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「子を育てるのは親ではないほうがいい」日本の母親は全員"毒親予備軍"である

プレジデントオンライン / 2021年4月22日 9時15分

エッセイストの内田也哉子さん(写真提供=文藝春秋)

なぜ日本の親子は互いに過剰な愛着を持ちがちなのか。エッセイストの内田也哉子氏と脳科学者の中野信子氏の共著『なんで家族を続けるの?』(文春新書)より一部を紹介する――。(第2回)

■樹木希林が孫を海外の全寮制学校を薦めた理由

【中野信子(脳科学者)】一口に言うのは難しいのだけれど、人間はどうして苦しんで子どもを産むんだろうと思ったの。昭和の価値観の中で私たちは育ったでしょ。母親はどうしてこんなに義務を背負わされて、性別非対称的に子孫を繁栄させる役割を担わされているんだろうという疑問が子どもの頃からあったんです。そのしわ寄せが次世代に、そのまた次の世代にと、綿々と受け継がれていくわけでしょう。

【内田也哉子(エッセイスト)】過剰な義務となってつい、毒親にもなっちゃいますよね。誰しもが毒親になる可能性があるし、自分も意図しなくても毒親になってしまっていることがある。私は心当たりがあり過ぎて、もう子どもたちに土下座したい気持ちになる。

【中野】私だって条件さえ整えばきっと毒親になってしまう。そういう「自分は毒親なのではないか」「毒親になるのではないか」と怖れている人たちは、その業から解放されてほしいと思った。完璧な人間なんていないんだから。

不完全な人間が人間を育てるというこのシステムの脆弱性を、どう手当てできるのだろう。そう考えると、プロの「育てるスペシャリスト」が、養育者という役割を担うほうがより良いのではと思ったんです。つまり、子どもを育てるのは親ではないという社会を思考実験的に考えてみたいと思った。

【内田】欧米では昔からそういうシステムがありますね。

【中野】日本でも身分の高い人がそうだったでしょう。産む人と育てる人が別だった。

【内田】うちの長男と長女は十二歳で欧州のボーディングスクール(全寮制の寄宿学校)に入れたんだけど、それは特に長男のとき、私たち夫婦が過干渉だったからなんですよ。初めての子だから、ちゃんと育てられているのかという不安も重なって、いちいち子どものやることに口出ししているうちに、すごく萎縮する子どもになっていた。それを母が見ていて、「とにかく一刻も早く海外に出しなさい」と言われたのがきっかけでした。

【中野】希林さん、さすがですね。

■幼くして家庭の外に飛ばされた私たちは

【内田】私自身も九歳でアメリカの学校に飛ばされています(笑)。日本にいたときもよく親戚や知り合いの家に預けられていたので、いろいろな家庭に育てられていたようなものですね。そうするとまず、子どもながら遠慮を覚える。そして、この家のお父さん、お母さんはどういう価値観なのかとか、子どもたちがどういうキャラクターなのかとかわかってくる。それを母は「いちばんの社会勉強」と言っていたけど、私は自分の居場所がないように感じて、今思うと不安を抱えた子どもでした。

脳科学者の中野信子さん
写真提供=文藝春秋
脳科学者の中野信子さん - 写真提供=文藝春秋

【中野】よくわかります。私も十二歳で親元を離れて父方の祖母の家に預けられ、行ったり来たりして育ったから。やはり家のカルチャーが違うということに、子どもとしては面食らってしまうんですよね。

いろいろな価値観の中でもまれるということは、知能を伸ばすにはいいとされています。でも、愛着の観点から見ると、人間関係を回避しがちになったり、逆に、この人はと思ったらしがみついてしまったりするようにもなるジレンマがあるんですよ。

■特定の養育者がいるということが大事

【内田】だから養育者というのは、それは親ではなくてもいいんだけれど、あまり何人も替わるということではないほうがいいのでしょうね。

【中野】特定の養育者がいる、ということが大事だと考えられていますね。

【内田】その点、ボーディングスクールは少人数の生徒がハウスに暮らし、養育に長たけたハウスマスターが付くから、プロが育てるという理に適っていたわけですね。私たちはそこまで考えて入れたわけではないけれど。

ボーディングスクールに入れるまでの自分の子育てを振り返ると、十九歳で結婚して、二十一歳で長男、二十三歳で長女を産んで、その頃は、どうしてこんな繰り返しの遊びに何時間も付き合わなくてはいけないのよ、せっかく作った離乳食をなんでベーッと吐き出しちゃうのよ、といら立ちと闘いながら育てている感じでした。

