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「ノルマなし、目標なし、飛び込みなし」浅草かっぱ橋の老舗が挑んだ営業の革命

プレジデントオンライン / 2021年4月26日 9時15分

「飯田屋」6代目店主の飯田結太さん - 撮影=小林久井

営業に「ノルマ」は必須なのか。東京・かっぱ橋の老舗料理道具専門店「飯田屋」の6代目・飯田結太さんは「うちにはノルマも目標も飛び込み営業もありません。社員には『売るな』と言っています。そのほうがお客様の満足度が高まり、売上も増えます」という──。

※本稿は、飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「売上を気にするな」だけで数字の呪縛は解けない

心からお客様を大切にするには、まず数字の呪縛から逃れなければなりません。「売上を気にするな」と伝えるだけでは、人は数字の呪縛から自由になれないのです。

そこで思い切って、「ノルマや売上目標といった数字の管理を今後一切廃止する」と従業員に伝えました。ノルマによる売上達成ではなく、笑顔による売上向上を目指そうと決意しました。

逆説的ですが、従業員たちが目の前のお客様の笑顔だけを大切にして販売できたなら、数字の管理などなくても売上は上がっていきます。従業員が店の都合をまったく気にせず、来てくれたお客様の満足だけを考えてくれる店があったら、僕なら必ずその店のファンになると思ったのです。

■ノルマをつくると「お客様」が見えなくなる

ノルマは靄のかかったサングラスのようなものかもしれません。初めは見えにくさを感じても、いずれは慣れていきます。そして、お客様をノルマを通して判断するようになってしまいます。

それが怖いのです。

とはいえ、売上がなければ経営は成り立ちません。売上が伸び悩んだときは、「ノルマをつくったほうがいいのではないか?」と不安に思う自分もいました。それでも、やせ我慢をしてでも従業員たちを信じる道を選びました。

従業員たちがノルマによる販売ではなく、お客様が抱くニーズの本質を探して販売してくれれば、お客様の満足度は高まります。そうすれば、飯田屋を信頼してくださるお客様が増えるはずです。

そうした評判が評判を呼び、お客様が飯田屋を信じて何度もご来店いただけて、愛してくださる商いを目指します。どんな繁盛店も、一人ひとりのお客様が何度も来てくれる積み重ねなしに生まれるはずはありませんから。

だから僕は、従業員たちに自信を持って「売るな」と言っています。目の前のお客様の話をしっかり聞き、何がその人にとって必要なものかを理解し、道具を「つなぎあわせてほしい」と伝えています。

■ノルマがなくても、従業員は誰一人サボらない

そういうわけで、飯田屋にノルマはありません。

「ノルマがなければ、人はサボる」と、親切に僕に教えてくれた方がいました。いいえ、飯田屋の従業員は誰一人サボりません。

売上の数字で縛らなくても、目の前のお客様を大切にすれば繁盛は訪れます。この「目の前のお客様を大切にする」という“当たり前”は、文字どおりの意味ばかりでなく、一緒に働く従業員を誰よりも信頼するという僕の決意でもあるのです。

ですから、飯田屋にはノルマばかりか「売上目標」もなければ、「飛び込み営業」も行いません。数字に追いかけ回される経営をすべてやめ、「3ない営業」に徹しています。

「個人のノルマをなくすのはわかったけれど、会社としての経営目標はあるでしょう?」という質問をよくされます。それも答えは「ありません」です。

経営目標があったら、従業員を数字で判断してしまうかもしれないからです。それでは意味がありません。決めたからには、どこまでも徹底的に行うことが肝心です。

■「3ない営業」で売上と満足度が上がっているのは事実

もちろん、以前は多くの企業と同じように売上目標があり、飛び込み営業もしていました。この業界では、飛び込み営業による外売りが売上の大半を占める会社が少なくありません。飯田屋でも店にお客様が来なかったころ、飛び込み営業専門の営業会社にしたらどうかと考えたときもありました。

外売りで選ばれるためには、圧倒的な安さが必要です。「もっと、いいものないの?」の問いは「もっと、安いものないの?」を意味していました。商品の品質よりも、安さを求められるお客様が多いのです。

