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「専門レストランは連日満席」コオロギ食が大ヒットしたマーケティング的な理由

プレジデントオンライン / 2021年4月30日 11時15分

コオロギのフィナンシェ - 画像=敷島製パン株式会社

いまコオロギ食がブームになっている。ライターのトイアンナさんは「コオロギ食は大手食品会社も販売しており、専門レストランは連日満席。“知ってるけど、ちょっと新しい”というヒット商品の条件も備えている。これからさらにブームになっていくだろう」という――。

■大ヒットしているコオロギ食

コオロギは、おいしい。

という話を聞いて「ふーん、食べてみようかな」と思う日本人は、少数派だろう。

むしろ「ええっ」「そうなんだ……」と引きつった笑顔で対応する方のほうが、多いのではないだろうか。筆者もそうであった。しかし、コオロギを食べて世界は一変してしまった。

コオロギを食べるといっても、道端でコオロギを捕まえるわけではない。食用として、人間向けにコオロギは流通しているのだ。代表的なものに、無印良品の「コオロギせんべい」がある。

実はこのコオロギせんべい、大ヒット商品として完売し、店頭でも売り切れが続いている。日経TRENDYが発表した「2021年ヒット予想ランキング」(*1)でも、コオロギ食品がランクインするほどだ。これまでにない「昆虫食」ブームが始まろうとしている。

敷島製パン(Pasco)でも2020年に食用のコオロギパウダーを使用したパン・菓子を販売したところ、わずか2日で完売(*2)。今年も再販予定となっている。

コオロギは、実は栄養価に優れている。100gあたりのタンパク質はコオロギ60.0gと、実に6割を占める。ちなみに鶏肉が23.3g、牛肉は21.2gしかタンパク質がない。地球で人口爆発に伴いタンパク質の不足が叫ばれる中で、この質量は魅力的な数字だ。

(*1)パワポまとめ「2021年ヒット予測ランキング」日経TRENDY
(*2)【再販】発売開始2日で完売!食用コオロギパウダーを使ったフィナンシェとバゲットを2021年1月18日より再販開始

■食糧問題の観点からも注目されている

2050年までに、地球上の人口は97億人になり、食糧不足が懸念されている。ベジタリアン・ヴィーガンなどが流行した背景にも、人口爆発による食料不足があった。野菜を食べる動物を人間が食べるよりも、野菜食にシフトしたほうが、食料の消費量が減るからだ。

コオロギはその点、餌の消費量が少ない。タンパク質1kgを作るために必要なコオロギの餌は1.7kgだ。鶏肉の2.5kg、牛肉の10kgに比べて圧倒的に少ない。それゆえ、ベジタリアン・ヴィーガン食のグループにも、昆虫食は注目されている。

また、コオロギ食は国連の掲げるSDGs(持続可能な開発目標)にもかなっている。SDGsとは、国連が定めた地球と人が持続可能なかたちで共存するための目標で、17のゴールが定められている。

その中には「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」が含まれている。コオロギに限らず昆虫食はこの2つのゴールを達成しうる手段として、世界中で注目されてきた。

■コオロギ食を提供する高級レストランも登場

昆虫食のブームは、世界的に見れば最近のことではない。そもそもは2013年に、オランダ・ワーゲニンゲン大学の研究グループを中心に“Edible insects - Future prospects for food and feed security”(食用昆虫――食用および飼料の安全保障に向けた未来の展望)(*3)という報告書が国連食糧農業機関(FAO)で作成されたことに端を発する。

これが海外で昆虫を食べる火付け役となり、主にサステナビリティの観点から、昆虫が一般のスーパーマーケットなどに出回った。筆者も2016年にイギリスでミールワームのチップスを食べているが、当時はおいしいと言えるものではなかった。

日本でブームになるには、サステナビリティだけでは不可能だ。日本のオンラインページを調べたところ、2017年ごろからぽつぽつと昆虫食に関する記事が登場する(*4)。そして、2020年の5月23日から無印良品がコオロギせんべいを発売。大きな転換期となった。

日本でコオロギ食を販売しているのは、大手食品会社だけではない。日本では、「コオロギのインフルエンサー」ともいえるレストランが存在する。

東京・日本橋のANTCICADAは、ミシュランで三ツ星を獲得したレストランL'Effervescence(レフェルヴェソンス)で修行した白鳥翔大さん、東京農業大学大学院にて、人間の味覚や醸造を研究した山口歩夢さんなどが集まってできた、コオロギ食専門レストランだ。コオロギを高級なレストランで食べる経験を積むことで、「コオロギ=高級食材」として認識する人も出てくるだろう。