いちばん下の子は三十四歳で産んだので、もう少しリラックスして子どもを見ることができた。中野さんに教えてもらった「脳は三十歳ぐらいまで未完成なのでそれまで的確な判断ができないし、人に共感もしにくい」ということを身をもって実感しました。

■脳が子育てに適した状態になるのは四十代

【中野】人間は身体と脳の発達のバランスもあまりよくないですよね。身体が生殖に向いているのは二十代かもしれないけれど、脳が子育てに適した状態になるのは四十代ぐらいだということを示すデータがあります。

内田也哉子・中野信子『なんで家族を続けるの?』(文春新書)
内田也哉子・中野信子『なんで家族を続けるの?』(文春新書)

【内田】そうなんですよ。だからもし、子どもたちに聞かれるようなことがあったら、結婚はあまり早くしないほうがいいと言おうと思っています(笑)。中野さんは、子どもを欲しいと思ったことはあるんですか。

【中野】思ったことはなくはなかったけど、結婚したらダンナさんとの時間のほうが大事になって、あまり子どもを欲しいと思わなくなってしまった。

【内田】もっとストイックなポリシーがあるのかなぁ、なんて?

【中野】あると言えばある。でもちょっと言いにくい。

【内田】できれば聞いてみたいなぁ。何も深く考えず流れに身を任せ、三人も子どもを作った者としては。

【中野】私のように社会通念に対していつも疑問を持っていて、それに対してアンチの気持ちを忘れずにいる人間の子どもなんて、絶対犯罪に走るのではないかと思って。

【内田】そ、そんな……。きっと感受性が強くて理知的な人だからこそ、そこまで深く客観性を持っていられるのかな。私はつくづく鈍感だったし、二十歳そこそこで、生殖と社会について何も考えていなかったなぁ、恥ずかしながら。

【中野】いやいや。考え過ぎると子どもって作れないようになっているから。恋愛をするときは理性が働かなくなるでしょ。「この人好きだな。この人の子どもが欲しいな」と思うのは、理性と違うメカニズムが働くんですよ。

人間は理性を働かなくさせるという有性生殖の仕組みを何万年も保っているのにもかかわらず、それでも理性も大事という。でも、理性偏重では子どもを作らない個体が大多数になってしまう。子孫繁栄を考えるのなら、なぜ理性のほうが大事だと多くの人は考えているんだろう。私はこれがずっと不思議なんですよ。

■母親がお腹を痛めない出産

【内田】中野ワールドの理想の子どもの産み方は?

【中野】それはこれです。フォトニュースを送りますから、見てみてください。

【内田】米フィラデルフィア小児病院で「プラスチック製『人工子宮』でヒツジの赤ちゃんが正常に発育」。うわ~、羊の胎児が真空パックみたいになっている。人工子宮のバイオバッグに合成羊水と一緒に密閉されていますね。つまり?

【中野】百年後ぐらいになるかもしれませんが、ヒトの人工子宮もいずれ実用化されるでしょう。つまり私は、ヒトは自分の身体を使って子どもを産まないほうがいい、というかなりラディカルな考えなんです。こうすれば、親子がお互いに過剰な愛着を持たずに済む。愛は、環境が整わないうちは人類にとって子育てに有益なものだったけれど、人類は環境をかなり整えて、テクノロジーも発達させた。現代はもう、愛が毒になる時代が到来しつつある、と考えているんです。

【内田】わぁ、なんとも興味深い!

【中野】こういうことを言うと、也哉子さんはすごく知的に柔軟な人だから聞いてくれるけど、そうでもない人に言うと「子どもを産むというのは特別な経験よ」とまあ軽く五時間ぐらいは怒られてしまうでしょう(笑)。べつに産むな、育てるなと言っているわけではないんですが。向いている人もいれば向いていない人もいるのだから、無理して愛をこじらせ、親子共に苦しむくらいだったらテクノロジーを利用したらいいのでは、と言いたいんです。

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内田 也哉子(うちだ・ややこ)
エッセイスト
1976年、東京都生まれ。樹木希林、内田裕也の一人娘として生まれ、19歳で本木雅弘と結婚する。エッセイ、翻訳、作詞、ナレーションのほか音楽ユニットsighboatでも活動。著書に『会見記』『BROOCH』(ともにリトルモア)、樹木希林との共著『9月1日 母からのバトン』、翻訳絵本に『ピン! あなたの こころの つたえかた』(ともにポプラ社)、『こぐまとブランケット 愛されたおもちゃのものがたり』(早川書房)などがある。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)などがある。

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(エッセイスト 内田 也哉子、脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)

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