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三田紀房「ドラゴン桜・桜木が『スタンフォードは狙い目だ』と絶対言わないワケ」

プレジデントオンライン / 2021年4月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ranmaru_

4月25日より日曜劇場「ドラゴン桜」(TBS系)がスタートする。東大合格請負漫画として一世を風靡した前作から15年の時を経て、なぜ原作漫画『ドラゴン桜2』の執筆に至ったのか、また同作のみならず『クロカン』『砂の栄冠』など、なぜその作品には心に刺さり、人の心を動かす「名言」が多いのか。漫画家・三田紀房氏が、セブン‐イレブン限定書籍『ドラゴン桜 人はなぜ学び、何を学ぶのか』(プレジデント社)刊行に際し、その創作舞台裏を語る──。(第1回/全3回)

■「決めセリフ」は考えない

『ドラゴン桜』の作中には名言がたくさん出てくるので、よく人から「どうやってそんな次々と思いつくんですか?」と訊(き)かれたりもする。

これはちょっと意外な問いだ。作者としては、意図的に名言を散りばめているつもりはないし、「一話につき一名言を必ず盛り込まねば」などとノルマを課しているわけでもないから。

ただし、だ。「強くてシンプルなメッセージを、できるだけわかりやすいかたちで届けよう」ということは、作品をつくるときいつも考えている。

メッセージを伝えるうえで、キャラクターに名セリフをズバリ言わせるというのは有効な手法の一つ。それで私の作品には、名言らしきセリフが頻出することとなるのだ。

■発信の機微が生んだ「桜木建二」という唯一無二のキャラクター

感情の揺れをもたらす何かを、ちゃんと相手に届ける。それがものづくりの基本の「キ」だと、私は考えている。質や量を問わず、まずは確実に届けることが肝要。これは漫画などの表現活動に限ったことじゃなく、あらゆる仕事に通ずる考えのはず。

三田紀房『ドラゴン桜 人はなぜ学び、何を学ぶのか』(プレジデント社)
三田紀房『ドラゴン桜 人はなぜ学び、何を学ぶのか』(プレジデント社)

こちらが伝えたいものを、きちんと相手に受け取ってもらうためには、届ける内容をかなりシンプルにするべきだ。つくり手は制作プロセスまで丸ごと知っているから、「こんなに手間暇かけたんだから、きっと良さを分かってくれる」と甘えてしまいがち。

でも受け手は、いちいちあなたの意を汲(く)んでくれるほどヒマじゃない。誰だって目の前の自分の生活に手一杯、それが人の世の常。市場にポッと出てきた一つの商品やサービスについて、いちいち深く考えたり思いを寄せたりしてくれるはずはない。

受け手、すなわち顧客にすこしでも振り向いてもらうには、できるだけシンプルな発信を心がけるしかない。その機微(きび)を知っているからこそ、『ドラゴン桜』の主人公・桜木建二の物言いは、あのように簡潔で明快になっている。

■「オレが思ってること、よくぞ言ってくれた!」

相手に伝え届けるには、メッセージの内容を「当たり前のこと」に近づけるのもコツだ。

桜木は威勢がいいから、いつもユニークでスゴイことを言っているように思えるが、実はごくまっとうで当たり前の内容が多い。

例えば、『ドラゴン桜』パート1で桜木は、

「教育は詰め込みだ」

と断言する。

教育とは詰め込み、これは誰しも漠然と感じているところじゃないだろうか。昨今は「考える力」「プロセス重視の教育」などが唱えられ、皆が賛同しているように見えるが、実際はどうか。本音を言えば多くの人が、「基礎的なことを丸暗記してナンボだろ」「無理にでも頭に知識を詰め込んで、首尾よくテストをパスした者の勝ちだ」などと思っているのでは?

「考えが古い!」となじられるのが嫌で、声を上げないだけ。それが本当のところのような気がする。

現実と似て非なる漫画の中にいる桜木は、誰に忖度(そんたく)することなく「ツベコベ言わず詰め込め!」と言い切ってしまう。すると読者は、

「オレが思ってること、よくぞ言ってくれた!」

と、うれしくなる。そこにキャラクターへの共感も生まれる。

■斬新すぎる言葉は大して響かない

つまり、いくら誰も思いつかないような斬新なことを言っても、人の心には大して響かないのだ。それよりも、みんなが何となく思っているけど言葉にしていなかったこと。それをズバリ堂々と言ってくれたほうが、胸がすくだろう。

さらには、桜木が「言葉の使い手」として優れているのは、いつも表現がキャッチーであること。彼は、

「つべこべ言わず東大に行け!」

と言うが、ここはやはり、受験における日本のナンバーワンとしての東大の名を、ぜひとも挙げなくてはいけない。

現実的な問題を踏まえて「MARCHへ行け」「関関同立もいいぞ」「スタンフォードのほうが狙い目だ」と言っているようでは、メッセージがブレる。高校球児に向かって「お前ら国体に行け!」といくら叫んでもあまり響かず、「甲子園」という最もキャッチーな旗を掲げてこそ、人はついてくる。

■強くシンプルな言葉で背中を押してほしい

『ドラゴン桜』の読者から、「学生時代に、桜木みたいにズバズバ言ってくれる先生に出会えたらよかったのに」という声が届くことは多い。

悩みや不安を抱えている人ほど、強くシンプルな言葉をかけてほしいと思っているものだ。10代、とくに受験生ともなれば、日々悩みや不安に苛(さいな)まれるばかり。

そんなとき『ドラゴン桜』を読んで、すこしでもメンタルを持ち直してくれるのなら、こちらとしても漫画作品をつくり届けている社会的意義が見出せてうれしい。

さらに言えば、弱っているのは受験生だけじゃない。例えば世の新入社員のほとんども、ストレスを抱えて揺れ動いているだろう。そういう人には、シンプルで強い言葉を手加減せず、ビシッとかけてやったほうが救いになったりする。

打ち寄せる砂浜に「yes you can」の文字
写真=iStock.com/anyaberkut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

■若者は大人が思うほどヤワじゃない

昨今はあまり強いことを言うと「パワハラ」とされたり、相手が身体を壊してしまってはいけないと心配になるだろうが、大人が思うほど若者はヤワじゃない

スジを通しさえすれば、シンプルでわかりやすい方針や目標を、ガツンと強くぶつけていい。そのほうが、迷える若者を具体的に救ってやることになるのだから。

言葉で人を導く力を持っている、それが桜木建二というキャラクターの特性だ。桜木のように力のある言葉を発する能力は、何らかのプロジェクトを動かすリーダーには必須のものでもある。

社会人の読者は桜木の姿から、人や仕事を動かす術(すべ)も読み取ってもらえたら幸いだ。

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三田 紀房(みた・のりふさ)
漫画家
1958年、岩手県生まれ。漫画家。明治大学政治経済学部卒業後、大手百貨店勤務などを経て、30歳のとき講談社ちばてつや賞一般部門入選で漫画家デビュー。社会現象を巻き起こした東大合格請負漫画『ドラゴン桜』(講談社)で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。代表作にはほかに『クロカン』『砂の栄冠』『インベスターZ』『エンゼルバンク』『アルキメデスの大戦』『ドラゴン桜2』などがある。

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(漫画家 三田 紀房 構成=山内宏泰)

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