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ガチガチの縦割りで非効率になった部署を一変させる最も簡単な方法

プレジデントオンライン / 2021年4月9日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sundry Photography

どうすれば強い組織が作れるか。サムスン電子常勤顧問のクォン・オヒョン氏は「業績の良くない部署の特徴は、他部署とのコミュニケーションが取れていないこと。こういった状況を改善するには、部署の責任者を前触れなく異動させればいい。こうすることで部署間のコミュニケーションは回復し、業績も伸びていく」という――。

※本稿は、クォン・オヒョン著『ナメられない組織の作り方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■業績がよくない会社の残念な共通点

トルストイの『アンナ・カレーニナ』は、次の有名な一文から始まります。「幸せな家庭はみなよく似ているが、不幸な家庭は不幸の理由がそれぞれ異なる」。

驚くことにどの組織でも、どの会社でも、これと同じ様相が見られます。私が赤字事業部署の立て直しをしてきた経験からも、不幸な会社ではメンバーがみな、それぞれ異なる問題点を口にします。慢性的な赤字の理由について聞くと、みな異なる理由を挙げるのです。

これはなぜでしょうか? 赤字が続く理由は、複数の問題点が複合的に起こっているからでしょうか? あるいは赤字部署のメンバーたちが、みなバラバラなことを考えているからでしょうか? そしてこんな状況で、リーダーはどんな解決策を提示すべきでしょう?

業績のよくない会社や部署の共通点は、事業部署や人的資源が、みなサイロ(飼料用穀物などを貯蔵する煙突型の倉庫)のように分離していることです。円滑であるべきコミュニケーションは一つのサイロ内だけにとどまり、他のサイロの事業部署やメンバーとは対話が行われないという、共通した現象が起こっています。

不幸な家庭も同じではないでしょうか。不幸な家庭の夫婦は互いに話をせず、それぞれテレビを見たりスマホに顔を向けたりしています。子供は部屋にこもってゲームばかりしています。対話は途絶え、家族間の親密な交流はありません。

反対に幸せな家庭はどうでしょうか。会話をし、親密な感情のやりとりがあります。

■必要なのは部署間コミュニケーションではなく責任者の異動

ならば、サイロのように分離され、コミュニケーションが遮断された会社の構造を変える方法とは何でしょうか。

もっと部署間のコミュニケーションを取ろう! とスローガンを掲げても効果はありません。幸せでない夫婦に「お互い心を開いてもっと話をしましょう」と助言しても仕方がないのと同じです。夫婦の関係において対話の不在が深刻な問題だということは、2人ともすでにわかっています。

同じように赤字会社や部署のメンバーも、意思疎通の不在が問題であることを承知しています。知っていながら対話できないのが彼らの現実なのです。

このような場合に私が行っていた得策があります。サイロに所属する人材、特に責任者を入れ替えるのです。いわばローテーションさせるわけです。誰も予測不能なほど劇的に交代させると、サイロ間の閉鎖的な構造は瓦解し、コミュニケーションが始まります。

クリアボードに人事のアイデアを書き出し
写真=iStock.com/Chunumunu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chunumunu

たとえるなら、サイロは自分たちだけの王国です。すでに製品開発サイロ、製造サイロ、マーケティングサイロがあるとしましょう。各サイロには、まるで孤島の王国の王のごとくリーダーが君臨しています。他のサイロとの交流は完全に部下に任せ、自分は王国の頂上で孤高に君臨しているのです。

■強制的な配置転換は部下とのコミュニケーションを生む

彼らは製品開発の王、製造の王、マーケティングの王です。みな自分の現在の地位に満足しています。ある社員が製品開発の王に、少しは別の方法で開発してみてはどうでしょうかと進言すると、製品開発の王はそれを王権への挑戦と受け取ります。そして「そんなことはとっくに私がやっている。おまえは黙っていろ!」と脅しつけます。

ある程度はうなずけることかもしれません。製品開発サイロで長く仕事をしてきたおかげで、彼は「製品開発の王」になれたのでしょう。

そこで私が取る方法はやや極端です。ショックを与えなければサイロの閉鎖性は解体しませんし、王権は瓦解しません。私が取る方法は「製品開発の王」をそのサイロから出し、「製造の王」の椅子に座らせることです。それも何の前触れもなく、電光石火のごとく人事発令をしてしまいます。

当然「製品開発の王」は当惑するでしょう。王に推戴されてはきましたが、彼は開発部門のみでの王だったにすぎず、製造については何一つ知りません。新たに推戴された王は仕方なく、そのサイロに所属する部下社員の話を聞き始めます。コミュニケーションを取らざるを得なくなるのです。

