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「aで始まる単語だけやけに詳しい」努力しても英語が伸びない人の残念な特徴

プレジデントオンライン / 2021年4月18日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

「新年度こそ英語をマスター!」と、毎年春に勉強をスタートするものの、結局続かず挫折する社会人があとを絶たない。これに対し、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は「多くの日本人が間違ったやり方に陥っている」と指摘する。「社会人は独学でしか英語を学べない」と喝破し、「どこに集中し、どこで手を抜くか」限られた時間の中で外国語を習得するための方法を教示した新著『「超」英語独学法』から、目からウロコの方法を特別公開する──。(第3回/全3回)

※本稿は、野口悠紀雄『「超」英語独学法』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。

■日本人の英語力はアジアの中でも最低位

日本人の英語力はきわめて低い。アジア諸国の中でも、最低位に近い。しかも、私の印象では、時代の経過とともに日本人の英語力は低下している。最近の学生を見ていると、それを痛感する。

インターネットなど、英語学習に使える道具は長足の進歩を遂げているのに、日本人の英語力は、なぜ低いのだろう?

さまざまな理由が考えられるが、大きな理由は、学校での英語の教育法にある。私たちの時代の英語の授業は、「まず英語を読み、つぎにそれを日本語に翻訳し、さらに文法などについて説明する」という方式で進んだ。いまでもそのような方式が続けられているのではないだろうか?

これは、「英語の文章を単語に分解し、個々の単語を文法を用いて組み合わせ、翻訳することによって文章の意味を解釈する」という方法だ。

私はこの方法を「分解法」と呼んでいる。これが最大の原因である。こうした方法をとるために、英語を習得できないのだ。

■単語をバラバラに覚える愚

多くの日本人の学生は、単語帳を使っている。1つひとつの単語を抜き出して単語帳に書いて覚えようとしている。しかし、こうした方法で勉強しても、単語は覚えられない。

単語帳で英単語を一所懸命に記憶しようとしている学生を見ていると、気の毒になる。まったく非効率的な勉強法だからだ。ましてや、「辞書を最初から一語一語覚えて、覚えたページを食べた」などという苦学物語を聞くと、信じられない思いだ(いまでは紙の辞書を使う人は少なくなったから、さすがにこうした人はいなくなっただろうが)。

彼らは、個々の単語を孤立し、独立したものとして覚えようとしている。これは大変な努力を必要とする勉強法だ。しかも、きわめて能率が悪い。個々の単語をバラバラに覚えようとしても、覚えられるものではない。

そのうえ、これは退屈きわまりない作業である。だから、「aから始めてabandonまできて投げ出したために、aで始まる単語だけやけに詳しい」などということが起こる。

退屈なだけでなく、他の単語と混同してしまう危険もある。辞書のつぎに出ている言葉と取り違えたという、ウソのような話もある。

■単語帳を捨てよ

単語帳どころではない。単語をこじつけで覚えようという方法を提唱している本もある。kennelを「ケン(犬)がネル(寝る)ところ」と覚えるのはよいとして、caveを「警部が洞窟に入る」などと覚えようとするのは、ダジャレにはなっても、実用価値はまったくない。絶対にやってはならない方法だ。こんなことをやっていたら、いつになっても英語力は身につかない。

また、仮にこうした方法で単語の意味を覚えたとしても、実際に使えることにはならない。それは、英語→日本語という一方向の記憶だからである。caveを見て「洞窟」と訳すことは、できるかもしれない。しかし、洞窟の実物を見てcaveを思い出すことは、多分できないだろう。

単語帳やこじつけ法は、この点で根本的な欠陥を持っている。日本人の英語が実用にならない大きな理由は、この点にある。

まず単語帳を捨てる。これが英語勉強の第一歩だ。もし、どうしてもカードを使いたいのであれば、単語を書くのでなく、文章を書くことにしよう。

■日本語に翻訳せず、「英語脳」で考える

日本人は、英語を単語に分解するだけでなく、日本語に翻訳して理解しようとする。これでは、英語を使えるようになるはずがない。

講義を聞くにも会話をするにも、即座に理解し反応しなければならないから、和訳や英訳をやっていては、とても追いつけない。英語と日本語は異なる構造を持っているから、翻訳しようとしてもできない場合も多い。

