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本当に「まん防」が機能するなら、「緊急事態宣言」なんて必要ないはずだ

プレジデントオンライン / 2021年4月19日 18時15分

新型コロナウイルスの専門家らによる基本的対処方針分科会を終え、記者団の取材に応じる西村康稔経済再生担当相(右)=2021年4月16日午前、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■変異株の主流は「N501Y」と呼ばれるイギリス由来のウイルス

新型コロナウイルスの感染が急拡大している。すでに多くの専門家が「第4波に入った」とみなしている。とくに大阪府では1日あたりの新規感染者数が連日、1000人を超え、重症患者の病床使用率が9割以上となった。その結果、一般の診療に悪影響が出ている。

ひとつの原因はウイルスの変異だ。主流の変異ウイルスは「N501Y」と呼ばれる。イギリス由来の変異株で、ウイルス表面のスパイク(突起)に存在する501番目のアミノ酸(タンパク質を構成する物質)が従来タイプのN(アスパラギン)からY(チロシン)に置き換わっていることからこの呼び名が付いた。

感染力が強く、その分、発症から重症化までのスピードが速いといわれる。これまでのウイルスとは異なり、若年層でも重症化する可能性も指摘される。すでに全国各地に広がり、5月には既存のウイルス株が追い出されて消え、このN501Yに入れ替わるという。

私たちは変異する新型コロナにどう対応していけばいいのだろうか。

■4種類のコロナウイルスは人間の世界に定着し、人間と共存している

人に感染するコロナウイルスには7種類ある。新型コロナやSARS(サーズ)、MERS(マーズ)の3種類のほか、通常の「風邪」の病原体として私たちの身近にも4種類ある。

冬場、私たちはこの4種類のコロナウイルスに感染して咳をしたり、発熱したりする。ときには肺炎を引き起こすなど重症化することもあがるが、大半は私たち自身の免疫(抵抗力)でカバーでき、自然と治る。4種類のコロナウイルスは人間の世界に定着し、人間と共存している。

一方、重症急性呼吸器症候群のSARSは2002年から03年にかけ、東南アジアを中心に流行した。感染したときの症状は、肺炎を引き起こすなど比較的はっきりしていて患者・感染者を特定しやすく、防疫がしやすかった。このため8096人の感染者を出し、うち774人が死亡したものの(致死率9.6%)、駆逐には成功し、SARSは人間界からこつぜんとその姿を消した。

中東呼吸器症候群のMERSは、2012年からサウジアラビアやアラブ首長国連邦など一部の地域で感染を繰り返している。ヒトコブラクダが宿主とみられ、致死率は35%とかなり高く、注意が必要だ。

■新型コロナは4種類のコロナウイルスと同じよう人間界に定着する

新型コロナはSARSやMERSに比べて致死率がかなり低い。これまでの症例分析によると、感染しても8割以上の人が無症状あるいは軽症で治癒することが分かっている。変異株もこの特徴は変わらないとみられる。

新型コロナウイスの性質は4種類の風邪のコロナウイルスに近く、遺伝子的にも類似している。変異を繰り返しながら人間の世界に定着し、最終的には4種類のコロナウイルスと同じような風邪のウイルスになっていくと考えられる。

SARS-CoV-2の構造
写真=iStock.com/koto_feja
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/koto_feja

変異はコロナウイルスのようなRNAウイルスに付きものだ。いたるところでさまざまな変異を繰り返し、環境に適合したタイプが生き残り、適合しないものは死滅している。変異した後に自然淘汰され、より人に感染しやすくなったものが子孫を増やしていく。毒性は、感染しやすくなればなるほど弱まる。病原性が強いままでは人間界に残存しづらいからである。

■短期的には不要不急の外出を止め、手洗いやマスク着用の励行を継続

新型コロナの駆逐や封じ込めはもはや不可能だ。ワクチン接種によって発症や重症化は防げるだろうが、感染そのものを防ぐことは難しい。ならばどう対応すればいいのか。

短期的には、ワクチンが行き渡るまで不要不急の外出は避けたい。ワクチンは変異ウイルスにも一定の効果がある。3密(密集、密接、密閉)も回避する。手洗いやマスクの着用も励行する。規則正しい健康的な生活を続けることも大切だ。緊急事態宣言の再々発令も検討するべきだし、特効薬の開発を推し進める必要もある。

感染拡大は食い止めなければいけない。感染爆発が起これば、多くの健康弱者が犠牲になる。感染の山のピークをできる限り低くする必要がある。

■感染症に対しても「正当に怖がる」ことが求められる

ただし、ずっと外出を避けるわけにはいかない。長期的にはどうすべきか。ワクチンの接種を継続し、感染をコントロールしながら新型コロナと共存していくことを考えるべきである。決して新型コロナと戦おうなどと考えてはならない。

