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「中国はコロナの発祥地ではない」WHOの報告書すら歪める習近平政権の横暴さ

プレジデントオンライン / 2021年4月8日 18時15分

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長=2021年2月12日、スイス・ジュネーブ - 写真=AFP/時事通信フォト

■2019年秋から感染が広がっていた可能性がある

WHO(世界保健機関)が3月30日、新型コロナウイルスの起源に関する報告書を発表した。今年1月14日から2月9日にかけ、中国・湖北省武漢(ウーハン)市で実施されたWHOの現地調査に基づいた報告である。

報告書で興味深いのは、最初に感染者が確認された2019年12月の数週間前からウイルスが広がっていた可能性を指摘している点だ。現地調査のリーダー役だった感染症専門家のピーター・ベンエンバレク氏は記者会見で「今後の研究の焦点として引き続き武漢に注目している」と答え、最初の感染確認前からウイルスが広まっていたことを確認するため、中国当局に対し、2019年9月までさかのぼった検体に対する抗体調査を求めたことを明らかにした。

報告書さらに専門家の間で指摘される、ウイルスがコウモリから別の動物(中間宿主)を介してヒトへと感染した感染ルートについては「可能性が高いか、あるいは非常に高い」と記載している。調査によって中間宿主は特定できなかったが、報告書はウサギやミンク、センザンコウが介在した可能性を示唆した。

■新華社通信は「ウイルス中国起源説」を消そうと躍起

問題は、この報告書がWHOと中国のそれぞれ17人の専門家が共同で執筆したところにある。国際組織WHOの報告書にもかかわらず、ウイルスを発生させて世界中に拡散させ、パンデミック(地球規模の流行)を引き起こした責任が指摘されている中国が執筆に深く関与する。このことが大きな問題なのである。これまでになかった事態だ。世界の人々の健康と命を預かるWHOの存在意義が問われる。

そして案の定、中国の新華社通信などは、WHOの報告書が「武漢ウイルス研究所からのウイルスの流出は極めて考えにくい」と否定的な見解を示していることを報じた。この研究所からのウイルス流出説は、アメリカのトランプ前政権が強く主張していた。

中国が繰り返し主張している「輸入された冷凍食品にウイルスが付着し、そのウイルスで中国国内で感染が起きた」とのウイルス海外流入説に対しては、報告書は「可能性がある」との見方を示したが、これについても新華社通信は速報した。

さすが中国の官製メディアである。中国政府の主張に合うところを力説し、「ウイルス中国起源説」を消そうと躍起になっている。習近平国家主席の指示があったのか、あるいは忖度したのかは定かではないが、軍事力と経済力をバックに自国の主張を前面に打ち出して他国に詰め寄る、中国共産党の歪んだ姿勢が貫かれていることは間違いない。

■テドロス事務局長「まだ新型コロナの発生源は特定されていない」

日本や欧米、韓国など14カ国は、WHOの報告書に対し「懸念を表明する。調査が大幅に遅らされ、元のデータや検体の入手を欠いた」との共同声明を発表した。

繰り返すが、報告書はかなり早い段階からウイルスが武漢市内で広まっていた可能性を重視し、中国が発生源となった可能性も排除はしていない。

WHOのテドロス・アダノム事務局長も「中国がウイルスの発祥地」との見方を捨ててはいないようだ。テドロス氏は報告書が公表された30日、加盟国・地域向けの説明会を開き、調査団が「中国当局から生データの入手できず、かなり苦労した」と話した後、報告書が武漢ウイルス研究所からの流出は「極めて考えにくい」としたことに触れ、「さらなる調査が必要だ」と語った。

説明会の中でテドロス氏は「確実な結論を得るにはより多くのデータや調査、研究が必要だ。今回の報告書は初めの一歩に過ぎず、これで終わりではない。まだ新型コロナの発生源は特定されていない」とも述べ、今後、調査団を再び派遣する用意があることを明らかにした。

世界保健機構の本部
写真=iStock.com/mseidelch
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mseidelch

■中国の後押しで事務局長に選ばれている人物

テドロス氏の発言はもっともらしいが、まともに受け取ることはできない。なぜなら2月16日付の記事<WHOの「中国・武漢コロナ調査」はまったく信用できない>でも触れたように、彼は新型コロナの発生当初、中国寄りの発言や行動を繰り返し、日本やアメリカなどから厳しく批判されていたからだ。