実際の場で使うためには、英語は英語のままで直接に理解する必要がある。日本語とのつながりを一切断ち、「英語脳」で考えることが必要だ。

日本の英語教育は、教科書の英語を日本語に直すという方法が中心だったため、無意識に「翻訳しなければ」ということになるのだろう。

「英語と日本語を1対1に対応させることはできない」という事実は、外国語を習い始めたばかりの中学生には分からない。「英語と日本語は違う」と教えるのは、中学校の英語教師が果たすべき大きな責任だ。

日本語は、文章を個々の単語に分けられる。しかし、英語はこれとは違う構造の言語だ。

口頭の場合に、とくにこの違いが明確になる。英語のネイティブスピーカーは、1つひとつの単語ごとに発音しているわけではないから、単語に分解して聞こうとしても、聞けない。ネイティブスピーカーの英語は速すぎるから聞けないという人がいる。分解しようとするから、速いと感じるのだ。

■文章を「丸暗記」せよ

では、どうすればよいのか?

私は、それに対してきわめて明快な答えを持っている。それは、ある程度まとまった文章を丸暗記することだ。

20回程度を目安として、繰り返し声に出して読むだけでよい。ごく簡単だ。簡単であるにもかかわらず、その効果は絶大だ。

文章を丸暗記していれば、個々の単語の意味を苦労して覚えなくても、文脈に位置づけて、自然に覚えられる。前置詞の使い方なども、自然に習得できる。

「長い文章を全部覚える」という方法は、よく知っている言葉も含めて暗記するのだから(というより、ほとんど知っている単語で構成される文章を暗記するのだから)、一見したところ、効率が悪い。

しかし、実は最も効率的な記憶法なのだ。人間の記憶は、関連のない単語を孤立して覚えられるようにはできていない。意味のある、一定の長さの文章を覚えるようにできているのだ。

丸暗記というと、言葉のイメージがよくないため、「自由な発想を殺す」とか「非人間的だ」と考える人が少なくない。あるいは、「記憶力のよい人向けの方法だ」と言う人もいる。しかし、こうした考えは間違いだ。

ひとまとまりの文章、つまり、意味がつながった文章群を覚えるのは、個々の単語を覚えるよりもはるかに楽だ。しかも、一旦覚えれば忘れない。丸暗記こそ、暗記が苦手な人のための方法なのである。

黒板にアルファベット
写真=iStock.com/selimaksan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/selimaksan

■英語のスピーチで発見したこと

私がこの方法を始めたきっかけは、中学生のときに、学校の代表として英語のスピーチコンテストに出たことだった。草稿を最初から最後まで丸暗記しなければならなかった。

その過程で、つぎのことを発見した。

①部分部分ではなく、全文を連続して覚えるほうが容易。
②ある箇所を思い出せば、あとは自動的に思い出せる。
③単語を1つずつ無理して覚えなくとも、文章を暗記すれば自動的に覚えられる。

高校生になってからは、意識的にこの方法で勉強した。あるとき、このような方法を行っている者がほかにもいないかと思い、友人に聞いてみた。クラスで一人、やはり意識してこの方法を実行している者がいた。

彼の英語の成績は、非常によかった。そこで、これはひとりよがりの方法ではないと確信したのである。

最初は教科書を丸暗記した。他の教科の勉強をして疲れたら、息抜きのつもりで、英語の教科書を取り出して音読する。ただ読んでいるだけだから、精神的な緊張は必要ない。いつの間にか暗記できる。

いったん教科書を全部覚えてしまうと、個々の単語の意味は、文脈によって分かる。その箇所を思い出せなければ、別の箇所から始め、そこから思い出していく。だから、苦労せずに目的の箇所を思い出せる。

■人間の記憶メカニズムに合った方法

いまにして思えば、この方法は、人間の記憶メカニズムから見て合理的な方法である。

人間はきわめて多くのことを記憶できる。問題は、それらの大部分が検索できなくなることにある。つまり、蓄えてはいるけれども、引き出せなくなるのだ。

したがって、重要なのは、対象にいたる道筋をつけることだ。まとまった文章なら、いったんきっかけが見つかると、それを手がかりに、いもづる式に記憶が出てくる。ひとまとまりの文章を全部覚えていれば、どこかの部分を思い出すことで、あとは努力しなくても自動的に引き出せるのである。

孤立した単語を1つずつ覚えようとしても、覚えるのは難しいが、ストーリーがある文章であれば、何度も繰り返し読んだり聞いたりすれば、覚えることができる。丸暗記法は、このようなメカニズムを用いて、単語を文章の中に位置づけて覚えようとする。

