。

■戦没者の遺骨を、新たな戦争につながる基地の「建材」に

そのような取り組みを行ってきた私にとって、具志堅氏のハンガーストライキは、「歴史的・構造的沖縄差別が現在進行形の問題である」という事実を改めて見せつけるものであった。

戦没者の遺骨を、新たな戦争につながる基地の「建材」として利用するという蛮行を行っているのは日本政府であり、それに対する責任は全国民が等しく負うべきはずだ。それにもかかわらず、私たちヤマトンチュはその問題自体に無関心である上、それを問題提起する負担さえ沖縄に押しつけている。

具志堅氏はこの問題を命懸けで訴えているが、ヤマトンチュはその抗議の声を無視・黙殺し、沖縄が犠牲にされる構造を温存してきた自分たちのあり方を反省すらしない。このままでは歴史的・構造的沖縄差別は永遠に解決できないのではないか。そう考え、私は「若者緊急ステートメント」を呼びかけた。

■全ての遺骨収集は非現実的だからこそ、考えるべきこと

「今回の件については、なんとしても止めたいんです。これは基地に賛成とか反対とか以前の、人道上の問題だと思ってます」

「若者緊急ステートメント」の冒頭で引用した具志堅氏の言葉だ。辺野古新基地建設への立場にかかわらず、「人として」考えるべき問題が土砂採取問題にはらまれているのだと、私たち呼び掛け人は考えている。それには4つの論点がある。

第一に、この問題は日本の戦後処理の全般的な不徹底さを突き付ける。国家が起こした戦争に巻き込まれて犠牲になった戦没者の遺骨を、新たな戦争を生み出す基地の「建材」として用いていいのか。この問題は、「戦後処理と開発をいかに両立させるか?」(例えば東京でも「東京大空襲の犠牲者の遺骨が混じった土を軽々に利用していいのか」という問題を議論すべきかもしれない)という、日本国民全員が考えるべき問題にもつながってくる。

むろん戦後75年が経過し、遺骨自体の風化が進んだ今、全戦没者の遺骨収集は非現実的だ。しかし、だからこそ、戦争犠牲者をどのように慰霊し、弔うべきなのか、遺族感情を中心に据えた議論が必要であるはずだ。国が一方的に「収骨できないから諦めろ」と言わんばかりの処遇をとることは、見逃してはいけない問題だと思う。

2017年3月24日、沖縄県糸満市の平和祈念公園内に設置されている慰霊碑
写真=iStock.com/Sean Pavone
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sean Pavone

■「戦没者の骨が混じり血や肉が染み込んだ土地」

ましてや今回、遺骨を材料に造られようとしているのは、新たな戦争を生み出しうる基地である。沖縄を捨て石にする地上戦で肉親を犠牲にされ、戦後も基地負担を押しつけられた沖縄の遺族が、現在の土砂採取計画に憤るのは当然ではないだろうか。そんな遺族の感情への想像力に欠ける政府の戦後処理のあり方は、もっと強く批判されなければならないように思う。

第二に、この問題は日本の戦争体験継承のあり方にも関わる問題である。埋め立てに使われうる土砂には、沖縄住民・日本兵のみならず、米兵や朝鮮人などさまざまな方々の遺骨が混在するとみられている。その背景には、先の戦争のもつ諸問題が凝縮されている。

具志堅氏は沖縄を「戦没者の骨が混じり血や肉が染み込んだ土地」と表現する。ここで具志堅氏が言おうとしているのは、戦後75年たっても、日常生活と沖縄戦の記憶とがいまだ不可分だということではないだろうか。90歳を超えた沖縄戦体験者がわざわざハンスト現場に足を運び、今回の土砂採取計画を批判したのも、沖縄戦の記憶の強さを象徴していると思う。

そのような土地の土砂を基地建設に用いることは、日本がそれほど重い記憶を持つ人々の存在を無視し、戦争体験を忘却しようとするような国だと国内外に示すことにならないだろうか。

■沖縄の問題ではなく、「日本という国のあり方」に関わる問題

第三に、現状の計画での土砂採取は、戦没者遺族が肉親を弔う権利を奪うという点で人権問題である。全体主義戦争で犠牲になった方々の遺骨を、遺族感情への配慮なく独断的に国策の道具にする権力の蛮行がまかり通るということは、あれほどの戦争の惨禍を経験してもなお日本社会に人権意識が根付いていないという現実を見せつける。

第四に、この問題は、日本では民主主義の原則すら守られていないことを象徴している。政府の土砂採取計画は、2016年に超党派の議員立法により全会一致で成立した戦没者遺骨収集推進法の精神に反するものだ。

