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「サラリーマンは自営業者よりローリスク」という時代はもう終焉した

プレジデントオンライン / 2021年4月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DNY59

世界中で雇用のあり方が激変しつつある。世界各国で働いてきた著述家の谷本真由美氏は「非正規雇用が増えているのは日本だけではない。OECD加盟国では、1990年代半ばから2000年代後半にかけて非正規雇用の割合が11%から16%に増加している。多くの人がサラリーマンとして働ける時代は終わりつつある」という——。

※本稿は、谷本真由美『日本人が知らない世界標準の働き方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■「会社」とは、リスクを回避するための「仕組み」でしかない

現在一般的になっている株式会社というのは、そもそもイギリスで大航海時代に、貿易のリスクを回避するためにできた仕組みでした。

当時の船は木製で、航海技術も未発達だったので、航海中に船が沈没したり、海賊に襲われることが少なくありませんでした。レトルトパウチの保存食も、缶詰すらない時代で、水夫は腐った水と、蛆(うじ)虫の湧いたカンパンをかじりながら航海するという、大変ギャンブル性の高いものでした。

沈んでしまう可能性の高い船一隻に出資するのは大変なので、出資者は、複数の人と集まって、航海の費用を出し合うようになります。複数が集まれば、より多くの資金が集まるので、船を補強することも可能ですし、水夫の壊血病を防ぐために果物を積み込むことが可能になります。

また、船が沈んだ際のダメージも小さくなります。つまり、会社というのは、そもそも自分一人の力や資力では達成することが不可能な仕事を可能にしたり、リスクを回避したりするための「仕組み」だったのです。

■コネも資金もない若い人でも、巨額の富を得られる

この基本的な仕組みは、株式会社だけではなく、有限会社や合同会社でも同じです。近代になり、船は工場やオフィスに置き換わり、航海のお金を出す商人たちは共同出資者や株主になり、水夫たちはオフィスの同僚や上司になりました。

しかしこれから働く場所が関係なくなれば、わざわざ複数の人と集まって、オフィスで働いたり、自ら工場やオフィスワーカーを抱える理由がなくなります。かつてに比べて、安価に、そして、簡単な方法で、仮想空間で、限られた期間だけ会社のような形態を作って仕事をすることが可能になったからです。

その象徴のような例がイギリスにあります。ジャック・ケイターは、ノフォークで16歳の高校生だった頃、コンピューターで遊ぶのが趣味でしたが、学校内のネットワークから、自分の好きなウェブサイトにアクセスできないことを不便に感じ、ある日の午後、自宅のリビングで、ノートブックコンピューターを使って「Hide My Ass!」というVPNサービスを立ち上げます。

VPNとは、一般に開放されているインターネット上で、自分専用のネットワークを作って使用するサービスのことです。

「Hide My Ass!」は、その便利さから、ネット掲示板などで徐々に話題になり、ケイターはサービスを拡大します。その際に、仕事をしてくれる人は、すべてUpwork.comなどのフリーランサーを雇うサイトから募集しています。

システムアーキテクトはウクライナのウクライナ人で、その他の協力者もセルビアなど世界各地に散らばっていました。フリーランサーは時間単位で雇用し、一度も会うこともなくサービスを拡大していったのです。

事業を本格的に拡大することになって、ロンドンにオフィスを構え、一度も会ったことがなかった人々をオフィスに呼び寄せました。2014年にはサービスを約48億円で売却しています(出典:The Guardian「HideMyAss! Your secret’s safe with Jack」)。

この事例が示すように、今や、アイディアさえあれば、世界中に散らばっている人と仕事をすることで、コネも資金もない若い人でも、巨額の富を得ることができるのです。

グローバル通信ネットワーク
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■世界中から時間単位で働く人を探すことが可能

一方で、ケイターが採用したフリーランサーたちは、ウクライナやセルビアなどの新興国に住んでおり、地元のイギリス人ではないことにも注目すべきです。イギリスにも同じスキルを持ったサラリーマンやフリーランサーはいますが、適切なスキルを、妥当な報酬で提供する人が、物理的な距離を超えて雇われてしまったのです。

