「みんなマスクしていますよ」なぜ日本人はこう言われると弱いのか
プレジデントオンライン / 2021年4月12日 11時15分
※本稿は、早坂隆『世界の日本人ジョーク集 令和編』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したのもです。
■コロナによって浮き彫りになった国民性
【パンデミック】
コロナ禍において、世界各国の政府が国民に外出を控えるよう求めることになった。
アメリカ政府はこう発表した。
「外出は正義に反する」
アメリカ国民は外出しなくなった。
イギリス政府はこう発表した。
「外出は紳士的ではない」
イギリス国民は外出しなくなった。
中国政府はこう発表した。
「外出したら拘束する」
中国国民は外出しなくなった。
フランス政府はこう発表した。
「外出しろ」
フランス国民は外出しなくなった。
日本政府はこう発表した。
「外出の自粛を要請します」
日本国民は外出しなくなった。
2020年、新型コロナウイルス感染拡大という災厄は、世界各国それぞれの「お国柄」を見事に浮き彫りにしました。否、「本性を炙り出した」と言ったほうが良いでしょうか。
いわゆる「第1波」の際、アメリカでは銃弾の売れ行きが急増。これは日用品不足に端を発する略奪行為に市民が備えた結果でした。いかにも「銃社会」のアメリカらしい反応でしたが、ネット上には「ウイルスより銃のほうが怖い」「銃メーカーがウイルスをばらまいているのでは?」といった投稿が溢れました。
フランスでは人気サッカークラブ「パリ・サンジェルマン(PSG)」の試合が無観客試合となりましたが、スタジアムの周囲には数千人ものサポーターが集結。大声でチャント(応援歌)を唄いながら、花火を上げたり発煙筒を焚いたりしました。フランスのネット上には「彼らが感染して亡くなれば、フランス国民の知能水準があがる」といったシニカルなコメントが相次ぎました。
アフリカのチュニジアでは「感染の予防にニンニクが効く」とのデマがSNSを通じて拡散。ニンニクの価格が急騰しました。
日本を含むいくつかの国々では、トイレットペーパーが品薄に。こちらもデマが原因でしたが、オーストラリアではトイレットペーパーを巡る乱闘騒ぎが勃発。香港ではついに「トイレットペーパー強盗」まで登場しました。
そんな一連の騒動を皮肉って、SNS上にはこんなツッコミも。「そんなにトイレットペーパーを買っても、お尻は一つしかないよ」。
■世界が驚いた「ジャパン・パラドックス」
結局、欧米などの多くの国々ではロックダウン(都市封鎖)を実施。罰則を伴う厳しい外出禁止令に踏み切りました。
しかし、日本はあくまでも「自粛要請」という「緩い」かたちでの対応を選択。当初、海外のメディアはこのような日本の姿勢に対して、かなり懐疑的でした。「罰則がなければ外出者数を抑え込めるわけがない」というのが世界の常識だったのです。国際社会は「日本人は甘すぎる」と冷笑しました。
しかし、日本人は外出を控えました。感染者数や死亡者数は、欧米諸国などよりも低い水準で推移し、今に至っています。
結果、世界のメディアは態度を一変。「ミラクル」「ジャパン・パラドックス」といった言葉を使って、日本のコロナ対応を評価するようになりました。もちろん、日本政府のコロナ対策が万全だとはとても思えませんが、例えばイギリス紙「ガーディアン」(電子版)はこう報じています。「日本は確固たる証拠を持って、新型コロナ対策に成功した国だと主張することができる」。
2021年1月には再び緊急事態宣言が発令され、改めて外出の自粛が呼びかけられました。さすがの日本人も、一回目の時ほどの自粛には至りませんでしたが、それでも街の人出は総じて減少傾向に転じました。
ヨーロッパの感染症医が新聞記者に言った。
「日本のコロナ対策は断崖絶壁の一歩手前である」
新聞記者が尋ねた。
「それではヨーロッパのコロナ対策は?」
感染症医が答えた。
「日本より一歩進んでいる」
■奏功した日本の「マスク文化」
【マスク】
日本人の研究者グループが最新式のAI(人工知能)を搭載したスーパーコンピューターを使って、新型コロナウイルス対策を立てることにした。ワクチンの開発方法や、新たな感染予防策の提示などを期待して、ウイルスに関するデータをすべて入力した。
数分後、スーパーコンピューターが話し始めた。
「最適な解決策がわかりました」
研究者たちは歓喜した。スーパーコンピューターが続けて言った。
「マスクをしてください」
●マスク政策
