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度重なる電力不安を乗り越えるには「原発国有化」という最終手段しかない

プレジデントオンライン / 2021年4月9日 9時15分

東京電力柏崎刈羽原発で不祥事が相次いでいることを受け、頭を下げ謝罪する東電の小早川智明社長(左から2人目)ら=2021年4月7日、新潟市中央区 - 写真=時事通信フォト

■「東電に原発を扱う資格に疑念もやむなし」

「会長探しどころではない。社長だってクビになってもおかしくない」

東京電力ホールディングス(HD)の柏崎刈羽原子力発電所での相次ぐ不祥事で、社内からはこんな声があがる。違う社員のIDをつかって同原発の中央制御室に無断で入った事案に次いで、監視装置が長期間にわたり故障していたことが発覚。原子力規制委員会は、外部からテロリストなどの侵入を許す恐れがあるとして4段階ある安全上の重要度のうち最も重い「赤」の評価を下すなど、東電はまさに「レッドカード」を突き付けられている。

あまりにずさんな原発の管理に国会に召集された東電HDの小早川智明社長はひたすら「大変なご心配をおかけし、深くおわび申し上げる。徹底的に原因を究明し、抜本的な対策を講じる」と答えるのが精いっぱいだった。

本来なら原発の再稼働を後押しする立場の与党自民党も、野党の執拗(しつよう)な追及に菅義偉首相が「東電に原発を扱う資格に疑念もやむなし」と答弁せざるを得ない羽目になった。「本来なら社長が責任を取って辞めるべきほどの不祥事だ」(同)との声も社内からもあがる。

■三顧の礼をもって招かれた川村隆氏は80歳で退任

しかし、東電や政府内から東電・小早川社長の解任を模索する動きはない。「今、ここで小早川社長を追い出すのはたやすいが、また何かトラブルが発覚した際に、新社長のクビを切ったら、何人社長がいてもきりながない」(自民党幹部)というのがその理由だ。

本来なら、3月末の取締役会で現在、空席になっている東電HDの会長を決めるはずだった。同社の会長は日立製作所の再建を果たし、三顧の礼をもって招かれた川村隆氏が昨年6月末まで就いていたが、「80歳になったら退任する」という本人からの強い希望で社を去った。

その後、この1年間は「ピンチヒッター」として、三井物産の元会長の槍田松瑩氏が取締役会議長という形で、川村氏の後任を務めている。その槍田氏も6月末には退任する意向を固めている。

■「東電の会長職」という火中の栗を拾う人物はいない

東電HD内では「柏崎原発不正入室問題で信用がガタ落ちした社内のガバナンスを固めるうえでも、関西電力と同じように外部からそれなりの人材を呼んで会長として社内ににらみを利かせる体制にしないと会社が持たない」(東電幹部)との思いがある。

しかし、テロ対策の不備など核物質防護に関する問題で社長が国会に呼ばれ、地元・新潟県からは「原子炉の運転を的確に遂行できる能力があるか、疑問符がつくような状況だ」(花角英世知事)と不信の声があがっている。

新型コロナウイルスの感染拡大で疲弊する地方経済の立て直しのためにも新潟県は原発再稼働に期待を寄せていたが、「再稼働に向けて地元住民たちを納得させる自信がなくなってきている」(地元自治体関係者)と肩を落とす。経済産業省は空席の会長を埋めるべく各社の首脳に頭を下げてきたが、省内は「東電の会長職という、まさに火中の栗を拾う人物は当分、現れないだろう」(経済産業省関係者)と怒りを通り越して、あきれ返っている。

■あまりに重すぎる16兆円という負債

相次ぐ不祥事で、東電HDは3月末までに策定するはずの2021年度から3カ年の中期経営計画「第四次総合特別事業計画」(第四次総特)は公表できないまま新年度に突入した。通期決算の見通しもまだ出せていない。柏崎刈羽原発の7号機の再稼働は順調にいけば6月に予定されていた。しかし、一連の不祥事で、加藤勝信官房長官にも記者会見で「核物質防護の確保は原子力事業者の基本だ。当面、実質的な再稼働はできないものと認識している」と突き放されている。

