利益も少なく販路もゼロ…そんな事業がサムスンを世界一の半導体メーカーに変えた
プレジデントオンライン / 2021年4月8日 11時15分
※本稿は、クォン・オヒョン著『ナメられない組織の作り方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■社長就任後すぐに難しい判断を下すことに
2004年にサムスン電子システムLSI事業部の社長に就任したときの話です。就任するやいなや、私は選択と集中の原則に基づいて五つの主要な事業部門だけを残し、他のすべての事業を停止するという難しい決断を下さねばなりませんでした。
デジタルTVに搭載するCPU事業を存続させることについてはみなの同意が得られました。サムスン電子もTVを生産していますし、努力を重ねれば最高の競争力を持つ半導体を作ることができると判断できたからです。
しかし、モバイルデバイス(主に携帯電話)に搭載するCPUのApplication Processor、AP事業を存続させると言ったときには予想外の反発を受けました。
そのころ、サムスン電子のモバイルデバイス用CPUの生産規模は世界10位にとどまっていました。収益も極めて僅かで、実際のところ、製品として製造してもすぐに販売できる場所さえない状態でした。
しかし私は、将来あらゆる電子機器がモバイルに集中するという確信を持っていました。たとえ他の事業部門をすべて閉鎖しても、モバイルデバイス用CPUの研究は続けなければならない。そう考え、サポートを継続することにしたのです。
当時、世界の携帯電話市場を掌握していたのはフィンランドのノキアでした。モバイルデバイス用CPUを作っていたものの販売先がなかった我々としては、当然ノキアを潜在的な顧客として想定することになります。私はノキアを訪ね、わが社の製品を買ってくださいとお願いしました。営業をしたわけです。
■アップルからの思いがけない連絡が経営を変えた
デモも行い、製品についての詳細なブリーフィングもしましたが、ノキアの購買担当者は我々の製品に見向きもしません。あちこち弱い点がある、改良してきたら購買を考えてみてもよい、といった反応です。
なんとしてもノキアにモバイルデバイス用CPUを買ってもらおうと2004年から2006年まで努力を続けましたが、はかばかしい進展は見られません。モバイルデバイス用CPU生産は中断すべきだと主張していた人々は、最初から私の判断が間違っていたと指摘し始めます。私は社内で窮地に立たされました。
ところが、思いがけなくアメリカのアップル社の開発責任者から連絡が来たのです。モバイルデバイスに搭載するCPUについての問い合わせでした。
正直なところ、そのときはなぜアップルがモバイルデバイスに関心を持つのかと首をかしげました。アップルはコンピュータの会社だったからです。コンピュータ会社が携帯電話を作るなど、想像もできないことでした。アップルに試作品を送ったところ、こちらの事情に合わせて少し設計を修正してほしいと言われました。
なぜその部品が必要なのかと何度も尋ねましたが、アップルの担当者ははっきりとした回答をくれません。その答えは、2007年に世界中が知ることになりました。わが社が作ったモバイルデバイス用CPUを、アップルが携帯電話に使用したのです。
まさにそれが世界初のスマートフォン、アップルのiPhoneでした。
このときから、サムスン電子のモバイルデバイス用CPU生産部署は、羽が生えたように売上を伸ばします。システム半導体も成長を見せ、半導体メモリと共にサムスン電子を世界1位企業へ押し上げる契機となりました。
■「選択と集中」を実行したおかげで生き残ることができた
実際、運が味方してくれたところもありますが、現況を綿密に検討して革新的な五つの事業部に「選択と集中」をしたのが良かったのでしょう。将来はモバイルデバイスが主流になるという確信のおかげで生き残ることができたのです。
この過程を通じて、私は自分に足りない点が何かを学ぶことになりました。
スティーブ・ジョブズが初めてiPhoneのプレゼンテーションをしたシーンをご記憶でしょうか。ジーンズに黒いタートルネックセーター姿の彼がiPhoneという新製品を紹介したあの現場に、私は招待され、前の座席に座っていました。新製品の主要部品であるメモリを含む半導体供給会社の代表として招待されたのです。
あの歴史的な現場に出席するまで、私はアップルが携帯電話市場に参入するとは予想もしていませんでした。ところがスティーブ・ジョブズが新製品を紹介するすぐ前に座って、その予想もしなかったことを直接目撃することになったのです。
実に驚くべきプレゼンテーションでした。多くの人々があの歴史的瞬間について語りますが、本当に印象的な時間でした。何より私を含め、あの現場にいたすべての人に「ああ、この製品がとても欲しい、ぜひ買いたい」と思わせてしまったのですから。
■“伝説のプレゼン”を目撃して自身の欠点に気づく
スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションを聞きながら、私は考えていました。コンピュータ会社だったアップルが携帯電話で世界市場に参入したあの現場でじっと座り、自分に欠けていた点を実感していたのです。
アップルがスマートフォンという新しい産業を創出することを、私は予測できませんでした。たまたまモバイルデバイス用半導体が準備できていたおかげで革新的な部品供給者となりはしましたが、完成品そのものの登場を予測できなかったのは失敗でした。
スマートフォンは通信産業と連携する必要がありますが、アップルが通信産業とは無関係なコンピュータ会社だったことから、こうした未来志向の歩みが予測できなかったのです。
人の可能性に考えが及ばなかったのが、私の判断ミスでした。
世間はそれこそ光の速さで進んでいるのに、自分の対応はあまりに呑気だったのではないかと深く反省した時間でした。
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サムスン電子の「半導体神話」を作り上げた人物。1985年、スタンフォード大学大学院電気工学博士課程修了、アメリカのサムスン半導体研究所の研究員としてサムスンに入社。1992年、世界初の64Mb DRAM開発に成功。半導体事業部総括社長を経て、2012年、サムスン電子・代表取締役副会長兼DS(Device Solution)事業部門長に就任。サムスン電子の「超格差戦略」の基礎を作り、その指揮下でサムスン電子は2017年にインテルを抜き世界の半導体1位の座に上るなど、史上最大の実績を記録した。2017年10月に経営の一線から退いた後、2020年3月までサムスン電子総合技術院会長を務め、現職。
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(サムスン電子常勤顧問 クォン・オヒョン)
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