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医療従事者のワクチン接種率が低いのに高齢者への接種を始める恐ろしいツケ

プレジデントオンライン / 2021年4月16日 19時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Inside Creative House

高齢者への新型コロナワクチン接種が4月12日から開始された。精神科医の和田秀樹氏は「国は、医療現場に即した対応ができていない。医師の接種率が極めて低く、コロナ患者対応の仕事を拒む医療従事者が多いため、患者増加ペースに追いつけない。また、副反応に関する調査分析も甘い。2回接種済の医師の中には38~39度の高熱を出す者が少なくなく、体力の衰えた高齢者の場合、亡くなるケースが出る恐れがある」と警鐘を鳴らす――。

■医師のワクチン接種率が低いのに「病床増やせ」と命じる愚

コロナウイルスの感染拡大が全然収まらない。大阪ではここへきて連日感染者が1000人を超えている。

4月5日から5月5日まで大阪市などが「まん延防止重点措置」の適用地域とされ、12日から東京都、京都府、沖縄県の16の市も追加で適用された。さらに愛知、神奈川、埼玉、千葉でも適用が了承された。

そんな中、高齢者へのワクチン接種が4月12日から開始されたわけだが、私は強い違和感を覚えた。

今回の「第4波」の感染拡大で最大の問題となっているのは、コロナ病床の占有率が非常に高いことだ。4月13日時点で沖縄では占有率100%を超え、大阪でも4月1日時点で42.9%だった重症病床の使用率は13日時点で95.1%に上昇した。

「大阪府は医療機関への要請を通じて増床を急いでいるが、医療現場では看護師らの確保は容易ではなく、患者の増加ペースに追いついていない」(毎日新聞4月14日付)

医療機関の中には看護師の応募がゼロだった病院もあるという。要するにスタッフが集められないから、増床がうまくいっていないのだ。コロナ対応の医療スタッフを集めるのに苦戦する最大の要因は、医療従事者へのワクチン接種の遅れがあると私は見ている。

■医療スタッフ集めの苦戦要因は、医療従事者へのワクチン接種の遅れ

私が現場の医師や看護師の声を聞くと、コロナ感染を恐れる人が少なくない。コロナが命を奪うような怖い病気と感じている人もいるが(若い世代ではそんなにいない印象)、それ以上に、感染が発覚した際の生活の制限や入院の困難、そして周囲の目やそれにまつわる風評被害的なものを恐れている人は多い。

もちろん、ワクチンを接種することで、重症化が防げたり、感染しにくくなったりすることは理解されており、ワクチン接種を希望しない医療関係者はあまりいない。

おそらくは、医療従事者がワクチン接種を受ければ、コロナ病棟での勤務を拒否する人はかなり減るだろう(多少の割り増し手当があるという条件で)。要するに病床の供給がかなり増え、医療のひっ迫はかなり収まる可能性もある。

ところが、医療従事者へのワクチン接種はまだ全然進んでいないのだ。

「新型コロナウイルスのワクチンの医療従事者などへの接種が始まってまもなく2カ月がたち、東京都内では、1回目の接種を終えた人は対象となる医療従事者などの16%余りです」(NHK「NEWS WEB」4月9日)

現実に私の勤務する川崎市の病院では、発熱外来も設け、コロナ患者に積極的に対応しているが、いまだに医師へのワクチン接種の日程が決まっていない。他の事例は、ワクチンを接種していない医療従事者がワクチンを高齢者に接種するという珍事も発生している。

■医療関係者480万人、入院患者120万人の接種を急げ

感染者が増え、病床のひっ迫が問題になっているにもかかわらず、医療従事者への接種を急がないというチグハグさはいかがなものか。あまりに現場の感覚やニーズと解離している。ワクチンの供給もしてないのに、「病床だけ増やせ」と命じているとしたら、それはもう独裁者同然であり、それに協力する者など現れるわけがない。

