「死の直前に後悔すること」3500人を看取ったホスピス医が証言する"患者の無念"
プレジデントオンライン / 2021年4月24日 11時15分
※本稿は、小澤竹俊『もしあと1年で人生が終わるとしたら?』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■人生に締め切りを設ける意味
はじめに、みなさんに質問です。もし、あと1年で人生が終わるとしたら、あなたは、
旅行に行きたいですか?
家族と楽しいときをすごしたいですか?
もっと仕事をしたいですか?
趣味に時間を使いたいですか?
おいしいものが食べたいですか?
ほしかったものを買うでしょうか?
まだまだやりたいことがたくさんあるという人がほとんどでしょう。
なぜこのような問いかけをしたかというと、人生に締め切りを設けることで、何がやりたいか、何が大切かが明確になるからです。
25年間、人生の最終段階の医療に携わり、3500人を超える患者さんたちをお見送りしてきて、私には一つ、気づいたことがあります。それは、「死」を前にすると、人は必ず自分の人生を振り返るということ。
そして、自分の人生で誇れること、後悔していることなどを少しずつ整理し、最終的には多くの方が、「良い人生だった」と納得して、穏やかにこの世を去っていかれます。日々忙しく過ごしていると、人はなかなか、自分の生き方を見つめ直したり、自分にとって本当に大切なものに気づいたりすることができません。
でも、もし。もし、あと1年で人生が終わりを告げるとしたら……。私が関わってきた患者さん同様、きっと多くの人が、自分の人生に思いをはせるのではないでしょうか。
■死の間際、人はどんなことを後悔するのか
人が人生の終わりに考えること人生は誰もが満足して終えられるものではないかもしれませんが、私の経験上、多くの人が「いい人生だった」「自分なりに頑張った」という思いを抱えて最後を迎えられます。
ただ、中には「そういえば……もっとこうしておけばよかった」「そういえば……こんなふうに生きればよかった」といった後悔の念を抱く方もいらっしゃいます。よく現場で耳にするのは、「もう一度家族と旅行に行きたかった」という声や「もっとチャレンジすればよかった」という声です。
私たちは後悔も充実感も抱えながら、日々を生きています。最後を迎えるときも同じことなのかもしれません。しかし、まだ健康で人生の道半ばという人にとっては、できるだけ心残りを減らしたい、後悔をしたくないと思うのが人の心ではないでしょうか。
後悔のない人生とは何か、良い人生とは何か人生の最終段階を迎えた患者さんたちと時間を共にさせていただく中で、私は「後悔のない人生とは何か」「良い人生とは何か」を、ずっと考えてきました。
お一人おひとり、生きてこられた時代も背景も、大切にしてこられたものも違います。また、年齢を重ね、病気で亡くなられる方もいれば、幼いお子さんを残し、若くしてこの世を去られる方もいらっしゃいます。
すべての人に共通して言える「後悔のない人生の条件」「良い人生の条件」など、ないのかもしれません。
■人生を後悔しないための4つの条件
それでも、人生の最後に「より後悔がない人生だった」「より良い人生だった」と思えるために必要な条件を挙げるならば、次の4つになるでしょう。
・いくつになっても新しい一歩を踏み出すこと
・家族や大切な人に、心からの愛情を示すこと
・今日一日を大切に過ごすこと
あくまでも私個人の結論、考えにすぎませんが、おそらく多くの人にとって、この4つは人生を豊かにし、後悔なく生きるうえで本当に大切なことではないかと思っています。
しかし、人生にはさまざまなことが起こります。病気をしたり、大きな失敗をしたり、人間関係で傷ついたりして、つい自分を否定したくなったり、新しいことに挑戦するのが怖くなったり、まわりの人を大切にできなくなったりすることもあるでしょう。
また、世界中を襲った新型コロナウイルスの感染拡大や、それに伴うさまざまな出来事により、人生の喜びや生きる意味を見出せなくなっている人が増えています。
2020年に行われた、人生の満足度に関する調査を見ると、「人生を楽しんでいない」と答えた人は約36%であり、3人に1人以上が「人生、生活に満足していない」と答えています。
さらに、コロナ禍以前に比べ、生活満足度が大幅に低下しており、特に生活の楽しさ・社会とのつながりといった分野で低下幅が大きいという調査結果が、内閣府より発表されています。この図表は、「まったく満足していない」を0点、「非常に満足している」を10点とし、満足度を数値化したものです。
私たちの人生は、ときとして自分以外のものに大きく影響され、なかなか思う通りにはいきません。その中でどうするか、それが一人ひとりの決断であり、人生でもあります。
■自分にとってなにが幸せなのか
この度上梓した『もしあと1年で人生が終わるとしたら?』は、2017年1月に刊行した『2800人を看取った医師が教える人生の意味が見つかるノート』を大幅に加筆・再編集したものです。
それから4年以上の月日がたちましたが、「人生の意味」について考えることの重要性は、さらに増しているように感じます。
コロナ禍もさることながら、今後、日本では少子高齢化がますます進み、医療者や病院、病床の不足が深刻化すると考えられます。生きることに困難を感じる場面も増えるかもしれません。
そうした中で、私たちがより良く生きていくためには、たとえどんな状況にあっても、自分を笑顔にしてくれるもの、自分を支えてくれるもの、つまり「自分にとって本当に大切なもの」に気づく必要があります。
そして、人生の意味を考えることは、自分にとって本当に大切なものに気づくことであり、自分にとって本当に大切なものこそが、私たちの人生に意味を与えてくれるのだと、私は思います。
ただ、元気に生きているとき、私たちはなかなか、その大切なものに気づくことができません。人生の終わりが近づいてきたとき、初めて、それが何であるかを知ることも多いのです。ですから、これからの人生を、少しでも悔いなく生きるために。より良く生きるために。ここであらためて、みなさんにおききします。もしあなたの人生があと1年しかないとしたら。あなたは何をしますか? あなたはどう生きますか?
■人生の最後を考えると、本当に大切なことに気づく
私は人生の最終段階の医療に携わることで、これまで、たくさんの方々と出会い、たくさんの方々をお見送りしてきました。病気になり、身体の自由がきかなくなったり、人生最後のときが近くなったりすることは、このうえなく大きな苦しみです。
しかし多くの人は、悩み、苦しみ、もがく中で、少しずつ自分の人生を振り返り、そこに意味や価値を見出すようになります。そうしたプロセスを経て、自分の人生を肯定できるようになったとき、人はようやく本当の強さ、心の穏やかさを手に入れることができるのです。
そしてこれは、死に直面している方に限ったことではありません。現在、何らかの苦しみや悩みを抱えている方も、人生の意味を模索し、自分なりの答えを導き出すことができれば、必ず、前を向いて生きていく力が得られるのではないかと、私は思っています。
「もしあと1年で人生が終わるとしたら?」と考えることは、自分にとって本当に大切なことに気づくことであり、苦しみや困難と向き合う力、人と支え合い助け合う力、苦しんでいる人を笑顔にする技術を育むことにもつながります。
この本がみなさんの、そして日本の、世界の将来を照らす、ささやかな光となることを、心から祈っています。
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医師
1963年東京生まれ。87年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。91年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、94年より横浜甦生病院ホスピス病棟に務め、病棟長となる。2006年めぐみ在宅クリニックを開院。これまでに3500人以上の患者さんを看取ってきた。医療者や介護士の人材育成のために、15年に一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会を設立。著書に『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』(アスコム)がある。
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(医師 小澤 竹俊)
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