設備も資金もコネもない高校生ですら、世界に散らばる専門家を時間単位で雇い、管理し、成果物を確認し、事業を展開することができるということは、これが、資金もコネも人材もある企業の場合は、より大きな規模で可能になる、ということです。

つまり、物理的な空間が関係ない仕事であれば、世界中から、時間単位で働いてくれる人を探すことが可能なのです。企業経営者から見た場合、正社員を抱えているよりも、必要な時に必要な技能や知識を持った人を、一時間いくらで雇うことができれば仕事は終わるので、わざわざ「カイシャ」という形態にする必要性がないということです。

■景気が悪くなると正社員、景気が良くなるとプロジェクト単位

これは、場所に関係なく仕事ができる業界だとすでに顕著です。例えば、ロンドンのIT業界の場合、職場で働いている人の8割がプロジェクト単位の雇用、というのが珍しくありません。

谷本真由美『日本人が知らない世界標準の働き方』(PHP研究所)
谷本真由美『日本人が知らない世界標準の働き方』(PHP研究所)

エネルギー業界や非営利団体、環境などの世界でも、プロジェクト単位の雇用が珍しくありません。ただし、プロジェクト単位で雇われる人々は、技能を売るので、時間単位の報酬が高い専門家として扱われます。

会社側では、正社員かプロジェクト要員かでの差別はほとんどなく、単に役割が違うだけ、という認識です。正社員の場合は、雇用が安定する代わりに報酬が低い、という違いがあります。景気が悪くなると正社員(誰かに雇われる)、景気が良くなると、プロジェクト単位で働くというサイクルを繰り返す人が少なくありません。

また、技能を売る働き方なので、年齢や性別、国籍であれこれ言われることはありません。あくまで、仕事ができればよいというスタンスです。ですから、出勤時間や、仕事が終わった後の夜の付き合い、中元・歳暮なども、仕事の成果には関係がありません。

これは公共機関ですらそういう傾向があります。例えば国連機関の場合、開発援助プロジェクトを実施する場合、国連職員が担当するのはプロジェクトの企画や管理なので、実作業のほとんどは、プロジェクト単位で雇用された外部のコンサルタントです。プロジェクト関係者の9割がコンサルタント、という場合も珍しくありません。

■会社員がローリスク、ローリターンだった時代の終わり

このように、働く場所が関係なくなっているので、先進国の企業では、わざわざ社員を抱える必要が薄れています。

多くの組織では、ごく一部の、意思決定をする幹部や、「富を生み出す仕組み」を考える人だけを残し、あとは、短期的に雇用したり、海外の人を雇う、という傾向が高まっています。必要な人材は置いておき、景気の動向により、部署ごとレイオフしたり、海外に移動したりしてしまうのです。

年間労働時間の比較
参照 http://www.oecd.org/social/soc/47723414.pdf

図表1は、OECDによる1980年代中頃から2000年代中頃の主要国の労働時間の推移を調査した結果です。低収入層は労働時間が減っている国が大半です。先進国では低収入層の仕事が合理化されたり海外に移転してしまったりしたため、労働時間が減っています。

かつては、オフィスでの情報共有や、仕事の管理が難しかったので、部署ごと海外に移転、という事例は多くはありませんでしたが、情報通信技術の発達で、かなり簡単になったので、思い切る組織が増えてきたのです。

それを裏づけるのは、先進国における、非正規雇用の増大です。先進国では付加価値の低い仕事が国内から消えるか、コストを削減するために非正規雇用などに置き換えているため、トップ層以外の賃金が下がっています。

さらに、OECD加盟国では1990年代半ばから2000年代後半にかけて非正規雇用の割合が11%から16%に増加しています。これは、情報通信技術が発達し、金融やIT産業が以前にも増して盛り上がってきた時期と重なります。非正規雇用が増えているのはなにも日本だけの話ではないわけです。

つまり、正社員であっても、ある日突然クビになったり、部署ごと海外に移転してしまったりする可能性があるため、その地位は決して安定していないということです。

正社員はかつては、自営業者などに比べると莫大な収入を得られることが少なく、ローリターンである一方ノーリスクでしたが、今では、正社員であっても、地位が安定しているとはいえないのです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)
著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する

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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)

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