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「業績8~9割減」絶体絶命の日本の旅行業界に生き延びる道はあるか

プレジデントオンライン / 2021年4月16日 11時15分

日本はこの13年で、リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍と、「100年に1度や1000年に1度」の事態に計3度も見舞われた。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「コロナ禍で日本経済の柱のひとつである飲食・運輸・旅行業界が苦境にあえいでいます。ワクチン接種が遅れているため、これは他業種にとっても対岸の火事ではありません」と警鐘を鳴らす――。

■「100年に一度や1000年に一度」に三度も見舞われた日本経済は大丈夫か

日本経済全体の動きを端的に表す「名目国内総生産」の数字を見ると、2019年7~9月は年換算で564兆2000億円、それが新型コロナウイルスで1回目の緊急事態宣言が出た2020年4~6月には510兆7000億円まで下がりました。

名目国内総生産は、企業などが作り出す「付加価値」の合計で、作り出した付加価値の中から一番支払われているのは、会社員などに支給される給与です。つまり、名目国内総生産は給与の源泉で、それがコロナで一気に50兆円以上、約1割落ちたことになります。それも、飲食や運輸・旅行、イベント関連など、偏った業種での落ち込みとなりました。

その後、2020年10~12月では、551兆1000億円まで戻しています。これは、コロナの影響が少し出始めた2020年の1~3月の数字とほぼ同じです。ピークまでにはまだ戻していませんが、ほとんど戻したのです。

経済の回復が顕著な中国関連の製造業などでは業績が上向く傾向が顕著な一方、先ほど述べたような一部の業種では、戻りは非常に悪く、苦境が続いています。

今回は、とても大きなダメージを受けている旅行業に焦点をあて、その状況を見るとともに大手旅行各社の現状を見ていきます。その中で、エイチ・アイ・エス(以下HIS)やKNT-CTホールディングス(近畿日本ツーリスト+クラブツーリズム、以下KNT-CT))両社の財務内容も簡単に分析します。

コロナの蔓延は「100年に一度のパンデミック」と言われていますが、ここ13年の間に「100年に一度の経済危機」と言われた2008年以降のリーマンショック、「1000年に一度」の災害の東日本大震災(2011年)などを私たち日本人は経験しました。

旅行業は今、いまだかつてない試練に立たされていますが、これは決して対岸の火事ではなく、この先、いかなる業界でも経験しうることだという認識も必要です。

■「まん延防止等重点措置」でGoToトラベルを望むべくもない

図表1は、観光庁が発表している「旅行取扱状況」の前年比の数字です。

2020年の2月ごろからマイナス幅が大きくなり、1回目の緊急事態宣言が出た4月、5月ごろには95%を超えるマイナスとなっています。つまり前年比で5%以下の売り上げしかなかったということです。

そして、その後も苦境が続きました。東京のGoToトラベルが解禁された10月でもマイナス65.7%です。最も良かった11月でも前年比で半分以下の売り上げで、その後2回目の緊急事態宣言が出て、再び前年比で8割以上のマイナスです。直近の2021年2月の数字を見ても、マイナス85.9%です。この数字を見るときに注意しなければならないのは、2020年の2月も2割近いマイナスで、それよりもさらに8割以上落ちているということです。

そこにまた、4月に入り「まん延防止等重点措置」が宮城、東京、大阪、京都、兵庫、沖縄の6都府県に発令されました。GoToトラベルなど望むべくもない状態です。

■HISの売上高は前年の2.7%(前年比マイナス97%以上)

図表2は、先ほどの「旅行取扱状況」の直近(2021年2月)の速報値です。

観光庁「旅行取扱状況」

JTB以下、旅行取扱上位10社までの数字を載せてあります。注意して見ていただきたいのは、前年比の数字です。最大手のJTBは非上場のため、財務内容ははっきりとは分かりませんが、業績的には前年比での売上高は、20.4%です。これは業界の中ではまだ良いほうですが、売り上げが8割減では、利益など望みようがありません。そして、少ないところでは前年比でひと桁、HISでは2.7%しかありません。これは前年比で97%以上のマイナスということです。海外旅行の取り扱いの多い阪急交通社なども大きな落ち込みです。

■HISとKNT-CTホールディングスの財務状況を見ると

図表3には、HISとKNT-CTの財務内容の抜粋を載せています。

HISとKNT-CTの財務内容の抜粋

HISは2019年11月から2020年10月までの1年間、KNT-CTは2020年4月から12月までの9カ月間の数字です。

HISの場合には、当初の数カ月間はコロナの影響があまり出ていませんでしたが、後半は大きな打撃を受けました。その結果、2020年10月までの1年間で売上高は46.8%の減少、(親会社株主に帰属する)最終利益は250億円強の赤字となりました。中長期的な安全性を表す「自己資本比率」は昨年中に増資をしたこともあり、17.8%です。

直近の2020年11月―2021年1月までの第1四半期では売上高は80.5%のマイナス、最終利益は約80億円の赤字ですが、自己資本比率は16.4%でまだ安全圏にいますが、厳しい状況であることも間違いありません。

■KNT-CTは大幅な人員削減を含むリストラ断行で会社規模を小さく

一方のKNT-CTは、12月までの第3四半期までの数字ですが、やはり厳しい状況です。売上高は前年同期と比べてマイナス81.1%。(親会社株主に帰属する)最終利益も216億円の赤字です。

そして、KNT-CTが苦しいのは自己資本比率がマイナス、つまり「債務超過」に陥っているということです。親会社が電鉄会社の近鉄なので今は心配ありませんが、通常、債務超過に陥ると銀行は追加融資に慎重になり、経営が非常に厳しくなります。そんな中、KNT-CTは大幅な人員削減を含むリストラ策を打ち出しています。

この時期、会社の規模を小さくして嵐が過ぎ去るのを待つしかないでしょう。人件費を筆頭としたコスト削減が一番確実だからです。ただ、親会社の近鉄もコロナの影響を大きく受けて業績が悪化しており、大阪市内のビルや、京都などのホテルの売却を発表し、資金の確保に努めていますが、コロナが長引く中でなかなか活路を見いだせないでいるのが現状です。

旅行業は、今後しばらくKNT-CTのように、「小さくなる」ことによってこの状況をしのいでいくしかないと思いますが、この状況が長引けば、この先、歴史ある大企業でさえも経営に行き詰まるところも出てきてもおかしくないでしょう。

もちろん、こうした苦境は旅行代理店だけでなく、航空業界や陸運業界、ホテルなども同じです。コロナが長引いており、一部の企業は体力を落としつつあります。

いずれにしても、ワクチンの接種状況も含めてコロナウイルスがどう収束していくかに旅行関連業界の業績はかかっています。「ワクチンパスポート」ということもささやかれ始めていますが、日本はワクチン接種がかなり遅れています。世界の情勢も含めてしばらくは厳しい状況が続くと考えられます。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)

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