明治から昭和初期にかけて活躍した物理学者の寺田寅彦は、「小爆発2件」という浅間山の噴火についての随筆で、こう書いている。

「ものを怖がらな過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなか難しい」

感染症に対しても「正当に怖がる」ことが求められる。正しい知識に基づいて新型コロナをコントロールしながら共存していくことが必要なのである。

■産経社説は「政府は戦いの前面に立て」と主張する

4月17日付の産経新聞の社説(主張)は「危機に際しての施策の要諦は『着手は果断に、撤退は慎重に』であるはずだ。政府や自治体の新型コロナウイルス対策はこれに逆行しているように映る。その結果が、現在の『第4波』だ」と書き出し、こう訴える。

「反省を生かしてなんとかこれ以上の感染蔓延を押さえ込んでほしい」

書き出しから強く皮肉ったものである。政権擁護のスタンスを好む保守の産経社説にしては、「要諦」という小難しい言葉を持ち出し、「逆行」と言い切るところなどかなり手厳しい。

傍から見ると、産機社説は危機感を煽っていないか。

産経社説はさらに皮肉る。

「政府が『蔓延防止等重点措置』の適用対象に、埼玉、千葉、神奈川、愛知の4県を追加した。期間は20日から5月11日までとした。これまでは金曜の決定、翌週月曜からの実施だったが、20日の火曜となったのはなぜか」
「各県議会への説明を要するというなら、地方政治の怠慢である。ウイルスは政治日程など考慮しない。待ってもくれない」

見出しも「蔓延防止4県追加 政府は戦いの前面に立て」である。

たぶん産経社説が指摘するように政府は政治日程を考慮したのだろう。それにしても産経社説の見出しにある「戦い」はまずい。繰り返すが、新型コロナと戦うのではなく、コントロールしながら共存することが重要のである。産経社説は感染症対策について誤解している。

■「『第4波』到来は予想外だったとは言えまい」と読売社説

4月16日付の読売新聞の社説は「コロナ『第4波』 自粛を促すだけでは不十分だ」との見出しを掲げ、こう指摘する。

「3月21日に緊急事態宣言を全面解除した時点でも、感染は十分に収まっておらず、リバウンドは避けられないと危惧する声があった。新年度を控えて人の移動が増える以上、早期の『第4波』到来は予想外だったとは言えまい」
「感染集団の発生は、飲食店だけでなく、職場や高齢者施設、学校にも広がっている。このところ、重点措置が適用された地域でも人出は大きく減っていない」

「第4波は予想外でない」「人出が減らない」「自粛だけでは足りない」と産経社説と同様に読売社説も政府に手厳しく当たる。

読売社説は「このまま感染拡大に歯止めがかからなければ、再度の緊急事態宣言発令も視野に入れなければならないのではないか」と緊急事態宣言も求める。

そもそも蔓延防止等重点措置と緊急事態宣言とはどこがどう違うのか。蔓延防止等重点措置の方は、都道府県内の特定地域に限って防疫の網をかけられるというが、沙鴎一歩の目には同じものに映り、屋上屋を架したものにすぎないと思う。政府や行政は昔から「屋上屋」が好きなのだ。

■朝日社説は「吉村洋文知事の責任は重い」とまで批判する

4月16日付の朝日新聞の社説はその中盤で「大阪が短期間でこれほどの窮地に陥った原因のひとつに、感染力が強いとされる英国型変異株の拡大があるようだ」と指摘し、こう書く。

「結果として、このような事態を招いた吉村洋文知事の責任は重い。昨年秋以降の第3波のときにも深刻な医療危機に直面しながら、その後どこまで有効な手立てを講じてきたか。追って検証が必要となろう」

「知事の責任は重い」とまで糾弾するところに行政批判が好きな朝日社説らしさがにじみ出ている。問題はこうした行政批判が社会の不安を煽ることにつながることだ。新聞社説はその点を十分に考慮して筆を進めてほしい。

朝日社説は政府にも「菅首相の認識と対応にも大きな疑問符がつく」とその矛先を向け、こう指摘する。

「14日の参院本会議で首相は『全国的な大きなうねりとまではなっていない』と述べ、第4波到来との見方に否定的な考えを示した。ところが15日になって、政府は首都圏3県と愛知県に新たに『まん延防止等重点措置』を適用する方針を決めた」
「国民が戸惑い、不安を感じないか。訪米、さらには東京五輪開催に影響が出ないよう、状況をことさら小さく見せようとしているのではないか。そんな疑いすら浮かぶ」

こうした朝日社説の指摘はさほど外れてはいないと思う。だがメディアが行政や政府の感染防止策を批判すればするほど、私たち読者の不安感や危機感は増す。やみくもな批判ほど怖いものはない。

新型コロナは変異を繰り返しながら今後ますます、人の社会に入り込んでくる。前述したように、そんな感染症には戦って駆逐や封じ込めをしようとするのではなく、コントロールと共存が必要であることを忘れてはならない。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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