病床を有効に活用するためには、入院患者のワクチン接種も優先すべきだ。これが終わっていれば、コロナ感染患者を入院させても、これまでの入院患者の感染や重症化をおおむね防げるので、はるかにコロナ感染患者の受け入れが容易になる。

それによって家族の見舞いや付き添いも可能になるはずだ。実はこのメンタルの効果は大きく、入院患者の入院日数を減らすことでさらに病床に余裕が出る。

ところが、こんなに医療関係者のワクチン接種が遅れているのに、高齢者の接種は始まった。これは医療関係者の、とくにコロナに積極的に対応している医療関係者の士気にも影響を与えかねない。医療関係者480万人と入院患者120万人の接種を急ぐことのメリットは大きい。

■2回目のワクチン接種後、38度以上の高熱を出す医師が21%

一方で、ワクチン接種に関しては気になる話もある。早くも2回目の接種が終えた知人の医療関係者(2人の内科医と病院事務職員)は「副反応が意外に多い、とくに2回目の副反応が大きい」と言う。

一般的には、副反応としては筋肉痛などがよく知られているが、39度前後の熱が出ることもあるそうだ。発熱後1~2日で、ほとんどのケースは平熱に戻るようだが、2度目の接種の際は翌日が休みになるようなシフトを組む病院もあるという。私が直接聞いた複数の医療関係者によれば、10人に1人くらいの割合で39度クラスの高熱がでるとのことで、「特に2度目を受ける際は翌日何もない日にしたほうがいいよ」とアドバイスも受けた。

新型コロナワクチン投与開始初期の重点的調査(コホート調査)中間報告
「新型コロナワクチン投与開始初期の重点的調査(コホート調査)中間報告」(厚生労働省)

※編集部註:4月9日に発表された、ファイザー製のワクチンを接種した医療従事者約2万人を対象に実施した副反応調査「新型コロナワクチン投与開始初期の重点的調査(コホート調査)中間報告」(厚生労働省)では、1回目よりも2回目に発熱や全身倦怠感、頭痛の症状が出た人の割合が大きかった。発熱に関しては、2回目は37.5度以上の発熱が38.1%(1回目3.3%)で、そのうち38度以上は21%を占める。2回目接種後に37.5度以上の発熱が出たのは、20代で約50%ともっとも多かった。

39度の熱が高齢者に出た場合、その苦しさに耐えられず死亡するケースも出かねない。約3600万人いる高齢者のうち、仮に10%に39度の発熱がでるとすれば360万人である(5%で180万人、1%でも36万人)。体力のない人たちの多くが亡くなったり、入院したりするケースが相次ぐ恐れがある。

医療関係者にまず接種して、副反応の分析をきちんと行い、とくに高齢の医療関係者の動向を見てから、一般の高齢者の接種を始めたほうが安全なのは確かだろう。

■なぜ、医療の現場の声を聞かないままものごとを進めるのか

さて、この連載のテーマは「賢い人をバカにするもの」ということだが、今回は現場の声を聞かないという問題を提起したい。

ここまで述べてきたワクチン接種の混乱が生じた理由をひとことで言えば、役人やアドバイザーの感染症学者、ワクチン学者が現場の声に耳を傾けなかったために生じたものだ、と私は考えている。

なぜ、現場の声を聞かないのか。この傾向は今回のコロナ禍に限ったことではない。日本という国は、実績より肩書で人を判断することが多い。そして、そうした肩書人間が現場を無視して決めてしまい、失敗するケースが目立つのだ。

私は医師の傍ら、通信教育事業にも携わっている。そのため、これまで文部科学省が進めてきた教育政策の問題点を肌で感じている。

以前、PISA調査などの国際学力調査でトップクラスの常連だったフィンランドに視察に行ったことがある。同国のことを世界一の義務教育国と評する人もいる。視察の際、もっとも心に残ったのは、この国の国家教育委員会は3年以上の教員経験がないとそのメンバーになれないということだった。

