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「たとえ会社に捨てられても」幸せな人生を取り戻せる人だけが持つ"意外な能力"

プレジデントオンライン / 2021年4月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mikolette

■子供のなりたい職業第1位が「会社員」⁉

「会社員」が人気を集めています。

全国の小学生(小学校3~6年生)、中学生、高校生の計3000人を対象に調査を実施した「大人になったらなりたいもの」ランキングで、「会社員」が男子の部で堂々のトップになったというのです(第一生命保険、第32回「大人になったらなりたいもの」調査結果より。2021年3月17日発表)。

「会社員」を夢見る子どもは年齢が高いほど多く、高校生では22.2%で、2位の「ITエンジニア/プログラマー」(11.5%)を大きく引き離しました。女子の部でも小学生でこそ4位とふるいませんでしたが、中学、高校生ではダントツの1位でした(13.6%、20%)。

コロナ禍(か)で苦戦しているフリーランスや自営業、雇い止めにあった非正規雇用の人たちを見て、「会社員になれば安定した生活ができる」と子どもたちは考えたのでしょうか? あるいは「ウチで仕事してるパパみたいになりたい!」とリモート勤務する会社員を夢見た? はたまた「安定した仕事についてほしい」という親の願いが反映された結果でしょうか?

■平成の30年間で変質した「会社」

いずれにせよ、子どもたちには申し訳ないけれども「会社員」になっても、ずっと幸せでいられるとは限りません。いえ、子どもたちが夢見るような「会社員」はもはや幻想でしかないのです。

確かに、かつて「会社員」は幸せの象徴でした。日本の職場はストレス研究が必要ないくらい、人間の摂理に合致したいくつもの大切な制度を会社員に施し、人が秘める能力を最大限に引き出す「理想郷」でした。

一方、会社員は「会社のためにがんばろう! いいものを作ろう!」と会社が繁栄するように働きました。会社も会社員も「一緒に幸せになろう!」と夢を共有し、会社と会社員双方に利益をもたらす経営が行われていたのです。

しかし、平成の30年間で会社と会社員の関係は大きく変わりました。本来、会社は「人の生きる力を引き出す最良の装置」なのにその役目を放棄し、「経営とは人の可能性にかけること」なのに、その可能性より目先のカネを優先するようになった。会社員を非人格化したのです。

無節操に散々けしかけ、走らせ、持ち上げ、ある日突然、はしごをはずす。それが今の会社です。

■社員から選ばれた「リストラ執行人」の末路

おそらく誰もがそのことを肌で感じているはずなのに、人はものごとをあるがままに見るのが苦手です。

「心」は人の内部に宿るものですが、「心」は習慣で動かされている。習慣とは「日々過ごす環境で受け継がれた思考や行動のパターン」のこと。会社員を長年やっていると「会社員的なものごとの見方」をするようになるし、ヒラのときは「うちの会社はおかしい!」と息巻いていた人が、出世の階段を上るうちに教条的に「あれはあれで意味のあること」などと妄信するようになってしまったり。

人は「見えている」ものを見るのではなく、「見たいもの」を見るようになってしまうのです。

以前、50人の部下をリストラし、最後に人事部から渡された「リストラ・リスト」に自分の名前が載っていたという、いたたまれない話をしてくれた男性がいました。

彼は退職後、自分をまるで鉄砲玉のように使った会社に、一言文句でも言ってやろうと株主総会へ乗り込みました。すると驚いたことに、総会会場の入り口に「当時の人事部長が警備保障会社の制服姿で立っていた」というのです。

冷静に考えれば「リストラ請負人」に幸せな未来などあるはずがないのに、この男性も人事部長も「会社はきっと自分を評価してくれる」「会社は自分を必要としてくれる」と、会社の要求どおりに動いた。男性の会社員としての経験が、あるがままの姿を見えなくしてしまったのです。