同法は、「戦没者の遺族をはじめ今次の大戦を体験した国民の高齢化が進展している現状において、いまだ多くの戦没者の遺骨の収集が行われていないことに鑑み、戦没者の遺骨収集の推進に関し国の責務を明らかにする」との目的を示し、2024年までを「集中実施期間」と指定している。すなわち、国の責任で戦没者の遺骨収集を徹底することは国会を通して示された明白な民意であるはずだが、政府はその民意に逆行する土砂採取を強行しつつある。

2019年2月の住民投票で沖縄県民が辺野古新基地建設反対の民意を示した際、当時の岩屋毅防衛大臣は「沖縄には沖縄の当然民主主義があり、しかし、国には国の民主主義というものがある」という、地方自治の原則を完全否定した答弁を行った。辺野古新基地建設は、一貫して民主主義の原則に反した方法で強行されているのである。

以上4点から見えてくる通り、辺野古新基地建設の土砂採取問題は、決して「沖縄の問題」ではなく、「日本という国のあり方に関わる問題」なのである。

■無知・無関心の積み重ねが、政権の横暴を生み出してきた

従って、主権者である日本国民一人ひとりがこの問題に関心を持ち、権力側に問題提起をしていくべきである。人権や民主主義に対する配慮に欠く権力を放置することは、自らの首を絞めることになるはずだが、私たちヤマトンチュはこの問題に向き合う責任すら沖縄に押しつけている。

今回のステートメントで私たちが最も重視しているのは、「当事者意識を持って学び、議論する、開かれた場をつくること」である。決して辺野古新基地建設反対の立場を強いるものではないし、必ずしも何かしらの具体的な運動が「答え」として想定されていて、それを即座に行うことを求めるものでもない。

私たちが目指すのは、具志堅氏をはじめとする沖縄の方々が命懸けで行った問題提起に対し、「自分はその問題を作り出す一端を担っているのではないか」という当事者意識をもち、その問題解決のために何ができるか考え、対話するコミュニティを作ることである。

「若者緊急ステートメント」を出して約1カ月がたったが、残念ながらヤマトでの反応は乏しい。具体的な動きを起こせないという無力感にも駆られる。もっとヤマトのメディアが報道してくれれば、と恨みを言いたくなるときもある。

しかし、問われているのが戦後75年間継続した構造的問題だからこそ、拙速な結論を求めたくはないし、政権やメディアへの批判だけにとどめたくもない。ヤマトンチュ各人の沖縄に対する無知・無関心の歴史的な積み重ねが、政権の沖縄に対する横暴を生み出してきたと思うからだ。

■沖縄と本土の分断を埋めるために、やるべきこと

先日、今回のステートメントを読んだ関西の市民によるオンライン学習会があり、私はゲストとしてステートメントを出すに至った経緯を説明した。そのメンバーは必ずしも全員が沖縄をテーマに運動を行っているというわけではなかったが、具志堅氏のハンガーストライキが提起したのは日本社会全体の問題であるということ、その問題解決の責任は主権者である日本国民一人ひとりが負うべきであることは共通認識になったと思う。

参加者の一人は「土砂採取を中止するよう国および国会への意見書採択を求める陳情書」を大阪市議会に提出、全会派「引き続き審議」という結果に持ち込んだ。私も地元・茨木市で勉強会・陳情運動などを起こすべく、市議や労組関係者と調整中だ。

沖縄に対するこれまでの自分の無知・無関心を自覚し、自分の立場でできる動きを模索・共有する努力を一人ひとりが始めれば(もちろん、陳情を出すことが最善の応答だと言いたいわけではない)、沖縄と本土の間の分断も埋まり始めるのではないだろうか。

沖縄では再び飲食店などに対する営業時間短縮要請を含む緊急特別対策が出され、具志堅氏が4月に検討していた二度目のハンガーストライキは中止になった。現在、3月のハンガーストライキを行ったメンバーと「若者緊急ステートメント」呼び掛け人とが連携し、4月5日~9日の間、毎日午前10時~11時半に、具志堅氏や氏と共に活動する方々の声を全国にリアルタイムで発信するオンライン企画を実施する。

コロナで現場での運動ができないという苦境も、世代・ルーツ・居住地・政治的立場などの枠を越え、それぞれが現状の是正のために何ができるか考え始めるチャンスへと変えていくつもりだ。そうすることが、ヤマトンチュとしての自分の責任を果たし、具志堅氏をはじめとする沖縄の方々の思いに応答することにつながると思う。

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西尾 慧吾(にしお・けいご)
大学生
1998年生まれ。米イェール大学在籍。哲学・人類学専攻。2017年4月より沖縄戦遺骨収容国吉勇応援会・学生共同代表として、関西を中心に毎年10カ所程度沖縄戦遺品の展示会を開催する傍ら、国吉勇氏から遺品に関する聞き取りを進め、地上戦の「動かぬ証拠」としての遺品の活用・継承に取り組んできた。現在は「ヤマトにおける沖縄戦平和学習」の研究と実践に励む。

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(大学生 西尾 慧吾)

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