「日本で働くから英語は要らない…」これからノーチャンスになる人の根本的勘違い
プレジデントオンライン / 2021年4月10日 9時15分
※本稿は、野口悠紀雄『「超」英語独学法』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。
■ドメスチック派が幅を利かせた時代の終焉
ビジネスパーソンにとっての英語の重要性が高まっている。昇進のために英語を必要とする会社が増えているし、会議を英語で行ったり、社内公用語を英語にしたりする会社も増えている。中途採用の際に英語力を重視する会社も多い。
こうした状況は、従来の日本の会社の状況に比べると、大きな変化だ。
かつて、日本の企業や官庁などで幅をきかせていたのは、「マルドメ」(「まるでドメスチック」)派だった。伝統的な組織では、とくにそうだった。英語が必要なのはごく一部分の仕事だと考えられていた。
マルドメ派は、英語が話せる人間を、「英語だけはできるが、中身のないキザな奴」と言って目の敵(かたき)にする。だから、「英語が話せると肩身が狭い」という場合も多かった。それだけならまだよい。「英語屋」「国際派」とみなされて、本流から外されてしまうことまであった。
■インターネットで英語の重要性が決定的になった
こうした状況はしばらく前から大きく変わっている。どんな部署にいても英語が必要であり、英語ができないと仕事にならないという時代になった。つまり、日常の仕事で英語が必要な時代になった。
![野口悠紀雄『「超」英語独学法』(NHK出版新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/e/200/img_dea9ae8195018d932999551e70306687329303.jpg)
だから、「英語ができると出世街道から外れてしまう」のではなく、逆に、「英語ができないと出世街道から外れてしまう」時代になった。
もしあなたが勤めている会社が、「英語ができなくても構わない」という会社であれば、その会社には未来がないと言える。
インターネット時代には、英語の重要性は決定的になる。インターネットで海外から情報を収集するにも、メールで海外に向けて発信するにも、使われるのはほとんどの場合に英語だからである。
このような変化は、「在宅勤務」の広がりによってさらに加速するだろう。
■英語ができれば世界中どこでも仕事ができる
英語は、世界語だ。相手が国際的な仕事をしている人なら、どの国の人であっても、まず間違いなく英語で通じる。学者の場合に、英語が通じないということは、ほとんどない。世界経済圏が形成されつつあるが、そこでの共通言語は英語なのだ。この傾向は将来もっと顕著になるだろう。
このような傾向に対応して、世界の多くの国で、若い世代の英語力が高まっている。
たとえば、韓国では、若い世代で英語に堪能な人が非常に多くなった。そして、アメリカやカナダに進出して仕事をしている。
ロシア人の英語もうまくなった。昔のロシアのバレエダンサーは、英語が下手だった。1980年代までの世界では、人口1億人以上の国の国民は外国語が下手だった。人口が多いと、自国語だけで経済活動が成立してしまうため、外国語を学ぶ必要がなかったのだ。
しかし、いまのバレエダンサーは、外国語を自由に使いこなしている。そして、ロシア国内にとどまらず、外国のバレエ団で活躍するようになっている。
このロシアの状況は、外国語の必要性に関するかつての常識を覆している。ロシアだけではない。中国も変わってきている。東南アジアでも、英語で仕事ができる。
■大きく見劣りする「日本人の英語力」
世界のこうした変化に比べると、英語に関する日本の現状は、残念ながら大きく遅れている。英語を世界語としてコミュニケーションが行われるようになった世界で、日本は孤立している。
私の観察でも、英語の実力が、私たちの世代に比べて低下している。英語の専門書や論文を読解できないし、英語の資料は最初から敬遠する。インターネットのサイトは、日本語のもの以外には、いっさい興味を示さない。
インターネットをはじめとして、英語の学習に役立つ情報技術が昔と比べて比較にならないほど進歩したにもかかわらず、英語の読解力が低下しているのだ。
日本はこれまで国内に十分なチャンスがあったが、これからは国内だけで十分かどうかは、分からない。しかし、「国内」という制約を外してグローバルな視点を持てば、いくらでもチャンスは広がっている。日本の若者は、韓国の若い世代のヴァイタリティを見倣(みなら)うべきだ。
■リモート時代での働き方と英語
昨今、社会人が積極的に学び直しを始めている。それは、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして、世の中が大きく変化し始めたからだ。こうした変化に対応できる企業では、仕事の中身が変わっていくだろう。対応できない企業は淘汰(とうた)される。