■会社の辞書に「社員の幸せ」はない

今、私たちに必要なのは、「私たちが途方もない変化の真っ只中にいる」という現実を受け止めることです。

会社はもう「社員の幸せ」などこれっぽっちも考えていないのです。「あなた」に役割を与え、その対価を払っているだけ。旧態依然とした幻想を捨て、「私が幸せになる」ように主体的に動き、自分が期待する人生を手に入れないことには、明るい未来はありません。

たとえどんなにすばらしい社会的成功を収めても、それが「何か」をしてくれるわけじゃないのです。

──再就職先は関連会社です。給料は下がりますが、気力と仕事の質には自信があったし、今までのキャリアを生かしてがんばろうと張り切っていました。ところが……半年後に出社拒否です。完全にメンタルをやられてしまったんです。

原因はいろいろありますが、やっぱり人間関係は大きいですね。上司とも周りの社員とも馬が合わなかった。前の会社のときは、周りも私のことをそれなりに扱ってくれました。ところが、再就職先では私はシニア社員の一人でしかない。飲み屋ひとつとっても扱いが変わります。そんなことはわかっていたのに、実際に経験すると、プライドが傷つくわけです。

私を引っ張ってくれた元上司が、いろいろと気にかけてくれるのも情けなくてね。結局、1年もたずに辞めてしまった。周りに迷惑をかけるからそれだけは避けたかったんですが、情けないですよね。

こう話す男性は、前職では常務でした。彼は「○○会社の常務だった私」なら、うまくいくと思い込んでいたのでしょう。しかし、現実は……ごらんのとおりです。

「これって要するに老害だろ?」そんなふうに思う方もいるかもしれませんが、若手であれ、いい大学を出ている人であれ、ヘッドハンティングされてきた人であれ、同じです。「主体的に動かなかった人」は残念な末路を辿(たど)るのです。

■「半径3メートルのゆるいつながり」が新しい世界を開く

私はこれまでフィールドワークとして、800人近くのビジネスパーソンをインタビューしてきました。件(くだん)の男性もインタビュー協力者の1人です。リアルな声に耳を傾ければ傾けるほど、あるがままを受け入れる大切さを痛感すると共に、人を幸せにするのは、カネでも社会的地位でも権力でもない「あるもの」だと確信します。

そのあるものとは……「人とのつながり方」です。

──私は早期退職して70歳まで働ける会社へ転職しました。前職の役職や実績がまったく役に立たず、現実を受け入れるのに苦労しました。

でも、どうにかするしかないなあと思いましてね。新入社員の頃やっていたことをやってみようと、早めに出勤して社内の掃除やらゴミ捨てをやりながら周りの人の名前や顔を覚えたり、何がどこにあるかも覚えるようにしました。

不思議と一緒にやってくれる人が出てきてくれて、今も毎朝やって、楽しく勤務しています。

思い起こせば私の父は中卒で、地道な努力をしてきた人でした。私にも父と同じようなものがあったのかもしれませんね。なるべく早く「俺が俺が」の黄金期を忘れて、明るく、楽しく、周りの若い社員や女性たちと仲良くして、自分の立ち位置を築くことが新しい働きがいになるんじゃないでしょうか。

この男性は現実を受け入れ、新しい環境で出会った人のことを積極的に覚え、その環境になじみ、周りとつながる努力をしたのです。それは「上司・部下」関係のようなつながり方とはまったく違います。肩書や職制でつながる組織内人間関係ではなく、自分という個人を中心とした「半径3メートルの環境」の中でよりよく生きようとしたのです。

こうした半径3メートルの豊かな人間関係のネットワークを、私は「ゆるいつながり」と呼んでいます。

チームワーク
写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat

■人間の幸せは、他者との関係性の中に生まれるもの

この男性は、周りとゆるくつながることで、あることに気づきます。「私にも父と同じようなものがあったのかもしれません」と語った、「真の自分」の姿に、です。社長や役員でもなければ、部長でも、正規雇用の会社員などでもない。○○大学卒でも、海外駐在経験者でもない「私」。これまでの人生で、自分という一個人の上にまとってきたすべての虚飾を取り払った「私」そのもの。