コロナ禍において、各国の政府が国民にマスクの使用を求めることになった。
アメリカ政府はこう発表した。
「マスクをすればあなたは英雄です」
ドイツ政府はこう発表した。
「マスクをするのがルールです」
イタリア政府はこう発表した。
「マスクをすると異性にモテます」
日本政府はこう発表した。
「みんなマスクしていますよ」
このジョークには元ネタがあります。それは「沈没しそうな客船から乗客を海に逃がす際、船長は各国の人々に何と言えば良いか」というもの。アメリカ人には「飛び込めば英雄です」、日本人には「みんな飛び込んでいますよ」というわけ。このネタがコロナ禍によって「変異」しました。
余談ですが、かつてこの「沈没ジョーク」を紹介した拙著の広告コピーが「みんな読んでいますよ」。出版社側のアイデアでしたが、なかなかシャレが効いていました。
■マスク警察の登場…もはや笑い事ではなくなった
さて、そんな「集団主義」が特徴の一つとされる日本人。今回のコロナ禍では「同調圧力」という表現が話題になりました。「外出時にマスクをしていないと周囲の反応が怖い」と感じる人が少なくないという調査結果も報告されています。マスク未着用の人に対して過度に攻撃的な「マスク警察」なる人々の登場に至っては、もはや笑い事ではありません。
ただし本来、集団主義自体が悪いわけではないはずです。自分の身の回りに丁寧に気を配り、他者の迷惑にならないように留意し、自身の行動を律していくという行為であれば、それはむしろ「日本人の美徳」とも言えるでしょう。このような公共心こそが、ウイルスの感染拡大を抑制することにつながっているのではないでしょうか。
実際、マスク着用の動機について、「自分が感染したくない」という心理と同時に「他者を感染させたくない」という思いが日本人には強いと言われています。
個人主義の強いアメリカでは、マスクの使用を嫌がる傾向が根強く続いています。アメリカ国民によれば、「呼吸は神様から与えられた権利」とのこと。しかし、そのような理由で「マスクをしない」という選択をすることは、「公」よりも「個」の価値観を優先している証拠と言えるでしょう。無論、アメリカ人にとって「個の自由」は建国以来の重要な理念ですが、個人主義と利己主義の境界線というのは至って曖昧なものです。
■個人主義の強いアメリカ
米テレビ局FOXニュースの有名司会者が、新型コロナウイルスに対するアメリカ人と日本人の国民性を比較したツイートをしたところ、次のようなコメントが集まりました。
「我々アメリカ人は『俺たちはできる』という自信ゆえに、常識に従うことができない。日本人は風邪をひいた時、周囲を守るために何十年もマスクをしてきた」
「日本は『我々』という部分を意識する。だが、ほとんどのアメリカ人は違う。アメリカ人が心配するのは『私』。アメリカの利己的な部分が破滅の原因」
アメリカのマスク反対派の中には、「わざと穴を開けたマスクをして街を歩く」といった動画をSNSにアップする人まで登場。「風刺が効いている」「ユーモアがある」という意見があった反面、「くだらない」「レベルが低い」といった反応も多く寄せられました。
東京で暮らすアメリカ人の子どもが、新型コロナウイルスに感染してしまった。母親はすぐに子どもを連れて病院を訪れた。
病院はすでに多くの感染者で溢れていたが、医者はすぐにその子を入院させ、薬の投与を開始した。その後、その子の体調は回復し、数週間で無事に退院することができた。病院を出る際、母親が医者に言った。
「私は治療費を払いたくありませんわ。なぜって、私はこの病院をたっぷり儲けさせたのだから」
医者は怪訝な顔をして聞いた。
「どういう意味でしょうか? 医療費はどの患者さんも同じです。私はあなたから特別に儲けさせてもらったことなどありませんよ」
すると母親が言った。
「冗談じゃありませんわ。この街でマスクもせずに遊びまわっていたのは、うちの子だけですのよ」
■欧米人が抱いていたマスクへの悪印象
今回のコロナ禍以前から、日本人は風邪や花粉症の予防にマスクを使用してきましたが、そのような光景は欧米人などから「おかしい」「不可思議」などと笑いのネタにされてきました。欧米社会ではあくまでも「マスクは医療関係者や病人がするもの」であって、街で予防的に使うものではないという認識が広く共有されてきたのです。
世界的な感染症学者であるベルギー人のピーター・ピオット博士は初めて日本を訪れた際、マスクをしている日本人を見て、「パラノイア(偏執病)だと思った」と述べています。そんな博士も、今では日本のマスク文化を称賛しています。
