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「歴史ある不動産が外資に売られて残念」その発想が日本経済を低迷させている

プレジデントオンライン / 2021年4月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Easyturn

日本のビルが次々と外資に買われている。この流れにリスクはないのか。金融アナリストの高橋克英氏は「陰謀論や嫌悪感には根拠がない。日本企業がうまく活用できないのならば、外資に手を入れてもらったほうがいい。ニセコの復活はその象徴例だ」という――。

■安全・安定・割安なニッポン

日本のビルが外資に買われている。1990年代バブル崩壊や2008年のリーマン・ショック後のデジャブのようだ。日本企業の短期的経営と逆張り不在経営による不動産放出が続く一方、世界的な混乱と金融緩和のなか、安全で安定、そして何より割安なニッポンが、外資系企業やファンドを引きつけているのだ。

つまり、日系企業にとっては、「コロナで大変でリストラに撤退」だが、外資系にとっては、「千載一遇の買い場到来」なのだ。

一方で、「日本のビルが外国資本に買い占められる」と懸念の声も上がる。実際はどうなのだろうか。「外資が冷酷なら、日系は残酷」ともいえる実態もある。現在の状況を整理するとともに、ニセコの事例を紹介しよう。

■神戸北野ホテル、エイベックス本社ビルも外資に

日本の企業が、コロナ禍による業績悪化や先行き不透明を理由に、本社ビル、ホテルなど保有不動産を外資に売却する動きが続いている。

今年3月、コロナ禍で鉄道やホテルが不振の近鉄グループホールディングスは、都ホテル京都八条やホテル近鉄ユニバーサル・シティ、神戸北野ホテルなど8つのホテルを米国の大手投資ファンドのブラックストーン・グループに売却すると発表した。8つのホテルの売却額は非公表ながら簿価423億円(昨年3月末)を上回るとみられる。

コロナ禍で主力のライブ事業などが低迷するエイベックスは、昨年末、3年前に開業したばかりの東京・南青山にある地上18階建ての本社「エイベックスビル」を719億円で売却した。譲渡先は非公表ながら、日本経済新聞などの報道によると、カナダの大手不動産ファンドベントール・グリーンオーク(BGO)だという。同じくBGOは、今年3月には、三菱地所から名古屋の大型オフィスビル「広小路クロスタワー」を400億円規模で買収したと報道されている。

これら外資系ファンドは、買収後、リニューアルなどで各物件の価値を上げて集客力や収益性を高め、最終的には、より高値で売却することでキャピタルゲインを狙うことになる。

実際、大手不動産サービス会社のジョーンズラングラサール(JLL)のレポート「Global Real Estate Perspective February 2021」によれば、2020年の首都圏へのオフィスやホテルなど不動産投資額は、約2兆4千億円となり、パリ、ロンドンに次ぐ、世界3位だったという。日本全体の投資額(約4兆6千億円)のうち、海外投資家比率は34%に上り、リーマン・ショック前の2007年以来の高水準となっているのだ。

■背景にある「世界的なカネ余り」

コロナショックにより、日本だけでなく米国、欧州の政府と中央銀行により、史上最大規模の金融緩和策と財政出動策がとられた。コロナ禍から、国民の生命はもちろんのこと、「雇用と事業と生活」を守るためにはあらゆる手段を尽くすとの意思表示である。FRBは2023年末までゼロ金利政策を続けると表明している。

このため、世界中でおカネが市中に流れ込むことになり、カネ余り状態となり、世界的にも規模が大きく流動性もある株式市場だけでなく、ミドルリスク・ミドルリターンで相対的に高い利回りが見込める不動産市場にもおカネが流れ込むことになった。

投資ファイナンス
写真=iStock.com/utah778
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/utah778

ただし、コロナ禍下であり、米中対立など地政学リスクも高まっている。このため、株式においても、新興国より日米など先進国の株式、不動産においても、新興国や地方都市よりブランド力ある先進国の都市やリゾート地の不動産にお金が流れているのだ。こうしたグローバルなおカネの流れのなかで、ロンドンやパリ、ハワイなどと同様に、日本では、東京や大阪のビルやホテル、ニセコの土地などが買われているのだ。

■政治的に安定し、市場規模も大きい日本は魅力的

特に、米中対立の激化や、中国による香港やウイグルでの弾圧、ミャンマーでの軍事クーデターを目のあたりにした香港やシンガポールなど世界各地の華僑や欧米投資家の間では、地政学リスクへの不安が高まっている。その結果、政治的に安定し市場規模も大きい日本の魅力度が上がっているのだ。ドルやユーロ建て資産が大半を占める華僑や欧米などの海外投資家において、保有資産の分散、通貨の分散という観点からも、円建ての資産を日本の不動産で持つメリットが生まれているのだ。

■「外国人による外国人のための楽園」ニセコ

例えば、世界的なリゾート地となった北海道のニセコでは、パウダースノーを求めて「外国人による外国人のための楽園」ができており、コロナ禍でも地価の上昇が続いている。5つ星ホテルのパークハイアットがあるのは、日本では、東京、京都、ニセコのみだ。リッツ・カールトンが昨年12月に開業し、さらにアマンも誕生する予定だ。