飯田屋では数字の管理をなくし、「売るな」の営業方針を決めたときから、安さだけで勝負をする商売から卒業しました。今では外売りは0%です。

その代わり、お客様にわざわざ飯田屋まで買いに行きたいと思ってもらえるような品揃えと、お客様に寄り添った接客に努めています。安さで選んでもらうのではなく、飯田屋でなければ味わえない体験でお客様を惹きつけるためです。

飯田屋ならではの体験で顧客を惹きつける
撮影=小林久井
飯田屋ならではの体験で顧客を惹きつける - 撮影=小林久井

一般的に、企業経営には数値計画に基づいた事業計画が不可欠とされます。飯田屋ではそれらを一切なくしたのですから「無謀な経営」と言われても仕方ありません。「計画性がない」「改善点が明確化されない」「利益の分配が計れない」などと揶揄(やゆ)もされます。

しかし、「3ない営業」によって売上とお客様の満足度が上がっているのは、まぎれもない事実です。今の僕たちには最適な営業方針なのです。

■「1人のニーズ」は他のお客様のニーズにつながる

世の優秀なバイヤーたちからは、「お客様の声を鵜呑みにするのは危険だ」「飯田屋さんの仕入れは挑戦的だ」と言われます。たしかに売れ筋を狙うための仕入れならば危険かもしれません。

でも、僕たちは違います。

10万人のうち1人でも歓喜してくれる商品を仕入れられればいいのです。1人のお客様のニーズは、必ずほかのお客様のニーズにもつながります。

「飯田屋」の店内。包丁を解説するPOPが並ぶ
撮影=小林久井
「飯田屋」の店内。包丁を解説するPOPが並ぶ - 撮影=小林久井

次世代に受け継げるような耐久性のあるフライパンをつくりたいと思ったのも、お客様の声がきっかけでした。親が使っていた包丁を刃が削れて小さくなるまで使っているという話を耳にしたことはありますが、ほかの料理道具で世代を超えて受け継ぎ使い続けていると聞く道具はあまりありませんでした。鍋を受け継いだという人の話をまれに耳にしましたが、フライパンでは一度もありません。

フッ素加工を施した家庭用の一般的なフライパンは、耐用年数がせいぜい1、2年。「錆びない」「変形しない」「焦げつかない」「受け継げる」という四つの要素を兼ね備えたフライパンが、ありそうで見つからないのです。

■5年の歳月をかけて完成させた「理想のフライパン」

それならば「理想のフライパンをつくればいい!」と考えました。

世代を超えて使える100年もののフライパンをつくることはできないものだろうか。そこで新潟県燕市のフジノスさんとタッグを組み、5年の歳月をかけて完成したのが「エバーグリル」です。

飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)
飯田結太『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)

エバーグリルは圧倒的なブレイクを果たしました。生産が追いつかないほどの大ヒット商品となったのです。

お客様の求めるニーズは、驚くほどさまざまです。ですから、これだけ集めたらご満足いただけるというゴールや終着点はありません。

だからこそ、「お客様の声を聞くことがいかに大切か」は、いつも飯田屋のみんなで共有しているテーマなのです。

もっと、もっと、いい道具があるのかもしれません。貪欲に探求することはこれまでも、そしてこれからも変わらぬ飯田屋の姿勢です。

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飯田 結太(いいだ・ゆうた)
飯田屋6代目
大正元年(1912年)に東京・かっぱ橋で創業の老舗料理道具専門店「飯田屋」6代目。料理道具をこよなく愛する料理道具の申し子。TBS「マツコの知らない世界」やNHK「あさイチ」、日本テレビ「ヒルナンデス! 」など多数のメディアで道具を伝える料理道具の伝道師としても活躍。自身が仕入れを行う道具は必ず前もって使ってみるという絶対的なポリシーを持ち、日々世界中の料理人を喜ばせるために活動している。監修書に『人生が変わる料理道具』(枻出版社)。2018年、東京商工会議所「第16回 勇気ある経営大賞」優秀賞受賞。

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(飯田屋6代目 飯田 結太)

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