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「この人痴漢です!」そう叫ばれたときに絶対にしてはいけない"あること"

プレジデントオンライン / 2021年4月30日 11時15分

『おっさんず六法』より - イラスト=髙栁浩太郎

痴漢だと疑われたとき、どうすれば冤罪を避けられるのか。ライターの松沢直樹氏と弁護士の山岸純氏は「痴漢冤罪では、『弁護士の手配が遅れれば遅れるほど無実を証明するのは難しくなる』と認識したほうがいい。弁護士と家族にいちはやく状況を報告してほしい」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、松沢直樹、山岸純(監修)『おっさんず六法』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■痴漢だと勘違いされたら絶対に謝ってはいけない

この法律で身を守れ!
【刑事訴訟法第203条】
警察が、犯罪を犯したと思われる者(被疑者)を逮捕した場合、48時間以内に証拠を固めて検察庁へ送致できない場合は、身柄を釈放しなければならない

──通勤電車のつり革につかまって、スマホでゲームしてたら、目の前に立ってた女性が振り返って叫んだ。「この人痴漢ですっ!」オレ、つり革につかまってるじゃん。なんてことも言えず、次の駅で引きずり降ろされた。

あっと言う間に警察がやってきて、両脇をつかまれて連行。オレ、このまま前科者になっちゃうの……?

男性諸君はみな、これを読んで震え上がったことと思う。まずはこうした事態に巻き込まれたときに、身の潔白を証明する方法から解説していこう。

痴漢だと言われたら、対象女性に対し絶対に謝罪してはいけない。日本人の常識的な考えでつい謝ってしまいがちだが、仮に刑事裁判にかけられた場合、この常識が仇となる。裁判所は「身に覚えがないのなら、なぜ謝ったんですか?」と一蹴、あなたを有罪にしてしまうからだ。

こうした場合は、身に覚えがないことを根気強く訴えつつ、以降の説明を参考に日弁連の当番弁護士を呼ぶことを要求したい。

また、押し問答になったとき、相手の女性の衣服には絶対に触れないこと。警察は物的証拠を検察庁に送るために、女性の衣服の繊維があなたの手のひらに残っていないかを検査する。女性の衣服に触れてしまうと、あなたが痴漢を行ったという証拠をわざわざ作ってしまうことになる。まずはこのふたつを頭に叩き込んでいただきたい。

つぎに守ってほしいのは、逃亡しようとしないことだ。駅には防犯カメラがあちこちにあるし、自動改札の履歴情報を調べれば簡単にあなたにたどりつける。こうなると最悪だ。警察は証拠を隠滅しようとして逃げたと判断、刑事裁判に発展した場合、とことん不利な立場になってしまう。

■駅事務所には行かずにその場で弁護士を呼ぶべき

「この人、痴漢よ!」と言われて怖くなり、線路に降りて逃げた人が過去にいるが、許可なく線路に降りた場合、鉄道営業法違反で処罰される。それが原因で電車のダイヤが乱れれば、億単位の賠償金を請求されかねない。

さらに、走って逃げる途中で通勤客にケガをさせたりしてしまったら、今度は傷害罪に問われる。傷害罪は痴漢よりはるかに罪が重いから、絶対に逃げてはダメだ!

周囲の乗客から駅に降ろされた場合、駅係員が事務所に連れていこうとするが、断固として拒否し、「弁護士を呼びます。警察の方を呼ぶなら、この場に呼んでください」と伝えよう。

「弁護士に縁はないけど、弁護士を呼べるの?」そう思う方もいるだろう。実は日本には、当番弁護士制度というものがある。これは日本弁護士連合会(日弁連)が提供するもので、警察に逮捕されたときなどには、1回だけ無料で弁護士が対応してくれるというものだ。

可能ならばスマホで最寄りの弁護士会をチェックし、「当番弁護士の対応を依頼します」と伝えてほしい。

また、この場で家族に電話しておくのがきわめて重要。その際には「痴漢冤罪に巻き込まれていること」「どこの駅で警察を呼ばれた」このふたつを必ず家族に伝えてほしい。

ビジネスマン
写真=iStock.com/NicolasMcComber
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NicolasMcComber

特に弁護士への依頼を家族に託す場合は、後者は絶対に欠かせない。逮捕後は、家族へも電話連絡ができなくなる。家族が弁護士につないでくれたとしても、弁護士はあなたが逮捕されている可能性がある警察署をしらみつぶしに当たらなければならなくなるのだ。

痴漢冤罪では、「弁護士の手配が遅れれば遅れるほど無実を証明するのは難しくなる」と認識していただきたい。

■個人情報の提供には素直に応じたほうがいい

逮捕前に弁護士に連絡することに成功したら、駅で弁護士の到着を待ってほしい。その際に、警察官から住所氏名などの個人情報の供述を求められたら隠さずきちんと伝えたほうがよい。個人情報を隠すと、「逃亡する恐れあり」と見なされ、逮捕される可能性が高くなるからだ。

実際のところ、弁護士立ち会いのもと、運転免許証などの公的な身分証明証を提示すると、逮捕されずに帰されるケースもある。ただし、後日呼び出しを受けて逮捕・検察庁へ送検ということはあり得るので、解放されても油断せずに、弁護士と今後のことについて対策を練ることだ。

一方、弁護士の到着が間に合わない場合は、任意同行という形で警察署に連行されることがほとんどだ。この場合は「当番弁護士を呼んでほしい」としつこく繰り返し警察官に伝えること。当番弁護士が到着する間も警察官は取り調べを進めようとするだろう。

