「銀行でムリなら信用金庫に戻す」第二地銀を震えさせる金融庁の腹案
プレジデントオンライン / 2021年4月8日 9時15分
■地元の信用金庫との再編が前提になれば…
第二地銀の一部で協同組織金融機関への回帰が真剣に議論されている。今国会で関連法の改正を目指して準備している金融庁関係者がその実情を打ち明ける。
「第二地銀は地域金融の有力な担い手であるが、より規模の大きい地銀に優良な地元企業を押さえられる一方、中小・零細企業は信用金庫に侵食されている。いわばサンドイッチのように圧迫される構造的な問題を抱える。そこにマイナス金利の象徴される超低金利が追い討ちをかけ、将来の展望が描きづらい状況に陥っている」
その打開策として他行との再編を模索している第二地銀も少なくないが、「再編相手として地元の信用金庫を加えてはどうかと考えている。その場合、自行が協同組織金融機関に戻る必要が生じる」(ある第二地銀幹部)というのだ。
そもそも第二地銀の発祥は無尽会社で、戦後、協同組織金融機関の一形態である「相互銀行」がルーツ。それがバブル経済の走りの1985年に相互銀行業界を挙げて普通銀行に転換したいと行政に要望した。「相互銀行から地銀と同じ普通銀行に転換することで、業務・業容の拡大を目指したものだった」(第二地銀幹部)という。
■浮上した「協同組織金融機関」への先祖返り
同時に行政もこの流れを後押しした。「当時の大蔵省銀行局内には、相互銀行を地銀と合併させる構想があって、そのために相互銀行を普通銀行法に基づく地銀に格上げすることで両者の根拠法を揃えようという考え方があった」(大蔵省OB)というのだ。
その結果、1985年に65行あった相互銀行のほぼすべてが1989年に「金融機関の合併及び転換に関する法律」(合併転換法)に基づき一斉に普銀転換した。
今、一部の第二地銀が検討しているのは、この歴史の流れを元に戻そうというものだ。実際、相互銀行は普通銀行に転換した当初はバブルの波に乗り、業容を拡大させたが、バブル崩壊とともに不良債権の山を抱え、破綻や救済合併される悲惨な結末を招いた。「相互銀行のままであれば、違う歴史もあったはず」(第二地銀幹部)というわけだ。
また、協同組織金融機関に戻ることは3つのメリットがある。
1つ目には、営利を最優先しない見返りに税制面の恩典があること。2つ目には、株式を上場しなくてよくなるため、不要な上場コストが削減できる。さらに3つ目は、買収リスクにも晒(さら)されなくてすむ。
プライドを捨てれば、浮かぶ瀬もあるということだろう。
■銀行にとって冬の時代が続いている
日銀は3月18、19日の金融政策決定会合で8年間におよぶ大規模金融緩和策の点検を行い、政策の一部を修正した。
「長期金利の誘導幅をプラスマイナス0.25%に若干広げるとともに、上場投資信託(ETF)の購入について原則、年6兆円としていた購入額の目安を削除する内容。しかし、肝心な2%の物価目標は達成できていないことから、6兆円の購入削除が金融緩和の後退と受け止められないようETF購入の上限である年12兆円の枠は維持した」(市場関係者)。
4月以降は市場が混乱した場合のみETFを買うなど、よりメリハリをつけた運用にシフトすると見られている。
この点検で民間金融機関が密かに期待した日銀によるマイナス金利政策の解除は見送られ、大規模な金融緩和は今後も継続される。このことは、とりもなおさず金融機関の収益環境は厳しい状況が続くことを意味する。とりわけ人口減少や地域経済の縮小に苦しむ地銀の経営環境はこれまで同様、逆風が吹き続けることになる。
翻って、菅義偉首相は昨年秋の自民党総裁選の過程で、「地方の銀行について、将来的には数が多すぎるのではないか」と語り、「再編も一つの選択肢になる」と指摘した。
銀行の歴史は再編の歴史でもある。日本経済の血流である資金供給を担う銀行は長い時間をかけて合従連衡を繰り返してきた。また、金融行政においても銀行の再編は中心課題であり続けた。
■今後、数が減ることは避けられない
菅首相が地銀の再編に言及したのは、「地方創生を推し進めるためには、地域経済の血流を担う銀行がしっかりすることが重要であり、そのためには再編も選択肢となる」ということであろう。経済規模が縮小する中、銀行の数が相対的に多い地域があることは事実だ。
しかし、再編は同時に、銀行の多様性を喪失するリスクがあることにも留意しなければならない。このことは80年代には12行あった都市銀行が3メガバンクとりそなホールディングスに集約されたことからも分かる。
大手銀行の数が激減したことに伴い、企業の取引銀行も集約され、借入チャネルは細った。
