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「病院をハシゴして睡眠薬を売りさばく」西成の医療現場で横行する悪事の中身

プレジデントオンライン / 2021年4月16日 15時15分

筆者撮影

日本最大のドヤ街、大阪市西成区あいりん地区の医療現場は他の地域とどう違うのか。同地区で働いていた元看護師は「薬の横流しや、患者の悪質な囲い込みが行われている」という。フリーライターの花田庚彦氏が取材した――。

※本稿は、花田庚彦『西成で生きる』(彩図社)の一部を再編集したものです。

■あいりん地区の生活困窮者やホームレスが頼りにする医療機関

国や大阪府、大阪市が中心となりホームレスや生活困窮者の病気などを治療している社会福祉法人大阪社会医療センター(以下、社会医療センター)。

歴史は古く、昭和45年から治療を開始という長い歴史を誇る。

医療水準は失礼な書き方をするが意外と高く、第三セクターが運営している大阪市立大学附属病院から医師が派遣されているために、社会医療センターでは処置できない重病者はすぐ近くの阿倍野にある大阪市立大学医学部附属病院に搬送されるなど、この地域に住む生活保護を受けている生活困窮者やホームレスは頼りにしているという。

社会医療センターは今も機能しているが、建物自体が老朽化のために取り壊される予定で近隣に建て替えをしている。それをきっかけに離職したという人間に話を聞くことができた。

かつて社会医療センターに勤務していた元看護師の吉田さん(仮名)は、社会医療センターを含むあいりん地区の医療問題に対して大きな疑問を抱き、この地域の医療から離れた。

■社会医療センターが抱える大きな社会問題

——何に対して大きな疑問を持っているんですか?

「社会医療センターは4階に受付があって、簡単な診察はそこで行い、薬などもそこで渡すんやけど、それが大きな社会問題になっているのを勤務していた私たちは見逃していたんです」

と、吉田さんは今も悔やんでいるという。

この社会医療センターでは、病院に掛かる診察費のお金がない人なども受け入れるために、診察を求める患者が途絶えることはない。また、その医療設備の整っている社会医療センターの上の階には入院設備も備えているため、この地域に暮らす人々にとっては非常に助かっている存在であろう。

ここで、社会医療センターについて吉田さんの説明を加えて解説する。

あいりん総合センターの中にある社会医療センターは、3つの根本的な考えで成り立っていると吉田さんは話す。

■国民健康保険無加入の人にも無料で診察

「この地域はよそから逃げてきた人も多く、会社勤めをしていなくて社会保険や住民登録もせず国民健康保険に入っていない人が多いやないですか。そんな人からはお金を取らずに無料で診察を行って、ホンマに食費や生活費が無い人には、何の担保も取らずに信用だけでお金を貸していた時代もありました」

当然貸し付けは社会医療センターと患者との信頼関係で行われ、返せなくても以後の診察拒否や厳しい取り立ても行わない。これが1つ目の考え方だ。

2つ目に、医療の相談業務など、普段不規則な生活を送っていたあいりん地区の人間に対して生活の改善などの指導をしているという。

「この地域の人たちは、明日のことも考えずにお金が入ったらお酒を飲んだりする人がホンマに多くて、酒で命を落とす人がたくさんいました。そんな人たちに、親身になって生活の改善を地域の福祉士さんやボランティアなどの人たちと行っていました」

3つ目は、この地域の調査だ。

一時期、この地域の“結核”の感染率はアフリカで流行していた国よりも高かった。これらの病気などを研究し、あいりん地区の患者に注意喚起をすることで患者数が減ったのも、社会医療センターの努力の賜物だ。

「当然行政の協力がないとできませんが、私もマスクをしてあいりん地区にある三角公園や地域に歩いて入って、咳き込んでいる人がいたら社会医療センターに連れて行って検査を勧めて受けさせるなどホンマに努力しました」

しかし、吉田さんはこの社会医療センター勤務を経て、この地域でいくつもの問題点を見つけたという。それは自分だけが努力をしても決して解決できない問題であり、本人がこの地域の医療から離れる大きな理由のひとつとなったきっかけでもあったのだ。

自転車にかごをくくりつけてゆっくりと街を行く、シニア男性
写真=iStock.com/groveb
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/groveb

■横行する薬の横流し

——問題点とは一体何なのでしょうか?

