「コロナ禍でも絶好調のワケ」東南アジアのドンキで売り場の半分を占める"あるもの"
プレジデントオンライン / 2021年4月11日 11時15分
■コロナ禍という大きなうねりの中での積極的な海外進出
ディスカウント店「ドン・キホーテ」(以下「ドンキ」)などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが、ドンキのアジア展開を加速させている。その勢いはコロナ禍でも止まらない。2021年1月19日に台湾の台北市に同地域1号店を、3月19日にマレーシアの首都クアラルンプールに同国1号店を開いた。
現在は、香港7店舗、タイ2店舗、シンガポール8店舗、台湾1店舗、マレーシア1店舗の合計19店舗を展開(21年3月28日時点)。20年6月期に海外事業(米国含む)の実績として1151億円の売上高(全体の約6.8%)を達成しており、30年には海外事業の売上高1兆円を目標としている。
ドンキは日本国内において競合を許さない独自の小売モデルで成長し続けてきた。そのモデルは東南アジアで展開する「ドンドンドンキ(DON DON DONKI)」とは異なる。つまりドンキは国内と海外では違うモデルで、それぞれ爆発的な成長を達成しているのだ。
ドンキの最初の海外進出は06年。ダイエーのハワイ法人を買収して4店舗をドンキに転換したのが始まりだった。前身のダイエーが生鮮食料品中心の総合スーパー(GMS)という小売業態だったため、ドンキもそれまで日本国内では扱っていなかった生鮮食料品を取り扱い、現地の消費者から大きな支持を集めた。また、インバウンド客にとってもハワイ土産を安く買える店として人気が出た。
■東南アジアでは売り場の半分以上が食品
海外事業を本格化させたのは、シンガポールに海外事業本部を設立した13年からである。カリフォルニアとハワイで11店を展開する食品スーパー「マルカイコーポレーション」を買収し、国際店舗網を拡大した。現在、店舗の半分はマルカイブランドのままで、残り半分は「トーキョーセントラル」という新しい食品スーパーのブランドになっている。後者の新規店舗を出店しながら、17年にはハワイの食品スーパー「タイムズ」を買収し、マルカイ、タイムズ両方から食料品中心の小売チェーンが持つべきノウハウを学習していった。
培われたノウハウとその成功体験をもって、17年にシンガポールへ進出。日本国内のドンキは、その独自のコンセプトからインバウンド客にも話題になっていたため、シンガポールでも大好評を得た。とりわけ、焼き芋のように日本らしく、ドンキらしいユニークな商品の展開は、行列ができるほどの人気を博した。その勢いで次にタイへ進出し、19年に1号店、20年に2号店を開いている。
シンガポール第1号店は、ドンキが東南アジア市場で展開するための「実験店」であった。店内には日本の食文化を代表するすしや弁当類、日本から輸入された生鮮食料品や加工食品を加えた。売り場に隣接するカウンターバー「ドリンクドランクドンキ」では、アルコールを注文すればドンキで購入した総菜をつまみに楽しめる。まるで日本の居酒屋のようなのだ。
ドンキの東南アジア事業における新業態の商品構成では、売り場の半分以上が食品で、生鮮や総菜が充実している。これは、食料品中心の総合型小売業態で海外進出を果たしてきた従来のグローバルリテーラーの現地化戦略とは全く異なる。
それまでの現地化戦略では、現地市場に持ち込まれる異質の商品・プロモーション・販売手法と現地の消費者ニーズとのギャップを埋めるため、地元の食材や商品を現地のサプライヤーから仕入れて足元商圏内の消費者にいかに大量販売できるかに焦点が当てられていた。しかしドンキはこのような小売国際化事業における一般常識を無視して、日本製もしくは日本市場向けの商品を低価格でラインアップする「ジャパンブランド・スペシャリティストア」という独自のコンセプトを打ち出した。
■食料品を専門品と捉え、生鮮食料品の取り扱いを強化した
さらに生鮮食料品の取り扱いを強化した。生鮮食料品は他の商品カテゴリーより廃棄ロスが多く、複雑な取り扱い技術を要する。ドンキが東南アジアで展開する新業態は、食料品をコモディティ商品ではなく、専門品と捉えている。日本食や料理を通じて、日常だけではなく非日常まで味わうことを可能にしているのだ。また、東南アジア諸国における日本食ブームを外食だけではなく、中食にまで広げたということで、現地の消費者の間で話題を作った。加えて、高所得者層や駐在員の需要を取り込んだ。
※編集部註:初出時、「明治屋は閉店に追い込まれた」とありましたが、事実ではありませんでした。訂正します(4月13日7時48分追記)
■タイでは商圏内にライバル店が多く布陣
19年2月にオープンしたタイ第1号店(ドンキモールトンロー)は開店直後から入場規制がかかるほどの大盛況となった。品質の高さを誇るジャパンブランドのイメージをフル活用しながら、豊富な品ぞろえと割安感を打ち出す。東南アジアにおけるドンキのキーコンセプトは「本物志向」で、それはタイにおいても共通している。
ドンキは19年12月に、香港2号店を出店した。シンガポールやタイと同じく、香港においても信頼感のあるジャパンブランドの食料品を中心に商品構成が行われており、さらに土産品として人気の日本製菓や化粧品も取り扱っている。店内の雰囲気も日本の祭りをテーマに堤灯やうちわなどを飾ることで日本らしさを打ち出している。
2号店の商圏は新興住宅地で、高級マンションも建設されている。一方で、一般庶民も多く、地元産より割高な日本産の食料品を日常的に消費するような消費者は限定的だ。
しかし、そうした懸念をよそに、香港の2号店は同社グループにおいて「1月度の月販売上が7.6億円とナンバー2の店舗となっている」(21年6月期第2四半期決算説明会スピーチ要旨)。20年10月末時点で4店舗だった香港のドンキが21年3月末現在、7店まで増えてきているのは、日常の生鮮食料品およびグロサリーが足元商圏内の高頻度来店客にとって魅力的だからだろう。
■足元商圏でうまく集客できるかが重要な課題に
ドンキの東南アジア型モデルは、食料品中心の「ジャパンブランド・スペシャリティストア」であるため、日常的に買い物される足元商圏でうまく集客できるかが重要だ。
そしてさらなる大きな課題は巨大イスラム市場への挑戦だろう。イスラム教徒が全人口の6割以上を占めているマレーシアでは、食料品中心の小売業態を展開するにあたって、商品開発・販売面でハラル認証の取得という制約がある。ハラル認証を取得した日本産の食料品が、マレーシア1号店の足元商圏内の高頻度来店客にとってどれだけ魅力的に映るかは、ドンキの巨大イスラム市場への拡大を試みる試金石になるに違いない。
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流通科学大学商学部マーケティング学科 教授
博士(商学)。大阪市立大学大学院経営学研究科後期博士課程修了。専攻分野は流通・マーケティング。著書に『小売業のグローバル・イノベーション』(中央経済社)がある。
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(流通科学大学商学部マーケティング学科 教授 白 貞壬)
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