同様に地銀の再編も促進され、今後、数が減少することは避けられないだろう。すでにその環境整備は行われている。
昨年11月には地方銀行同士の統合・合併を独占禁止法の適用除外とする特例法が施行された。収益減少にあえぐ地銀の再編を後押しし、経営基盤の強化を促すもので、適用期間は10年間となる。また、それに先立ち金融機関が公的資金を受け入れやすくする改正金融機能強化法も昨年8月から施行されている。いずれも地銀の再編を後押しする環境整備にほかならない。
■金融庁の「異例人事」はその布石か
金融庁は昨年7月に遠藤俊英長官が退任し、後任の新長官に金融国際審議官の氷見野良三氏が昇格した。
また、長官人事に合わせ、局長クラスの異動も行われ、氷見野氏の後任には総合政策局長の森田宗男氏(1985年大蔵省入省)が就いた。後任の総合政策局長には中島淳一企画市場局長(1985年)が回り、その企画市場局長には古澤知之証券取引等監視委員会事務局長(1986年)が充てられた。栗田照久監督局長(1987年)は留任した。
この一連の幹部人事の陰で金融界を驚かせたのは課長級の異動だった。監督局銀行第一課長であった新発田龍史氏(1993年)が、銀行第二課長に就いたことだ。
「銀行第一課長はメガバンクなど大手金融機関を所管し、第二課長は大手地銀など地域金融機関を所管する。銀行第一課長から第二課長に異動する人事は異例だ」(金融庁関係者)という。
この異例の人事は、遠藤俊英前長官が退任にあたり地域金融機関に示した最後のシグナルと受け止められている。遠藤氏は退任直前の昨年7月中旬、最後の地域金融機関トップとの会合で次のように語りかけている。
「地域金融機関については持続可能なビジネスモデルの構築が課題である。このためには、経営トップの皆さまの決断と実行が重要であり、具体的なアクションに踏み出していただきたいと折に触れて申し上げてきた。実際、さまざまな動きが見られるが、全体としては、多くの地域金融機関で経営改革が進んでいるというところまでは至っていないと認識している」
■普銀化を進めたかつての法律が変わる
地域金融機関の経営改革は道半ばであり、その課題は氷見野新長官に引き継がれた。新発田氏の銀行第二課長は、そうした金融庁の意思表示と映る。
第二地銀を協同組織金融機関に先祖返りさせる施策はまさにその象徴であり、布石は昨年末に敷かれている。12月に公表された金融審議会の銀行制度等ワーキンググループの報告書で合併転換法の改正が提言されたことがそれだ。
同法律により相互銀行が一斉に普通銀行に転換したことは先に触れた。その法律が今、改正されようとしているのだ。
金融庁が準備している同法の改正では「地銀から信金への業態転換が強く意識されている」(地銀幹部)という。
例えば、金融機関の業務範囲は法令で定められており、信用金庫法では取引できる法人の規模は規定されている。信用金庫は従業員数300人超、かつ資本金9億円超の企業には融資が行えない。仮に第二地銀が信用金庫に転換した場合、既存取引先への融資が継続できなくなる恐れがあるのだ。
このため改正される合併転換法では、こうした融資についても、一定の条件を満たせば金額、期間に関係なく資金の供給を続けられるように措置されている。
■「ウルトラC」の施策が実現するのか
金融庁は合併転換法の改正案を準備しており、今国会に上程される見通しだ。
ただし、第二地銀が信用金庫と同様の協同組織金融機関となり、同じ土俵で競争することには、信金業界の反発は根強い。
また、信金関係者によれば、「第二地銀が信金と統合し、協同組織金融機関に転換した場合、営業基盤が限られるという問題も残る」とされる。
このため、合併転換法の改正案には総論賛成でも各論では異論が噴出する可能性が高いと見られている。だが、現在の厳しい経営環境が続けば、いずれ地域金融機関の救済措置が必要となる。その時、第二地銀の信金転換はまさに「ウルトラC」の施策として一挙に現実味を帯びてきそうだ。
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経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。
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(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)
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