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「明日から出社しなくていい」会社にそう言われたとき絶対にやってはいけないこと

プレジデントオンライン / 2021年4月26日 11時15分

『おっさんず六法』より - イラスト=髙栁浩太郎

会社から「明日から出社しなくていい」と言われたら、どうすればいいか。フリーライターの松沢直樹氏は「会社から退職届などの書類提出を求められるが、サインしてはいけない。ほとんどのリストラは法的には違法だ」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、松沢直樹、山岸純(監修)『おっさんず六法』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■業績不振を理由に従業員を強制的に解雇することはできない

この法律で身を守れ!
【労働基準法第20条】
社員をクビにする場合、30日前に予告するか、予告を行わない場合は解雇予告手当を払わなければならない
【労働契約法第16条】
解雇の濫用を防止する法律。誰が見てもやむをえないと考えられる場合を除いて解雇は無効とする

──まさか、オレがリストラのターゲットにされるとは。それなりの結果は出しているのに、倉庫へ異動させられ、さらに「たいした仕事をしていないから減給する」とか言われる始末。いっそ辞めてしまいたいが、家族がいるから仕事を失うわけにもいかない。オレは一体、どうなっちゃうの……?

これは、とある業績不振の大企業で実際にあった話である。結論からいうと、もちろん違法。会社はあなたをクビにできない。法律では、次のように規定されている。

・労働基準法第20条
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

つまり、会社が社員を解雇できるのは社員が犯罪を犯して有罪判決を受けるなど、解雇に相当することをやってしまった場合ぐらい。あるいは東日本大震災のような大規模災害などで、今の状態では事業の継続はとても不可能といった特殊な事情下にあるときぐらいである。それ以外は、きわめて厳密な法律の縛りがあるのだ。

■会社が出してきた書類には絶対にサインしてはいけない

でも上記第20条に従えば、30日前に解雇すると告げさえすれば、会社は自由にクビを切ることができるのでは? そこには、別に縛りがあるのだ。次のような規制がある。

・労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり大災害で会社の継続ができなくなった場合や、倒産のとき、あるいはあなたが犯罪を犯したときのように、誰が見ても「それじゃ解雇も仕方ないよね」というような理由がなければ、解雇はできない──。つまり社員の解雇はきわめて難しいのだ。

にもかかわらず多くの人が「リストラされた」と口にするのは、会社が不当に解雇したことに対して異議を唱えないか、法律を知らないままに、退職に同意する用紙に署名したりしたからだ。

実際のところ、「このまま解雇されると退職金がもらえなくなるが、退職に同意してもらえれば退職金はもらえる」などとデタラメで言いくるめ、社員を自発的な退職に追い込む会社はめずらしくない。

だから会社からクビをちらつかされたら、会社側からの書類には絶対にサインしてはいけない。嫌がらせをされるようなら、記録をとっておき、弁護士や労働基準監督署に会社側を処罰できないか相談すべきだ。

日本人男性ビジネスマン
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

会社に残る場合は、嫌がらせを継続的に阻止する必要がある。こうした場合には労働組合を頼ろう。労働組合には団体交渉権といって、会社側の代表を話し合いの席に強制的につかせる権利が与えられている。

えてして退職に追い込むために嫌がらせを実行する会社は、社内に労働組合がないことが多い。全労や全労連など、外部の交渉力に長けた労働組合に参加するのがベストだろう。

■「クビにするならやってみろ!」という心構えが大切

いかに社員をクビにするのが難しいか、おわかりいただけただろうか? 極端なことを言ってしまえば、「クビにするならやってみろ!」というくらいの心構でいて差し支えないのだ。

仮に合法的にクビにされても、会社都合での解雇なら、すぐに雇用保険が支給される。自発的に退職した場合、雇用保険は、退職後3カ月から支給となるから、会社側からの退職勧奨に応じるメリットはない。

働く人は、実は法律で手厚く守られている。にもかかわらず法律を知らなかったり冷静な判断を保てなかったりすると、会社側の策略にはまって退職に同意してしまうことがありうる。

退職に同意しなくても、働くうえでデメリットは生じないし、あとで詳しく説明するパワハラ防止法をはじめとした法律で会社からの嫌がらせを止めさせることだってできるのだ。慎重に会社と交渉してほしい。

もちろん、弁護士や労働基準監督署、外部の労働組合に必要に応じて助けを求めることも大事だ。特に法律を守る意識がない幹部が多い場合、長期戦になることが多い。

仲間を味方につける方法としては外部の労働組合に加盟する方法が手軽だが、同じように解雇トラブルに巻き込まれている社員どうしで労働組合を結成し、会社と対抗するという方法もある。

ここがPOINT!
・会社は簡単にクビにはできない
・会社は巧妙に退職を勧めてくる。応じてはならない。特に書類を渡されたらワナだと思え
・会社からの嫌がらせは、パワハラ防止法ほかで対処できることが多い。弁護士や労働基準監督署へ
・長期戦に備えて、労働組合に加盟するか、同じような社員どうしで労働組合を結成するのがベスト

■会社と戦うために必要な3つの証拠

──上層部は退職届にサインをしろとしか言わない。そして、ついに会社から「明日からオマエの席はないから出社しなくていい」とクビとの通告が。会社がここまで強気ということは、勝算があるのでは? 本当にクビを回避できるの……?