こうして電撃的に配置換えをすることで、別の肯定的な効果が表れます。自分がいつ、どのサイロに異動になるかわからないため、普段からサイロ間で情報を共有し始めるのです。開発、製造、マーケティングが互いの対話チャンネルを開き、前もって他のサイロとの協力体制を作っておきます。

残念ながら私が観察した限りでは、自発的にこうしたチャンネルが開くことはありませんでした。

■対立した部署を和解させるためには責任者を交差配置すればいい

人は安定した状況にいると、絶対に自分を変えようとしません。今いるサイロにとどまろうとするのは、その方が楽だからです。ある程度強制的な要素が動員されなければ変化は起こらない。これが私の観察の結論です。

リーダーはこうした強制的な方策を思い切って推進できなければなりません。もちろん一部例外もあります。好奇心旺盛な人は、外部からの強制力がなくても自ら変化しようとします。そういう人と出会えたらリーダーにとっては大変な幸運ですが、そんな人材にはめったにお目にかかれません。

もちろん、中小企業のように制限された人数で運営される組織では、こうした配置転換を適用するのは容易ではないでしょう。しかし少しの余裕があるなら、いくつかの部署だけでも試験的に運営してみるのもよいと思います。

こんなことがありました。二つの部署のチーム長同士が事あるごとに衝突している、という報告が上がってきたのです。責任の押し付け合いを超え、対話チャンネルをまったく閉ざしたまま対立しているという報告でした。

そこで私は人事チーム長を呼び、2人のチーム長を交差配置するよう指示を出しました。今まで争うだけだった2人は突然立場が入れ替わり、向き合わなければならなくなったのです。

以降は部署間のいさかいは消え、互いに協力関係を構築したという最終報告を受けました。相手を理解しようとする努力がどんなに重要なことか思い知らされた経験だったそうです。

■限界を悟った管理職は自ら退陣を認める

トップを入れ替えることでサイロの閉鎖性を破壊してきましたが、成功確率はおよそ3分の1といったところです。

他のサイロに異動させた人材のうち3分の1は新しい環境に適応し、それなりの成果を出しました。また他の3分の1は1年程度、成果が出るまでに忍耐心を持って見守る必要がありました。

最後の3分の1は成績不良者に分類されてしまい、残念ですが人員整理の手順を踏むしかありませんでした。数多くの赤字事業部門を引き受けてきたため、私はたくさんの人を解雇せざるを得ない、厄介な立場に立つ時がよくありました。

解雇や経済不況の中で、自分の持ち物を持って仕事を辞める日本のサラリーマン
写真=iStock.com/YinYang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YinYang

ですが、特に不満を訴えられたり、抵抗を受けたりしたことはありません。他のサイロに異動する配置転換によって、自分の欠点や限界をはっきりと悟ることになるからです。限界を悟った人は、組織全体のために自らの退陣を認めるようになります。

限界を克服する人は成長しますが、その限界の前でもう一歩、前に進めない人は残念ながら組織のために辞めてもらうしかありません。そこで次世代リーダーの育成のためにも、大体3年に一度、必ずサイロのトップの入れ替えを実施しました。

もちろん最初からそんな辞令を出していたわけではありません。私の場合、この実験的な配置転換を実行できたのはサムスン電子社長に任命されてからです。

■育ってほしい人材には赤字事業や新規事業を任せるべき

クォン・オヒョン著『ナメられない組織の作り方』(KADOKAWA)
クォン・オヒョン著『ナメられない組織の作り方』(KADOKAWA)

こうした配置転換はいずれ組織の安定性を損なう、という考えもあるでしょう。リーダーは、自分の組織が安定し続けることを望みます。そのため組織の安定を脅かすリスクが少しでもあるなら、その試みは回避するものです。私もそうでした。しかし、消極的な姿勢から脱し、独自の方法で実験してみた結果には満足しています。

この交差配置転換で訓練され、成功した多くの部下たちが、現在サムスン電子のみならず、さまざまな企業で立派な経営者として活躍する姿を見せてくれています。優れた経営者に育ってほしい人材には、必ず赤字事業部や新規事業を任せてみることをお勧めします。

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クォン・オヒョン サムスン電子常勤顧問
サムスン電子の「半導体神話」を作り上げた人物。1985年、スタンフォード大学大学院電気工学博士課程修了、アメリカのサムスン半導体研究所の研究員としてサムスンに入社。1992年、世界初の64Mb DRAM開発に成功。半導体事業部総括社長を経て、2012年、サムスン電子・代表取締役副会長兼DS(Device Solution)事業部門長に就任。サムスン電子の「超格差戦略」の基礎を作り、その指揮下でサムスン電子は2017年にインテルを抜き世界の半導体1位の座に上るなど、史上最大の実績を記録した。2017年10月に経営の一線から退いた後、2020年3月までサムスン電子総合技術院会長を務め、現職。

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(サムスン電子常勤顧問 クォン・オヒョン)

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