同じようなミスを繰り返す人ほど、「すみません」という言葉が軽くなるワケ
プレジデントオンライン / 2021年4月29日 9時15分
※本稿は、飯野謙次、宇都出雅巳『ミスしない大百科 仕事は速くてもミスがなくなる科学的な方法』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■「気をつけよう」では直らない
「メールの添付を忘れてしまった」
「書類の文字を間違えてしまった」
「また忘れ物をしてしまった……」
日常の些細なミスは、誰もが起こすものです。そのたびに、「次は気をつけなければ」と思うものですが、それでも同じようなミスを繰り返します。それはなぜでしょうか?
私はこれまで、東京大学では失敗学で有名な畑村洋太郎先生から本物の機械設計をみっちり仕込まれ、その後アメリカにわたって原子力発電所の設計と保守にかかわった後、スタンフォード大学機械工学科、今のd.schoolの母体ともいえるデザイングループで機械工学・情報工学の博士号を取得し、創造性を学びました。
そのすべての経験を、恩師畑村先生と立ち上げた失敗学会での失敗分析と情報発信に現在役立てています。そうした私の経験から結論としていえるのは、「失敗」や「ミス」は、「気をつけよう」ではなくならない、ということです。
ちょっとした仕事のミス、何か忘れ物をしたといったミス。こうした日常の些細なミスをした後は、大抵「次はやらないようにしよう」と思うものです。しかしそれでも、やっぱりミスを繰り返すことがほとんどです。
「気をつけよう」では直らない。だからこそ、人間の創造力と、ミスの経験を共有することで、世の中の失敗・事故・ミスをなくしていこう、というのが私たち失敗学会の仕事です。
ただ気をつけるのではなく、創造力を働かせて、1つだけ手順を加えるとか、たとえば、会社の定型書類で書類そのものを変えられなくても、パソコンの画面を工夫してちょっとだけ書類の見え方を変えるとか、そうしたことで無理なくミスがなくせるのです。
■ミスしない仕組みをつくる
では、どうしたらよいのでしょうか?
ミスをなくすために必要なのは、その原因をつかんで、ミスしない仕組みをつくることです。
私が仕事をしていたスタンフォード大学でのお話をします。海外で仕事をされた方は経験があると思いますが、日本人は、アメリカ人の悪いところとして、「謝らない」とよく言います。
日本人は仕事で失敗するとすぐ謝ります。「ごめんなさい」「申し訳ありませんでした」とすぐに口にしがちです。でも、アメリカ人はまず謝らないのです。
謝らないかわりに「こんなことになりました」「あんなことになりました」と説明し、次に「じゃあどうしようか」というふうにすぐに解決策に思考が進みます。そもそも謝ったところで、問題解決にはつながらないでしょう。
アメリカでは、その人の「人格」と「仕事」が切り離されているのだと思います。
![モダンなオフィスにて仕事に取り組むチーム](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/4/670/img_d4dc6aa14441f3ab755f35de61f2c8ca448929.jpg)
たとえば、マネージャーのブラウンさんがいたとします。アメリカの人の多くは、「ブラウンさんという人が、たまたまマネージャーという職をこなしている」とそういうふうにとらえます。ブラウンさんそのものと、仕事をしているときのブラウンさんとは、何か人格が別のようなとらえ方をするのです。
したがって、その人間としての失敗ではないから謝らない。ミスしたら、「今後、どうしたらミスをしないようになるか一緒に考えましょう」というふうに思考が働くのです。
■ミスを「個人の責任」で終わらせてはいけない
日本は子どものときからのしつけのせいか、平均的に「ごめんなさい」と言うことが多いように思います。そして「人格」と「仕事」を結びつけがちです。だからこそ、個人の責任が追及されやすいですし、ミスした人はそのミスを引っ張りがちなところがあります。
アメリカのようにすぐ頭を切り替えて「ミスしない仕組み」を考えるほうが心理的にも楽でしょう。最近、心配なのは、ちょっとしたミスをして落ち込む方が結構多いということです。
先日、韓国のテレビ局の方から「自殺」をテーマにした番組の中で「失敗学」の取材をされました。韓国はOECD諸国の中で一番自殺が多いのです*1。日本では、幸いなことに減ってきていますが、それでも先進国の中では多いほうで、OECDの中で5番目に自殺が多い国になっています。
日本も韓国も社会的なプレッシャーが高く、何かミスをすると、「自分は人間として駄目だ」と落ち込んでしまう方も多いようです。しかし、そうした考えを早く捨てて、自分自身と自分の職業を切り離して考えられるようにしたほうが、ストレスもなくなりますし、気楽にできる分ミスも減るでしょう。たとえミスをしても、ミスをなくすためのもっとよい方法が出てくるのではないかと思います。
しかし、ここのところのコロナ禍で、切実な理由での自殺者が増えています。社会には様々な受け皿があることが人々に浸透することを望んでやみません。
■ミスを共有し、仕組みを作れば生産性は上がる
「注意してください」といった精神論ではミスはなくなりません。
剣道の達人ならまだしも、オフィスで仕事をしている人たちは、精神に頼ってもうまくいきません。『ミスしない大百科』を一緒に執筆し、認知科学や脳科学に詳しい宇都出雅己さんは「『注意』の数には限界がある」と言っていましたが、うまい表現だと思います。
正しい方法は、一度失敗したら、それをなくすための仕組みをつくること。仕組みにすることで、ミスがなくなって世の中の平均値が上がります。たとえば、あなたが会社の中でミスをなくす仕組みをみんなに共有したら、会社の生産性は上がるかもしれません。
![飯野謙次、宇都出雅巳『ミスしない大百科 仕事は速くてもミスがなくなる科学的な方法』(SBクリエイティブ)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/5/200/img_25601afc3bfa0ee0d21223eb98502907222712.jpg)
今、テクノロジーの進化とともに、ミスを防ぐための方法も研究されてきています。たとえば、ウェブサイト上のボタン。「何歳以下はこのボタンを押してはいけない」というときに、以前はボタンの近くに注意書きを表示するだけだったものが、最初からボタンを押してはいけない人にはボタン自体が出てこないようにするなど、ミスが起こり得ない仕組みをつくっています。
時代に応じて、そのときにできることは変わります。今あるツールをうまく使えば、新しい機能をつくることもできます。限度はありますが、今後テクノロジーが発展していけばミスというものが姿を変えていくでしょう。
私たちが、自分の注意力不足が原因と考えるうっかりミスが姿を消し、今までなかった新たなミスに悩まされるようになるのです。それが今のデジタル革命の醍醐味です。
機械はまだ人間の動作に追いついていないことも多く、機械がミスをゼロにしてくれる時代になるまで、まだ時間がかかりそうです。現状でできることを考えながらミスを防いでいきたいものです。
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東京大学環境安全研究センター特任研究員
スタンフォード大学工学博士。1959年大阪生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、General Electric原子力発電部門へ入社。その後、スタンフォード大で機械工学・情報工学博士号を取得し、Ricoh Corp.へ入社。2000年、SYDROSE LPを設立、ゼネラルパートナーに就任(現職)。2002年、特定非営利活動法人失敗学会副会長となる。 著書に『ミスしても評価が高い人は、何をしているのか?』(日経BP社)などがある。
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(東京大学環境安全研究センター特任研究員 飯野 謙次)
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