すでに説明したが、会社が解雇を合法的に行えるのは、業績不振で会社が倒産しかけているなど、誰が見てもやむをえない場合だけだ。

かくいう私自身、労働組合にいた当時、トラブルに巻き込まれた仲間のサポートに回った経験が何度もある。だが、合法と判断されるリストラは数えるほどしか見たことがない。つまり、一時的な業績不振に焦った会社が短絡的にリストラに走っている場合がほとんどなのだ。

まずは自分が会社からされていることを、きちんと記録しよう。会社は第三者からすれば密室だ。あなたの言い分が正しくても、証拠がなければ会社の違法行為を追及することはできない。

具体的には、以下のようなものを収集しよう。

・上司から解雇を迫られた際の録音データ
・会社側から渡された書類(コピーや、スマホで撮った写真でもよい)
・上司とのやりとりの記録(何月何日、何を言われたかをできるだけ詳細に記録しておく)

ここまで証拠資料をそろえておけば、完璧だ。

ボイスレコーダー
写真=iStock.com/naotake
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/naotake

実際に会社と戦うには、3つの方法がある。①弁護士に相談する、②労働基準監督署に通報する、③労働組合に加盟して戦うの3つである。

■「弁護士」「労働基準監督署」「労働組合」を上手に使いこなそう

解雇トラブルに限らず、会社でなにがしかのトラブルに巻き込まれたとき、弁護士・労働基準監督署・労働組合のいずれかに相談すれば解決に向かう。だが、やはりそれぞれメリットとデメリットがある。

①最強だがコスト高の「弁護士」

弁護士は基本的にどのような問題でも介入できる。だから、労働法に強い弁護士に相談するのがベストであるのは間違いない。デメリットは法律相談や具体的に対処してもらうためには費用がかかるところ。最初から最後まで面倒を見てもらうなら、80万円程度はかかると思っておいたほうがいい。

②無料だが時間がかかる「労働基準監督署」

労働基準監督署は、労働問題の警察官としての権利も与えられている。法律に違反している行為が発生している場合は、会社に対してにらみをきかせることができる。もちろん無料。デメリットは労働基準監督官は慢性的な人手不足で、援助を申し出ても時間がかかることが多い。

③無料だがはずれもある「労働組合」

労働組合は日本国憲法第28条で権利を保障された団体で、会社の代表を話し合いの席につかせたり(団体交渉権という)、会社の仕事を一時的に放棄する権利を持つ。2名以上の社員がいれば簡単に設立できるうえに、問題解決後も会社ににらみをきかせることができるため、問題が再燃する可能性が低いというメリットがある。もちろん無料だ。

デメリットは、労働法を熟知していない、あるいは経験が浅い組合の場合は、会社に振り回されたあげく、解雇を押し切られてしまうリスクがある点だ。

■任せきりにせず、使える手はなんでも使え

このように、会社となんらかのトラブルが生じた場合には、弁護士、労働基準監督署、労働組合のいずれかに相談すれば解決の糸口がつかめる。かなりの確率で、解雇の撤回や慰謝料など、なんからの成果が得られるだろう。

松沢直樹、山岸純(監修)『おっさんず六法』(飛鳥新社)
松沢直樹、山岸純(監修)『おっさんず六法』(飛鳥新社)

覚えておきたいのは、弁護士にすべて任せられる場合を除いて、基本的には自分が主体的に動く必要があるという点だ。理不尽な解雇は違法であることが多いが、自分からなんらかのアクションを起こさないと助けてもらえない。

それを前提に、より有利にわが身を守るにはどうすればいいのか──?

3つすべてをフルに活用するのだ。高コストの弁護士には最初に「具体的にどのような方法で会社の違法行為を追及するべきか」を教えてもらい、その後で無料の労働基準監督署に相談して、動いてもらおう。時間がかかりそうならば、労働組合に相談して会社と交渉する。

その場合は、自分が主体的に動くという姿勢が特に重要になってくる。労働組合は互助組織で、基本的にあなたをお客さん扱いしてはくれないからだ。とにかく、使えるものはなんでも使うことが、解決に導くための近道だ。

ここがPOINT!
・労働法に強い弁護士に依頼するのがベストだが、他にも方法はある
・「弁護士」「労働基準監督署」「労働組合」にはそれぞれメリット・デメリットがある
・自分が主体的に動くことが大事(弁護士にすべて委任する場合を除く)

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松沢 直樹(まつざわ ・なおき)
フリーライター
1968年生まれ。福岡県北九州市出身。SEや航空会社職員を経て、1994年よりライターとして活動を開始。労働組合「インディユニオン」の執行副委員長として、組合員のあらゆる法律トラブルを解決に導いてきた豊富な経験をもとに、WEBや雑誌で積極的に発信している人権派ライター。著書に『うちの職場は隠れブラックかも』(三五館)などがある。

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山岸 純(やまぎし・じゅん)
弁護士
1978年生まれ。福島県原町市出身。2001年に早稲田大学法学部を卒業し、2003年に旧司法試験合格。多くの後輩弁護士を育成した後、2020年に山岸純法律事務所を開設。時事ネタの解説に定評があり、WEBサイト「Business Journal」などで活躍中。

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(フリーライター 松沢 直樹、弁護士 山岸 純)

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