■典型例は「ゆとり教育」現場無視の作った理論は失敗する

その点、日本は正反対だ。

小学生
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

日本には以前、東京教育大学という大学があった。この大学教授も半数は教員経験者だったと言われる。当時、教育現場をよく知る専門職の彼らが、文部科学省における小中高の学校教育関連の審議会メンバーとしてその場を仕切っていた。

審議会メンバーには、他にも、教員経験がある人がほとんどいない東京大学教育学部などの教授たちもいたが、議論で太刀打ちできなかった。結果的に言えば、東京教育大学の教授が国家の教育方針の土台作りをしていた1980年ごろまでは、日本の小中学生の数学力などは世界でトップだった。

しかし、どういうわけか、この大学は廃校となり、筑波大学に改組された(廃校は、東大教授と東大OB文部官僚の陰謀ではないかとの説もある)。

その後、教員経験のない東大教授たちが教育の世界で主導権を握り始め、進めたと言われるのが、あの悪名高い「ゆとり教育」だ。必修科目の単位数を減らして休みを増やし、子どもがゆとりある生活をすることを目指す改革で、知識暗記中心の授業を改めて、体験型学習を導入したことなどが特徴だ。

授業料や学習量の削減が学力低下を生んだことで、結局、失敗と総括されて方針転換を余儀なくされたが、「総合的学習の時間」「観点別評価」は今も残っている。

観点的評価は、内申書(調査書)におけるペーパーテスト学力の比率を下げ、教師の主観でつける意欲・態度などの比率が75%という高率の採点方式。この採点方式は、なるべく不公平がないようにと努める教員にかなりの心理的負担になるだけでなく、それを生徒の贔屓や管理に使う悪い教員の武器になっているところがある。それにより生徒も常に教師の目を気にしないといけなくなった。この制度が導入された1993年以降、生徒間暴力、校内暴力、不登校、そして生徒の自殺も増加傾向を続けているのは、そうしたストレスが要因になっていると指摘する人もいる。

教育学者たちの理論では、ゆとり教育や総合的学習、そして観点別評価が生徒の意欲や創造性、生きる力を伸ばすことになっていたが、実際にはアジアの高学力の国のほうが、起業や創造的な新製品の開発、そしてインパクトファクターの高い雑誌への論文掲載数が多い。

そろそろ現場の声を真摯に聞かないと、日本の競争力は落ちっぱなしになるだろう。

■「30年不況」は経済ブレーンの理論偏重、大衆軽視の姿勢が原因

医療の世界でも、高齢の患者ほど臓器別・データ至上主義の大学医学部の教授たちの推奨する医療では機能しことが多い。臨床(患者)ではなく、頭でっかちな理論重視で決めた治療法ではかえって健康状態を損なうことが地域医療を行う医師の間で問題になっている。

ワクチンと注射器
写真=iStock.com/turk_stock_photographer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/turk_stock_photographer

現実に起こっていることを知り、現場の声を聞かないとどうなるか。

いくら高学歴の人が、どんなに素晴らしい研究をして、膨大な量の書籍を読み込んでも、その場に対応したプラグマティック(実利的・実際的)な答えを出すことはできない。

門外漢だが、日本のバブル崩壊以降の「30年不況」の背景には、日本の経済ブレーンたちの理論偏重、大衆の心理軽視があるように思えてならない。

一流の経営者は、あえて運転手を使わず電車の中の声を一生懸命聞くことがあるといった話を聞くが、高度の経営判断をするには、やはり自分で現場を見て、現場の人に聞くことが重要だということではないだろうか。

冒頭に述べたワクチンの話でも、医療のひっ迫だけを問題にしたり、感染予防だけに重点を置いたりするのでなく、より多くの医師がコロナ治療に関われるような環境づくりをするなどより現場に即した対処・施策をするべきだろう。

読者の方におかれましては、くれぐれも賢い人がバカにならないために、現場の声に耳を傾けるという姿勢を忘れないでほしい。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

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