「あいつは本物だ」台湾の有名タピオカ店を口説き落とした元ヤン経営者の"熱いひと言"
プレジデントオンライン / 2021年4月21日 11時15分
※本稿は、関谷有三『なぜ、倒産寸前の水道屋がタピオカブームを仕掛け、アパレルでも売れたのか?』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■台湾出張で感動したタピオカミルクティーの美味しさ
台湾を調べてみると凄く興味を持った。台湾の人たちは、とてもやさしい。気候もいい。親日の人が多い。水道の事情も日本に似ている。日系の企業も、たくさん進出している。
水道事業の需要もたくさんありそうだ。気に入って何度も視察のために台湾に行った。行けば行くほど、台湾が好きになっていった。出張から帰国するある日、少し時間があって空港の出国カウンター近くの店で、ある飲み物を口にした。それは、タピオカミルクティー。
台湾の街では、いたるところでタピオカミルクティーが売られている。女性や子どもが好きな甘い飲み物だ。僕はあまり甘いものを口にしない。決して好きではなかった。けれど、空港にある店は、老舗(しにせ)の有名店のようだ。試してみるか。
(美味い!!!!! 上品な甘さだ。何より、お茶の香りがいい)
びっくりするほど感動した。その店は「春水堂」と書いてあった。しゅんすいどう? いや、台湾の読み方だから、チュンスイタンである。
(今度台湾に来た時、本店に行ってみよう)
次回の出張で、早速台中にある春水堂の本店に行ってみた。台中は台北から新幹線で約1時間。台湾第三の都市だ。本店はガイドブックにもよく取り上げられている。外観は風格があって厳かな雰囲気だ。そして、きれいでおしゃれそうな店のなかに入った。
えっ……。
■「オーナーに会わせていただけませんか?」
雷が頭に落ちた。鳥肌が立ち、震えが止まらなくなった。なんだこの見たことのない空間は……。次の瞬間。頭のなかで鮮やかではっきりとした映像が突然広がった。僕が春水堂を日本中で展開しているシーンだ。
(この店を、俺は日本でやるのか……)
なぜか……。もはや理屈ではなかった。ここで春水堂について、少し説明しておこう。タピオカは、キャッサバの粉を丸めてゆでた伝統的なスイーツ。それと甘いシロップなどが入ったお茶とを混ぜ合わせ、太いストローで飲むのが台湾のソウルフードともいえるタピオカミルクティー。
このドリンクを開発したのが、1983年に創業、台湾に50店舗以上ある国民的人気カフェ「春水堂」だ。茶葉の質にこだわり抜いた絶品のアレンジティーとカジュアルな台湾料理、そして上質なインテリアと空間。伝統とモダンのハーモニーが台湾の人々の心をとりこにし、ナンバー1ブランドに上り詰めた。
世界中にファンも多い。そして、この春水堂。お茶と料理、サービスの質を保つため、あるポリシーをかたくなに守ってきた。春水堂の本店で、「日本での展開」を突然思い描いてしまった僕は、衝動的に店の人に頼んでいた。
「オーナーに会わせていただけませんか?」
店の人のあっけない返事は、こうだった。
「そういう人が世界中からたくさん来ます。全員断れ、と言われています」
春水堂には、こんなポリシーがあると知った。海外には絶対に出ない。品質を守るため。春水堂のブランドを守るため。海外で半端なことをやられたら、台湾での名声も危うくなるから。しかし、ハイ、そうですかと諦めるわけにはいかない。
■ついにオーナーと面会することに
春水堂への想いが日に日に大きくなる。そして、やっと、これをやりたいと湧き上がる魂の叫びを聞けたのだから。
大袈裟(おおげさ)でなく、これは運命だと感じていた。台湾での水道事業をはじめていたが、心、ここにあらず。台湾に来るたびに、月に3~4回のペースで、春水堂に通った。すると通っているうちに、同じ年頃の男性店員と仲良くなった。
彼とは色々な話をするようになった。通いはじめて1年半が経とうとしていた。オーナーにはやはり会わせてはもらえなかった。残念だけど、さすがの僕もそろそろ引き際かな、と思った。これで最後にしようと、熱苦しいほどの想いを綴つづり、中国語に翻訳したそれはそれは分厚い資料をまとめて、彼に手渡した。
「最後のお願いです。これをオーナーに見せてほしい。それでも僕に会いたいと思ってくれなかったら、今日を最後に諦めます」
1週間後、彼から1通のメールが来た。
「オーナーに見せました。関谷さんに会いたいと言っています」
僕は喜んですぐ台湾に飛んでいった。夢にまで見たオーナーと面会することができた。あとで知ることになるのだが、この仲良くなった男性店員は、オーナーの息子さんであった。想いは運をも引き付けた。
■「君はどんな飲食店を経営してるんだ?」
オーナーは神々しいほどのオーラを放っていた。年齢は60代前半。台湾を代表する茶人であり、書道家、写真家としても名を馳せる超一流の芸術家。そして、カリスマ経営者だ。そんな物凄い人を目の前にして足の震えが止まらなかった。オーナーは聞いてきた。
「君は日本でどんな飲食店を経営しているんだ?」
「いいえ、水道の仕事をしています」
「えっ? 水道の仕事? 飲食店もしてるんだよね?」
「いいえ、一度もしたことはありません」