私なら、健康社会学者でもなければ、元「ニュースステーション」担当の気象予報士でも、テレビやラジオに出演するタレントでもない、一個人としての「河合薫」という存在そのもの。

つまるところ、人は他者の存在を通じてしか、自分がわからない。「私が幸せになる」には人とのつながりが欠かせないのです。

人生のどん底から一縷(いちる)の希望を見つけ、イキイキと過ごす人たちにあって、過去の成功にしがみつく人になかったもの。それは、なんら特別な才能でもなければ、特別な能力でもありません。彼彼女たちが共通して持っているのが「半径3メートルの上手な距離感」です。

自分を取り巻く半径3メートルの人と「ゆるいつながり」を築き、一人の人間と人間として助け合い、分かち合い、労(いた)わり合う。そんな「ゆるいつながり」こそが、幸せな人生につながる鍵となります。

■「心理的ウェルビーイング」を生み出す6つの力

健康社会学者の観点から言えば、実はこの「半径3メートル」の「ゆるいつながり」、これこそが、今話題の「ウェルビーイング」。ウェルビーイングは一般的に「幸福感」や「ハピネス」という言葉に置き換えられますが、私がみなさんに伝えたいのは、「危機や不安に遭遇(そうぐう)したときにこそ高められる人間のポジティブな思考」の大切さ。これを、「心理的ウェルビーイング」といいます。心理学者のリフが提唱した概念です。

心理的ウェルビーイングは、幸福は「多次元で構成される」と考えます。具体的には、次の6つの思考ではかります。

①自己受容──自分の弱さと武器を見極め共存する
②人格的成長──自分の可能性を信じ、一歩踏み出す
③自律性──自分の行動や決断を信じる
④人生における目的──どんな人生を送りたいか? を明確にする
⑤環境制御──どんな環境でも楽しみ、自分のやるべきことを見つける
⑥積極的な他者関係──温かく信頼できる人間関係を築く

これらは、誠実さや勇気、謙虚さや忍耐、学び続ける姿勢といった、いわば人格を作る「心の筋肉」のようなもの。「私」が生きるすべての局面で、「私」を支えているといっても過言ではない力です。

■すべての人が「幸せ」になる力を備えている

「幸せ」は、「私」だけで成立するものではありません。どんな人にも「私」を取り巻く環境があり、その環境には例外なく他者が存在します。

私の専門である健康社会学は、人と人を取り巻く環境(生活世界)との相互作用にスポットあて、人の健康(=肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態)を考える学問です。そして、心理的ウェルビーイングは、そんな健康社会学的視点に立つ大切な理論の1つです。

私はこれを「幸せになる力」と呼んでいます。

私たちはつい、「強い結びつきのある人間関係」が大切なのだと考えてしまいがちです。しかし、生き物としての人の幸せは、半径3メートルの世界の「ゆるいつながり」の先にこそ存在します。そして、ゆるいつながりの中にいるとき、仮面の自分を捨てたときにこそ、「私はこうありたい」とか「私はこういう人生を送りたい」と、自分が本当に求めている「何か」に気づくことができる。

幸せの基準は人それぞれですが、幸せになる力はすべての人に宿り、「ゆるいつながり」があれば引き出されます。

社会的動物である私たちは、その長い歴史において、他者と協働することで生き残ってきました。「幸福感」は主観的な感情ですが、その感情は半径3メートルの環境との相互作用で生まれます。仕事のモチベーションや幸福感は「半径3メートルの人間関係」に大きく左右されるのです。

■朝起きたときに、楽しく笑えますか?