このようなコオロギ食専門レストランは、国産の食用コオロギを安定的に供給できる生産拠点の登場によって実現可能になった。その代表格が、徳島に本社を構えるグリラスだ。徳島大学のフードテックベンチャーとしてコオロギの飼育を行っているグリラスは、食用コオロギを安全・清潔な環境で生育し、各店に提供している。

こうした、世界的な動き、大手小売、高級レストラン、流通体制など複数の条件が整ったいまだからこそ、コオロギ食がブームとなる素地ができたと言えるだろう。

(*3)“Edible insects - Future prospects for food and feed security”
(*4)世界の飢餓を救う?注目集める「昆虫食」 家庭用飼育キット発売、ラーメンにもトッピング

■コオロギ食レストランは連日満席

……と、威勢よく書いたところで、多くの人はコオロギを食べるには至らないだろう。論より証拠、というわけで、筆者も実際にコオロギを食べてみた。

結論から言うと、非常においしかった。

ANTCICADAのコオロギチップス
筆者撮影
ANTCICADAのコオロギチップス - 筆者撮影

こちらは、コオロギのチップスだ。とてもサクサクしており、おいしい。コオロギの味は、あごだしによく似ており、煮干しのしっかりきいたラーメンを食べたときのような満足感がある。それでいてしつこくない余韻は、とても上品だ。

コオロギのチップスにウニをのせたもの
筆者撮影

こちらは、そのチップスにウニを乗せたもの。ここに垂らした醤油もコオロギを焙煎して作られている。

コオロギを食べる=コオロギを見なくてはならない、というわけではない。加工品として姿形が見えなくなったコオロギであれば、チャレンジできる人も増えるはずだ。というわけで、ANTCICADAでは、コオロギの姿がわからないよう工夫されたコースで始まる。

こうした細やかな配慮もあり、ANTCICADAは連日満席だ。さらに口コミが話題となり、オンラインショップも盛況となっている。

■マーケティングで全く新しいものを導入するコツ

今回、コオロギ食が成功した背景について書いてきたが、本来「まったく新しいもの」を成功させるのは至難のわざである。消費者は「これって、◯◯っぽい」と思えない、全く新しいものは購入できない。それでいて、既存の製品だけではつまらないと感じる、わがままな生き物だ。

だからこそ、ヒット商品は「知っているけど、ちょっと新しい」ものでなくてはならない。そのうえで、コオロギ食は「無印良品」「三ツ星レストラン」といった誰もが知っていて、信頼しているブランドとの組み合わせがあったからこそマッチした。

逆に、ヨーロッパ圏では「サステナビリティ」こそ親しみと信頼のあるフレーズだったゆえに、サステナビリティを押し出すことで昆虫食がヒットした。しかし、日本ではサステナビリティという単語があまり一般消費者に親しまれていない。

そこで、既存の新しいブランド価値のあるフレーズと組み合わさって「知っている・信頼しているけれど、少し新しいもの」に進化する必要があったのだ。

2013年時点ではそれがかなわなかったかもしれないが、2021年に至り、コオロギ食のヒットはようやく実現しようとしている。

■「○○っぽいけど、新しい」がヒットの条件

このように、ブームになるまである程度の時間を要したものの、条件を満たしたことで一気にヒットする製品は多い。日本で親和性の高いブランドと次々にひも付いていっているコオロギ食は、おそらく今後、ますます広まり「え、食べてないの?」と言われるまで売れていく可能性はある。

もし、同様に日本ではあまり受け入れられていないコンセプトや商品を売りたければ、既存の製品やサービスと組み合わせ「これって◯◯っぽいけど、新しい」と思ってもらう必要があるだろう。新規商品は新規性だけで売れるものではなく、あくまで既存製品とのひも付けでしか売れないからである。

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トイアンナ ライター
1987年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。P&Gジャパン、LVMHグループで合わせて約4年間マーケティングを担当。その後は独立し、主にキャリアや恋愛に関するライターや、マーケターとして活動。著書に『就職活動が面白いほどうまくいく 確実内定』や『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』などがある。

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(ライター トイアンナ)

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