真面目な日本人よりテキトーなイタリア人の方が「仕事がデキる」と断言できる理由
プレジデントオンライン / 2021年4月9日 9時15分
※本稿は、谷本真由美『日本人が知らない世界標準の働き方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■日本からの荷物が当たり前のように届かないイタリア
私は海外で働き始めてしばらくの間は日本の人は優秀だと思っていました。お店では腐ったものは売っていない、バスや電車は時間通り、遅刻はしない、言ったことはやってくれます。1と言えば10が達成される。間違いが少ない。日本では安心してものを買ったり、サービスを頼んだりすることが可能です。買ったものは簡単には壊れません。
イタリアで働き始めた頃は、毎日が驚きの連続で、夜中になると「私が一体何をした……」と悩む毎日でした。まず、電気工事やガスのメンテの人が時間通りには来ません。電話会社に電話しても3時間繋がりません(つまり電話を繋げたままずっと待つのです)。日本から送ったものはなくなります。追跡システムがあってもなくなるのです。
届いても荷物は半分空いていて、中からさきいかやCDがなくなっています。大使館はビザの書類をなくします。なぜなくなったのかと聞くと、パソコンに向かって怒鳴ります。事務員はパスポートをなくします。
銀行は担当者に会う予約を入れても、バカンスに行ってしまったりするので、口座の間違いを直すのに2カ月かかります。銀行の口座からはお金が消えます。商店ではお釣りが間違っています。洗濯機はある日突然水漏れします。
■「日本人優秀」の確信が崩れ落ちた瞬間
アメリカやイギリスはここまでひどくありませんが、大同小異、レベルの違いはあれ、 日本ではあり得ないことの連続でした。しかし、海外にいる時間が長くなればなるほど、「日本人優秀」の確信はボコボコと崩れ落ちていきました。
まず、日本人の優秀さが発揮されるのは、言われたことや決まっていることを、命令通りに行う場合です。極めて真面目に遂行する。管理者だと物凄く助かります。しかも細かいところにも目を配ってしてくれるので、安心です。ものは盗まないし手抜きもしない。本当に真面目です。その点では極めて優秀です。多分世界一レベルでしょう。
ところが、臨機応変な対応にはことごとく弱いのです。例えば、飲食店でお客さんが「アレルギーがあるからこれを取り除いてほしい」と言った場合、対応してくれる店員さんはほとんどいません。「マニュアルで決まっているので……」と繰り返すばかり。
取り除くだけでもダメです。自分の頭で考えて、ここまでならお店の問題にならない、という人は皆無に近いのです。経営者的には従順だから助かりますが、お客さんとしてはあまり嬉しくありませんね。
■イタリアの黒光りしたお兄さんと、ギャルセクシー系お姉さんの神対応
一方、命令に従うのが嫌いで、怠惰で適当な人々が多いイタリアはちょっと違います。
以前イタリアのLCC(格安航空会社)に乗った時に、チケッティングシステムがクラッシュしました。復旧しそうになかったので、その日は移動できないかなと半分諦め気分でした。しかし、その場にいた黒光りしたお兄さん担当者と、ギャルセクシー系お姉さん担当者と、おばさま担当者たちは、どこかにジャカジャカと電話をかけ始めました。
そして、突然、「おらよ!」とチケットをその辺の紙に殴り書きして、お客に次々と渡し始めました。そして、お客に「良かったね。バカンザを楽しんでちょうだいな。プロント、プロント(早く、早く!)」とウインクして、飛行機に乗せてくれたのでした。機内では、乗客の数を手で適当に数えて「空いてる席はあるか? ないな?」と確認して、さっさと飛行機が出てしまいました。
「席は適当に選ベ、人数が大体合ってればいい。クラッシュしたのは搭乗システムだけだから、飛行機は飛ぶし、安全性には問題がない。乗れば客はハッピー、会社もハッピー、チケットが殴り書きだからってなんの問題があるんだい? あとで会社にこうなったぜって言えばいいだろ。こんなもの単なる乗り物だ、乗れりゃいいんだよ。壊れたのは俺のせいじゃないし謝る必要はないぜ。とにかく問題を解決するのが優先さ」という考えのようでした。
■「すみません」を繰り返すばかりの日本の航空会社
日本でもまったく同じ場面に遭遇したことがありました。ある大手航空会社の搭乗システムがクラッシュしてしまい、その日の朝、東北に向かうはずだった私と母は、空港で立ち往生してしまったのです。
係員の方は「すみません」「申し訳ございません」と繰り返すばかりで、何がどうなっているのか、いつ乗れるのか、保障はあるのか、わからずじまいでした。しかし、飛行機自体を飛ばすことに問題はないようでした。
結局、私たちは他社便に振り替えられたのですが、振り替えのことを聞いたのは3時間後、空港を出発したのはその日の午後になってしまい、宿に着いたのは真夜中でした。
臨機応変な対応が必要な場面では、日本人の従順さや、上の人に逆らわない、杓子定規にやる、というキャラクターがマイナスの方向に作用します。思い切った決断、その場の問題を解決しようという瞬発力、お客さんへのサービス精神、終わりよければ過程なんてどうでもいいんだという大雑把さ、働く人もお客も会社も楽しくなるやり方、というのを考えつきません。
イライラしていたお客へウインクするなんて、日本の航空会社の人では考えつきません。しかし、ちょっとチャーミングな対応をすることで、そのお客にとっては一生忘れられない思い出になるし、働く方も楽しくなります。いろいろ間違ってばかりのイタリア人でも、こういう臨機応変さ、創造性の高さは、大変素晴らしいのです。
これってなぜでしょうか?
■イライラしたお客にウインクできるか
私は日本人の育ち方と教育に原因があると思います。日本の家では親が決めることが多いのです。小さい子供に「アナタはどうやってやりたい? 選択肢と理由を説明して」なんて言いません。学校では細かい決まりがあって、それに従うことを学ぶのがお勉強です。
子供の頃から暗記、暗記。国語の試験では先生が決めた「主人公の気持ち」を書けば満点。人から与えられた決まりを守ることを遂行できる能力の訓練に、大きな時間が割かれています。その決まりが、おかしいか、面白いか、別の方法はないか、なんて考える機会はありません。
しかし、多様な人が、雑多に交じって働く世界では、先々何があるかわかりません。トラブルは起こるのが当たり前と考える方が当たり前です。
そんな時に大事なのは、なぜその決まりはあるのか、他に方法はないか、どうやったらもっと良いかを「自分で考えること」です。日本の家でのしつけや教育を変えていかないと、いくら「グローバル、グローバル」といっても、イライラしたお客にウインクしてなんとか丸く収めてしまう、イタリア人のような瞬発力に負けてしまうでしょう。
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著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する
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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)
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