「頭の回転が速い」「センスがいい」そう言われる人が無意識にしていること
プレジデントオンライン / 2021年4月28日 15時15分
※本稿は、堀田秀吾『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』(サンクチュアリ出版)の一部を再編集したものです。
■「ベストな選択」のために「情報を集める」は正しいのか
「人生は選択の連続だ」とよく言いますが、ものごとを決めるというのは大変なことですよね。悩みの多くは、「どうしようかなぁ〜」と判断に迷っているときのものだと言われています。
ここでは、いかに上手に選択をしていくか。迷う時間を減らし、素早くいい決断をする方法について見ていきたいと思います。
まずは、ものごとを選ぶときの基本的なスタンスを見ていきましょう。
あなたは買いものをするとき、仕事で何かを決めるとき、どのように決めるのがベストだと思うでしょうか?
情報をできる限り集め、もっともいいと思われるものを選びたい! そう考える人が多いと思うのですが、実は「ベストな選択」をするためにたくさんの情報を集める、時間をかけることは、かえってよくない選択をすることにつながることがあります。
いったいどういうことでしょうか?
オランダのラドバウド大学の心理学者ダイクスターハウスらは、中古車を使った2つの実験を行いました。
最初の実験では4台の中古車を用意し、このうち1台だけが非常にお買い得な「当たり」の車になっています。実験の参加者たちにそれぞれの車のスペックを説明し、果たして当たりの車を選べるかどうか、という実験です。参加者は大きく、
①「よく考えて選ぶグループ」
②「選ぶための時間が少ない(制限時間が設定され、その前にパズルを解く課題をしてから決めなければいけない)グループ」
に分けられます。どちらのグループにも「燃費」「エンジン」など4つのカテゴリーについて車の説明をしました。この結果、①「よく考えて選ぶグループ」のほとんどが「当たり」の車を選ぶことができ、②「選ぶための時間が少ないグループ」も半数以上が「当たり」を選ぶことができました。
しかし、この実験は前フリ。本命は次の第2段です。
■サッカーの試合の勝敗予想、最も正解率が高いのは「短時間で決める」
第2段も同じシチュエーションで、4台のうち1台が「当たり」。①「よく考えて選ぶグループ」と②「選ぶための時間が少ないグループ」の2グループで行います。
ただし最初との違いは、「説明する量」です。それぞれの車について説明するカテゴリーをに増やし、より詳しい説明をしたのです。たとえば、トランクの大きさやドリンクホルダーの数などについても伝えました。
この結果どうなったかというと、①「よく考えて選ぶグループ」の中で「当たり」を選んだ人は25%を切りました。そもそも「当たり」は4台中1台(=25%)なので、当てずっぽうに選んだのと大差ないという結果です。
ところが、②「選ぶための時間が少ないグループ」は60%の人が「当たり」を選ぶことができました。
いったい、何が起きたのでしょうか?
この実験を行ったダイクスターハウスは、同様のことをサッカーでも行いました。
参加者を3つのグループに分け、サッカーの試合の勝敗をそれぞれ予想してもらうというものです。
まず、①「よく考える」グループ。どちらのチームが勝つかしっかり予測する時間を与えられ、考えたうえで予想します。
次に、②「当てずっぽう」のグループ。完全なる勘でどちらが勝つか予想します。
最後は③「短時間で決める」グループ。試合とは関係ない課題(パズルなど)をまず行ってから時間のない中で予想を行います。
この3グループで試合予想をしたところ、もっとも正解率が高かったのは、③「短時間で決める」グループでした。その正答率は①と②のグループの3倍以上になったと言います。
■ものごとをシンプルに、大局的に考えられるか
車とサッカー、いずれの実験でも、短時間で決めたグループの正解率が高いという結果になりました。この理由として、短時間で決めなくてはいけないグループは、時間がない分、情報に正しく優先順位をつけて、合理的に選択できたのではないかと考えられています。
たとえば中古車ならば、「燃費のよさ」、サッカーならば「FIFA世界ランキング」といったように、時間がないからこそ重要だと思われる指標を絞り、素早く優先順位をつけることで合理的な選択ができたのです。
一方、よく考えるグループに起きたのは情報過多による混乱です。
「ドリンクホルダーの数」や「選手にまつわるうわさ話」など、時間があるからこそ細かい情報に意識がいってしまい、小さな欠点やマイナス要因が大きな問題のように見えてしまいました。
そのために、ものごとをシンプルに、大局的に考えられなくなってしまったのです。
たくさんの情報を集め、十分に検討したほうがいい決断ができそうな気がしてしまうのですが、必ずしもそうではありません。
あれもこれもと検討を重ねているうちに、最適でない答えにたどりついてしまうことがある、というわけです。
■仕事のデキる人がなぜか最適な選択をしている理由
考える力は「無意識のときにその力が発揮される」ものです。
意識的に考えようとしないでも、無意識下では情報の取捨選択が勝手に行われているのです。いずれの実験でも、時間が少ないグループは決定する前にパズルを行うなど別の作業をしていたのですが、そのような作業をしている間にも、実は無意識下では脳が考えてくれていたのです。