「いくつもあったのですが、特に薬の横流しがかなりの数行われていたことが問題だと思います。今もその悪しき風習が残っているとちゃいますか」

と、吉田さんは語る。吉田さんが勤務していた時代にも、4階の社会医療センターで薬を処方したにも関わらず、同じ建物内である“あいりん総合センター”内で売買している事例が多かったと話す。

主に売買されているのは睡眠薬や睡眠導入剤が中心だが、本当に身体を壊している人間が多いために、胃薬、肝臓などを中心とした内臓系、高血圧を下げる薬や湿布、ほかにも様々な薬が入っている栄養剤の点滴なども病棟内から持ち出されて建物内で売買されていたのを見たと話す。

しかもそれらは、あいりん総合センター内の2階など、仕事にあぶれた人たちが集まる場所で堂々と売買をされていた。

■患者の食事さえも売買されていた

——その事実を医療側は知らなかったのか、それとも見て見ぬふりをしていたのでしょうか?

「私は本当に知りませんでした。特にショックで嫌だったのは、5、6階の病棟に入院している患者さんの食事なども売買されていた事実を知ったことです。本当に栄養を摂らなくてはいけない患者さんの治療が優先なのに、それを分かってくれないことがホンマに悲しかった」

その悪循環は、前述した通り今もこの地域で続いている。

深夜1時ごろから行われる“泥棒市”では、人気の高い睡眠薬などが多く売られている。向精神薬は一部を除いては中々道端には売っていない薬のひとつだ。

——緊急時のための社会医療センターだから2、3日分を処方していれば、それらの売買は防げたのでは?

「まずお金のない人たちはセンターを頼るので、診察して薬を処方するしかありません。不眠などの患者さんはあまり来ないのですが、保険証を持っていたり生活保護を受けている患者さんは社会医療センターを頼らずに内科や精神科などのクリニックに通い、睡眠薬・睡眠導入剤や向精神薬を処方されています。その中に、法規制されているにも関わらずいくつものクリニックに通っている人がいるんです。どこのクリニックがたくさん薬を処方する甘いクリニックなのかという情報は、すべて仲間内で共有しています」

確かに一部の西成のクリニックでは待合室に無料のジュースの自動販売機などを置き、歩ける患者の送迎をするなどの過剰なサービスで患者の囲い込みをしているのは事実だ。

また、患者が指定した人気の高い睡眠薬や睡眠導入剤などを言われるままに処方するクリニックも少なくない。

このような薬を求める人間に人気の高い睡眠導入剤は、1カ月以上待たないと処方されないという順番待ちまで存在している。

■自分の患者の囲い込みにしか興味がない

——特定の睡眠導入剤や向精神薬に人気が集中しているのを、クリニック側は知っているのでしょうか?

「当然クリニックは知っていますが、それを止めることはしないで、診療報酬が高い向精神薬などをどんどん処方しています。医療機関の連携があれば、それらを多少は食い止めることも可能ですが、ここらの一部のクリニックは、自分の患者さんの囲い込みにしか興味はありません。よそに転院させる際に必ず必要な診療情報提供やそれらが書かれている医療カルテなども含めて、よほどのことがない限り情報は渡しません」

と語り、続けて

「当然生活保護受給者は、生活保護制度のひとつの医療保護で医療費は全額行政が負担するので、治療費はおろか処方される薬もタダです。それは本当に病気で悩んでいる人には必要な制度でしょうが、このようにいくつものクリニックに通い、不眠を訴えてそれらを過剰に処方されるのは問題やとは思います。当然今は法改正によって、薬価の安い後発医薬品のジェネリックなんやけどね。だけど、それにも抜け道があって、処方した医師が後発医薬品はダメという一文を入れれば、後発医薬品ではなく、正規の薬、つまり先発医薬品が処方されます」

と、吉田さんはその背景を説明する。

■医療保護で長期入院する患者は「お得意様」

——先発医薬品の薬を処方するメリットは?

「薬局は医者とグルになっていることも多いから、薬局も薬価の高い薬を売れるメリットもあるんとちゃいますか」

——それは西成という地域性の問題ですか、それとも大阪や国全体の問題ですか?

「地域性の問題やと思います。そのようなクリニックだけでなくこの地域にある責任感のある病院は、患者の囲い込みや複数の医療機関に通い、同じ効果のある薬の処方を止めようなど、これらの問題から改善していこうと医師会などでも提案しました。だけどここらの医者は病床を持たないクリニックが多いために、そのような声は揉み消されてしまうのです。当然このようなクリニックがすべてとは言いませんが」

と、吉田さんは続ける。

患者の囲い込みは“貧困ビジネス”で大きな社会問題となった。退院できる患者を囲い込み、3カ月ごとに系列や関係している病院に転院させる方法だ。

これは、通称“90日ルール”と呼ばれる医療費の問題だ。90日を超える入院患者は特定患者に指定され診療報酬が低くなるなどの弊害があるため、系列している病院を持っている中小規模の病院は患者を転院させて、初めから高額の診療報酬を行政から取るのだ。

