「億を稼げる」松岡圭祐が職業としての小説家を勧めるワケ
プレジデントオンライン / 2021年4月17日 11時15分
■現実に小説家の富豪は大勢いる
今からYouTuberになって儲けるのは難しいと言われます。一方、同じくひとりで創作に勤しむ「小説家」という職業があります。
出版不況もあり、本が「売れない」「儲からない」という嘆きを、業界内からも耳にします。もはや専業作家など成り立たないとも言われます。文章表現だけを武器に、読者の感情を動かそうとする小説は、時代遅れなのでしょうか。
これは事実ではありません。書店をめぐってみましょう。「○百万部突破!」という帯のなんと多いことか。売り上げ上位の小説家は億単位の年収を稼ぎます。氷山の一角と囁かれがちですが、それはどの業種でも同じではないでしょうか。現実に小説家の富豪は大勢いるのです。
税金抜きで簡単に計算してみます。一冊2000円の単行本なら、50万部で著者に1億円が入ってきます。文庫を年間3冊出した場合でも、最近の文庫は高額ですから、価格800円で印税10%として、それぞれ42万部売れていればよいのです。3作がシリーズであれば、さほど珍しいケースでもありません。
しかも昨今では、紙の本がそこまで売れる必要がないのです。電子書籍の購買者数は年々伸びています。印税率は紙の本より高めであり、15%以上に設定されます。ネット書店で在庫切れを起こさない電子書籍は、昼夜問わず誰かにクリックされるたび、その場でお金を生んでくれます。
対するYouTubeの場合、一回の再生により得られる広告収入を0.05円とし、それだけに限って計算してみると、億を稼ぐには実に20億回の動画再生が必要です。収入を目的とした場合、本の売り上げの方が現実的な数字なのです。
■YouTuberより圧倒的に優位
収入面だけではありません。小説家の方が動画配信者より、圧倒的に優位なことがあります。それは広く世間に認められた職業であるという点です。
ベストセラー作家になれば社会的地位が保証され、出版社にも守られます。同じノマドワーカーでも、顔の見えない運営者によるネットの配信サービスに依存するのとは、大きく状況が異なります。
このように書くと「儲けばかりを考えるのか」「作家はストイックであるべきだ」との異論が上がるでしょう。もちろん小説家は、自作の執筆においてストイックでなければなりません。本業を他に持ち、小説で稼ぐことなど考えず、趣味がてら好きなものを執筆していくのも、賞賛に値する生き方のひとつです。
でもそれなら、まず商業的に稼げる小説を書いて専業作家となり、一方で自分の好きな小説も書いてみてはどうでしょうか。作家として出版社からの信用を獲得すれば、あらゆるジャンルの小説を刊行できるようになります。「軽薄な商業作家として名を売ったのでは、本気で書いた小説の発表に支障がある」というのなら、別のペンネームで刊行すればいいのです。
■「年収億超えの作家が普通にいる」
多額の収入は自分の幸せのためばかりではありません。まず家族のためになります。次いで高額の納税による社会貢献につながります。
「本当は小説家は儲かる」という事実について、実際に儲かっている当事者らは沈黙を守りがちです。けれども「小説家は儲からない」という風説ばかりが広まると、せっかくの才能ある人々が小説家になるのを断念してしまいます。それは文学全般をつまらなくし、出版不況に拍車をかけてしまいます。
拙書『小説家になって億を稼ごう』(新潮新書)に、筆者の確定申告書を掲載させて頂きました。お恥ずかしい話ではありましたが、年収億超えの作家が普通にいるとお伝えするにあたっては、判りやすく有意義な方法だったのではないかととらえております。「あんな程度の作家で億を超えられるのか、なら自分も」と思って頂けましたら幸いです。
今の世の中、どなたでも作家業に挑戦して頂けます。人それぞれに個性があり、みな特別な存在です。貴方が紡ぎだした物語は、貴方の性格や経験、知識、嗜好などが結合した、けっして他人には想像しえないものになります。面白くないはずがありません。
■実は選択肢が色々……小説を出版する方法
小説を書き上げても「出版の当てがない」と思われるかもしれません。新人賞公募は高嶺の花ですし、比類なきエリートコースですが、もし傑作と自負できる小説が書けた場合、是非応募すべきでしょう。
他にも「小説家になろう」「カクヨム」など、小説投稿サイトで上位にランクされる方法もあります。とはいえ、いずれも狭き門であることは変わりません。
しかし最初から自分の作品を、広く世に問いたい場合もあるでしょう。
自費出版は止めも勧めもしませんが、儲かる作家になるつもりなら関わる必要はありません。数百万円を払ったところで、本当に出版社が商業出版としてデビューさせてくれるレベルの営業・流通・宣伝・販売は期待できません。書店での平積みなど夢のまた夢、いちおう棚差しで一冊置かれたという結果が待つのみです。
出版社は商品である書籍を段ボール箱に詰め、取次を経て書店に送るのですが、自費出版の場合、この段ボール箱の梱包すら解かれることなく返送されたりします。書店の棚は常にいっぱいで、売れる見込みのない本まで並べきれないからです。
■出版エージェントによる売り込み代行