試験の直前などで時間がないときでも、できるだけ文章の中に位置づけて覚えるべきだ。最低限、2つ以上の単語を組み合わせて覚える必要がある。

■文章を20回繰り返し読む

何度読めばよいかは個人差があるが、普通は20回程度読めば覚えられるだろう。20回繰り返し読むのは、独学でやるしかない。つまり、ここでも外国語は独学でしか習得できない。

20回読まなくとも、1回だけで覚えてしまうこともあるが、覚えようとしてもどうしても覚えられない「鬼門の言葉」というものもある。私は、resilientという言葉をどうしても覚えられなかった(「柔軟な」とか「弾力性のある」という意味)。ところが、「ホーム・アローン」という映画の中で、主人公の男の子がChildren are resilient.(子供は何にでも対応できる)と言っているのを聞いて、一度で覚えてしまった。

そして、決して忘れない。思い出そうとする場合、記憶の中で「弾力性」という日本語の周辺を探しているのではなく、childrenという言葉の周辺を探しているのである。

繰り返そう。孤立した単語や、短い文章を覚えるのは、難しい。一見して無駄に思われるが、ストーリーがある文章を丸暗記するのが、最も簡単だ。

■多くの人が丸暗記で勉強した

丸暗記法で外国語を習得した人は、昔から大勢いる。

外国語学習の天才でもあったシュリーマンは、英語の勉強のためにゴールドスミスの『ウェイクフィールドの牧師』、スコットの『アイヴァンホー』をすべて暗記し、フランス語の勉強のために『テレマコスの冒険』と『ポールとヴィルジニー』を暗記した(ヨハン・ルートヴィヒ・ハインリヒ・ユリウス・シュリーマンは、ドイツの実業家であり、素人考古学者。ギリシア神話に登場するトロイアを発掘した)。

彼は、「学校でとられている方法はまったく誤っている」という。

「ギリシア語文法の基礎的知識はただ実地によってのみ、すなわち古典散文を注意して読むこと、そのうちから範例を暗記することによってのみ、わがものとすることができる」。だから、「貴重な時間の一瞬も、文法上の規則の勉強のためについやさなかった」。

「私はそれが文法書に記入してあるか、否かは知らないにしても、どのような文法の規則も知っている。そしてだれかが私のギリシア語の文章の誤りを発見するとしても、私はいつでもその表現方法が正確である証拠を、私が使った言いまわしの出所を古典作家から人に暗誦してみせることによって、しめすことができる」という彼の言明ほど、丸暗記法の真髄を明らかにしたものはない(引用は、シュリーマン『古代への情熱』関楠生訳、岩波文庫、1954年による)。

20世紀最高の数学者と言われるフォン・ノイマンは、ディケンズの『二都物語』を何ページも、そして『エンサイクロペディア・ブリタニカ』のいくつかの項目を、一語一句違えずにそらんじることができた。

■魅力的な文章は丸暗記できる

丸暗記法に賛同されたら、すぐに始めるとよい。あなたが学生であれば、手始めは教科書である。英語の勉強が実に楽であることが、すぐに分かるだろう。そして試験の成績は、顕著に良くなる。

仕事に就いている人であれば、自分の専門分野に関連した文章やニュース記事がよいだろう。メールを書く機会の多い人は、相手のメールを丸暗記すればよい。専門用語や専門的な表現については、専門分野の教科書や論文を覚えよう。

野口悠紀雄『「超」英語独学法』(NHK出版新書)
野口悠紀雄『「超」英語独学法』(NHK出版新書)

ただし、教科書は面白くない。そこで、私は、あるときから、詩や文学作品を暗記することにした。この頃は、英語を仕事で使うということは考えておらず、したがって「専門用語が重要」という意識もなかったので、自分が興味を持つ対象を覚えようとしたのだ。ここで覚えた文章は、(パーティーでの会話を除けば)その後仕事で使うことはなかったが、貴重な財産になっている。

中学生と高校生の頃に『ロミオとジュリエット』のバルコニーの場、『ハムレット』の独白やオフィーリアの歌、『ジュリアス・シーザー』のマーク・アントニーの演説などを覚えた。

いまだに1語も欠落せずに覚えている。丸暗記した教科書の内容は忘れてしまったが、シェイクスピアはその後何度も繰り返しているので、忘れない。丸暗記するには、内容が自分にとって魅力的であることが重要なのだ。

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野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。近著に『経験なき経済危機──日本はこの試練を成長への転機になしうるか?』(ダイヤモンド社)、『中国が世界を攪乱する──AI・コロナ・デジタル人民元』(東洋経済新報社)ほか。

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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)

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