「伝説はここから始まった」目立たなかった少年・松本秀人が"X JAPANのhide"になるまで
プレジデントオンライン / 2021年5月1日 11時15分
※本稿は、大島暁美(監修)『hide word FILE』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
※ X JAPANのギタリストとしては“HIDE”、ソロアーティストとしては“hide”と正式表記しますが、本記事につきましては『hide』で統一表記しています。
■ぽっちゃり体型の少年時代
hideは幼いころの思い出を聞かれると、決まって「太っていたことしか覚えていない」と答えるほど、ぽっちゃり体型の男の子だった。
母が料理上手で松本家の食事はいつも量が多かったことから、一家は揃って太めの体型。家では母が愛情を込めてつくった美味しい料理をたくさん食べられて幸せなのだが、学校に行くとそうとばかり言ってはいられない。
ある日、給食の後にhideが教室で過ごしていると、校内アナウンスで校庭に呼び出された。クラスメイトに注目されてちょっと鼻高で校庭に行ってみると、呼び出されたのは肥満児ばかり。
「肥満は身体に悪いから、これからグラウンドをマラソンしなさい!」と体育教師に言われ、全校生徒が窓から見守るなか、校庭を走らされたのは、とても恥ずかしい経験だった。
また、美術の教師はhideの名前を覚えず、いつも「おい、そこの太った奴」としか呼んでくれない。逆上がりもできない、跳び箱も飛べない、マラソンはビリばかり。そんな屈辱的なことがありながらも、体育以外の科目の成績は常にクラスのトップテンに入っていた。それは、hideが「頭の悪い子と言われるのが嫌」と思っていたからである。
ガリ勉に見えるのはカッコ悪いので普段はそんなに勉強しないものの、試験前の気合いと集中力は凄まじく、試験の結果は大概満足のいく点数になった。
「負けず嫌いで、やろうと思ったことは必ず成し遂げる」というロックスターhideの片鱗が垣間見れる子ども時代のエピソードである。
■突然やって来たロックとの出会い
出会いは、突然やって来た──。
hideの運命を変えたバンド・KISSとの出会い。それは、彼が中学校2年生のときだった。それまで音楽といえば、テレビの歌番組を見るくらいだったのだが、友だちがカセットテープにダビングしてくれたKISSのアルバムが彼の世界を一変させた。
KISSは当時大人気のアメリカのバンドだが、最初に毒々しいメイクと鎧のような衣装のポスターをレコード店で見たとき、hideは「気持ち悪い」と思っていた。しかし、友だちがくれたカセットテープから再生されたのは、サウンドはハードなのに、メロディはとてもキャッチーな曲ばかり。
hideは、一瞬にしてKISSの音楽の虜になった。レコードやビデオはもちろん、KISSの記事が載っている音楽誌も片っ端から買い集めた。そして、とうとうファンクラブにも入会した。
ロックに夢中になっていく息子を心配していた両親に対し、応援してくれたのが横須賀で美容院を経営していた祖母だった。背が高く、普段からインドの民族衣装であるサリーを身にまとうなど個性的なファッション感覚を持っていた祖母はhideの良き理解者で、レコードを買うためのおこづかいもよくくれた。
hideがXのデビュー当時に着ていた衣装は祖母が着ていたサリーで、彼のヴィジュアルに関する斬新なセンスは祖母の影響によるところが大きかった。
■ニックネームは「ギブソン」
ロックの魅力に取り憑かれたhideが次に考えたのは、ギターを手に入れること。基地の街・横須賀でお店をやっている祖母には知り合いが多いことから、欲しいギターのリストを書いて祖母に渡しておいた。
するとほどなくして、祖母から「あなたが欲しがっているギターがあるみたいよ」と連絡があり、見に行くとそこにあったのはギブソン・レスポール・デラックス。リストのなかで一番高価なギターだったので、hideが飛び上がってよろこんだのは言うまでもない。
祖母からギターをプレゼントされたhideは、スーパーギタリストの道をまっしぐら……とはならず、ギターは手に入れたものの練習方法がよくわからず、家で『明星』の歌本を見ながらコードをガシャガシャ弾いているだけの日々を送る。
しかし、中学校3年生の少年がギブソンを持っているというので、hideには「ギブソン」というニックネームがつき、隣町からも「ギターを見せてくれ」と顔も知らない人々が次々と家にやって来る。
だが、hideはコードしか弾けないことがバレるのが恥ずかしく、「弾いてくれ」と言わないでと、いつも心のなかで祈っていた。
■伝説のバンド「サーベルタイガー」を結成
中学校2年生まではそこそこの成績をとっていたhideだが、ギターを手に入れてからは暇さえあればギターを弾いていたかったので、推薦試験で入れる高校に進学することにした。