柏崎刈羽原発1基が稼働すれば年間1000億円の収益の改善効果があるとされ、次期「総特」も原発再稼働を収益計画の前提に組み入れるはずだった。しかし、その思惑は吹き飛んだ。

東電は廃炉や除染のための費用や、賠償金支払いのために16兆円の負債を背負っている。毎年これらの費用を賄うために、年間5000億円の利益を確保したうえで、中長期的にはさらに年4500億円の連結純利益を稼いで、負債を返していく計画を立てている。同原発の再稼働はその大きな収益の柱になる予定だった。

東電が抱える16兆円の負債のうち、4兆円の除染費用は政府が持つ東電株の売却で賄うことが決まっているが、その前提となる株価は1500円。今は、350円前後と大幅に下回っている。相次ぐ不祥事が続き、原発の再稼働が遠のく中で株価を目標の1500円に引き上げるのは容易ではない。

さらに、電力自由化が東電の体力を奪いつつある。その最大の勢力が同じインフラ事業を手掛けるNTTだ。

■NTTはセブン‐イレブン専用の太陽光発電所を新設

NTTは3月末にセブン&アイ・ホールディングスとの間で、再生可能エネルギーをセブン&アイ傘下の店舗に供給する契約を結んだと発表した。NTTが店舗の脱炭素を進めるセブン&アイのために専用の太陽光発電所を新設。20年の長期契約で電力を販売するという内容だ。

NTTはエネルギー子会社のNTTアノードエナジー(東京・千代田)を通じて、千葉県内でセブン&アイ専用の太陽光発電所を2カ所新設。6月から首都圏のセブン‐イレブン40店などに電力を供給する。千葉県の発電所で足りない電力はNTTが所有する太陽光やバイオマスの発電所で賄うことで、店舗運営に使用する電力を100%再生可能エネルギーにする予定だ。

2017年12月12日、大阪のセブン‐イレブン
写真=iStock.com/coffeekai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/coffeekai

対象の店舗は東京電力など大手電力との契約を解消し、NTTとの契約に切り替えるという。NTTは2020年夏に再生エネ事業の拡大を明らかにしていたが、これが初めての大型契約となる。NTTは年1000億円を投じ、小型発電所や蓄電設備を全国に設けるほか、小売りの分野でも三菱商事と共同で市場開拓を進める考えだ。

東電もHD傘下に東電リニューアブルパワーという再生エネ専門の子会社を持つが、今回のセブン&アイのようなケースが続出し、東電離れが続くようだと、経営の屋台骨が大きく揺らいでくる。

■関西電力では使用済み核燃料の問題が再び暗礁に

東日本大震災から3月で10年。就任早々、菅首相は福島を訪ねており、政権発足直後は各地の原発再稼働への期待は強かった。

福島第一原発の処理水放出を巡っては、政権発足直後の昨年10月末に政府決定がされる予定だった。しかし、地元漁協などとの調整不足が露呈。決定は持ち越された。処理水について、政府はようやく週明けにも海洋放出の決定をする見通しになったが、地元や漁業関係者の東電や原発に対する反発はやみそうもない。

関西電力では使用済み核燃料の問題が再び暗礁に乗り上げた。同社は稼働から40年以上たった原発の再稼働を福井県から認めてもらう条件として、昨年12月末までに使用済み核燃料を同県外に搬出することを表明していた。

しかし、同じ福井県の森山栄治・高浜町元助役との金品不正受領問題で、会長・社長に加え、原発にかかわっていた幹部が一気に退任した。急遽、森本孝社長が登板することになったが、原発事業関連の経験が乏しく、福井県などとの調整は「ほとんど手掛けてきたことはなかった」(関電幹部)。