痴漢は冤罪が多いため、ここ数年は警察も自供だけではなく、物的証拠を残すことを強く意識するようになってきている。そこで重要な物的証拠となるのが、手のひらについた繊維片だ。

■供述調書には絶対に署名捺印してはいけない

あなたが本当に痴漢行為を行っていたのなら、被疑者の手のひらには、女性の衣服の繊維片が大量に付着している。警察官から自供を促されたときには、警察官にこのことをつついてみるとよいだろう。

手のひらを調べても物的証拠は見つからず、さらには容疑を否認しているとなると、警察は検察庁への送致をあきらめる可能性が高いからだ。

このように、たとえ不本意ではあっても取り調べには応じたほうがいい。ただし、警察官から渡される供述調書には、署名捺印してはダメだ! 供述調書とは、あなたが問われている罪についてあなたが罪を行ったと認める書面のことである。

捺印
写真=iStock.com/kyonntra
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

これに署名捺印してしまうと、ほぼ100パーセント冤罪は覆せない。だから警察官から恐ろしい言葉で恫喝されたとしても、絶対に署名捺印はしてはならないのだ。

■痴漢冤罪に陥らないための「4大原則」

もう一度、冤罪をはね返すための方法を整理しておこう。

・逃げない

逃げると証拠を隠滅しようとしたと捉えられ、冤罪が覆せなくなる。また、それが原因でけが人が出たりすると傷害罪に問われるうえに、電車のダイヤが乱れると、億単位の賠償金が取られることもある。

・可能な限り早く弁護士に連絡する

弁護士の知り合いがいない場合でも、日本弁護士連合会が当番弁護士という制度のもと、逮捕時に1回だけサポートしてくれる。無視されてもしつこく当番弁護士を要求すべし。余力があれば、自分で当番弁護士に連絡して助けを求めるのもよい。

また、家族にも連絡して、どの駅で警察に取り囲まれているかを伝える。当番弁護士を呼べない場合に備えて、家族からも弁護士を呼んでもらうようにする。

・警察官には個人情報を隠さない

警察官から、住所氏名などの個人情報の提示を求められた場合、隠さないほうがよい。個人情報を隠そうとすると、逃亡の恐れがあるとみなされて、逮捕されることになりかねない。逆に免許証などの公的な身分証明証を提示すると、解放される場合もある。

・供述調書には絶対に署名捺印してはいけない

警察署に連行されたら、弁護士が到着するまでの間にも取り調べが行われるが、その間も当番弁護士を呼んでほしいと主張すること。取り調べ後、警察官はあなたの供述調書に署名捺印をしろとしつこく促してくるが、絶対に応じてはいけない。

署名捺印は、あなたが罪を犯したと認めること。まず100パーセント冤罪を覆すことができなくなる。警察官が恫喝しても絶対に応じず、弁護士の指示を仰いでほしい。

■冤罪に備えて事前に対策をしておくべき

いざ冤罪の容疑をかけられた際に、自分で対処するのはきわめて困難である。痴漢冤罪の予防には、事前の対策が大切だ。電車に乗る際は、女性に近づきすぎないようにしよう。両手でつり革をつかむなどして、誤解が生じない工夫をすることも大事だ。

松沢直樹、山岸純(監修)『おっさんず六法』(飛鳥新社)
松沢直樹、山岸純(監修)『おっさんず六法』(飛鳥新社)

あるいは日本弁護士連合会が提供している当番弁護士制度窓口の電話番号をスマホに登録しておくだけでも、いざというときにはおおいに助かることだろう。

また、損害保険会社などが提供している弁護士保険に加入しておくのもひとつの手だ。刑事事件の際の接見(警察署に弁護士がやってきて、アドバイスしてくれたり、弁護活動をしてくれる制度)費用だけでなく、弁護費用を捻出してくれる保険がほとんどのため、経済的にもとても助かることだろう。

こういった損害保険に付随するサービスにも、注目すべきものがある。なかには専用のスマホアプリを提供し、インストールしておけば緊急時にはスムーズに弁護士に連絡が取れて、適切な対応をしてくれるというサービスなどもある。ネットで調べて、検討するのもわるくない。

女性は男性と見れば痴漢であると疑っているわけではないが、万が一の場合を考えておけば心強いのは間違いない。

ここがPOINT!
・痴漢冤罪の疑いをかけられたら、いかに早く弁護士に相談するかがカギ
・日本弁護士連合会の当番弁護士制度を利用すると、警察に逮捕された場合は無料で1回だけ弁護士のサポートが受けられる
・供述調書には絶対に署名捺印してはいけない。冤罪をほぼ100パーセント覆せなくなる
・冤罪の疑いをかけられない工夫を常日頃行うこと

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松沢 直樹(まつざわ ・なおき)
フリーライター
1968年生まれ。福岡県北九州市出身。SEや航空会社職員を経て、1994年よりライターとして活動を開始。労働組合「インディユニオン」の執行副委員長として、組合員のあらゆる法律トラブルを解決に導いてきた豊富な経験をもとに、WEBや雑誌で積極的に発信している人権派ライター。著書に『うちの職場は隠れブラックかも』(三五館)などがある。

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山岸 純(やまぎし・じゅん)
弁護士
1978年生まれ。福島県原町市出身。2001年に早稲田大学法学部を卒業し、2003年に旧司法試験合格。多くの後輩弁護士を育成した後、2020年に山岸純法律事務所を開設。時事ネタの解説に定評があり、WEBサイト「Business Journal」などで活躍中。

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(フリーライター 松沢 直樹、弁護士 山岸 純)

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