「ニューノーマル」ということが言われる。「新型コロナウイルス後の世界は、これまでの世界と同じものではない」ということだ。新しい世界を支配する原則が「ニューノーマル」である。
新型コロナウイルスによって、さまざまなことが大きく変わった。その中には、コロナが終われば元に戻るものもある。しかし、社会を構成する諸要因のうち、きわめて重要な部分で、元に戻らない変化も生じる。
そのために、コロナ後の世界は、これまでの社会とは大きく違ったものになる。コロナ後の世界では、新しいビジネスモデルを採用できる企業が成長するだろう。
![大都会を背景にバルコニー](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/d/670/img_3d8e3ac9ba04fd51d3fc08fc146f299c814975.jpg)
■変化に対応できる人、できない人
ニューノーマルに対応できる企業とそうでない企業とでは、評価に大きな違いが生じる。すでにそのような評価が株式市場に表れている。
株式の時価総額が大きく変化している。GAFA+Mの時価総額が、日本の東京証券取引所の一部上場企業の総額よりも大きくなっている(GAFAとは、Google、Apple、Facebook、Amazonで、MはMicrosoft)。また、ビデオ会議サービスZoomの時価総額がアメリカの航空会社の時価総額の合計よりも大きくなるという変化も生じている。
評価が変わるのは、企業だけではない。個々の人間についてもそうだ。変化に対応できる人とそうでない人は、コロナ後の世界において、評価が大きく変わるだろう。そうした改革をリードできる人が重要性を増すだろう。
したがって、変化に対応するために勉強することが非常に重要になってきている。企業がビジネスモデルを変更するのと同じように、個人も仕事のやり方を変えなければならないのだ。そのためには、勉強をする必要がある。
■在宅勤務やビデオ会議が普通のことになった
ニューノーマルで生じた重要な変化として、在宅勤務(あるいは、テレワーク、リモートワーク)の広がりがある。
在宅勤務という働き方は、これまでも可能だった。しかし、例外的なものであって、特殊な場合においてのみ認められる働き方だと考えられていた。少なくとも、企業の側からは、そう考えられていた。
ところが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、人と人との接触を避ける必要が生じ、在宅勤務が積極的に推奨されるようになった。企業外部の人たちとの打ち合わせも、ビデオ会議で行うようになった。
ビデオ会議は、技術的に言えば、かなり前から可能だったことだ。にもかかわらず、社会的な抵抗があり、広範には使われなかったのだ。それが、「ごく普通のこと」「当たり前の正統的な手段」と考えられるようになった。いわば、「社会ルールの大転換」が起きたことになる。
その転換が、わずか半年の間に生じた。これほど大きな変化がこれほど短期間のうちに起きたのは、人類の歴史でも稀なことだったと言える。
■在宅勤務やビデオ会議の大きな利点
在宅勤務を実際に導入してみると、さまざまな利点があることが分かった。
働く側から見て、在宅勤務の利点は多くある。何よりも、満員電車で長時間通勤しなくてもすむのは、大きなメリットだ。企業の立場から見ても、都心に広いスペースのオフィスを借りる必要がないので、経費を節約できることが分かった。
このため、多くの企業が在宅勤務を本来の働き方として導入しようとしている。コロナが収束したあとでも、これを続けようというのだ。
在宅勤務への移行は、仮にコロナがなかったとしても、いずれは実現していたかもしれない。しかし、多くの人がその利点に気がつくには時間がかかっただろう。
コロナによって半ば強制的に導入せざるを得なくなったため、多くの人が在宅勤務を実際に経験することができた。つまり、これまでも進んだであろう変化が、コロナによって加速されたことになる。
こうして、働き方が変わり、生活が変わる。そして、ビジネスモデルが変わり、社会の構造が変わる。さらには、人々の考え方や価値観が変わる。このように、変化が連鎖的に起こる。
■国境の消滅とテレマイグランツ(遠隔移民)
在宅勤務の広がりは、国内だけのことではない。地球的な広がりを持つ変化だ。
「リモート」とは、「物理的な距離に関係なく勤務できるようになった」ことを意味するからだ。その距離は、30kmであろうが、1万kmであろうが、同じことだ。
したがって、言葉の壁さえ克服できれば、日本に住んだままでアメリカの企業に勤務することが可能になった。
Twitter社は、新型コロナウイルス対策で始めた在宅勤務について、従業員が望めば永続的に続けられるようにすると発表した。日本を含む全世界の約5000人の従業員が対象だ。
また、企業は、全世界から優秀な人材を(本人はその国に住んだままで)リクルートできる。インド人がインドに住んだままで日本の企業に勤務することも可能になっている。リモートとは国境の消滅を意味するのだ。これがもたらす変化は、想像を絶するものだ。