最初から商業出版を決める方法はないのでしょうか。それがあります。実は出版エージェントというサービスが存在するのです。欧米ではむしろ主流です。出版社の編集者を直接の取引相手とせず、エージェントがまず貴方の原稿を預かり、各出版社に売り込んでくれるシステムです。
日本ではまださかんではないものの、出版エージェントによる売り込み代行は、すでに開始されています。「出版エージェント」で検索してみてください。サイトで会社概要・取引先・出版実績などを詳細に確かめましょう。
出版エージェンシーは数万円の契約料と引き替えに、貴方の作品を預かってくれます。今後出版が成立した場合、どのような契約がなされるのか、最初の時点でよく聞いておきましょう。
日本の出版社は、まだエージェント制度に馴染みがないため、編集者が敬遠するとも言われます。しかしそれは2010年代半ばまでの状況であり、最近ではエージェンシーの売り込みに対応する担当者が、出版社の編集部側で決められていたりします。
エージェントは編集部を訪ね、担当者と会い、複数の作家の小説を売り込みます。担当者は自社で出版できそうな作品を選び、エージェンシーと出版契約を結びます。たとえそこで選ばれなかったとしても、エージェントは他の出版社をまわり、貴方の作品を売り込んでくれます。
■経費がかからない電子書籍
貴方とエージェンシーとの契約料は、当初は数万円ですが、その後出版が決まったらどんな取り分になるのか、事前に説明を受けておいてください。作家デビューを果たした後のことも考えておくべきです。以降もずっとそのエージェンシーに在籍し、仕事をとってもらうのか、どこかの時点で独立するのか、前もってきちんと協議しましょう。
貴方の作品が小説投稿サイトで上位にランクされている場合にも、出版エージェントが声をかけてきたりします。しかしこれは応じないほうが賢明です。なぜなら貴方に対しては、出版社が直接商談を持ちかけてくる可能性があるからです。出版エージェンシーを利用するのは、未発表の作品を売り込む場合に限ります。
紙の本にこだわらず、電子書籍出版であれば、どなたでも即座に可能です。しかも自費出版とは異なり、経費がかかりません。出版社を介さず、電子書籍ストアのプラットフォームで、直接自分の作品を販売するのです。Amazonのサービス、KDP(Kindleダイレクト・パブリッシング)なら七割もの印税が受け取れます。
印税70%は、KDPで独占出版する場合に限られます。しかしAmazonで売れない電子書籍は、他の電子書籍ストアでも売れません。よってKDP一本に絞って差し支えありません。Amazonでは関連商品として似た商品が表示されますから、ジャンルの近い小説を読んでいるユーザーの目にとまりやすいのも利点です。
アマチュアが書いた本でも、購入者は必ず現れます。Kindle Unlimitedに登録しておけば、収益性はさらに増します。これは定額制で、常時十冊までは無料で読めるサービスですが、読者が読んだページ数に応じ支払いがなされます。
■小説家になる道は、雲をつかむような話ではない
電子書籍出版は、まるでブログ記事をアップするかのように、ひとりだけで行える手軽さがあります。けれどもその分、クオリティがまちまちとされています。多くの購入者を獲得するためには、読後の評判を高める必要があります。ですから原稿を添削サービスに出し、きちんと校閲校正しておきましょう。
こちらも「小説 通信添削」「小説 校閲サービス」「小説 推敲サービス」などで検索し探します。フリーのライターや編集者が行う個人サービスなら安く利用できます。2万字で3千円から5千円ぐらいです。文庫1冊分の最低限の分量、10万字で1万5千円から3万円ほどになります。もちろん前述の出版エージェンシーを利用する場合も、事前に自分で添削サービスを受けておけば、原稿の完成度が高まり、エージェントが動きやすくなります。
このように現代では、ネットにより様々なサービスが受けられます。小説を商業出版する道も複数用意されています。ひとたび貴方の小説を世に問えば、2作目はもうプロの作品として市場に迎えられます。1作目の売れ行きにより、出版部数も異なってきますが、契約にあたり担当編集者とうまく交渉することで、より収入を高めることができます。
出版社との付き合い方、文学賞受賞や映像化依頼への対応など、すべてのステップを事前に確認しておくことで、効率よく成功への道を歩んでいけます。
商業出版により小説家になる道は、けっして曖昧模糊とした、雲をつかむような話ではないのです。よろしければ是非とも挑戦してみてください。貴方の小説が大型書店の店頭を飾り、多くの読者を幸せにし、貴方自身が豊かで優雅な暮らしを送る日々を、心から信じております。
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1968年生まれ。1997年に小説家デビュー。『万能鑑定士Q』『探偵の探偵』『千里眼』『高校事変』『水鏡推理』などの人気シリーズ、『催眠』『ミッキーマウスの憂鬱』『蒼い瞳とニュアージュ』などミリオンセラーや映像化作品を多数執筆。
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(松岡 圭祐)
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