オーナーは驚き、そして大声で笑った。飲食のまったくのど素人からのオファーははじめてだったようだ。それでも僕の提案書を高く評価してくれた。時間を忘れてたくさんの話をした。どうやら、僕のことを人として気に入ってくれたようだった。そして日本での展開が……そう簡単に決まるわけがない。
春水堂の幹部たちから、毎月、毎月、たくさんの難解な宿題を出された。品質維持のオペレーション、従業員の教育計画、店舗設計プラン、日本で失敗した時ブランドの毀損をどう保証してくれるのか、などなど。ただでさえ難しい宿題の山だったのに、専門用語だらけ。
しかも翻訳すると微妙に意味が変わってしまう。気が遠くなるような作業の連続だった。実は、幹部たちは、僕に任せて日本で展開することに大反対だったのだ。
■評価してくれたのはオーナーひとりだけ
「よくわからないあんな若い奴にやらせるなんて、とんでもない」「春水堂は、ただでさえ海外に出たことがない。それなのに、飲食をしたこともない素人にさせるのか?」
オーナーは僕のことを「面白い奴」と評価してくれていた。ただ、評価してくれたのはオーナーひとりだけだった。
![前列右からふたり目が著者、3人目が春水堂のオーナー](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/3/670/img_c31631fa1fb590c97bd89fbe1fa8474d905542.jpg)
そして1年間、宿題を出されては回答を提出して、ダメ出しの繰り返し。それでも僕は挫くじけなかった。春水堂を日本に持っていけるのは僕しかいない。諦めなければ、いつか道は切り開くと信じていた。ただ、その道は果てしなく険しかった。ある時、台湾での経営会議に呼ばれた。
そして、会議前にオーナーとふたりきりで話をした。僕は真剣にオーナーに熱く語った。
「100%上手くいくという保証は、確かにありません。でも、僕には誰にも負けない情熱があります。飲食の経験はありませんが、だからこそ誰よりも素直だ。そして、日本展開は息子さんと共同でやらせてくれませんか。息子さんは飲食のプロです。サポートしてくれたら心強い」
さらに、続けた。
「ただ、僕には経営の経験は多少はあります。そして息子さんと僕とは年齢も近い。仲もよいし相性もよい。息子さんにとっても海外展開は新たな成長の機会になるはずです。わたしはそのベストパートナーになれる」
最後にこう締めくくった。
「ゼロからの起業。タピオカミルクティーの開発。長い歴史のあるお茶文化に革命を起こした。オーナー、あなたは真の挑戦者です」
■「あいつは本物だ。任せてみよう」
オーナーは遠い目をし、深くうなずいていた。経営会議がはじまった。会議は紛糾した。オーナー以外からは僕と組むことに、やはり反対の嵐。
![関谷有三『なぜ、倒産寸前の水道屋がタピオカブームを仕掛け、アパレルでも売れたのか?』(フォレスト出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/a/200/img_0aa9af83104afb9697c08d28d3ee4ff0320047.jpg)
「あんな若い素人に絶対に任せられない」
オーナーは言う。
「最後は、人だ。あいつは本物だ。任せてみよう」
幹部が言う。
「上手くいく根拠を教えてください。素人ですよ。オーナー、失敗したら、春水堂の名に傷がつくのですよ」
会議は平行線のまま、永久に続くかとさえ思えた。最後に、オーナーが静かに力強く言った。「春水堂はわたしがつくったブランドだ。公務員をやめて起業した時、親や周囲は全員大反対だった。彼と出会ってあの頃の気持ちを思い出したんだ。もし全力でやって失敗したなら構わない。その時の責任は、わたしが取る」
そうして、僕はオーナーの息子さんと合弁会社をつくり、日本での春水堂展開を進めることになった。海外に出ないはずだった春水堂の、奇跡ともいえる日本進出。ネット上では、一部の台湾フリークの間で大騒ぎとなっていた。
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オアシスライフスタイルグループ代表取締役CEO
1977年栃木県生まれ。成城大学経済学部卒業後、倒産寸前だった実家の水道工事会社を立て直したあと、大手マンション管理会社と提携し業界シェアNO.1企業へと飛躍。さらなる事業拡大のためのアジア視察中、台湾で人気の老舗カフェブランド「春水堂」に惚れこみ、「春水堂」を3年かけて説得、日本への上陸を実現。タピオカブーム、台湾ブームの仕掛け人となる。その後、スーツに見える作業着「WORK WEAR SUIT ワークウェアスーツ」を素材の開発から行い商品化。コロナ禍にもかかわらず売上前年比400%を記録。水道、飲食、アパレルとまったくの他業種でヒットを収め、各メディアでは「令和のヒットメーカー」と呼ばれている。
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(オアシスライフスタイルグループ代表取締役CEO 関谷 有三)
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