そして現在のニセコを支えるのが外国資本だ。実際、パークハイアットは香港資本、リッツはマレーシア資本、アマンはシンガポール資本による大規模開発だ。

東急グループや西武グループなど日本企業によって作られたニセコの礎。しかし、バブル崩壊によって、西武グループや東急グループ、日本航空など日本企業がニセコから相次いでホテルなど所有不動産を売却し退却・縮小するなか、豪州や米国資本の手を経て、今は、香港、シンガポール、マレーシアの財閥グループなどによって、さらなる大規模開発が続くに至っているのだ。不況下の日本で自らリスクをとって、ニセコに投資した外国人や外資系企業によって今のニセコの繁栄があるのだ。

ニセコ
写真=iStock.com/SEASTOCK
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SEASTOCK

■投資が投資を呼ぶ好循環が起きている

無論、足元ではコロナ禍が続いており、インバウンドはゼロだ。ニセコも例外ではなく、実体経済はダメージを受けているのは確かだ。

しかし、一方で、コロナ禍以降も、ニセコでは、大型開発は継続しており、北海道新聞によれば、中国や韓国、タイ、シンガポール資本による新たな開発計画も明らかになっている。国内外の富裕層による億円単位の不動産投資も引き続き活発だ。2030年の北海道新幹線の新駅開業、高速道路の開通だけでなく、札幌オリンピックの会場となる可能性もある。

世界的な金融緩和策もあり、ニセコでは、外資系資本や海外富裕層が集まり、良質なホテルやコンドミニアムなどが供給され、ブランド化が進み、資産価値の上昇により、さらなる開発投資が行われる、という、投資が投資を呼ぶ好循環が続いているのだ。

一方で、日本企業が経営する大多数のスキー場などはどうだろうか。冒頭の近鉄グループのホテル売却のように、この先、例えば、富良野や苗場など西武グループが保有するスキーリゾートの不動産が、外資系ファンドなどへ売却される可能性があるのではないだろうか。

■リスクを嫌う日系、プロフェッショナル経営の外資

「この先もコロナでさらに景気が悪化したら立ちいかない」「もし、金利が高騰したらどうしよう」など、リスク要因を挙げていけばキリがない。景気リスク、価格変動リスク、為替リスク、地震や自然災害のリスク、クレジットリスク、カントリーリスク、流動性リスク、税務リスクなどなど。釈迦に説法であるが、投資や開発において、リターンがあるということは、当然それ相応のリスクもあるということだ。リスクとリターンを認識した上で最善策を決断するのがプロフェショナルな投資行動だ。

日本の機関投資家や日本の上場事業会社といった多くの日系企業は、相場が下落すると一斉に損切り、景気が下向くと一斉に計画を中止し、思考停止してしまう、リスク回避志向のサラリーマン経営を好む。一方、海外の投資家やファンド、事業会社といった外資系企業は株価の向上と収益の確保を目的とし、ビジネスライクにリスクを取りながら最大限のリターンのためプロフェショナル経営に徹する。

そうした投資家や企業にとって、相場の下落局面や不景気は、絶好の買い場であり、開発を進めるチャンスだ。決断力(権限移譲と相応の報酬と責任)と資金力にも裏付けされており、外資と日本との経営思考や組織の差異が如実に表れている。

■「日系なら地元を大切にする」とは限らない

「でも、外資は冷たい、冷酷じゃないか」という反論も多い。そうかもしれない。

しかし、例えば、地域経済への還元という意味では、「外国資本」も「日本資本」もあまり変わらないのかもしれない。

いや、むしろ、海外資本の方が、ESG投資やSDGs経営の実践に示されるように、景観など自然環境や地元への還元、ダイバーシティなど多様性のある社会の実現により理解があったりする。概して、ビジネスライクで、合理的ではあるが、ロジカルであったりもするのだ。

森のイメージ
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写真=iStock.com/RomoloTavani - ※写真はイメージです

例えば、先ほどのニセコにおいて、以前の日系ホテルのレストランでは、コスト優先でニセコ外の食材を使う傾向があったが、外資系ホテルに代わってからは、地元食材を使ってくれるようになって新たに雇用も生まれたという。長期的関係を重視する姿勢もニセコにおける外資系の開発計画にはみられる。老朽化したリフトを一新したり、新たにスキーコースを設けたりと設備更新にも積極的だ。

少なくともニセコの歴史を振り返ってみる限り、早々と事業を撤退したり縮小させた日系資本の方が、むしろ、短期的でビジネスライクだったといえる。

■外資が「冷酷」なら、日系は「残酷」

日系企業では、「大丈夫だ、問題ない」と根拠のない笑顔を振りまきながら、抜本的なリストラや設備更新などに踏み切れず、痩せ我慢の末に、最後は身売りや倒産となって、従業員や株主や地域社会が路頭に迷うことも、ニセコに限らず、多かったのではないだろうか。「外資は冷酷なら、日系は残酷」といえるのかもしれない。

そうはいっても「中国系など得体の知れない外資に日本が買われてしまうのでは」という不安の声も根強い。しかし、その土地の不動産の価値と魅力を理解し、最も有効活用できる企業が買収するという観点からみれば、日本企業より外資の方が適している場合も多い。

世界的な視点で見た時に安全安定の視点で「魅力的」だから東京やニセコなど日本の不動産が買収されているのだ。つまり、単純な話、安くて儲かるから買うのである。これらの大部分は純投資であり、陰謀論や嫌悪感には根拠がないものがほとんどだ。

もっとも、それが例えば、中国や韓国系などが増えすぎれば、安全保障上の問題がある、または反社会的勢力によるものである場合は、新たな法令も含め規制すべきであろう。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。

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(マリブジャパン代表取締役 高橋 克英)

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