「なぜ受験勉強をしなければいけないか」橋下徹が出した納得の理由
プレジデントオンライン / 2021年4月16日 11時15分
※本稿は、橋下徹・堀江貴文『生き方革命 未知なる新時代の攻略法』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
■コロナ禍でさらに大学の意義が問われるようになった
大学のあり方に対して、疑問を抱く人が増えてきたように思う。
これまで日本の大学は、学問を学ぶところというより、企業に就職するためのチケットだとみなされてきた。高度経済成長期以来、良い大学を出て、良い会社に入るのは、安定した人生を送るための必須条件だと考えられてきたわけだが、もはやそうしたルートは安泰とは言えなくなった。
コロナ禍では、さらに大学の意義が問われることになった。多くの大学がオンライン講義に移行し、そのこと自体は評価されるべきだろう。
だが、オンライン講義をただ視聴しているだけなら、いまやインターネットにあふれている有名大学の無料講座や、それこそ大学での授業よりもよほどためになる動画を視聴することと変わらない。
インターネットでは無料なのに、大学のオンライン講義では通学の場合と同じだけ授業料を取るのはおかしいのではないか、そうした疑問の声も上がっている。
僕自身は、大学完全否定派ではない。理系の研究などは、オンライン授業だけでは実施できないだろうし、一部能力のある者はネットだけであらゆることをどんどん学ぶことができるだろうが、そうではない人が多くいるのも現実だ。
大学の質を高めることを前提として、大学で学びたいという者が、家庭の経済状況に左右されずに学べる環境を整えることが政治の使命だと考える。
だが、あらゆる人が大学に行くべきだとも思わない。
いまの日本の大学の状況をしっかり認識し、自分のどのような能力を伸ばすことができるのかをしっかり知ったうえで、大学進学を決めるべきだ。
■インターネットの世界であらゆる見解に触れたほうがよほどためになる
何かを研究したい人、特に理系分野であれば実験が必須だから、大学に進学して専門知識を習得するのは大いに意味があるだろう。
他方、文系の人、特に社会科学系の分野においては、先ほども言ったように、いまやインターネットの世界で知識めいた情報はあふれている。
いま、日本の大学、特に文系の領域では競争力がない。
いったん教授になれば定年までそのポストが保障されるような大学の世界で、教授たちの力が伸びるわけがない。すなわち日本の大学は流動性が低いので、大学自体の力も伸びないのだ。
教授自身の独善的・自己陶酔的な授業。サービスの受け手である学生から厳密な評価を受けない授業。こんなことで、授業自体の質が上がることなどない。教授側は、学生なんぞに自分の授業を評価されてたまるか、と思っているのだろうが、その結果、日本の大学の力が弱まった現実が見えていない。
ダメな教授はどんどん退出してもらう。生き残るために、教授自身にも必死に努力してもらい質を高めてもらう。そのためには「流動性」が必要だ。
いまの日本の大学は流動性が低い。
そんな大学の一教授の見解などあてにならない。インターネットの世界であらゆる見解に触れたほうがよほどためになる。
■大学に行く意義は「受験勉強を通じて事務処理能力を高めること」
では大学、特に文系の意義は何か?
僕は専門知識を習得するというより、受験勉強を通じて事務処理能力を高めることにつながるのではないかと思っている。
すべてだとは言わないが、僕の個人的経験では、高学歴の人はそれなりに事務処理能力が高い。
会議の内容を要領よくまとめて、文書を作成する。プロジェクトを遂行するためには何が必要か考えて、計画どおりに実行する。連絡網を作り、コミュニケーションが円滑に進むようにする。予算管理を適切に行う。
こうした事務処理能力は、一見すると地味だが、組織運営には欠かせない貴重な能力だ。これからはクリエイティブな発想が求められるとはよく言われることで、もちろん僕もそのとおりだと思う。事務処理能力を高めたところで創造力が高まることはない。
しかし、創造力だけを極めればいい一部の天才でもないかぎり、普通の人間にとって仕事を円滑に進めるうえで事務処理能力が必要となることも現実だ。
つまり事務処理能力もそれはそれでひとつの才能であることに間違いないのだ。
いまの大学入試、その前の高校入試で得る知識は、社会人になって役に立つことはほとんどない。ではなぜ受験勉強をするのか。
それは事務処理能力を高めるからだ。入試は、知識の量を問うというよりも事務処理能力を測っている。
受験勉強に長けているというのは、要領が良いということだ。試験に出そうなところを大まかに予測して、集中的に覚える。
覚え方にもコツがある。大きな流れをつかんで細かなことに進む。共通性をつかんで差異に注視する、など。
いずれにせよ受験戦争に勝ってきた者は事務処理能力が高いことが多い。
■日本の大学は教授の流動性を高めて力を付けるべきだ
大学の質がそれほど高いとは言えない日本の大学において文系分野を学ぶ意義も、当該分野の専門知識を学ぶというよりも、大学の単位を取ることで事務処理能力を高めることにあると言っても過言ではない。
司法試験も同じだ。司法試験で問われる知識など、法律実務家に必要な知識のほんのわずかな量だ。
だから司法試験で問われるのは知識というよりも、試験に必要な知識をいかに要領よく習得したか、またおよそ試験時間内で解くことなどできない問題量にいかに要領よく答えていくかの事務処理能力が問われているのだ。
そして事務処理能力があれば、のちに要領よく学んでいく力があるものと推定される。事務処理能力とは知識を得ることではなく、効率よく勉強する能力のことである。
ただし、難関の試験を突破した者のすべてが事務処理能力が高いということではない。それはあくまでも推定のことで、実際にはその能力が低い者もたくさんいる。
さらに、世の中でやっていくには事務処理能力だけでは不十分だ。アイデア、人間的コミュニケーション力、人間的魅力、世の中の甘いも酸いも知る経験、機転、度胸などなど、大学では学べないことが非常に重要になる。
これから大学で学ぼうとするにしても、このように大学で習得できることなど、世の中で必要なことのほんのわずかにすぎないことを十分に知っておくべきだ。ただし、だからといって完全に不要なものではないと思う。
日本の大学も、もっと教授の流動性を高めて力を付けて、世の中で通用する能力を学生に習得させてほしい。
いまのままの日本の大学で学んだ学生たちは、激しい競争にさらされるこれからの国際社会では通用しなくなると思う。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年、東京都生まれ。弁護士、政治評論家。2008年から大阪府知事、11年から大阪市長を歴任し、大阪都構想住民投票の実施や、行政組織・財政改革などを行う。15年に大阪市長を任期満了で退任。現在、テレビ出演、講演、執筆活動を中心に多方面で活動。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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