そのために、西成区をはじめ生活保護に甘い行政区を中心とした医療グループがいくつも形成されて一種の“貧困ビジネス”問題に繋がった。

簡潔に書けば、これらの長期にわたって入院する患者は行政が生活保護の中の1つの制度である医療保護を使っているために、支払いが不可能にならない、言うなれば“おいしい患者”さんであり、お得意様だ。

また、新たな疾患が発見される事態になれば、当然それは違う疾患として処理をされ、“90日ルール”は適用除外される。

加えて、患者には外泊などをさせて一旦外に出すことでカルテには退院と書き、それを行政に提出する抜け道なども横行している。

それとは別に一般の医療保険では“180日ルール”などが問題となっていて、これは西成に限らず全国的な問題となっている。

■ワケありの人が病気やケガで倒れたらどうなるか

人が最後に流れ着く街と表現されることの多い、西成・あいりん地区。

ワケありの人間が多く流れ着くために、国民健康保険証はおろか身分証明書すら持っていない人間も数多く住んでいる。

——本来は国民が全員持っているはずの社会保険証や国民健康保険証などを持っていない人間が流れ着いたり、流れ着く途中に病やケガで倒れたらどうするのでしょうか。

「それらは法律上“行旅人”と呼ばれます。その人間が救急搬送されると、倒れた場所の自治体が面倒を見ることになっています。それらは“行旅病人”と呼ばれ、自治体から手厚い保護をしてもらえます。

手厚いと言っても最低保証の医療なんやけど、そこは医師の医療に掛けるモチベーションによって変わります。高水準で普通の患者さんと同じ診察などをされる自治体などもありますが、大阪の場合、引き受ける病院はホンマに限られます」

と、吉田さんは語る。それらの病院は西成区にも多くあるが、それだけでは経営がうまく回らないために、近隣の区にも点在していると話す。

■「ホンマに行政は見て見ぬ振りです」

——西成だけでは一定数の患者を持っていても回らないのでしょうか。

「回りません。西成の地域にある病院は一部を除いて、不正を見て見ぬ振りをしています。JR大阪環状線の某駅前にある病院は野戦病院と言われています。4人部屋にベッドを詰め込んで10人部屋にしたり、8人部屋に20人押し込んだり。ホンマに行政は見て見ぬ振りです。なんせ行政側からしたらどんな病人でも引き取ってくれる病院ですから潰したくはないんです」

と、吉田さんは行政の怠慢を訴える。確かに、この地域だけの患者だけでは医療は回らないであろう。あいりん地区の人口は最盛期には3万人と言われたが、今はその数は半減している。全員が医療の世話になるわけではなく、その数は減る一方なので周囲に広がるのは自然の法則ともいえるであろう。

吉田さんが話すその病院は当然役所などと連携をしており、生活保護を受けている人間なども積極的に引き受けているという。患者の中には生活保護法などでも禁止されている借金をしている人間も多く入院しているために、生活保護費の支給日が振込の人間は月末に、手渡しの人間は月初めには取り立てが病院に来る風景も見慣れた光景だという。

その病院は、行旅病人なども当然積極的に引き受ける。中には行政の力でも身元が分からずに、ベッド脇の名札に“名無し”と書いてあることも多いという。

■あいりん地区の医療問題は医療従事者も口をつむぐタブー

彼らが亡くなったら、当然無縁仏になり、“行旅死亡人”と呼称が変わり、それらに関わる費用、例えば火葬なども全て行旅病人が保護された自治体が面倒を見ることになる。その費用も当然税金で賄われているため、真面目に税金を納めている人間からすればやるせない問題であろう。

花田庚彦『西成で生きる』(彩図社)
花田庚彦『西成で生きる』(彩図社)

吉田さんは今、社会医療センターを離れているが、色々な情報が入る立場にいる。

つまり前述している通り、医療の世界からは離れていないのだ。

あいりん地区のことについては、仲間の看護師をはじめ誰しもが口をつぐむという。そのくらいこの地域の医療問題はタブーになっているのだ。

実際に筆者はいくつかの病院やクリニックに取材の協力をお願いした。電話で取材の許可は下りたのだが、実際に現地に足を運ぶと取材拒否や担当外の人間などが現れて、話をうやむやにされて取材にはならなかったことを最後に付け加えておく。

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花田 庚彦(はなだ・としひこ)
フリーライター
東京都生まれ。週刊誌記者を経て現職。独自のルートを活かし、事件や違法薬物などアンダーグラウンドの現場を精力的に取材する。現在は実話誌やwebメディアに記事を寄稿している。三代目山口組組長代行補佐・一和会理事長、加茂田重政『烈侠』(サイゾー)では聞き手を務める。

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(フリーライター 花田 庚彦)

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