反対に、意識的に考えようとすると、「細かなこと」に目が向いてしまい、それがあたかも重大なことのように錯覚してしまうことがあるのです。
建設的で合理的な思考ではなく、重箱のすみをつつくような思考になり、不安が増長され、なかなか決断できない状況になります。
何事も万全を期すことは重要なのですが、「時間さえあればいい選択はできる」「情報は多いほうがいい」とは限らないのです。
一般的に仕事のできる人というのは、行動が早いですよね。しかし、かといって無鉄砲なわけではなく、なぜか最適な選択をしています。
「頭の回転が速い」「センスがいい」「直感で動いている」などと言われることもありますが、その本質は無意識を上手に使っているのではないかと思います。
優先順位をつけておき、細かいところには目を向けない(=忘れていく)。このような習慣が思考のムダを省き、より素早い行動につながっているのです。
■転職を決断できない人に必要なたった1つの方法
「情報は多すぎないほうがいいこともある」とお伝えしました。
ただ、そうは言っても、大事なことになるほど素早く判断するのは難しくなります。たとえば転職などのライフイベントがその代表ですね。正解か不正解かの指標が単純でないものほど判断が難しく、時間がかかってしまいがちです。
そんなときにヒントとなるこんな研究があります。
シカゴ大学の経済学者、スティーヴン・レヴィットは「人生の重要な選択の場面において、自分で決断できない人はどう決断すべきか」調査をしました。
そして、この調査のためにつくったのがあるウェブサイト。「コイン投げサイト」と呼ばれるもので、閲覧者たちが「今決めかねていること」を書き込み、画面上のコインを投げるというものです。
![コイン投げで決めても幸福度は高くなる](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/a/670/img_fa38f5175229c796d0334a44ca034709114227.jpg)
このコインの表が出たら「実行」、裏が出たら「実行しない」というメッセージが出るというとてもシンプルなつくりです。
レヴィットはこのサイトで1年かけて4000人の悩みを収集し、「コイン投げの決断によって人生がどう変化したか」ユーザーたちの追跡調査をしたのでした。
■コインの裏・面は関係なく半年後の幸福度は高くなる
コイン投げで決めても幸福度は高くなる
書き込まれた悩みとして一番多かったのが「今の仕事をやめるべきかどうか」、次に「離婚すべきかどうか」で、驚くことにユーザーの63%がコイン投げの結果に従って行動していたのです。
さらに驚きの結果は、コイン投げの結果が表だろうが裏だろうが、悩みの解決に向かって何かしら行動を起こした人は、半年後の幸福度が高いことがわかりました。
「会社をやめる」という決断をした人も、「やっぱりこのままがんばろう」と決断した人も、いずれのパターンでも幸福度は高くなったという結果が得られた、というわけです。
つまり、決断においては「どう決めるか」ではなく、「そもそも決められるかどうか」のほうが重要だということです。やると決める、やらないと決める、そうして腹をくくることが結局のところ人生の満足度を大きく左右します。
![堀田秀吾『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』(サンクチュアリ出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/3/200/img_f3a0b4fbe5a83af1a6d1d86f9fc6f2b8226373.jpg)
キャリア支援会社のアンケート調査によると「近い将来転職したい」と考えている人は93%という結果もあります。
もちろん、それがポジティブなキャリア設計のうちなのであれば何の問題もないのですが、「やめたいなぁ……でもなぁ……」と「宙ぶらりん」の状態はパフォーマンスを落としてしまう原因になります。
なかなか決断できないことで悩んでいるときは、たとえば「これから3カ月は今の仕事をやる!」とまず決めて、やめるかどうかはそのあと考えようなど、期限つきで選択をしてみるのもいいかもしれません。
なんなら、この実験のようにコインを投げて決めてみたっていいと思います。
停滞が「考えすぎる」原因の一つなのです。ぜひ、前進するために決断を大切にしてみてください。どう転んだって、結局はどうにかできてしまうのが人間なのです。
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言語学者/明治大学教授
専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学など様々な学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。アイドルのプロデュースから全国放送のワイドショーのレギュラー・コメンテーターなど、研究以外においても多岐に渡る活動を見せている。
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(言語学者/明治大学教授 堀田 秀吾)
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