実際、これまでインタビューをしてきた人たちの中で、印象的な笑顔を見せてくれる人は、例外なく自分から動いて、周囲と「ゆるいつながり」を作れた人たちでした。

ある人は資格を取るために通った専門学校で、ある人は若い部下たちとの朝活で、ある人は町内会で、ある人はボランティアで、年齢もバラバラ、勤める会社も業種もバラバラ、性別もバラバラ。ただ、相手も人、自分も人であるというだけ。

そうやって周囲の人たちとゆるくつながった人たちは、「自分がいかに恵まれているかが分かった」と語り、「そこに行くと自分が若手だった。まだまだできそうだ!」と笑い、何年かぶりに「ありがとう」と言われたと、顔をほころばせました。

「心理的ウェルビーイング」の6つの思考を強化すれば、これまで産業社会の中で培(つちか)ってきた思考の癖から脱却できるようになります。

思考が変われば行動が変わります。動くことで見えてなかった景色が見えるようになり、他者と関わる中で進化する自分を実感できます。充足感のある人生を手に入れることが可能になる。

心理的ウェルビーイングを強化すれば、会社員であろうとなかろうと「今も毎朝やって、楽しく勤務しています」と軽やかに笑えるようになるのです。

夕暮れ
写真=iStock.com/Eloi_Omella
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eloi_Omella

■2020年という困難を乗り越えてわかったこと

いわずもがなのことですが、2020年は誰にとっても大変に厳しい1年でした。

それぞれの人が、いろいろなカタチで、なんとかかんとか生き延びてきました。競争したり、誰かを蹴落としたり、では、けっして乗り越えてくることはできませんでした。助け合い、譲り合い、支え合い、そんな生活の中で、多くの人が幸せにつながる種をまいてきた、と私は思うのです。

そこでまいた種を、この空前の危機を生かさないでどうする? 「幸せになる力」は誰もが持っているのですから、つまらない思い込みで現状に甘んじ、せっかく手に入る幸せをみずから捨ててしまってはもったいない。

今こそが「危機や不安に遭遇したときにこそ高められる人間のポジティブな思考」を高める最大のチャンスだと、私は思います。

個人的な話で恐縮ですが、私自身、今回のコロナ禍で、当たり前だった日常がことごとく消えてしまいました。自分が存在する意味すら分からなくなることさえありました。

私のモットーとして、「おかしいことをおかしいと言い続ける」姿勢を大切にしてきたのに、それがぶれそうになることが何度もありました。今まで経験したことのない事態に、驚き、不安という感情にとらわれ、翻弄(ほんろう)されました。

そんな私を支えてくれたのは、読者からの予期せぬ“サンクスメール”であったり、私が提案した企画の相談にのってくれた編集者たちでした。他者を思う温かい心のバトンを渡してもらったことで、自分の中の危機を乗り切ることができました。

「ああ、やりがいの神様からは、まだ見捨てられていないんだ!」と思えることで、「私」でいることができたように思います。

社会的動物である私たちは、他者と協働することで生き残ってきました。不安が極大化し、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する時代だからこそ、ゆるくつながりことが「私が幸せになる」一歩だと、身を以て確信しています。

■幸福と健康をもたらすのは「人間関係」だった

最後に「ゆるいつながり」の大切さを示した偉大な実証研究を紹介します。

ハーバード・メディカル・スクールの研究者たちが「人生を幸せにするのはナニか?」を調べるために、75年間もの歳月を費やした「グラント研究」です。この研究は1938年に始まり、当時10代だった724人の人生を追跡しました。

半世紀以上続けられた研究で明らかになったのは、「人を幸福にし、健康にするのは、人間関係だった」という、極めてシンプルな事実です。

「家族や友人、会社や趣味の仲間たちとのゆるいつながり」を持っている人は健康で長生きで、経済的にも成功している人が多く、「身近な人たちといい関係」にある人は生活の満足度が高く、「いざというときに頼れる人がいる」と幸福感が高く、脳も元気で、記憶をいつまでも鮮明に持ち続けていました。

この研究は、私たちに多くのヒントを与えてくれている、と思います。自分の中にある「幸せになる力」を信じるか? 否か? それは“あなた”次第です。

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河合 薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.)、気象予報士
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。著書に『残念な職場』(PHP新書)、『他人の足を引っぱる男たち』『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)などがある。

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(健康社会学者(Ph.D.)、気象予報士 河合 薫)

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