「中小はちょっと…」メガバンクが嫌で転職するのに、結局大手銀行を希望してしまう人の心理
プレジデントオンライン / 2021年4月23日 11時15分
銀行で一般社員として働いています。まだリーダー職についたことはありませんが、以前は仕事にやりがいを感じ、昇格を目指してバリバリ働いていました。でも、コロナ禍で在宅勤務が増えて以降、意欲が落ち不安も募り始めています。自宅で一人で仕事をしていると「ずっとこの働き方でいいのか」「自分のキャリアはここで止まってしまうのでは」という考えが頭を巡り、不安が大きくなるばかりです。
転職も視野に、何か武器になるものを身につけようと勉強会やウェビナーなどにも参加してみましたが、優秀な人が多くてかえって自信をなくしてしまいました。次のキャリアに向けて、私は何をすべきでしょうか。(36歳・銀行勤務)
■転職も勉強も「手段」にすぎない
会社や仕事に対して明確な不満があるわけではないのに、何となく「このままじゃいけない」という焦りがある。こうしたモヤモヤは、一人で抱え込んでいると「何かしなきゃ」「でも何をしたらいいかわからない」と堂々巡りに陥りがちです。在宅勤務になって、先輩や同僚と雑談をしたり、気軽に相談したりする機会が減り、一人で考える時間が増えたことも、不安に拍車をかけているのかもしれません。
まずお伝えしたいのは、転職も勉強や資格も手段の一つにすぎないということです。何のために行うのか、目的が明確でない状態で動いても不安は解決しないでしょう。それでは、何かしないと不安だからと、行きたい場所もないのにとりあえず家を出るのと同じです。
では、行きたい場所がある場合はどうでしょうか。例えば「山の頂上に登りたい」と思ったとします。この場合、行き先は山ですが、それが近所の山なのか富士山なのか、はたまたエベレストなのか、この点は家を出る前に決めておく必要があります。なぜなら、登るために必要な訓練も装備も、それぞれの山によって異なるからです。
■30代の「目的なき転職」が後々ダメージに
転職や勉強も同じです。目指す業界や職種が具体的でなければ、そこにたどり着くためにどんなスキルや知識が必要なのかも見えてきません。焦りからやみくもに勉強して、気づいたら関連性のない資格を複数とっていた──。これでは非効率的ですし、何より時間も労力もお金ももったいないと思います。確かに達成感や充実感は得られるかもしれませんが、不安の根本的な解消にはならないでしょう。
自分は何のためにどう働いて、どう生きていきたいのか。先々のキャリアを考えるなら、まずはそこを明確にする必要があります。「今のままじゃ何となく不安だから新しい環境へ行きたい」という気持ちもわかりますが、そう感じるたびに転職をしていたら、業績もないまま転職歴ばかりが増えていくことになります。
転職業界では、転職を繰り返す人は「ジョブホッパー」と呼ばれます。キャリアアップや年収アップなどの明確な目的があればいいのですが、中には「嫌なことがあったら転職すればいいや」と軽い気持ちで転職を繰り返す人もいます。転職慣れしてしまい、洋服を替えるのと同じ感覚で会社を替える人もいます。
これは、求人数の多い20〜30代のうちなら確かに可能です。しかし、この時期に転職回数を増やしてしまうと、40〜50代になってからボディブローのように効いてくることがあります。転職でのキャリアアップが普通とされている一部の業界を除けば、ほとんどの企業は「転職回数が多い人=すぐ辞める人」と捉えているからです。
■企業は転職回数だけでなく、在職期間も見ている
また、企業は中途採用の際、応募者の転職理由や回数だけでなく、各社での在職期間にも注目します。転職回数が同じ3回でも、在職期間が3年ずつの人と1年ずつの人とでは、前者のほうが断然有利。
後者は、1年で転職しているということは成果を出さずに辞めた可能性が大きいですし、毎回短期間で辞めるのは「自分と転職先の相性を見極める目がなさすぎるからでは」と判断されるわけです。「すぐ辞める」と予想できる人を、積極的に採用する企業はほとんどないでしょう。
■やりたいことをどう探すか
このように、明確な目的もなしに転職するのは決して得策ではありません。大事なのは、まず「自分は何をしたいのか」をしっかり固めること。ここが固まれば、何を勉強すべきかも転職をすべきかどうかもおのずと見えてきます。モヤモヤした思いに揺らぐこともなくなるでしょう。
とはいえ、この女性のように、自分のやりたいことがわからない人も少なくないと思います。これを見つけるには、一つは人と比べないこと。何に幸せややりがいを感じるかは人それぞれです。人気の企業や人気の職種を目指すのではなく、自分に合っていると思える仕事や働き方を探してください。それが今の会社でも見つかりそうなら、転職する必要はないでしょう。
もう一つ、よく言われるのが「キャリアの棚卸し」です。これまで自分が何をやってきたのか、実績や身につけたスキルなどを洗い出し、自分の強みや弱み、仕事の経験から何を学んだのか、どんな仕事・働き方をしている時に満足感を得られるのかなどを明らかにしていくもので、転職を考えたときに最初にやるべき基本のキです。自分を客観的に見つめる手段としては非常に有効です。
■「棚卸し」が「呪縛」になることも
ただ、棚卸しをする場合は一つ注意してほしいことがあります。
棚卸しは、過去に行ってきたことを見つめ直すものです。そのため、人によっては思考が過去に引っ張られて、「せっかくここまでやってきたから」「我慢してきたから」と思い始め、その思いに縛られて新しいことに挑戦できなくなる可能性があるのです。
例えば、昨年こんな方とお会いしました。「メガバンクに在職中ですが、40代をめがけたリストラも始まり、これから先も経営が厳しそうなので転職を考えています。次の転職先は、これまでの経験を活かしたいので、次も金融しかないのかなと考えています。かといって証券や保険、ノンバンクやファンドは、土地勘がないので不安です。また、小さい会社だと将来どうなるかわからないので、企業規模は大きいほうが合うと考えています……」。これだと、メガバンクの先行きに不安を感じて転職を始めたはずなのに、転職先の選択肢はぐるっと回ってメガバンクに戻ってきてしまいます。
いま不安になっているのは、過去にしてきたことが未来にいい結果をもたらさないリスクを感じたからだったはず。それなのに、過去の経験に執着していては転職する意味がなくなってしまいます。重要なことは、あくまでこれまでやってきたこと(過去)よりも、これからやりたいこと(未来)のはず。棚卸しは大切ですが、マイナス面に働いて「過去の自分の呪縛」にもなりかねないことを、皆さんには知っておいてほしいと思います。
転職という選択肢が頭に浮かんだら、まず考えるべきは「次は何をしたいか」です。これまでの経験や実績も大事なヒントにはなりますが、縛られてはいけません。そして、次にしたいことや目標が見えたら、そこで初めて勉強や資格取得の意義が出てきます。
ご相談いただいた方はまだ36歳ですから、転職先を見つける際のハードルはそれほど高くないかもしれません。しかし、目的もなく安易に転職を繰り返すと、40代になってから悪影響が出てくる恐れがあります。自分が本当にやりたいことは何か、まずはそれを見つけることから始めてほしいと思います。
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転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役
1988年、リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。2014年ルーセントドアーズを設立、成長企業のための「社長の右腕」次世代リーダー採用支援サービスを開始。35歳からの転職支援サービス「Career Release 40」、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を運営している。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』『35歳からの後悔しない転職ノート』『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』など。
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(転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役 黒田 真行 構成=辻村 洋子)
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