テドロス氏は中国と親密な関係にあるアフリカ・エチオピアの出身で、中国の後押しで事務局長に選ばれている。習近平国家主席にも直接面会できるほど、信頼されている。

中国と対立する欧米や日本にとって「テドロス氏は要注意人物だ」といっても過言ではない。

■「中国の介入許し信頼を損ねた」と読売社説

4月3日付の読売新聞の社説は「報告書の共同執筆という形で中国の介入を許したことで、調査や分析の信頼性が損なわれたのは明らかである。世界保健機関(WHO)の存在意義が改めて問われよう」と書き出す。見出しも「WHO報告書 中国の介入許し信頼を損ねた」である。

それにしてもWHOはなぜ、中国との共同執筆を認めたのか。国際機関の中立性と倫理が失われている。

読売社説は指摘する。

「調査や報告書の作成は、当初から中国政府の強い影響を受けており、中国の主張に沿う結論が導き出されるのは予想されていた」
「現地調査や報告書の公表は予定より大幅にずれ込んだ。中国に注文を付けられ、調整が難航したためだろう」

あの習近平国家主席の率いる強引極まりない中国のことである。手を替え品を替えWHOを脅し、主張を押し通そうとしたのだろう。

■WHOは権限の弱さから中国の言い分を認めざるを得なかった

後半で読売社説は「中国は、国際社会の厳しい視線を重く受け止めねばならない。自国が発生源ではないと主張するのなら、調査に協力し、データを差し出すべきではないか」と主張する。

まったくその通りで、正面からWHOに協力して大国の存在をしっかりと示すべきだ。

WHOは自らの権限が弱いゆえに、中国の言い分を認めざるを得なかった面があったのだろう。

読売社説も最後にこう主張している。

「こうした事態の再発を防ぎ、新たな感染症の流行に効果的に対処するには、WHOの透明性と信頼性を高める改革が必要だ」
「欧州連合(EU)は、感染症に関する情報共有やワクチンの確保で、国際連携を強化するための新たな条約の必要性を訴えている。WHOの権限の弱さを補完する枠組み作りを急がねばならない」

日本や欧米諸国は協力して中国に対抗し、WHOの改革を進めるべきである。

■「国際機関が携わった報告書と呼べる代物ではなかった」

4月2日付の産経新聞の社説(主張)は冒頭からWHOの報告書を「国際機関が携わった報告書と呼べる代物ではなかった」と手厳しく指摘し、そうなったわけをこう分析する。

「調査に対して中国から全面協力が得られず、中国側と記述を調整した『共同報告書』だったことが、不十分な内容にとどまった主な原因である」
「中国と親しいテドロスWHO事務局長でさえ『(中国側から)データが十分に提供されず、広範囲にわたる分析が行われたとは思えない』と語った」

報告書がいかにずさんであるかがよく分かる。

産経社説は「中国外務省の報道官談話は『科学的で専門的な精神を称賛する』と、報告書を高く評価した。独り喜ぶ姿は滑稽に映る」とも書くが、習近平政権の本質をよく捉えている主張である。

■もはや中国はWHOから脱退すべきではないか

産経社説はさらに指摘する。

「データや検体の不備に加え、WHOの調査団の現地調査は中国側が同意した場所に限られた」
「これでは科学的な分析は難しい。にもかかわらず、感染経路についても中国政府ばかりが喜ぶ内容が示された」
「テドロス氏でさえ不十分さを認めたのだから、報告書の名を冠すること自体が疑問である」

「中国が喜ぶ」「テドロス氏でさえ」「名を冠することが疑問」と産経社説はとことんWHO報告書を批判する。ここまで批判の言葉が並べられると、読んでいて多少疲れてくるのだが、そうはならない。それは産経社説の指摘がすべて事実であるからだ。もはや中国はWHOから脱退すべきではないか。

産経社説は「中国政府は新型コロナの初動段階で隠蔽に走った。今回の報告書が、それをなかったことにしたい宣伝に利用されてはたまらない」とも指摘し、最後に「WHOは人類のために新型コロナの起源を解明せねばならない。科学的調査の自由な実施を認めるよう中国政府に迫るべきだ」と主張する。

産経社説は見出しも「WHO報告書 中国に利用されただけだ」と掲げているが、中国では「自由」も「科学的調査」も皆無である。習近平政権はWHOの武漢調査とその報告書を自国のプロパガンダに使っているのだ。その行為は決して許されない。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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