連載・伊藤詩織「日本手話のポエム」を観たら、あなたは圧倒される
プレジデントオンライン / 2021年4月20日 9時15分
■「日本手話のポエム」を観たら、あなたは圧倒される
「『普通』の定義がわからない」ろう者であり、俳優、ダンサーの大橋ひろえさんの短編ドキュメンタリーの制作中に聞いた言葉だ。大橋さんは母親から、聞いたことのない音を発する口話を特訓され「普通」の学校へ通った。日本では日常的に「普通」という言葉が飛び交う。しかし、その「普通」は誰にとっての普通なのか?
大橋さんをきっかけにろう者の世界への取材が広がった。そこで日本で唯一、「日本手話」で教育を行っている学校、東京都品川区にある明晴学園を訪れた。
日本手話とは日本語や英語同様、自然言語だ。日本語に沿って表現される日本語対応手話とは文法も違えば異なる言語体系を持っている。明晴学園の生徒は日本手話と文章での日本語と、バイリンガルの教育を受けているのだ。
■生徒の目はキラキラ輝いていて、真剣だった
生徒の目はキラキラ輝いていて、真剣だった。「静かで、にぎやかな学校」というNHKのドキュメンタリーの舞台になったこの学校は、タイトル通り、生徒の話し声は聞こえないが、日本手話で繰り広げられるコミュニケーションはとても賑やかだ。よそ見をする生徒はいない。目で言葉を見る彼らは真剣に先生や学友に目を向けている。先生も、一人一人とアイコンタクトを欠かさない。
1990年代初頭まで日本のろう学校では手話が禁止され「社会に出たときに困らないように」と口話、読唇を教えることが主流だった。唇を読んで言葉を理解する読唇。わずか16通りほどしかない唇の形から100以上ある音を読み取るのは大変困難という。
手話の授業では手話ポエムの練習がされていた。日本手話は手の動きだけでなく、顔の表情や眉毛や目や口の動きも重要な表現の1つになる。ひらひらと舞う指の動きや表情の豊かさに圧倒される。
教室の壁に目を向けると「様々な場で活躍するろう者たち」という展示があった。そこには大橋ひろえさんの紹介もあった。「耳が聞こえないから無理」。そんな言葉を浴びてきた大橋さんは俳優として「普通」の壁にチャレンジし続け、前例をつくっていた。ろう者としてのアイデンティティー、誇りを胸にはぐくむ明晴学園の子どもたちは、きっと社会に蔓延る「普通」を壊していくだろう。
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ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信し、国際的な賞を複数受賞。著者『BlackBox』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。
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(ジャーナリスト 伊藤 詩織)
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