■すでに全国の原発で保管できる容量の75%が埋まっている

福井県への回答期限が迫る中で、森本社長は青森県むつ市にある中間貯蔵施設に福井県から出る原発の使用済み核燃料を東電などと一緒に保管してもらう「共用案」を業界団体である電気事業連合会を通じて申し入れた。しかし、もともとこの中間貯蔵施設は東電と日本原子力発電が青森県やむつ市と設立したものだったため、事前に関電から何の要請も受けなかった青森県やむつ市が猛反発。関電の思惑は宙に浮いた。

関電の森本孝社長は福井県知事に「23年末までに建設予定地を確定する」と年明けに申し入れ、その場を取り繕ったが、本来ならこの問題も20年末に解決するはずのものだった。

国の原子力政策は使用済み燃料を処理して再利用する核燃料サイクルを掲げる。しかし、青森県六ケ所村に建設中の再処理工場の稼働が遅れ、各社は原発内の燃料プールで保管している。すでに全国の原発で保管できる容量の75%が埋まり、いずれ限界が来る。

なかでも関電は4基の原発を再稼働済みだ。稼働から40年を超える原発3基の稼働も予定する。大手電力の中で原発依存度が一番高い関電にとって40年超の原発の再稼働は経営に直結する。東電がNTTなど新電力に市場を奪われているように関西圏でも関電は大阪ガスなどの台頭でシェアの低下にあえぐ。

■年末年始の寒波到来では「停電一歩手前」に追い込まれた

原発の再稼働でようやく黒字転換しても、新電力の攻勢や関西圏の経済の地盤沈下で市場自体、縮小している。「原発の安全費で予算が根こそぎ取られ、再エネ投資など新規事業に充てる余力はない」(関電幹部)と嘆きの声が日増しに高まっている。

日本の電力大手が危機に瀕する中で、政府内で検討されはじめたのが、原発の運営体制の抜本改革だ。

年末年始の寒波到来では「停電一歩手前」に追い込まれた。今回の電力逼迫(ひっぱく)は多くの原発が稼働していない中で、液化天然ガス(LNG)に電源を頼ってきた日本の電力供給体制の盲点を突いた。欧州とは異なり、日本の環境では再エネには頼れない。そんなエネルギー貧国・日本は、現実的には原発の存在を許容せざるを得ない。

本来なら、今回の電力逼迫は大手電力にとって「主力電源としての原発」の存在をアピールする絶好のチャンスだった。しかし、東電や関電など日本の原発政策をけん引すべき2社が安全性の確保や使用済み核燃料の問題などで「自滅」した。

■政府も大手電力会社も何もしてこなかった「不作為の罪」

電力自由化で大手電力の身動きがとれないなか、最後の手として政府内で浮上し始めたのが「原発国有化」だ。経団連なども原発の国有化には理解を示す。原発は大手電力各社にとって平時では大きな収益源となりうるがではあるが、一方で、事故やトラブルが生じた際は東電の例を挙げるまでもなく、一企業の手に負える代物ではない。

原発を国が一元管理して、そこからあがる収益を、安全対策などの費用に回したり、トラブルが起きても被害を最小限に抑えることができる新型小型炉に回したりするなど、大手電力会社から切り離すというやり方だ。原発を取り上げられた各電力は収益力が低下するが、そこは再編を通じて規模を拡大し、NTTをはじめとする新電力などに対抗するという絵だ。

東日本大震災の余震や、南海トラフ地震の発生もささやかれるなか、「第二の東電」がいつ生まれてもおかしくない。福島第一原発の事故から10年、政府も大手電力会社も何もしてこなかった「不作為の罪」は大きい。夏から本格化するエネルギー基本計画の見直しに向け、原発をどう位置づけるか。脱炭素を掲げる菅政権の大きな課題である。

(プレジデントオンライン編集部)

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