しかし、試験当日にその高校が男子校で、さらに「エレキ禁止」だということを知って大ショック。「高校生になったらバンドを組む」という夢を持っていたhideは、その夢を学校ではなく、校外で実現させることになる。
その場所は、横須賀のアメリカ兵が集う繁華街ドブ板通り。「危険だから、近づいてはいけない」と言われている場所にあるライブハウスに入り浸り、そこで出会った年の近い少年たちと初めて高校の文化祭でバンド演奏をした。
そのバンドこそ、hideがX加入以前に活動していた唯一のバンド、サーベルタイガーである。
このころから、hideの体型に変化が現れはじめた。昼食代にもらったお金をレコード代やドブ板通りで遊ぶために使っていたことで、徐々に体重が減ってきたのである。「ロックスターはスリムでなくてはいけない」と信じていたhideは、この変化を「ラッキー」と捉え、さらに意図的に食事を抜くようになった。
バンドの初ライブが決まったときには、ひと回り小さいサイズの衣装を買ってそれを部屋の壁に飾り、「絶対にこの衣装を着て、ステージに立つ!」と毎日心に誓っていた。その結果、2カ月で20キロ近くのダイエットに成功し、自身の理想とするロックスターのスタイルに近づくことができたのだった。
■バンドが生活のすべて
もともとhideはサーベルタイガーには誘われて加入したのだが、オリジナル曲をつくっていたため、いつの間にかリーダーになっていた。ライブの日程を決めて、チラシを手づくりして、お金の計算もする。
サーベルタイガーは、hideの生活すべてになっていた。高校卒業後に美容学校に進学して美容師として祖母の美容室で働いていたのも、すべてバンド優先の生活をしたかったからである。
サーベルタイガーの観客動員数は着実に増加して、横須賀のみならず東京や横浜でもライブをやるようになっていた。彼らの派手な衣装と過激なパフォーマンスは、どこのライヴハウスでも注目の的。しかし、バンドのメンバーは流動的で、hideはいつもメンバー探しに苦労していた。
そして、のちにD'ERLANGERとしてデビューするkyo(Vo)とTetsu(Dr)をメンバーに迎えたときは、「これ以上のメンバーは考えられない。このメンバーがひとりでも欠けたら、サーベルタイガーは解散する」とまで宣言した。
■YOSHIKIへの一本の電話…X加入を決意した経緯
このころ、hideは知人に誘われてXのライブを観に行き、YOSHIKIとToshlと知り合っている。当時、Xも過激なバンドとして、東京のライブハウスシーンで人気が急上昇していた。
じつはXもメンバーチェンジが多いバンドで、このとき、YOSHIKIもhideも、お互いに相手を自分のバンドに誘おうと思っていた。それは実現しなかったが、メンバーが流動的なバンドのリーダーという同じ立場のふたりは、バンドの悩みを電話で相談し合ったり、お互いのバンドの打ち上げに参加したりして交流を深めていく。
理想のメンバーが揃ったと思い、hideがサーベルタイガーの活動に全身全霊を捧げて1年。残念なことに、またしてもメンバーが脱退してしまう。このとき絶望したhideは、サーベルタイガー解散と同時に、自身のミュージシャンとしてのキャリアにも終止符を打つ決意をした。
しかし、「オレ、音楽をやめて美容師になるよ」とYOSHIKIに電話をした際、話の流れでXのリハーサルスタジオに遊びに行くことになり、そこで音楽への情熱を消し去れないことを思い知らされてしまう。
そしてhideは、Xにギタリストとして加入することを決意した。
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音楽ライター
明治学院大学経済学部卒業。ラジオ・テレビのレポーターを経て、フリーランスのライターに転身。80年代から日本のロックを中心に数多くの記事を執筆する一方、少女小説、漫画の原作、バンドやイベントのプロデュースと、活動は多岐に渡る。hideとはインディーズ時代から公私ともに親交があり、多くのインタビューやレポの他、hideと仲間たちの交流を綴った記事も雑誌に連載していた。『泣きたいくらいに抱きしめて』(講談社ティーンズハート)、『hide BIBLE』(音楽専科社)、『Never ending dream hide history』(KADOKAWA)他、著書多数。猫好きが高じて、猫イベント「にゃんだらけ」を主催している。
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(音楽ライター 大島 暁美)
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