そもそも欧米には「顔を隠すのは犯罪者」というイメージが強くあります。2017年、オーストリアは公共の場で顔を覆うベールやマスクなどの使用を禁じる「覆面禁止法」を制定。「マスクは犯罪者の道具」という理屈からでした。
さらに、欧米人がマスクに抵抗を示す背景の一つには、「相手の表情や感情がわかりにくくなるのが嫌だ」という理由もあるようです。日本人と欧米人では「顔のどこを見て相手の気持ちを読み取っているか」が異なると言われています。日本人は相手の目から感情を理解しますが、欧米人は口の動きを見るというのです。
■マスクを嘲笑した欧米人の反省
例えば、日本で用いられる顔文字は、「(^_^)」「(*_*)」「(T_T)」のように、目の変化によってその感情を表します。しかし、欧米では「:-)」「:-D」「:-(」のように口元の違いで喜怒哀楽を伝えるのです。欧米で流行した「スマイルバッジ」を見ても、口元が強調されたデザインになっています。一方、日本には「目は口ほどにものを言う」という表現もあります。
つまり、欧米人にとって口元とは、他人とコミュニケーションを深める上でとりわけ大事なものなのです。日本人よりも欧米人のほうが歯並びを気にして矯正する人が多いというのも、このような背景が作用しているのかもしれません。そんな彼らにとって、口元を隠すマスクという道具は、日本人にはピンとこない抵抗感を生じさせるものなのでしょう。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、マスクとの付き合い方も転換せざるを得ない状況に。日本のマスク文化を嘲笑していた国際社会は、ついにその態度を改めることとなりました。
■「何かのジョーク?」海外にも拡散したアベノマスク
さて、そんな「マスク大国」のはずの日本ですが、コロナウイルスの第1波が花粉症の時期と重なったこともあり、国内は深刻なマスク不足に。ドラッグストアの開店前にマスクを求める人々の行列ができるというような悲喜劇的な光景が出現しました。
そのような状況を解消するため、安倍政権(当時)が打ち出したのが「全世帯にガーゼ製のマスクを二枚ずつ配布する」という緊急対応策でした。
これには安倍政権の経済政策の通称である「アベノミクス」をもじって「アベノマスク」なる俗称がすぐに生まれました。その政策に対する意見は様々ですが、結局、「アベノマスク」という言葉は海外にも拡散。「日本人は不思議すぎる」「何かのジョークだろう」といった報道が相次ぎました。発表が4月1日だったことから「エイプリルフールのジョークに違いない」とも言われました。
しかし、「国民へのマスク支給」という政策は、その後、イタリアやフランスといった多くの国々が追随することになりました。
また、日本では「マスクが小さい」との声があがりましたが、ベルギーでは某自治体の配布したマスクが「大きすぎる」と問題に。顔全体を覆うほどの大きさのマスクに「パンツみたい」「パラシュート?」といった苦情が続出しました。これに対して自治体側は「熱いお湯でマスクが縮むまで洗うように」とコメント。さらなる炎上を招いたのは言うまでもありません。
深刻なマスク不足に陥った東京。とある店でマスクが販売されると聞いた主婦が、バスに乗って買いに行くことにした。
やがて、店の近くの停留所に着いたので、主婦はバスから降りようとした。すると運転手がこう声をかけてきた。
「マスクを買いに行くつもりですか?」
「ええ。そうですが」
「それなら三つ先の停留所まで行ったほうがいいですよ」
主婦は怪訝な表情を浮かべて聞いた。
「どうしてですか?」
運転手が答えた。
「そこまで行列が延びていますから」
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ルポライター
1973年、愛知県生まれ。『昭和十七年の夏 幻の甲子園』で第21回ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。日本の近代史をライフワークに活躍中。世界各国での体験を基に上梓した「世界のジョーク」の新書シリーズも好評。
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(ルポライター 早坂 隆)
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