リチャード・ボールドウィンは、『GLOBOTICS(グロボティクス)──グローバル化+ロボット化がもたらす大激変』(高遠裕子訳、日本経済新聞出版社、2019年)の中で、これを、「テレマイグランツ(遠隔移民)」と呼んでいる。
![ノートパソコンでビデオ通話](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/6/670/img_c659435e3851df4ca553e670fcf36be1714038.jpg)
■誰もが世界中の有能な人材と競争する
実は、こうした形態の勤務は、アメリカではすでに2000年頃から実際に行われているものだ。
とりわけ、インドとの間でこのような勤務形態が急拡大し、アメリカ企業のコールセンターは、事実上インドに移転した。また、データ処理や会計・法律の仕事についても、インドの専門家がインドに住んだままアメリカ企業で働く形態が一般化した。これがアメリカ経済の生産性を引き上げることに大きく貢献したのは、間違いない。
ビデオ会議の広がりによって、こうした勤務形態はこれから一層拡大するだろう。こうなると、誰もが全世界の有能な人材と競争することになる。
こうした時代に、生き残れるかどうかが問題だ。日本では言葉の壁があるため、これまでは、多くの人がこうした国際競争からは守られてきた。しかし、その状況が急速に変わりつつある。対応できなければ、日本が世界の潮流からさらに遅れてしまうことが危惧される。
しかし、逆に言えば、労働力人口が減少する日本において、経済を再活性化するための切り札ともなりうる。
要は、新しく可能となった働き方を、どのようにして活用するかということなのだ。
■いますぐ勉強を始めよう
書店で英語学習書が目につくようになった。特別コーナーを設けている店もある。
「プロフェッショナルの条件は英語の実力!」「外資系に就職するには、まず英語!」「英語を駆使して、国際舞台で活躍しよう!」などという勇ましい宣伝文句が並んでいる。日本企業に見切りをつけて、世界を相手に仕事をしようという時代になってきたのだ。
英語学習熱の高まりは、大歓迎だ。社会人が勉強する必要性は、コロナ以前からあった。それは、社会の変化が加速しているからだ。
急激に変化していく社会においては、学校で勉強したことだけを元に仕事を続けていくことはできず、常に新しいことを勉強していかなければならない。
仕事に必要な知識は10年経てば一変する。「人生100年時代」と言われるようになり、働くことができる期間が長くなっていけば、学校で勉強したことだけですませようと思っても、できないことは明らかだ。
■1日1つ、新しい知識を得る
社会人が勉強をするには、目的をはっきりさせたり、カリキュラム(勉強すべき内容と、スケジュール、教材など)を決めたりする必要がある。
これらは、大変重要だが、同時に、簡単にできるものではない。そうすると、「準備ばかりで、いつになっても始められない」ということになりかねない。
勉強は、今日からすぐに始めよう。とにかく始めるのだ。
そのために、1日1つ、新しい言葉の意味を調べることにしたらどうだろうか? テレビやラジオで見たり聞いたりした英語で知らないものがあったら、調べるのだ。新聞に出てくる英語の略語も、片端から調べよう。SDGs、GDPS、DX等々。これは、いますぐできることだ。だから、まずこれから始めてみよう。
スマートフォンで音声検索をすればあっという間だ。これを続けていると、自分がどういう面で社会から立ち遅れているかが、分かる。それが分かったら、その分野をもっと深く勉強するのだ。
ただし、やってみると分かるが、毎日続けるのは、それほど簡単なことではない。夜寝るとき、「今日は、新しい言葉の意味を知ったか?」と点検しよう。
ポジティブに生きるのは、危機の時代においては最も重要なことだ。そして、勉強することは、ポジティブな生き方の中で最も素晴らしいものだと思う。
今日から1日に1つ新しい知識を得る。これをぜひ始めていただきたい。
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一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。近著に『経験なき経済危機──日本はこの試練を成長への転機になしうるか?』(ダイヤモンド社)、『中国が世界を攪乱する──AI・コロナ・デジタル人民元』(東洋経済新報社)ほか。
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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)
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